どうやら私の義弟は年上らしい   作:ニートになりたい社畜

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序章
物語の始まり~プロローグ~


 死して見る景色は三途の川だと思う人は多いと思う。でも、そうじゃない場合ってどうすればいいのだろうか? 

 俺は確かに死んだはずだった。老衰で死んだと言いたいがそれは不正解だ。なんでわかるんだ、だと? 気落ちしてた後輩に励ましの言葉を差し上げてその結果好きになったからと告白された。それを振ったら背中からブッスリ、心臓を的確に狙って包丁を叩き込まれたのだ。

 鍛えてる鉄を押し付けられるような熱さと激痛、引いていく血の気。鮮明に覚えている死の気配の足音が耳に残り、やけに冴えた聴覚が聞いた最後の音は「裏切り者」だそうだ。

 つまりまぁ、痴情の縺れで俺は死んだ。殺された……いやふざけんなよ……なんで、殺されなきゃいけんのか。そう俺は抗議したいがそれもできぬまま死んだよ。

 

 で、今の現状を整理する。三途の川を渡ったはずで行き先は地獄かあるいは天国か。なぜか今も意識を保っている現状に驚きと戸惑いを隠さないでいる。目が見えない、一応は見えるが、ボヤけるようで正確に見えないのだ。

 どういう状態なのかさっぱりで、何より己の体をうまく動かせない感覚に気がつく。

 なんか骨が足りないような、覚束ない手足の先の感覚。

 思考はできるだけの脳のリソースがあるのかは知らんが、どこか……体が冷たい気がする。そして、聞こえにくい耳がとらえた大きな音がして刹那に視界が真っ暗になった。

 

 がこん、と聞こえたのか? くらい、暗い……闇い!? 怖いっ!? 

 

「おぎゃぁっ! おぎゃぁっ! ほぎゃぁ!?」

 

 本能的に叫ぼうとして声が、意味のある音声が口から飛び出さなかった。なるほど、産み落とされて俺は棄てられたようだ。生まれたばかりの赤さんに俺は……いや、待て。棄てられた……棄てられたのか、俺!? 

 満足に動けず、寝返りも出来ない軟弱な肉体で棄てられた……詰んだわ、死んだわ。第二の人生の始まりから終わりまで早ない? 

 泣き出した肉体をどうにかできるわけでもない、ヒートアップしてさらに喚くように泣く。泣いて疲れたらしばらく意識が飛んでまた泣く。感情の制御ができないから結果泣くしかないんだろうな……思考と本能がまだ馴染んでいないというべきか。しばらくして……ガタン、と光が辺りを満たす。

 

 そして、そっと優しく抱き上げられた……どうなってんだ、み、見えにくい。闇い場所からいきなり明るいところに出されたら当然だろうけどな。

 

「──? ……──!!」

 

 何を言ってるか皆目見当がつかん、言語的に……無理だ、聞いたことがない。ただ、声音から見ると年若い女が何やら話しかけてくるのはわかった。

 目が慣れてくると、ぼんやりとその顔の輪郭が見えるようになってきた。俺を抱いてるのはコスプレしてる僧侶のねーちゃんで、何やら唱えて光った。DX日輪刀よりも眩い、優しい光が俺の体を癒してくれた気がした。え、何今の!? 俺知らない、そんなのあたい知らない!? 

 まぁ相変わらず体は言うことを聞かず、俺は半ば諦めるように感情の制御を手放した。赤ん坊は泣いて寝るだけだ。腹が減ったら泣くし、不快なら泣く。いっそ死にてェが、もうなるようになれだ。

 

 その結果、俺を拾ってくれたねーちゃんの縁でかは知らんが教会の孤児院に預けられ、すくすくと我が身は育っていく。愛想笑いくらいはしてやればシスターは安心するように胸を撫で下ろす。

 容姿ガチャは大成功なのかは知らんが、透き通るような銀髪にサファイアのように輝くディープブルーの青眼。白磁の陶器みたいな素肌の美幼児が鏡の前に映っていた。西洋系の顔立ちで慣れないが、はっきり言ってイケメンになるだろ手前ェ……と思ったのは初めて鏡を見た時だったか? 

 

 将来は何になりたいかとかは考えちゃいねーが、まぁできるなら他の人を助ける職に就きたい思うところだ。消防士とか、と思っていた時期が俺にもあったよ。

 この世界、どうやら現代地球ではないらしい……と言うか魔法が存在するのでその時点で察したわな。テレビもラジオもなく、家電……電気の気配がない。灯はランタンか蝋燭。水は井戸から汲み上げる……くせー汲み取り式の便所……全てが肉体労働で解決される。そして、街というか村の外には魔物がうろついてると言う話もあったりと、いやナーロッパかよ、ファイナルファンタジーかよここ。

 

 物心ついた頃、と言うか生まれてから世界を見つめて。俺はできることを増やすために孤児院のガキどもの世話を進んで行うことにした。面倒見のいい小童であろうと頑張ったのだ。

 どう言うわけか知らんが筋力は人よりある、と言うか怪力だ。大人が持ち上げるのも苦労する樽を軽々と持ち運びできる。木剣を使ったチャンバラだって最年長のガキに負けることもない。

 どうやらキンタローみたいな感じらしい。まぁ、西洋人だけどな! そんなこんなで生まれて5年が経った頃。

 

「ゼニスねーちゃんに、パウロ……さん、か。久しぶりだな」

「露骨に態度変えるなクソガキっ!」

「ぎにゃー!? ほっぺたジョリジョリするな!?」

「ほれほれ、もっとやってほしいかー?」

「うがー!! やめろつってんだろ!」

「ほげっ!?」

 

 いつしか、ゼニスねーちゃんが様子を見にきてくれる時に連れてくるようになったのはチャラい悪ガキみたいなの。茶髪の男だった。

 名をパウロと言うらしく、気配からして強そうな剣士だが、どこかこう。浮気しそうな雰囲気のある色男(ロメオ)で、武勇伝を聞いてるとまぁ、割とナンパの自慢ばかりに聞こえるのは俺の耳がバカだからなのだろうか? ゼニスねーちゃん、悪いことは言わない、こいつはダメだと本能が警笛を鳴らすが当の本人が惚れ込んで惚気話を垂れ流す始末。うん、こりゃ無理だわ。

 で、出会い頭にいつも無精髭の生えた顎を頬に擦り付けてくるのでぼか、とパウロを殴って退散させる。いつものやり取りだ。そして、愛おしそうに膨らせた腹をさすりながらゼニスねーちゃんがゆったりと歩み寄ってくる……そろそろ臨月か? 

 

「いっつつ……子供のほっぺたってなんでこんなに魅力的なんだろうな?」

「もう、パウロったら……アイリ、相変わらず元気でヤンチャみたいね」

「おう、これが取り柄みたいなもんだからな! ゼニスねーちゃんも体大丈夫か?」

 

 ちなみに今生の俺の名はアイリークで、女である。下腹部のナニは生き別れだ、クソが。とはいえ今の名前はゼニスねーちゃんがつけてくれた大事な名前で、そろそろ生まれる子供にもいい名前をつけれるだろう。

 

「ええ、それに。アイリはそろそろお姉ちゃんになるんでしょ?」

「うっ……本当にいいのか?」

「もちろんだ、いい加減水臭いこと言うなってアイリ」

「パウロ……さんが親父……」

「鍛えたら誰にも負けないくらいに強くなると思うぞ? それにな、他の子達に対してわかる思いやりを持ってるお前が生まれてくる子の姉貴になってくれれば。安心できると思わないか?」

「ゼニスねーちゃん! このパウロ、まともなこと言ってる、本物か!?」

「よし、今一度そのほっぺた堪能させろクソガキ!」

 

 前々から打診があった。俺には身寄りがない、そろそろ6歳になるが里親は全部断っていた。なんし前世含めると精神の年齢は24歳。共に過ごすと成熟しすぎて不気味に思われるのが絶対だと感じているからな。

 だから、と思っていたんだが……どうやら拾った手前なのか、情が湧いたのか……親心が芽生えたゼニスと、その旦那になるパウロからのアプローチをずっと受けていたのである。

 

「むぎゅ……わーった、降参だ。俺、2人の子供になるよ」

 

 孤児院としても俺がいなくなるのは痛手だと言っていたが、牧師様は喜びの涙を流しながら祝福を授けんと祈祷してくれた。俺の旅立ちを祝うために。

 第二の人生ってモノを受け入れる。前世にバイバイとはいかないのがこの世の定めか。俺はどこかで諦観していた……モノクロの世界に色が差し込んで、鮮明になる。そうか、これは……嬉しいんだな? 

 

 そして、俺は。いや、あたしの新しい人生が6年の歳月を経てようやく始まるのだった。

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