どうやら私の義弟は年上らしい   作:ニートになりたい社畜

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無職転生

 ルーデウス。愛称はルディ、は活発な子であるのだが、その割に生まれてから夜泣きをしたこともないし、不愉快そうな顔をしてる時は大体おくるみ……いわゆる布おむつにクソとしょんべんを垂れた時くらいで。大体は笑顔を見せてくれる可愛い奴だ。

 そして、うちの方ではと言うと予定通りの出産とは言え、ルディが生まれた以上。家庭教師を雇う話は一旦保留となった。なぜかと言うとあたし1人に家庭教師をつけるより、姉弟共々に2人を教えれるタイミングで家庭教師をつけるべきだと進言したが故に。

 家計だって有限なんだし、雇える期間は圧縮すべきだ。なんなら初級魔術なら母様でも教えれるはずだしと言ったら母様が感極まって泣いてしまった。ここまで配慮できるなんてとかなんとか……。お金は大事なんだよ、ジーマーで。金がないと何もできないんだからホントに。

 

 で、ルディが生まれてから早くも半年ほど経ち、元気にハイハイで這い回っていた。目を離すとすぐにいなくなり、母様と二手に分かれて探し回る羽目になっている。いや、元気な証拠だからこっちとしてはすくすく育ってくれているとわかって来る分ありがたい。が、家の中限定で這い回るスピードが早すぎるのだ。さすが父様の息子だ。今日も見失い、ルディが行方不明に。ちっこいくせに素早いので本当に苦労するが……まぁ大体行動が読めるようになってきたけどね。

 

「アイリ、そっちにルディは?」

「いなかったよ。まったく、一体どこに隠れているのか……」

 

 この後のことを想像すると内心でげんなりするが、顔に出さない様に注意しなくては。台所の方に行くとルディがいた。そして、白いものを被っているのが目につく。

 

「あ、こらルディ。見つけたわよ……ってまたアイリの下着を被ってる……それは被るものじゃないっていつも言っているでしょう?」

「あぶぅ……」

 

 パンツを剥ぎ取られて残念そうな、親友と引き離されるみたいな顔してるが。どういうつもりだこのヤロウ……そう、ルディは天性のすけべ小僧なのである。あたしの穿いていた下着をよく被っているのを母様が注意するのだが、赤子相手。なかなか覚えないと言うか、わざとやってるだろコイツ、と内心で思ってしまう。

 

「ゼニス様、その……申し上げにくいのですが……」

「どうしたの、リーリャ」

「い、いえ。なんでもありません」

「なによ、歯切れが悪いわね」

 

 私の手前、すっごく言いにくそうな。何やらリーリャは‘見てしまった’様な雰囲気でルディから視線を逸らす。やっぱり見たのかアレを……まぁ、女好きはグレイラットの血筋が語ると母様から聞いていたので覚悟はしていたのだけども、限度があると思うんだ母様。

 日中に洗濯しようと思って脱ぎ捨てた下着を弟は桶から引っ張り出して。鼠蹊部に当たるところをすーはー、すーはーと臭いを嗅いでうぇへへと笑っていた場面を見てしまったあたしの気持ちを理解してほしいんだが言い出せるわけがない。

 

「ルディも見つかったし、そろそろ父様の相手をしてくるよ。母様」

「あら、もうそんな時間? 怪我しない様に気をつけてね」

「アイリ様、頑張ってくださいね」

 

 動きやすい服装に着替えて壁に立てかけてあった鞘付きの木剣を手にして腰ベルトに挿し込む。そして、まずは軽く家の周囲を走り体を暖めて柔軟とストレッチを行う。靭帯の損傷や肉離れ。筋肉痛を和らげるために欠かせない準備運動だ。

 健全な肉体に、健全な精神が宿る。前世から引き継いだあたしなりのトレーニング理論というべきか。数分かけて体を慣らしてスイッチを入れていく。

 

「相変わらず、準備を怠らない姿勢に脱帽するよアイリ」

「怠れば体を壊すかもしれませんので、万が一にもそれは御免です」

 

 下手なトレーニングで体を壊すというのはよくある失敗で、取り返しのつない致命的失敗を引き起こす可能性がゼロじゃない。なら、徹底したほうがお釣りが帰ってくると思う。だから、手を抜かない。

 

「お待たせしました、父様。今日もよろしくお願いします」

「ああ、ではまず縦横無尽の素振り演舞。反復50回だ」

「はいっ!」

「しっかり‘闘気’を纏うんだぞ?」

 

 父様指導のもと、木剣を鞘から抜き。両手で構え、地に足をつけてごう、と縦に振り下ろしそのまま袈裟に振り上げる。流れる様に体勢を沈めながら摺り足で前進の後に胴を薙ぐ一閃。3連の流れを途切らせぬ様に応用の斬撃で繋ぎ、一端の剣舞となる様に振る舞う。満足そうな視線で私の体捌きを観察する父様はおお、と感嘆のため息を漏らした。

 剣を振るう度にあたしの感覚が冴えていく。地を踏み締めて魔力を練り、心臓から放出される魔力を血管に送り込んで奔らせると、体表に膜を張るような感覚を覚えてさらに加速する。

 反復50回の剣舞は10分足らずに終わった。そして、それを終える頃には身体を完全に‘闘気’で覆われていた。

 

「よし、そこまで! うんうん、問題なく闘気を纏っているな。さて、そろそろ打ち合うか」

「はい、父様。よろしくお願いします!」

「結構、構え。さぁ、来い!」

「参ります!」

 

 この世界には‘闘気’と言うものがある。呼吸術とかそんな感じなのかはわからないが、魔力を用いて身体を強化。肉体を護る様に覆うことができる。父様に剣術を習いながら、その息遣いや歩法。剣の振り抜き加減を見ながらモノにした。猿真似でも反復すれば形になるモノである。そして、この闘気は単なる身体強化に使うだけではない。

 生前に遊び倒したソシャゲやら読み返し続けた漫画のアクションを取り入れて再現できる……! これがめちゃくちゃ楽しいのである。あの憧れた少年誌の主人公と同じことができるという、その再現性の高さを鍛えてモノにできる。再現し切れたら達成感が半端ではない。

 

 最近はアレコレオリジナルなんてものはないが模倣しつつ己のものとできる様に研鑽の最中である。とりあえず駆けつけ一杯のぉー! 

 

「‘空打剣’っ!」

「衝撃波を飛ばそうと当たらなければ意味がないぞ!」

「からの、爆ぜよっ!」

 

 空打剣。衝撃波を飛ばす技で飛ぶ斬撃にまで至っていない打撃技で、あたしの使える牽制技の一つ。そのまま足元に溜めておいた魔力を一言のトリガーで爆発的に放出、推進力にしてかっ飛び殴りかかる技というか技術というか。これをあたしは爆風剣と名付けようかと悩んでいる。

 それでも反応する我が父は流石である。そのまま剣を受け止めながら流そうとするがあたしの膂力を舐めすぎだ。木剣が擦れてギチリと嫌な音を立てて食い込む。

 

「いい剣筋だ。だが甘い、水神流、奥義『流』っ!」

「カウンター狙いはよく知ってますよっ!」

 

 父様の水神流の奥義という名の基本技。『流』はよく受けてもう学習済みなんだがなかなか対応が難しい。こちらの剣の威力を巧妙に流して、その勢いを利用して返すカウンター系の剣技。当たると結構痛い。だからこそ! 

 

「爆ぜよっ!」

「なっ、にい!?」

 

 空で逃げ場がない、このままでは腹あたりに一撃をもらいかねないので。足元に溜めておいた魔力を空中で炸裂させ、そのまま跳び上がり剣の軌道から逃げながら父様の木剣を引っ掛ける様にして地に戻ってバックステップで間合いをとる。

 

「く、空中で魔力を爆ぜさせて跳躍する発想はなかったな。やはり、アイリの予想できない動きは楽しいな」

「へへっ、さらに行きますよ父様!」

 

 爆風剣は一旦保留でずん、と踏み込んで横一閃の構え。対して父様の構えから見ておそらく! ‘無音の太刀’か!? 音速に近い速度で振り抜く剣技であり、その威力は多分怪我するなぁって具合。で、なんでこんなに冷静なのかというと。

 

「剣神流、『無音の太刀』っ!」

「‘残響剣’っ!」

「なっ、えぇっ!?」

 

 ‘残響剣’とは魔力で作り出した幻像先行させて突進させるフェイント技。闘気も一緒に切り離して突進させるから強い剣士ほど引っかかる。現に父様は盛大に引っかかってくれたので無音の太刀の隙を見逃さず、脇を切り抜けた。

 

「せいやーっ!」

「おごっ!? く、ま、参った!」

 

 木剣が半裸の父様の腹を叩き、打撃痕が残り痛いのか流石に手で腹を押さえて膝をつく。ちょっと威力ありすぎたかなぁ? 

 

「強くなったなぁ、アイリ。無音の太刀と流も完璧だから自分で編み出した剣を使えと課題を出していたが、簡単に技を作り出せるんだな」

「いえ、普段の指示が優れているからですよ父様。ただ、あたしの理解力があるからなんとかなってるけど、ルディに教える時はもう少し考えたほうがいいかと」

「うっ、やっぱそうか?」

 

 頷きながら父様に‘ヒーリング’をかけて治療しつつ。家の中で悲鳴が上がり、父様はかっ飛んでいった。どうやらルディが頭から落ちたらしい。

 

「まぁ、アレで全然泣いてる気配がないってのも不気味だよなぁ……」

 

 頭を打ったら痛くて泣き喚くだろうに、ルディはそれすら意に介さない様だ。痛みに強いのかそれとも、痛くないのか。その後も父様との打ち合いをしたり、家事をしたり。魔術の訓練をしたりと普段通りの日常を過ごして早くもルディが2歳に、あたしは8歳になった頃。

 

「何してんの、ルディ」

「えっと、その……」

 

 書斎に人の気配を感じてのぞいてみれば。ルディが蔵書を箱から引っ張り出しているところを見たので声をかけた。

 

「ここは2階なんだから、自力で上がってくるのはいいけど母様かリーリャに声をかけないとダメでしょ?」

「ご、ごめんなさい」

「まぁいいわ、本を読みたいの?」

「はい、読めますか姉様!」

 

 キラキラ目線でこっちを見てくるので、とりあえず読み聞かせをしてみることとする。机に本を置き、書斎の椅子を引いてそこを叩く。ルディは嬉しそうにてくてく歩いてくるのが可愛い。あたしが椅子に座って、膝に彼を乗せて。

 

「ヤマ勘でこれを出したのか、偶然これだったのかわかんないけど。これは魔術教本。魔術の何たるやを書いてる本よ」

「本は高価なのですか?」

「そうね、金貨何枚で買ったのかわからないくらいには高いわ。本はね、まだ印刷の技術が発達してないから手書きなのよ」

「そうなんですか!? だからこんなに分厚くて重いんですか」

 

 言いながらあたしの太ももをいやらしい手つきで触るなすけべ小僧め。するするもちもちの幼児の肌はまだ保っている。なお、その肌の下にはカチカチに鍛え上げられつつある筋肉があるのだ。

 

「いい、ルディ。詠唱をする必要があるけど、詠唱すると魔術が発動しちゃうから必ず誰かがいるところで訓練しなくちゃダメだよ?」

「はい、危険なんですね?」

「ウォーターボールくらいなら平気よ。水の球を飛ばす魔術なんだけど、壁をぶち抜くほどの威力はないはずだし、燃費も一番低い」

 

 そう言いながら、あたしはルディに魔術教本の内容をかいつまんで読み聞かせる。魔力総量についても自論を交えて。

 

「魔力は使えば使うだけ増えるの。多分、幼少の頃から魔力を使えば、将来かなり増えるとおもうわ」

「え、そうなんですか?」

「うん、それに。詠唱も必須ではない……無詠唱で魔術を使うことも可能よ」

「無詠唱でっ!? 姉様はできるんですか?」

「うん、もちろんできるわ。ルディも、もしかしからできるかもしれないわね」

 

 とここまで、あたしは。色々語ったが、ルディは流暢に話す。

 

「で、ルディ」

「はい、姉様」

「あんた、日本語話してるわね? 今あたしも日本語で喋ってるけど」

「……あっ!?」

「今更、喋れないはなしよ? 姉弟水入らずなんだから、話してもらうわよ?」

 

 こうして、弟を嵌めてその正体を暴いてやらんとしたが。弟の口から語られたアレコレについては墓まで持っていくこととする。元引きこもり34歳の無職転生、か……あれ、義弟のが年上では?

 どうやら、私の義弟は年上らしい。

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