どうやら私の義弟は年上らしい 作:ニートになりたい社畜
ルーデウスの魔力を伸ばす訓練は2歳の夏から始めることとした。それまでは普通の子供同然に健やかな成長を促すとして姉弟間で取り決めた。ちなみに、最近の話になるが8歳を超えたあたりから我が肉体に変化が訪れてきたのだ。
一次成長期はすでに過ぎ去ってるので肉体的な成長速度が突如伸びたわけではない。いや、別なのが伸び始めて来たのだのはそうなのだが。
「ツノ、ね」
「角だな」
「ツノですね」
「あ、あたし魔族だったのかな?」
こめかみあたりからにょっきりと生えたそれは小さくとも尖っているのがわかるツノだった。え、なにこれ知らない。夜になんか引っかかるなと思って無理やり寝返りをした時にビリィっと聞こえて飛び起きたらこのザマである。突如生えたそれを触って混乱。悲鳴が漏れてしまい、右往左往していたところに父様と母様、リーリャが入って来てイマココである。
「魔族にしては、肌の色は白いしうーん」
「人型の魔族もいるにはいるんだよな、やはりアイリの人離れした膂力から見たらオーガ族の姫か何かだったのでは」
「オーガ族だと色々と齟齬がありますよ、パウロ様」
ん? 腰あたりに違和感、落ち着かないと思っていたらぴょこぴょこと動く。
「母様、腰を見ていただけませんか?」
「え、えぇ……ええ!?」
「アイリの腰に翼が生えてるぞ!? ちっさな翼が生えてるぞ!?」
びっくりして腰の何かも震え上がってぴーんと張る、伸びる。一体何だと思ったら。
翼が生えてる、だと? 恐る恐る手を伸ばして触ると飛膜を持っている翼で一つ思い当たる前世の知識が浮かび上がる。とあるTRPGに出て来た種族で、いるんだよなぁ。
「大事なことだから2回言われたのですか父様。それよりも心当たりがあります、あたしの種族についての」
「そうね、ツノは魔族的な特徴でこんな飛竜の翼を持った種族なんて私も聞いたことがないわ。冒険者時代に見たこともないし」
「そうだな、天族の羽毛の様な翼ならわからなくはないが、まるで飛竜を人にしたみたいな……」
「飛竜程度と同等にされるのはちょっと」
「「「飛竜程度!?」」」
いかん、なんか精神汚染されてるな。傲慢になってしまうが、うーん。まぁ予想が正しければ傲慢になっても赦されるんだよ。だが、特権階級あるいはエリートと呼ばれるだけはある力の持ち主であることは確かなんですわ。呆れるくらいに
「失礼しました、父様、母様。リーリャ」
「あ、ああ。別にいいさ。それで、アイリーク。その種族とは何なんだ?」
「はい、あたしの種族は
「バルバロスのドレイク? 聞いたことがない種族だな」
「龍族の古い種だと聞き及んでいます。そしてドレイクには一つの特徴がありまして」
ベットには見覚えのない抜き身の剣が転がっていた、蒼銀の刀身を持つ無骨な剣で私の身長ほどの長さがある。んしょ、と持ち上げると軽い。刃渡は100cmくらいか。
父様がそれを見てギョッとしつつ母様もリーリャも唖然としていたが、分かるその気持ちは。普通に考えてこんな大きさの剣を持ち上げるのは困難だからね。
「ドレイクの魔剣。あたしの体の一部にして力の源です」
「ぐ、グレートソード?」
「はい、父様。大きさから見て現状は魔剣に力を預けている状態なのでしょう」
ドレイクの魔剣とは持ち主の魂の一部が宿る武器であり、そう易々と折れない存在である。まぁこれが折れたらあたしはブロークンになるか死ぬかなので大事な武器である。
質量保存の法則? ドレイクの魔剣は生まれた時から持っているものだからどこかにあったのかもしれない。感覚的にあたしの魔力の大半を奪って実体化してるようなの見たいだが。
「この魔剣をあたしの肉体に取り込むことで第二形態の竜化を果たせます。そうなれば邪竜の権能なのかわかりませんが輝光のブレスを吐けるはずですが、特殊な能力でないと制御できず味方もろとも焼くことになるとか」
「ど、ドラゴンに化けるのか!?」
「そういうものですので。まるでおとぎ話に出てくる悪い竜みたいですよね」
剣を壁に立て掛けて自嘲的な笑みを貼り付けているであろうあたしの頭を母様が撫でて抱き寄せてくれた。それに続くように父様もまた、抱擁を重ねてくれる。
「そんなことを言わないで、アイリ。例えどんな存在だとしても私は貴方を信じて愛するわ」
「そうだぞ、アイリ。血の繋がりなんてなくても俺たちは家族だ。それで十分だろう?」
「母様、父様。ありがとうございます」
そっと後ろで控えているリーリャもあたしに対しては畏怖も何もない様子で、相変わらずの無表情と思いきや。微笑みを浮かべて慈しむように私たちを眺めてくれていた。それを見て救われる、あったかい気持ちになれる。
「さ、もう今日は遅いから眠りなさい……といっても、この穴の空いたベットではダメだな」
「あなた、今日は一緒に寝てあげましょう? アイリが不安で眠れなかったらかわいそうだわ」
「母様、私はそこまで子供ではありませ「わかった、そうしようか」
子供扱いされるのは癪だがまぁ、好きにしてもらおう。彼らは私の両親なのだから、決定権というか裁量を任せるほかないと観念した。その夜、何だかわからないがとてもよく眠れた気がした。
§§§
そんな出来事もあったな、と思う。あれから早いことでさらに2年経過した。私は翼を羽ばたかせて宙を舞いながらブエナ村の周りを見回り、魔物の発生や野盗がいないか等々を監視して。見張り櫓のお兄さんたちに状況を伝えてその場を後にする。
「今日も魔物と野盗、居ませんでした」
「助かるよ、アイリちゃん。これはお駄賃だ」
「ありがとうございます!」
小遣い稼ぎに利用させてもらってるが、森の中も鮮明に見分けれるからかなり便利なのだ。人間レーダーかと言われたらぐうの音も出ないが。
この翼と角は私の身長の伸びと比例するようにぐんぐんと伸び続け。角はおおよそ20cm程にまで伸びている。邪魔に見えるが実はこの角、魔力を探知できる器官となっているらしく。半径100m以内に魔力を持つものが存在していれば、ラグタイムなしで察知できるようになった。
そんなこんなで野盗も居なければ魔物も少ないと、最近は至って平和。ルディも無理に魔力を放出しないように教えておいたので倒れるようなことはなかった。最近はウォーターボールを庭に放ってすぐに散らせることで水をばら撒く応用で家庭菜園の水やり係に抜擢されていた。
彼の魔術に対しての才能は私以上だろう。その魔力総量はどんどんと上昇しているのを顧みてそう思う。べらぼうな成長力でどんどん魔力総量が伸びていくし、教えた詠唱をすぐに覚えて無詠唱でぶっ放すのは見ていて教え甲斐があるというものだ。
最近ルディは自分で文字を読めるようになり、本の置き場所である書斎に桶を山ほど持ち込んで水を出し続けて魔力を伸ばし続けている。
「ルディも飽きないねぇ、私なら一月で満足して辞めちゃいそうだけど」
「何事も小さなことからこつこつと、ですよ姉様」
「その分本気でと組んでるのがよく分かるわ。よっぽど今生は後悔したくないって感じる」
「……あ、あはは。何を言ってるのかさっぱりですよ姉様」
日本語で話しながら何を言ってるのか。と思うが私がルディに文字の読み書きと魔術を教えていることについては母様と父様は何も言わなかった。現状でルディがどんどん知識を吸収して賢くなっていくのを見ているから好きにさせておこうという考えなのかもしれない。
「これだけの魔力になったのですから、そろそろ中級魔術を使ってみたいです姉様」
「うーん、まぁいいとは思うけど。魔力を込めすぎずに小さく制御してなさい」
「はい! 行きます、えーと。優柔たる水の精霊にして地を流れしせせらぎの王女よ、内に秘めたる剛力にてあらゆるものを押し流せ‘スプラシュフロウ’」
3歳程度の魔術師が中級魔法を扱うとどうなるか、単純にその興味で使ってみろと許可してしまったのである。
「えっ……」
「はっ!?」
それはバカほど大きな水の球。それが轟音と共に書斎の壁を突き破って飛んで行ったのである。咄嗟に闘気を放出しながらルディに抱きついて保護。反動でルディがすっ転ぶことはなく、抱き止めて唖然と壁に空いた大穴を眺めた。そら水砲なんて名前の魔術だ、わかりきっていたことだろうにと苦笑する。
その水の塊は散りながら空に消えていき、日光を乱反射した水滴が虹を作り出す。それをぼう然と見送って。我に帰る前に、書斎のドアが開け放たれて最初に入ってきたのは父様だった。
「お前たち、大丈夫か!? 何があっ……たん、だ?」
「すみません父様、ルディに興味本位で中級魔術を使わせたら。この惨事になってしまいました」
悪いことをしたら謝ろう。忘れてはいけないゾ? それを聞いて父様は呆然と立ち竦み。頭を抑えて右往左往、そして私に向き直り。
「ちょ、え? お、お前、ルディが中級魔術を使った、だとぉ!? 言っていい冗談と悪い冗談があるだろうが!?」
と謎の逆ギレを見せてくれた。そういえば父様は、ルディが書斎に籠って何をしていたのかを知らなかったか。母様は意図して話していなかったのかは分からないが、寝耳に水と言わんばかりに驚いている。うーむ、どう説明したところかと思っていたら母様がやってきた。
「アイリ、ルディ!? 何があったの、大丈夫!?」
「母様、すみません。ルディに中級魔術を使わせてしまいました。この件は私の監督不足です」
「え、そうだったの? んふふ、ルディ。この本、声を出して読んじゃったのはホント?」
「は、はい。ごめんなさい」
「なっ、でもこれは中級の……」
納得いかない様子の父様を他所に喜色の悲鳴をあげる母様。きゃー、と言っているあたりほんとに嬉しいようだ。
「やっぱりルディは天才だったのよ! この歳で文字も読めるし、中級魔術も使えるなんて! アイリが付きっきりで読み聞かせてあげてたのよ!?」
「本当かその話は!? そうか、それで最近ここに籠っていたのか」
いや、ほぼ読んで聞かせただけなんです。ルディは勝手に理解するから、中身はあなた方より年上で精神が成熟してるから! なんて言えるわけもなく、曖昧に笑って誤魔化すしかできなかった。
「今すぐ魔術の教師を雇いましょう! アイリですら天才的な才覚なのに、ルディはそれを更に上回ってるに違いないわ! 将来は必ずすごい魔術師になるわよ!」
「いや、それは待て! 男の子だったら剣士にするという約束だっただろう!」
「何よ、いつも約束を破るくせに!」
「お、俺の話は今関係ないだろう!?」
「母様、父様。リーリャから意見が」
「はい、アイリお嬢様。午前に魔術を、午後に剣を学べば良いかと」
散らかった部屋を片付けたリーリャからの具申に父様と母様は反射的に抱き合って夫婦喧嘩を止めた。チョロいな? だが、現実も突きつけておこう。
「父様。私からも残酷な事実を」
「な、なんだいきなり」
「ルディは闘気を練れません。その素質がまるまる魔力総量へ注ぎ込まれてあるかのように」
「な、なに!?」
「剣術は闘気を前提とするものは教えれないことを前提に訓練を積ませるべきだと私も思います」
そう言ってあとはダンマリである。その後父様はルディに剣を仕込むことを諦めて、魔術師としての道を歩ませることを家族会議で決定した。そして、数年前の話が持ち上がり、グレイラット家に家庭教師を雇うという事になるのだった。