どうやら私の義弟は年上らしい   作:ニートになりたい社畜

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家庭教師

 家庭教師を雇う。すぐにくるかどうかは分からないと言っていた母様の言葉とは裏腹にトントン拍子で話が決まった。実を言うと一般騎士階級だと思っていた父様は下級貴族に属するようで、かなり自由にできるお金が給金として出されている。

 故に、相場通りの給料を払えるからと依頼を出したらすんなり見つかったそうだ。魔術師になれる人材というのはそうそう居ると言う話ではないと聞くし、この辺りなんて辺境も辺境だからそんな人材がいるかも怪しいって話だったはずだ。

 そして、家庭教師という仕事はかなり実入がいい仕事だという。まぁ、貴族の子供に物を教えて「使える」ように仕込むのは相応に難しく、教養だって必須だろうとむべなるかな。そう言ったハードルが高い職業とも感じたが、どうなるのやら。

 ブエナ村はド田舎になるから宿屋もなく、住み込みになるだろうけど果たしてどんな方が来るのやらと。父様と母様曰く冒険者を引退した魔術師が来ると思うとのことで、私が想像したのは髭の生えた高齢か中年の魔術師だった。

 若い奴がこんなド田舎に来たがるかどうかといえば、断じて否だろう。ほんとになにもない、麦畑が広がる。強いていうならば自然豊かな、のどかな村だからなここは。

 そんな穏やかなところを好むといえば人里が嫌いなジジイや、気難しいオッサンと相場が決まってると思うのはただの偏見だろうか? 

 

「姉様、ツノに反応はありますか?」

「人をレーダーみたいに扱わないの、ルディ」

「痛いです姉様」

 

 ルディのデコを小突いてぐりぐりとして抗議しながら時間を潰していると、ビビッと反応が来た。半径500m以内に中の上くらいの魔力を持つ人がこちらに向かってくるのを感た。だが、ルディには教えてやらん。レーダー扱いされて癪だからではない、断じてないったらない。

 ちなみに、私もやろうと思えば家庭教師になれると母様に太鼓判をもらってしまった。今回メインで授業を受けるのはルディで、私はあくまでもついでに当たるらしい。そも上級魔術はとっくに独学で修めてるし然もありなんだ。家庭教師の最低ラインは上級魔術を扱える事が決まってるとのことで、まぁそこ基準にすれば身内贔屓の目でもできると言えるのかもしれない。

 さて、どんな中年か高齢の魔術師が来るだろうかと考えていたら見えてきた。白い杖を手に、黒いとんがり帽子をかぶって茶色のローブに身を包んでいて。片手には白いトランクを下げている。見た目からして魔術師だとわかった。

 と思っていたのだが、なんかちっさい様な。中学生くらいのサイズ感に見えるのは見間違え、ではない様だ。そしてその人物は我が家の玄関口までやってきた。

 うーんちっさい、私より少しで背が高いくらいだろうか? 私で現在120cmの身長だから、対比で逆算して145cmくらいか? 

 

「初めまして、ロキシーです。よろしくお願いします」

 

 両親や私の予想を裏切って、やってきたのはまだ年若い少女だった。14歳くらいだろうか? だが見た目で騙されちゃいけない。不老種なのかもしれん、私みたいな。

 青い髪を三つ編みに結んで纏めている彼女はロキシーと名乗った。陽の光を反射した髪が若干緑に見えた時少し父様が構えたが、すぐに我に返り居住まいを正していた。はて、なにかあったのだろうか? 

 

「あっと、すまない。君がその家庭教師の?」

「随分とその、えっと」

「ちっさいんですね!」

 

 無言で私はルディの頭をはたいた。天才だが頭を殴ってもバカにはならん、精々脳細胞がなん個かが死ぬ程度で済むんだから間違いない。「あいたー!?」と抗議の目線を私に向けて来るが自業自得だ。

 

「弟がすみません。まだ3歳なので戯れにほざいたのだと思いますので」

「い、いえ。その、早いんですね」

 

 手が早い、と言おうとして。私のツノが目に入ったのだろうが、客人を殴るほど蛮族キメてないぞ失敬な。とは口に出さない。

 

「世辞は結構です。人よりは鍛えてる自負がありますから」

「む、まぁいいです。私の教える生徒はあなたで間違いありませんか?」

「いえ、こっちのです」

「え」

 

 私は目を瞑って首を横に振る。彼女はルディを指差す私を見て、次いで両親を見る。まるで正気ですか、と言わんばかりの様子で。いやまぁわかる、わかるよ? 

 

「こほん。も、もう一度確認したいのですが、私の教える生徒はどちらでしょうか?」

「アイリは独学で上級魔術を修めてるから違うわ。こっちのルディちゃんに指導してほしいのよ」

「独学で上級魔術を!? そ、そうじゃなくてぇ」

「こっちの子よ?」

 

 咳払いして私を見直すロキシーさんだったが、それを制する様に母様が笑顔で彼女にルディを推す。困惑を加速させる客人を和ませようとキャピッとウィンクするルディを見て彼女はと言うと。少し逡巡したのちに、ため息一つ。幸せが逃げるぞ先生。

 

「はぁ、たまにいるんですよねぇ、ちょっと成長が早いだけで自分の子供に才能があると思い込んじゃうバカ親って」

 

 ボソボソと言ったつもりだろうが聞こえてるぞ、聞こえてますよロキシーさん!? 

 

「……何か?」

 

 笑顔だが目元が笑ってない笑みを浮かべている母様を見てこっちも肝が冷える思いだった。母様は怒ると圧が半端ないので、父様も完全に尻に敷かれている。夜のプロレスじゃ主導権を握ると言うに、そのタイミングだけあべこべになるのだろうか? 

 くだらないことを考えていたら、にっこり笑顔を貼り付けた母様にツノを掴まれた。考えを見透かされたのかと思わず冷や汗が、いや脂汗が滲んだ。

 

「アイリはなにを考えているのかな?」

「な、なにも考えてません」

「よろしい、でもあなたにはまだ早いからね?」

「……ご、ごめんなさい」

 

 母は強し。子の考えていることなどお見通しなのだろう、うん。背筋を伸ばし直してロキシーさんに向き直り、沈黙していた彼女がルディを見ながら。

 

「その、流石に魔術の理論をお子さんが理解できるのか不安な点しかないんですが」

「ロキシーさん、ルディは普通の子ではありません。弟は天才です」

「そう、ウチのルディちゃんは天才なのよ?」

「はぁ、わかりました。やれるだけのことはやってみま「ルディ、スプラッシュフロウ」「はい、姉様!」」

「は?」

 

 私の意図を察したルディが天に手を掲げて魔力を放って、そしてそれはデカい水の球となり勢いよろしく飛んでいく。あのままだと局地的に雨が降るので私は魔力を練り上げながら翼を用いて飛翔。炎の槍を作り出す様にイメージしてっと

 

「魔力は2倍でいいかな。‘ブルー・フレイムピラー’」

「なぁ!?」

 

 村に爆音が響くが、村人たちにとってはグレイラット家がお転婆娘のやらかしかと慣れたモノのようで。水の球に太めの‘青い’火柱が叩き込まれて爆散。水の球の維持時間が長く、結構高空なので水蒸気爆発が起こっても問題ない。

 あの青い火柱は現状私が無詠唱で放てる最大火力である。風の魔術を並行発動して螺旋状に加速させつつ、さらに炎の魔術に極限圧縮をかけて燃焼効率を細く尖らせた状態にすると青い火柱が作り出せる。なおあの青い炎は可燃物が十分な酸素を供給して完全燃焼を起こしている時の炎なのだが、大体1000℃を超えている。

 

「い、今のなんですか!? 普通のフレイムピラーじゃなかったですよね!?」

「風の魔術と炎の魔術の混合魔術です。割と制御大変なんであまり使わないですけど」

「しかも、今。詠唱もなかったですよね!? と言うか飛べる人なんて見た事ないですよ!」

 

 興奮するロキシーさんにあれこれ説明して、ガスコンロの炎を再現をした程度なのだが、およそあれを受けて消し炭にならない物はなく。大体が1発で蒸発する結構凶悪な性能を誇っている。螺旋軌道はお手軽に火力を盛る方法だから活用するべし、である。割と実銃のライフリングをリスペクトした発想だと思わないかなってルディに聞いたら無言で拳を突き合わせる事になった。

 

「とまぁ、ルディに教えれた中級魔法はアレだけなんでそのほかの中級や上級の魔術の手解きをお願いしたいんです。ロキシー先生には」

「なるほど、あそこまで使える。詠唱なしでアレができるなら天才ですね、奥様。無礼を承知ですが、私にルーデウス君の指導を行わせてもらってもよろしいでしょうか。彼がどこまでできるのか、間近で見たいんです!」

「ええ、私からもお願いするわ。ルディをよろしくお願いしますね、ロキシーちゃん」

 

 母様、ロキシーちゃんはダメだと思うぞ。多分年上だから……私の周り年上多すぎひん? そんなくだらないことを考えながら、私はルディのこの先に期待を膨らませるのだった。

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