どうやら私の義弟は年上らしい 作:ニートになりたい社畜
ロキシーは教育者としてかなり有能であると私は思った。家庭教師に彼女を迎えてから数ヶ月経ち、ルディはメキメキと魔術の腕を伸ばして成長している。
側から見て楽しそうな彼の笑顔を見ていると姉として安心できるからその辺は結構大事だろう。家族から見てもその手腕はルディにベストマッチしていると見ても過言ではない。手が空いてる時に誘われて私も勉強に立ち会い、あれこれ質問して納得させてもらえるのでスッキリする授業内容である。
まぁ、私は剣士になる前提で過ごしているが母様はルディ同様に魔術師を目指してほしい様子なのだが。蛮族の深層精神が戦いを求める、精神の手綱は握ってるから日常生活に支障はない。
私は朝から昼まで家事や家庭菜園の世話を手伝いつつ自主訓練とかの自由時間で午後からは父様の剣術指南と言う名の打ち合いである。最近は父様が私の剣術を模倣して使いこなしてくるようになったから対抗して技を増やしたり、コンボを考えるようになって来ている。父様の戦闘センスはずば抜けていると言うべきだろうか? 伊達に三大剣術を上級まで修めているわけではない、天才なのだから。
「‘残響剣’っ!?」
「甘い、もう引っかからんぞ。そら、‘空打剣’!」
「甘いのは父様です! ‘爆風剣’、からの無音の太刀‘咬牙’っ!」
「ぬおおおっ!? ‘流’っ!」
残響剣で不意打ちを狙うが、私のより数倍鋭い飛ぶ打撃が来た。しかしそこにあえて突っ込む様にして爆風剣でカッ跳びながら踏み込み、飛ぶ打撃を無音の太刀を二度振るう‘咬牙’で撃ち落として距離を詰めたところに流のカウンターが合わされた。
父様の流はここの所さらに鋭さを増して来ている気がする。まぁ、同等の実力を持つ剣士が打ち合いの相手なのだから伸びて当然だろうなぁと思いながら。カウンターに対しての答えを出さなくてはダメージを免れられない。
「‘龍玲刃’っ!」
「の、わぁっ!? ここから廻すだとっ!?」
闘気の流れを掌握する様に、相手のカウンターの威力を乗せて剣の軌跡を捻れさせる事で受け止めながら父様の体幹を崩す。そのまま父様の持つ木剣を引っ掛けて、私の膂力含めた闘気の流れを誘導して廻すと、父様の手から木剣がすっぽ抜けて飛んでいく。そしてそのまま父様の頸目掛けて剣を振り抜き寸止めである。
新技の‘龍玲刃’は相手のカウンターに合わせる返し技。空中で使用することができるのは有翼種だからこそだがまぁ、前世の知識が役にたってよかった。この技、合気道の応用で相手の力を利用しながら、そこに水神流の‘流’から着想を得て作ったものになる。要は己を中心と定義して放たれた攻撃を受け止め流し、それを重心移動で減速しながら再加速させて放つ技なのだ。
「ぬぅ、参った! だが、初見の技を使うのは卑怯だろう!?」
「剣士たるもの、常に今日の己を超えねばなりません。常在戦中です、父様」
「ぐぬぬ、それを言われるとぐうの音も出んな」
今日も父様から一本を奪い、意気揚々と後片付けである。大人気なく本気を出した父様の実力でようやっと本気の私と拮抗するくらいの関係性かな。なお、父様には剣神・水神・北神上級のレベルと認めてもらっているのでこの先に行こうとするなら剣の聖地に赴くか各流派で聖級以上の剣士に指南してもらう必要があるようだ。
父様のツテで王級の剣士がいるのかどうかはわからないが、顔の広い彼の事だから心配は無用だろう。多分、キット、カット。
「しかし、アイリの剣は多彩だな。よくもまぁそこまで技を編み出すものだ」
「父様も、よくよく使いこなせていますよ。ただ私は、己の剣をまだまだと思っていますから」
「そいつは結構、慢心は絶対に良くないからな」
敏感なツノを避けながら、私の頭を撫でつつ笑顔を見せる父様。だが、その言葉の意味をよく理解している。毎日早起きして走り込みからの基礎訓練で体力の向上と、私に超えられまいと日々熱心に剣を振り。私の壁として、立ち憚らんと日々努力する父様には頭が上がらん。
「ふむ、久々に筋肉と打ち合ってもいい勝負ができそうかな今なら」
「筋肉と打ち合う、とは?」
「そうか、筋肉じゃ分からんだろうな。すまん、アイリ」
「知り合いのあだ名ですか?」
「おうとも、脳筋って奴でな。ギレーヌって剣王で俺の女だ」
なんとも懐かしそうに語ってくれるが、‘俺の女だ’あたりは聞かなかったことにしておく。母様が修羅に入りかねないので、私は何も聞いていない。
「剣王ということは、剣神流の王級剣士と?」
「よくわかるな、本当に。手紙を送っても読めんだろうからどうしたものか」
確かに、脳筋だな。字が読めないのは結構まずいのでは? と思いつつ、後片付けを済ませてから部屋に駆け込んで軽く体を清める。流した汗に砂塵がまとわり付いて不快で堪らず、で桶に魔術で作り出したお湯を溜めて布を絞り身体を拭く。本当なら湯船に浸かってシャワーを浴びたいが、剣と魔法のナーロッパにそんな贅沢なものはない。
「はぁ、ガス水道電気がないのには慣れたがせめて湯船に浸かりたい!」
「そうですね、姉様。割と僕もそれは思います」
「おい、勝手に入ってくんなルディ」
気恥ずかしさを紛らわすべく暴力に変換してルディの頭をゲンコツで叩く。「あいたぁ!?」と頭を押さえて蹲る我が弟にジト目を寄越しつつ、こんな貧相なロリの肢体を見てなぜ興奮できるのかが分からん。いやまぁそろそろ胸も成長を始めて出て来たんだっけか。既にBくらいのカップ数だと思うが。
「二次性徴を迎える前に姉様のロリボディを是非とも脳裏に焼き付けておきたくて!」
「黙れロリコンめ」
「とんでもない! 今しか見れな痛ぁーい!?」
力説して流れるように一糸纏わぬ己の姿を見ようと、こちらをガン見する愚弟に2発目のゲンコツ。シンプルに怒ってるぞのサインを込めて、結構強めに叩き込んだ。いい根性だと認めてやりたいが、8歳児の未成熟ボディを視姦するな。
血の繋がりがない姉弟だからって手出ししようとしてるんじゃない。家族だろうが、と内心でため息を吐きつつ。お互いに転生者だと知っているからまぁ、結構オープンなんだよね私とルディの関係って。
お互いにバカやって時折母様やロキシーに小言もらうけど。実際のところ姉弟というより兄弟の距離感で、性癖歪ませてしまったのかと心配になるが。ルディは元からヘンタイなのでノーカンだ、ノーカン。
§§§
そんなこんなで数年の月日がさらに流れ、ルディが5歳に。私が10歳を迎えて共に成長を喜び合い、ささやかなパーティが開かれた。いや、時間なんてあっという間だなだと思うが、うん。で、私の誕生日はあの日──母様が私を抱いた日で奇しくもルディの誕生日と同じなのである。この世界のスタンダードとして誕生日を祝うのは5、10、15歳なのだそうな。
「ルディ、誕生日おめでとう。いいか、男は心に剣を」
「父様。長くなるのは宜しくない、簡潔に」
「アイリッ!? 大事な話なんd」
「簡潔に3行で収めてください」
「……心に剣を持ち、勇敢な志を決して忘れず。大事なものをしっかり守れるような男になってくれよ?」
真剣をルディに与える父様の、長くなりそうな薫陶を簡潔にして。私の仕事に母様も満足げに頷いて、植物図鑑を取り出した。
「次は私ね、ルディは本を読むのが好きだから」
「わぁ、ありがとうございます母様!」
「俺のより嬉しそうなのはなんでだ!?」
そりゃ数打ちの剣よりも高価な本の方が実用的だろう、父様とは口に出さず。私もルディに贈り物を用意していた。
「ルディ、これ」
「これは?」
「森に湧いたトゥレントを伐採した時にその腕へし折って削ったのを木剣にしたのよ。トゥレントは魔物の木ってやつでかなり頑丈で軽い材質だから加工しやすいのよ。固定化の魔術で簡単に折れないようにしてあるから、ルディの頑張り次第で岩でも砕けると思うわ」
「固定化……まさか、エンチャントですか!?」
「
「あ、新たな魔術?」
「古い文献には残ってるんじゃないかな、分からないけど」
詠唱は知らん。無詠唱がスタンダードなんだぞこちとら、で納得してもらいたいと思いながらロキシーから目を逸らした。しかし、我が魔力の底が見えない……ともいうのも最近発覚したのだが、私は常にとある技術を使っていたことがわかった。
その技術とは闘気に紛れたナニカこと、エンハンサー技能である。なおルディにそれを伝えたらすっごい顔された。「チートやんけ、チーターやんそんなもん!」と言われた。なぜ関西弁? このエンハンサー技能、略称として練技だが。私には生まれ持って怪力だと思っていた。しかし実際はクマの膂力を得る練技、マッスルベアーを使っていたのである。
まず練技のメカニズムとしては特殊な呼吸法でマナを体内に循環させて象徴である動物のオーラを再現、体に馴染ませてその効力を引き出すという仕組みだ。ちなみに本来のマッスルベアーは使用すると30秒の間怪力になる。
私が現状無意識に使っていた練技はマッスルベアーに加えて猫の如き動体視力を得るキャッツアイ、鹿の如きしなやかな身のこなしを得るガゼルフットと甲虫の如き守りを得るビートルスキン。
そして
少なくとも8つの練技を使用しているのがわかり、魔力とは使えば使うほど伸びるという性質がある。おそらく、出生時から練技を使っていたのかもしれないとすると……10年間ずっと魔力を伸ばし続けていたことになるかもしれない。まぁあくまでも、推測の域を出ないが。
で、大元との違いは持続時間。30秒かものによっては10秒、60秒が維持可能時間なのだが、私の闘気に組み込まれているからかは不明なのだが明らかに変質した別物となっている。体感的な持続時間は発動待機から12時間毎で更新されて闘気が活性化すると途端に喰われる魔力が増加する、みたいな感じだ。
その間は常に魔力を喰われるが、この無尽蔵に近い魔力と魔族に近い体質のおかげで苦もなく運用できる。割とまぁ‘ドレイク/ナイト’自体がかなり反則的な性能だからなぁ。数値化するとおおよそ6つの能力値が平均18を軽々と超えるエリート種族なのだから当然と言えば当然だろう。
「あ、ありがとうございます姉様」
「なんで引き攣った顔してるのよ」
「いやまぁ、うん」
父様も納得してるんじゃないよ、レッサートゥレントなんて雑魚も雑魚だろあんなの。ボッコボコにして木っ端微塵になった時は焦ったけどさ。納得のいく形になるまで森の中に居るトゥレント片っ端から狩り続けたけど……何本伐採したっけか。100は斬り倒したかな?
「この杖は先日作成したものです。ルディは最初から魔術を使っていたため失念していましたが、師匠は初級魔術が使える弟子に杖を作るものでした。申し訳ありません」
「わぁ、師匠! 大事にします!」
ロキシーさんはルディに杖を渡していて、お手製とは愛が詰まっていそうだなぁ。と思ったが、魔術の師匠の通る道だそうだ。なるほどね?
師匠と呼ばれたロキシーさんの横顔が少しだけ苦い笑顔だったのは指摘しないでおこう。
「アイリ、もちろんお前も10歳なんだからプレゼントを用意してあるぞ!」
と次は私に何かを渡す様で……なんか魔法の鞘みたいなのを出すが?
「アイリ、剣を見せてくれ。ドレイクの魔剣じゃない、平時用の剣を」
「はい、父様」
最近ずっと腰に下げている、グレイラット家に迎え入れられたあの日に父様から頂いた剣を鞘から抜き渡す。それをじっと見て、父様はにんまりと笑う。
「よく手入れされている。そして、お前の魔力が定着して業物になりつつあるな」
「はい、今では大事な相棒です」
「俺からの贈り物を大事にしてくれているアイリ、お前には鞘を贈るよ。この鞘は1つの魔術が込められている。結界を張り、持ち主を守る魔術が籠っているんだ」
「危険なところに飛び込む悪癖もパウロにそっくりなのよね、だからその鞘を選んだのよ」
「母様……ごめんなさい」
そっと抱き寄せられて、心配させてしまっていたのを自覚する。ほんとにごめんなさい、向こう1年は魔物が出ない様に全力で駆逐しといたからそれで許して欲しい。
「いいのよ、ルディのためにやってくれたのよね?」
「それに……杖の木材に困っていた私に拾った謎の木と称してルディのロッドの材料を提供してくれましたよね。だから私も微力ながらその鞘の確保のお手伝いをさせてもらいました!」
「ロキシーさんもありがとう」
ありがたい、ありがたいものをいただいてしまった。これからも頑張ってスタンピードの予防に努めよう、そうしようと、心に決めて。その日は深夜まで談笑に花を咲かすのだった。