インフィニット・ストラトス-イルミネイト・バレット- 作:卓上カレンダー
揺れる茶髪のツインテール。あぁ、夢か。たまに見るこの夢はオレの中では印象的だったらしい。
目の前の幼女は今はどうしているだろうか、オレたちに関わったが為に被害を被ったんだから、オレたちが消えたことで静かに暮らしていて欲しいものだ。
「ねえ凪」
幼女は俺の名前を呼んだ。気の強そうな瞳は恥ずかしそうにオレを見る。頬もほんのり赤く染め、もじもじしているその様子は年相応の可愛らしさを出している。
「いちゃいの?」
「あぁ、すぐに行く。巨大ニンジンも治ったことだ。これ以上、迷惑かけられない」
いつも変わらない夢、オレのこのあと何と言うかも知っている。
そして、オレが何と答えるのかも。
「アタシは迷惑なんて思ってない……。ずっとここにいていい!!」
「運が良かった。オレらのせいで拐われて運良く助かった。だが、次そうなる保証はできないんだよ。次はどっちかが死ぬかもしれない。両方死ぬかも知れない。お前がなんと言おうとオレらは消えたほうがいい」
何度聞いても子供らしくないと自分でも思ってる。まぁ、外見だけで中身が子供じゃないんだから仕方がない。
幼女から視線がそれた、オレはどうやら幼女に背を向け歩き出したようだ。
「す、好きなのよ……。アタシはアンタののこと好きなのよ!」
何度も見た夢、ここまで見るとなるとオレは相当未練たらたらな男なんだろうかと思ってしまう。
そして、このあとオレはこう言うんだ。振り返ることなく。
「オレもお前のことが好きだ。でもそれは恋じゃない、likeではあるがloveじゃないんだ。悪いな」
毎回なんでこんな言い回し使ったんだだか、恥ずかしくてしょうがない。俗に言う黒歴史を毎度毎度見させられるのは心にくる。
「くッ……、絶対、絶対アンタをアタシに惚れさせてやるんだから、今度会ったとき覚悟しなさい!絶対よ!!」
「おう、楽しみにしてるよ。またな、
振り返ったときの鈴音は、いつもの強気な表情に戻っていた。
うん、いい顔をしている。ここで視界は光に包まれた。夢の終わり。続きはない。
初めて人を殺し、初めて人に好きと言われた夢。後者はどんと来いだが、前者はあまり止めて欲しいもんだ。
『やー凪くん!朝だよおっはよー!!さっそくだけどラボに来て欲しいんだよねぇー。お願いねー』
スピーカーから出る束の声で、朝の余韻に浸ることなく強制的に起こされた。壁に掛けてある時計を見ると、時刻は夜中の12時を過ぎている。服は寝巻きではなく部屋着となると、寝落ちしたようだ。
「朝じゃないだろ、朝じゃ。寝てまだ1時間も経ってないじゃねーか」
とりあえず風呂入ろう。話はそれからだ。
風呂でのんびりとして、なんとなく歯を磨き、肩に掛かるか掛からないかの髪をワックスでオールバックに仕上げる。
「よし、こんなもんだろ」
いつもどおりの朝ではないが……、さてと、束ところに行こう。
病院のように清潔感のある白い廊下の先。一番奥にラボはある。
窓はない。ここ地下だし、世界から逃避行中だから仕方ないと妥協してる。
たまには日光を浴びないと体に悪いと思うんだよオレは。だけど束に言っても意味ないし、三日ほど寝ずにISの武装を手入れして寝落ちしたオレが言えるようなことじゃないか。
そんなことを考えていたうちにラボの扉は目の前にあった。どうやら、まだ寝ぼけているのかもしれない。
手元にある指紋認証装置に手を置く。すると、機械的な音のあとに扉が開いた。
「おっそーい!来てって言ったんだから、なんですぐに来ないのー!!」
ラボには仁王立ちした束立っていた。私怒ってますよオーラをビンビンと発して、端にいるクロエは完全に怯えてしまっている。
「なんでって言われてもなぁ、風呂に入ってたんだからどーしようもねーだろ。あと、クロエ怯えてるからそのポーズ止め。で、なんだよいきなり呼び出して。今度はどこに行けばいいだ、試験管ベビーか?それともテロリストか?」
「IS学園だよ」
「あぁー、IS学園かー。ってなんで?」
「えーと、今回の任務はねー。3年間やってもらうよー、内容はこれ!」
ラボ内に浮かんでいた小さい投影モニターを二つ、束はそれを引き寄せ、手で大きく見やすいように広げた。
映っているのは二つのISが戦闘をしているのと、もう一つはISのハイパーセンサーを応用したレーダーの画面だ。
「これは……、IS学園の映像か? それともう一つは、これは日本列島だな、そこに得体の知れない何かが高速で迫っていると」
「正解!説明すると、箒ちゃんといっくんとちぃちゃんとリンちゃんのいるIS学園に得体の知れないISが接近しているのだー」
「あー、どうにかなるだろ?千冬いるならどうにかなるだろ?」
あの人がいるなら核爆弾さえ落とされなければ世界はほろばない気がする。核爆弾でも死ななそうだ。
「ざんねーん。それだったら凪くんに頼まないよ。さっきも言ったけど、3年間、卒業するまでIS学園を守ってほしいの」
珍しいこともあったもんだ。束が妙に真剣だ。まさか……
「亡霊がでたのか?」
「うん……、その可能性は高いよ」
「なるほど、亡国企業が表に出るとなると厄介だ。狙いはなんなんだ? ISか?それともついに大手を振って世界に宣戦布告か?」
あいつらが出てくるとなると不味い。なにせこの4年間殆ど尻尾掴めてない本物の悪の組織ってやつだ。
人数も目的も何もかもが不明。最近は世界各地で機密のISを強奪していのと、主にイギリスから強奪したであろうサイレント・ゼフィルスが実行部隊ということだけだ。
「質問が多いよ凪くん。目的はわからないけどタイミングがとても悪いの。見て」
そう言って束は俺の前にIS学園の映像を押し出した。茶髪のツインテール。それと、最近有名な世界で唯一の男IS適合者、織斑一夏。二人共でかくなったなと的外れなことを思ってしまった。それにしても鈴音はそこそことして、一夏はISの操縦下手すぎだろ。
「これなうな映像か?」
「なうなうな映像だよ凪くん」
「なーるほど、助けに行けと。でも束、卒業ってなによ?」
「それはねー。凪くんにはIS学園に入学してもらいまーす!だから3年で卒業なんだよ!!」
今まさに亡霊の刺客が学園に迫っているというのに、束はやけに嬉しそうに話す。
「ほんとはね。凪くんのお披露目も兼ねてるんだよ。このレーダー反応だと、IS学園をなめくさってるようなゴーレムだから、凪くんなら瞬殺。バッチ問題ないね!」
「そうか、あいつらに会えるのか」
束は両手を広げてその場でくるくる回りだす。
なんだか懐かしい、あいつらとは何年も会ってないからな。なら、かっこよく登場してやろう。
ノスタルジックな感情に酔いしれていると、束が不思議そうにオレを見つめていた。
……オレらしくない。いかんいかん、まったくもってオレらしくない。
いつも人生は楽しくがモットーだ。ニッっと笑わないとな。
「ってことはISは使っていいか?」
「うん、いいよ! あとその顔怖いよ!!」
「入学すんだから……、制服はないしな。いつものダークスーツでいいか」
「それは流すんだね!うん、それはやめたほうがいいよ!」
「は?なんで?」
「凪くんはただでさえ目つき悪いし、身長も高いし、目つき悪いし、ダークスーツにサングラスまでかけたらマフィアだよ!」
「……サングラスはかけないから」
「なら…………、だいじょーぶい」
「おいこらこっち見ろや」
オレと目を合わせようともしない束。そういえば、髪型をオールバックにしたときはクロエには泣かれるわ。束ねには目を合わせてもらえないわで散々だった。それも一週間も。
「まぁ、インパクトあるし、どうにかなるべ。クロエ、束のこと頼んだぞ。しっかり三食食わせろよ。それとしっかり寝かせること、オーケー?」
「わかった。凪いってらしゃい」
うん、クロエはちっこくて素直で可愛くてよろしい。
二人に手を振りながらラボを離れ部屋に戻る。クローゼットから、今や普段着のようになってしまっているダークスーツを着る。やっぱり着慣れているものはいい、体にしっくりくる。
「あとは、オレのISどこにやったっけな」
部屋を見渡すとすぐに見つかった。丸いテーブルの上に置かれた銀色の羽をモチーフにしたネックレス。オレのISだ。ISを手に取り、首に掛ける。よし、いつもどおり。
支度を終え、出撃用ハッチに移動して日本までのルートを確認する。ここは北極の大地、日本までISで行くとなるといろんなセンサーに引っかかり大変なことになりそうだ。まぁ、世界各国の特殊部隊を引き連れて行くのも面白そうなんだが。事後処理がめんどくさいので却下。
「こりゃあ、ニンジンで行くっきゃねーか」
「ってなると思って用意したよニンジンさん!」
「うおぉ!?って束か、驚いただろーが」
後ろからひょこっと束が飛び出してきた。左様ですか、用意がいいことで。
ニンジンロケットに乗り込み設定の確認とISを同期させることで最適化する。あとは寝てるだけで快適な空の旅をってな。
「よーし、全速力でいくよー!いってらっしゃいポチッとな!!」
コックピットに背を預けて、しばしの睡眠を取ろうとしたそのとき、束の嫌な声が聞こえた。全速力と。
「ちょっと待て束!ああああああああああああああぁあああああああああぁぁぁぁ!?!?」
勢いよくニンジンは空へ飛び出した。ニンジンの全速力、それは戦闘機を軽く追い越すどころか下手なISより数倍早い。よって搭乗者に掛かるGは、死ぬ!?
一瞬の浮遊感のあと、ジェットコースターどころの話ではないGがオレに襲いかかる。ダメだ。わりときつ過ぎる。
不味い、かっこよく駆けつける前に死ぬかもしれん。
「束のやろう……あとで覚えておけぇぇええええええええ!!!!!」