インフィニット・ストラトス-イルミネイト・バレット-   作:卓上カレンダー

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3話‐消えない思い

 北極の大地を飛び出して早七分。もうすでに日本本土に上陸しているのだから、ISが人類にもたらした恩恵は凄まじいと思わざる負えない。ましてあのマッドサイエンティスト()がISと同期させる機体を作ったんだからこの早さも頷くしかない。

 IS学園に到着まで約3分、オレの乗るニンジンロケットは現在真下に向かってジェットエンジンを全力で吹かしてるようだ。おかげでオレの快適な空の旅計画はお釈迦もいいところ。ああ神様私めに救いをなんて無信教のオレが祈るなんてことはしないが、空中分解を嫌でも想像させるガタガタ揺れるこの座席と、ニンジンの外側面が軋んでるようで内部まで嫌な音のせいで流石に余裕はない。

 

「あと2分ちょっとってところか……。束、聞こえてるんだろ?」

 

 ニンジン内部のどっかに仕込んだであろうマイクでオレの現状を楽しんでいる元凶に喋りかけると、声はオレの座る座席の後ろから楽しげな声色でやって来た。よくもまあ男の大人一人が座るのもやっとなところに、いろんな物を仕込みやがって。

 

「ハーイ!よんだぁ?」

 

「よんだぁ?じゃねーよバカ!んでどうすんだこれ、安全に着陸できますってコードじゃねーぞ?」

 

「アハハ!似てないよ凪くん。うーん、こうしよっか。そのまま突っ込んじゃえ!」

 

「だろうと思ったよ大バカ野郎ッ!」

 

 ニンジンの先端にあるカメラ映像が、IS学園の競技場のようなものを映し出す。

 

「こりゃ……、ちょっと不味い。あのバカども、安心するのは死体を確認してからって決まってるじゃねーか」

 

 目の前のモニターに写ったのはISが3機と、ゴーレムが1機。ゴーレムは青いISが巻き上げた土煙の中だ。

 

「おいおい、ゴーレムの反応消えてねーじゃねーか」

 

 モニターにはゆっくりと起き上がるゴーレムのが、赤く縁どられ映し出されている。一方、IS3機は気づいてない。一夏に至ってはゴーレムに背を向けてる。

 

「……更に限界まで速度上昇。うぐっ!? ちゃ、着陸目標ゴーレム頭上に再設定。よし、このまま潰せ」

 

 急な加速で体に掛かるGの負担が途端に大きくなる。ISと同期しているおかげで死ぬようなレベルじゃないが、肺の空気を一気に吐き出したせいで苦しい。だが、確実に仕留める。

モニターはすべてレッドアラートと警告文で埋め尽くされた。それでも優秀なニンジンは確実な方向でゴーレムに迫る。

 

<到着マデノカウントヲ開始シマス。5,4、3>

 

 口元がにやける。なんだか楽しくなってきた。

 

<2、1、0>

 

 衝突の刹那、ゴーレムがオレに気づいてカメラ越しに目が合う。

 

「よぉ。久しぶりじゃねーか」

 

 気づくのがおせーんだよバーカ!挑発するようにオレはゴーレムの映るモニターに中指を突き立てる。

もう遅い。ニンジンはゴーレムを押しつぶし、地響きを上げながら元々あったクレーターを更に深くえぐった。

想像以上の衝撃がオレを襲う。ISの絶対防御すら突破してきた衝撃は、備えていたとは言え一瞬でオレの意識を刈り取りった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったくもう、全部いいとこ持ってかれちゃったわ」

 

 でもよかった。アタシの出番が少なかったような気がするけど、みんな無事でほんとによかった。

イギリスの代表候補生がトドメを刺さなかったら、一夏が危なかったから。ただプライドが高いだけだと思ってたけど、案外やるじゃない。セシリア・オルコット。

 セシリアを見ると、ほっぺたに両手を当ててくねくねしている。なんだろうあの動きって思ったけど、ほんのりほっぺ赤いし、一夏とプライベートチャンネルを繋いでるみたいだし、邪魔しないほうがよさそうね。傍から見ると気持ちわるいけど。

「恋……か……」

 

セシリアが羨ましい。あんなに堂々と好き好きオーラ全開で恋愛してるんだもん。

それに比べてアタシは……、初恋を引きずってる。アイツは「またな」ってあたしアタシに言った。「楽しみにしてる」ってアタシに言った。それなのにアイツはまだ、アタシに会いに来てくれない。

アイツが何者なのか調べるために必死になって努力して代表候補生にまでなったのに、まるで始めからいなかったみたいに情報は何もなかった。

胸の奥がキュウッと苦しくなる。凪のことを考えるといつもそうだ。

 

「ねぇ、どこにいるのよ……」

 

誰にでも言うわけてもなく、口から感情が零れた。なんだがイライラしてきたわね。

 

「どうしたんですの凰さん。お顔が少し赤いですわよ?」

 

「へ?な、なななんでもないわよ!」

 

声がしたほうに顔を上げると、一夏との会話を終えたセシリアが、アタシ顔を心配そうに覗き込んでいた。アタシは恥ずかしくて咄嗟にに目をそらした。ほんとに……、嫌になっちゃう。

体が少し怠いわ。結局一夏との勝負はよくわからない無人機のせいでうやむやになっちゃったし、今日は早めに寝ようかしら。

 

「さてと、一夏とセシリア、イチャイチャしてないで行くわよ!もうすぐ先生がく<警告、IS反応ノ復活ヲ確認>なんですってッ!?」

 

 そろそろ帰ろうと二人を呼ぼおとした瞬間、アタシの甲龍がさっき倒したはずのISに反応した。

咄嗟にゴーレムのいる土煙に視線が飛んだ。ゴーレムは土煙で姿が黒い影になって、手を伸ばして一夏に標準を合わせてる。

 

「一夏!」

 

 一夏は気づいてない。龍咆じゃ間に合わない。

 

<警告、上空カラ正体不明ノ物体ガ高速デ接近中>

 

「今度はなによッ!?」

 

 こんな切羽詰まった状況で! それでもなんとなくチラリと空を見ると、見えた。巨大なニンジンがおっそろしい速度で落ちてくるのが。自分の表情が固まるのがアタシでも分かった。

 

「え、なによあれ……?」

 

ズドンと音にワンテンポ遅れて、隕石でも落ちたんじゃないっかってくらいの衝撃波がアタシたちをアリーナの壁まで吹き飛ばした。甲龍のおかげで気絶はしなかったけど、キーンっていう耳鳴りと頭をぶつけたのか視界がグラグラする。ハイパーセンサーでセシリアと一夏を確認してみると、どうやら二人共無事みたい。

 

「いったい今度はなんなのよ……」

 

 大きく巻き上がったゆっくりと晴れていき、アタシの視界もちゃんと見えるようになってきた。

何かが降ってきた場所は、さっきの無人ISが落ちてきたのよりさらに深く抉れてる。

……見に行くしかないか。

甲龍を静かに動かして、目で見える場所まで移動する。

 

「いったいなんなのよ……」

 

 クレーターの中心にあったのは無人ISに突き刺さったニンジン。ダメ、理解が追いつかない。

 

「あいてて、こりゃ何だよ鈴?」

 

「アタシに聞かないでよ。こんなの見たことあるわけないじゃない」

 

「これはいったいなんですの?」

 

 復活したらしい一夏とセシリアがアタシのすぐそばまでやって来た。でも、一夏もセシリアもアタシと同じで状況がつかめてないみたいだけど。

 

ガチャンと機械的な音と共にニンジンが真っ二つに割れて、中からたくさんの白い煙が勢いよく飛び出してきた。

 

「もう、今度はなに!?セシリア、一夏も何が出てくるかわからないわ。警戒して」

 

 二人は頷いて武装をニンジンに向かって構える。するとニンジンの中から黒い影が浮かび上がった。どうやら大きさ的に人みたい。

 

「両手を上げてゆっくり出てきなさい!いい、ゆっくりよ?」

 

「あーくっそ痛え。ちょっとまってろ。すぐに出る」

 

 男の声だったわよね。口調は汚いけど、敵意はないみたいね。よかった、これ以上戦いは御免だわ。

 

「どっこいしょっと。お?鈴音と一夏じゃあねーか、久しぶりだな!」

 

 出てきた男は見た目も口調どおりだった。鋭い獣のような目に髪型はオールバック。それにダークスーツなんて着てる。映画がに出るどっかのマフィアみたいね。

 

「えーと、凰さんと一夏さんのお知り合いかなにかでしょうか?」

 

「俺は知らないぞ。鈴は?」

 

「知らないわよ。アンタ誰よ。そんな見た目に知り合いなんていないわ」

 

 巨大ニンジンから出てきた男に向かってアタシが人差し指を突き出すと、男はその鋭く細い目を目を少し見開いたような気がした。そのあと、アタシを一瞥すると、男の口元が開いて小さく堪えるように笑った。

 

 ドキン……

 

 あの笑い方……、知ってる、アタシは知ってる。

 

 ドキン……

 

 ヘラヘラしたように笑うやつを知ってる。

 

「な……ぎ……?」

 

「え?凪って言ったのか鈴?」

 

 一夏は驚いたような声を出した。

 アタシの小さく漏れた声が聞こえたのか、男は今度は嬉しそうに笑みをつくる。

 

「よぉ、鈴音。お前に惚れさせられに帰ってきた。まだ有効期限は切れてないか?」

 

「……っ……っ!?」

 

「なんだよ鈴音、泣くなよ。そんなにオレが恋しかったのか?」

 

 凪に言われるまで自分が泣いてることに気がつかなかった。

アタシは肘から先のISを解除して頬に流れる涙を拭う。でも、流れる涙も拭っても拭っても止まらない、視界がボヤけるくらい溢れ出してくる。

なんでよ……。嬉しいはずなのに……涙が止まらない。

 でも、アタシの心の中とは裏腹に、口はいうことを聞いてくれない。

 

「そんなわけないでしょバカ!人がいる前でなに言ってんのよっ!!そんなことより一体今までどこに……凪避けてッ!!!!」

 

 溢れる感情のやり場を凪にぶつけようと口を開いた。刹那、凪の後ろの土煙が吹き飛ばされるようになくなり、あちこちに穴の空いたゴーレムが姿を現した。あろう事か残った腕を凪の真上に掲げて。

 

「あぁ、わかってる。大丈夫だ」

 

 焦るアタシとは打って変わって、凪は笑みを作ったまま余裕のある素振りで避けようとしない。

そんな好機をゴーレムは逃さない。掲げた腕を、生身の人間ならまず生きることはできない速度で凪に振り下ろした。

 ドガンと爆発したような音が響き渡る。凪がいた場所は地形が変わるほど吹き飛んだ。

 

「う……そ……。嘘よね凪、ねえ!!」

 

「ぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねぇよ」

 

 声はゴーレムの真横。そこにはサファイアよりも深く青いフルフェイスのISが、ゴーレムに頭に巨大なライフルを片手で突きつけて佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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