インフィニット・ストラトス-イルミネイト・バレット-   作:卓上カレンダー

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4話-前哨戦

 頭の上に圧し潰されるような重圧が近づく、見なくてもその重圧の正体はオレには手に取るように分かる。

その形状、重さ、スピード、何度も戦い何度も破壊したゴーレムの剛腕。嫌ってほどくらったんだ、今はわざとくらうほうがのも難しい。

 こいつは胸の中心にあるコアを破壊するか抜き取らない限り動き続けるしぶといやつだ。しかしながら、図体がでかいことで動きは通常のISより遅い。

倒すまでの一手は左に半身、右足を後ろに動かすだけでいい。たったそれだけで、鼻先を金属の剛腕が通り過ぎてオレを掠めることすらできない。地面に激突したタイミングで、剛腕によって生み出されたインパクトが土の塊を散弾のように周囲にばら撒いた。

 インパクトのタイミングがズレたのと本来あるはずの片腕を一夏がぶった切ったことでゴーレムは膝をついて大きくバランスを崩した。

チャンスだ。しかし、生身ままのオレじゃゴーレムを倒すどころかばら撒かれた土ですら致命傷になる。

 

「起動しろイルミネイト」

 

なら、二手目を使うとしよう。半年ぶりの実戦だ、腕がなまってなけりゃいいんだが。

迷うことなくオレは首に掛かる銀の羽のネックレスに触れる、すると銀の羽から小さく青い光が漏れた。銀の羽は形を変えて青い光となってオレの体全身を覆い尽くす。

『イルミネイト』、それがオレのISだ。第零世代型IS、第一世代型より前に開発されて『白騎士』と肩を並るオレが唯一動かすことができるIS。

フレームのデザインはIS白騎士と似ているが違う。露出は頭のてっぺんから足の先まで全くなく、青い鎧に銀のラインが通る。第二、第三世代とも違う、人の形に沿った細いフォルム。

通称『蒼騎士』。

 オレが設計して、束がデザインした自称最速のIS。

束曰く「私を守ってくれる騎士様」をイメージしたとか何とか言ってるが、まぁいい。

半身をずらした状態から更に地面を足で蹴ることで二、三メートルほどゴーレムと距離を開ける。これが生身とISの差だ。殺人的速度の土の塊がオレに衝突前に避けられるってわけだ。零から百を生み出す出力、唯一仕様の特殊能力と同等に戦うことを前提に開発した才能のないオレの力。

さて、三手目、これで詰みだ。イメージは蒼く白い巨大な対ISライフル、武器はこれだけでいい。これしかないようなもんだ。

イメージしないと出せないからいつもワンテンポ後れてしまう、こういうときに素早く出せるやつは羨ましく思う。だから実戦ではその分を入れて計算しなくてはならない、めんどくさいことこの上ないが、二メートルを超えるライフルが大きすぎるため、ISを起動するたびに出てこられても困る。なら、本来は違うものが入っているはずの拡張領域にしまえばいいと残りの空き容量に突っ込んだ。

その武器の名は『イルミネイター』

まったく、何が青騎士だよと毎回思う。姫を守る武器は常識的に考えて銃ではなく剣だろうにと。

イルミネイターを右手をゴーレムへと横に伸ばすようにして持ち、ゴーレムとの距離を埋めるように武器を構える。予定通りだ、イルミネイターをゴーレムの頭に突きつけた。

 

「ぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねーよ鈴音。分かってるって言ったろ?」

 

 鈴音に声を掛ける、かと言って視線はそらすことなくゴーレムのままだ。

 イルミネイターのトリガーを躊躇なく引く。対物ライフルはISの補正によって脱臼することもない。それが対ISに使われる程の強力なライフルでもだ。ただし、著しくほぼゼロ距離じゃなきゃ命中精度は格段に落ちる。そもそも接近戦はスナイパーの仕事じゃないから、こんな使い方することもない。

 ゴーレムとオレの距離は約三メートル、けれどもその差はイルミネイターが埋めたことでほぼゼロとなる。

ガゴンッと打ち出された弾丸は、ゴーレムの頭を跡形もなく吹き飛ばす。役目を終えた薬莢が硝煙と火薬の香りと共にイルミネイターから排出された。

しかし、これで終わりではない。ゴーレムは頭部にあった目を潰されたところで機能停止とはいかない。

ただゴーレムの視界を潰しただけだ。

 ゴーレムが攻撃を受けた方向へと体を捻って円を描くように腕を振るう。だが、遅い。こんなんじゃ、オレは動揺すらすることもない。腕の接合部、ゴーレムの関節を打ち抜き破壊することで、勢いに耐え切れない腕は持ち主から離れ宙を舞う。もうゴーレムのコアを守るものはなくなった。

イルミネイター狙いを胸に移して更に二回トリガーを引く。ガコンッ、ガコンッと二発の弾丸は胸の中心に吸い込まれる。一発目は胸の走行を引っペがし、二発目は黒いISをコアの中心を僅かなブレもなく貫通した。

カラン、ここでようやく一発目に排出された薬莢が地面に落ちた音が聞こえた。

 

「ま、こんなもんだろ」

 

 煙を上げてピクリとも動かないゴーレムを一瞥したあとに、鈴音にオレは目を向ける。

鈴音は信じられないものでも見た表情したと思うと、またホロホロと涙を流し始めた。

 

「やめてよね……。死んじゃったと思ったじゃない」

 

「おいおい、いつからそんなに泣き虫になったんだ?」

 

 目を赤くして泣く鈴音にオレはい心地が悪くなった。しょうがなくオレはISを解除すると鈴音もISを解除してオレの胸に飛び込んできた。

 

「うるさい…、今度は逃がさないわよ。覚悟しなさい」

 

「覚悟って…、上等だ。かかってこい」

 

 左手で頭を優しく撫でると鈴音は子猫のようにオレの胸に顔を擦りつけた。オレの服で涙を拭いて嫌がらせをしてるようだが、こうも強く服を握られると何も文句が言えなくなる。女の涙ってのはずるいもんだ。

 

「それに、アンタ背伸びすぎよ」

 

「そうか?オレは鈴音が昔と変わらず背も胸もちっこいことに驚きだ」

 

「うっさいバカ…。これからよ」

 

 鈴音はオレに回した手に少し力篭った。なんだか相当寂しい思いをさせたみたいで心苦しい。でも、そんな鈴音が可愛く見えるのは男だからだろうか。こりゃ、オレが鈴音に陥落する日は早いかも知れない。

 

「凪か?ほんとに凪なのか?」

 

 そんなことをしていると、一夏声をかけてきた。一夏もいつの間にかISを解除している。

 

「よぉ一夏。どした?」

 

「どした?じゃない。お前がいなくなって大変だったんだぞ。料理は千冬姉はできないから俺が作ることになるし、五反田食堂の弾はだいじょうぶだったけど、蘭は泣きじゃくるしで」

 

「そうか。文句なら束に言ってくれ、それにこっちは追われてる身で大変だったんだ」

 

 不満を捲し立てるように話す一夏だったが、ため息をつくと「ならしょうがない」と笑った。どうやら許してくれたみたいだ。

 

「それにしても鈴とそんなに仲良かったなんてな。どこで知り合ったんだ?」

 

 一夏はいまだにオレに抱きついている鈴音を微笑ましそうに見ると、意味ありげにオレに視線を戻した。

鈴音はオレから離れるタイミングを逃したのか、抱きついたまま耳まで真っ赤だ。相当恥ずかしいらしい。

 

「中国でな。それがどうした?」

 

「いや、鈴がここまで懐いてるとこなんて見たことないしな。……凪、もしかして付き合ってたりとか?」

 

「……っ……!?ま、まだ違うわよ!」

 

「へー、まだねぇ」

 

 一夏の言葉に反応して鈴音がオレの胸からガバッと顔を離すと焦ったように早口で喋った。それを聞いた一夏は言葉の意味に気がついたのかニヤリと笑う。

指摘された鈴音は更に顔を赤く染めると何も喋らなくなってしまった。

 

「あぁ、まだだよ。鈴音はオレを惚れさせるつもりらしいから、オレは楽しみにして待っているって感じだ」

 

「そうなのか。しっかし凪は昔からモテてて羨ましいぜ」

 

「何言ってんだこのイケメン。いつも言ってんだろ周りを見ろってよ」

 

 オレの言っていることが分からないと言いたそうに一日は首を傾げた。どうやらこの唐変木は相変わらず女泣かせのようだ。

 ほら見ろ、一夏の後ろにいる金髪レディーは頭を抱えてるぞ。

 

「ところで一夏、お前の後ろに美しいレディーはどなたか紹介してくれないか?」

 

 ようやく後ろにいる金髪のレディーに気がついた一夏は、その人をオレの前に押し出した。スタイル抜群というのはこういう事を言うのだろう。柔らかそうな足にくびれて引き締まった体。でかい胸と整った顔。オレが見た女性の中でも上位に入る。すると視線に気づいた金髪のレディーは見るからに怯えた。

なんなんだろうな。大体の女性はオレに会った途端に怯える。オレの中でちょっとした黒いものが動いた感じがした。ちょっとからかってやろう。現状できる笑みをオレは浮かべ一言。

 

「殺すぞ?」

 

「ひぃっ…」

 

「やめなさいっ!!!!」

 

「ぐあッ!?」

 

 思い通りに一夏の背に隠れる金髪のレディーに気持ちが晴れたような曇ったような、よく分からない感情が渦巻いているところに、いつの間にか復活していた鈴音のボディブローが綺麗にオレの腹に入った。さすが専用機を持ってるだけはあるいい腕だ。

 

「いってえな鈴音!いきなりなにすんだ?」

 

「なぁーにがなにすんだよ!アンタはその目が怖いことを自覚しなさい!!いい?わかった?あとセシリアに謝りなさい」

 

「…オレってそんなに怖いのか。なあ、セシリアとかいったか、悪かったよ。だから見るからに怯えないで欲しいんだ」

 

「わ、わたくしこそ、あの、えーと、ごめんなさい…」

 

 そう言って金髪のレディーは頭を下げた。普通はオレの方が下げるべきなんだが、この子は相当優しいんだろう。見る限り一夏のことを好きそうな行動を見せているから、一夏に好意をよせているようだ。一夏のやついい女性を見つけやがって、どうせ好意には気がついてないんだろうがな。

 

「いや、頭を下げるのはこっちのほうだ。オレは篠ノ之凪だ。これからよろしく」

 

「え、あ、はい。セシリア・オルコットですわ。こちらこそよろしくですわ」

 

 手を差し伸べると、まだ警戒はしてるようだが、おずおずと一夏の背から出てきた握って握手をしてくれた。細く柔らかい女性の手ではあるが、一般的な女性より硬い。鈴音もこんな手をしているんだろう。ISを扱う者の手は他のスポーツや軍人とは違う独特のものがある。それはISを扱った時間を表していて、代表候補生ならもっと色濃く出ているんだ。セシリア・オルコット、人のことは言えないが多くISと時間を共に過ごしたと分かった。

 

「なあ凪、これからどういうことだ?」

 

「それか?それなら…」

 

「そこの男、うちの生徒から離れろ」

 

 相変わらず勘がいいやつめ。その説明をしようとした瞬間、こちらに黒髪にレディースのスーツを着た女性が歩きながら声をかけてきた。すでにオレたちの周りを黒鉄が囲むようにして包囲している。

 手際がいいことで、あの目つきは千冬だろう。今日はよく知り合いに会うことが多い日だ。

何か不安に感じたのか鈴音がスーツの裾を握ってオレを見た。心配そうに。オレは鈴音の手を上から安心させるように握る。

 

「なんだよ千冬。あんまり歓迎されてねぇーみたいなんがけど?あと彼氏できた?」

 

「久しいな凪。早速だが何故ここに来た?お前は追われてる身だろう?」

 

「無視するならもうちょっと表情崩さない方がいいと思うぜ。で、ここに来た理由なんだが入学しに来た」

 

「何?」

 

「だから入学しに来たって言ってるんだ。束から書類は届いてんだろ」

 

「いいや、あのバカからは何一つ届いていない」

 

 思わずオレは頭を抱えてしまった。てっきり束がいろいろ言っていたから書類はあるんだろうとばっかり思っていた。

<コール、束。これはどうゆうことだ?>

ISの機能を使い束連絡を取ると、すぐに出た。

<どうゆうこともなにも、束さんは書類なんて書いてないよ>

<ならどうやって入学するつもりだったんだよ?>

<えー、凪くんなら何とかなると思って>

 オレの何かが耐えられなくなって、通信を切ってしまった。どうするんだこの状況、これじゃあ何しに来たのか本当に分からないじゃないか。

 千冬は状況を察したらしくため息を吐いた。

仕方がない、ここは穏便に済ませるために、

 

「ハァ…、話をしよう千冬。大人しく連行されてやる」

 

捕まることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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