インフィニット・ストラトス-イルミネイト・バレット- 作:卓上カレンダー
10日ぶりの窓から差し込む日差しは、とても眩しくて目が眩んだ。
ゴーレムを破壊してから10日間、もともと裏の世界から全国指名手配されていたオレはIS学園の地下深くの施設、千冬に入学手続きが終わるまでの間、匿われる形で今度は入学書類の制作に追われていた。
アラスカ条約成立してから、日本はいろんな意味で窮地に立たされた。どっかの天才によって生み出されたISは世界のバランスを崩すのには十分な存在だ。日本はとんでも技術が完成したことも知らずに、当時は相当混乱したことだろう。そして、ただでさえアメリカから基地を作らせれ運営させられているにもかかわらず、今度はISの学園を作れと世界から言われたわけだ。もちろん拒否権なんてあるわけない。日本が拒否すれば、それはISを自国の物にしたと各国は考えるだろう。束との何らかのパイプがあるでもなく、ただコアだけがある日本はそんなことできないわけなんだが、各国は容赦なく日本を敵とみなし、戦争に突入してもおかしくはない。
そんなわけで、日本は自分の土地を切り取ってどこにも属さない土地にIS学園を作った。運営費は当たり前のように日本は国民の税から当たり前のように支払っている。可愛そうだが馬鹿な国だ。束が発表したISを蹴ったりしなければ、ここまで被害を被ることはなかったろうに。
割に合わないとでも思ったんだろう。少しは頭の回る日本政府のお偉いさんは、秘密裏にIS学園の地下に施設を作り、それを日本の一部のIS学園教師に一任した。
そんなわけで地下施設を知っているのは日本政府とIS学園の一部教師のみ。そんでもって世界中が欲しがる束とのパイプラインであって、世界中の違法研究の証拠を持つオレがIS学園に現れたわけだ。それが何を意味するかというと、世界は我先にとこの学園に問い合わせた。オレを渡せってな。
そんな世界に千冬は嘘をついた。筱ノ之凪はゴーレムを破壊した後すぐに立ち去ったと。すぐにばれる嘘だ。オレが現れた情報はすぐに世界から集まった生徒から政府にへと連絡が入ったはず、生徒には分からくても政府が知らないわけがない。それを知った政府が衛星やら何やらでここを監視するはず。オレが立ち去ったのなら、その監視に引っかからないとおかしいってわけだ。
流石に政府も馬鹿じゃない、SI学園にオレがいるのは一目瞭然。かといって自分たちの息のかかったIS学園の生徒を動かすことはできない。何故ならリスクが高すぎるからだ。オレのいる場所を探す間に、その行為がばれたら、もし見つけたとして連れ出す間に見つかったら、それは世界に対しての反逆行為とみなされて、その国は一気に世界から信用を失うだろう。そんでもって、敵とみなされて終わりだ。
だが、日本政府はそうではない。息のかかった教師はいるのだから、本来なら今頃日本はオレを人質にして、束と交渉を図っていただろう。その息のかかった教師が千冬でなければ。もう一人の教師である女性もいたが、千冬とは先輩後輩の仲のようで、オレを千冬の友人なら悪い人じゃないと言ってくれた。日本政府はまさに飼い犬に手を噛まれたってことだ。
それでようやく手続きが済んで、こうしてお外ではないが、無事にお天道様を眺められたわけだ。清潔感のある廊下の窓から差し込む、睡魔を誘うような春の日差しは心地良い。今日も平和でいいことで。
「そう思わねぇーか、そこの黒兎」
「……」
「そう…か、無視かい」
オレの横で姿勢を崩すことなく背筋を伸ばして立つ少女は、オレが言葉をかけても表情一つ動かすことはしなかった。それどころか、目を閉じてこちらを認識していないといった感じだ。
古い軍隊のような制服にアレンジした学園の制服は皺一つなく整えられている。流石はドイツの軍人だ、細かいとこまで良く訓練されていらしい。オレに確かではないがドイツ軍IS特殊部隊の名前を言われても、なんも反応しないとは。
だが、その反応は模範的すぎる。知らない人とは話すなじゃ、自分が捕まったときにどう対処するか訓練れていると語っているようなもんだ。これは関係者とか裏方ではなく実行部隊の一人の可能性が高い。
左目を隠した眼帯は軍用のものだ。しかし、彼女が失明して左目の視力がないわけじゃないだろう。眼帯は力を失った瞳を隠すものじゃなく、何か別のものを押さえつける制御装置のような役割をしているんだろう。
別に当てずっぽうに部隊を挙げたわけじゃあない。ドイツ軍はビックリドッキリ発明が大好きなようで、ISの部隊には越界の瞳といわれる疑似ハイパーセンサーを生身で使えるようにした。その中でHOTな部隊は黒ウサギ部隊といわれている特殊部隊だ。なんでも、部隊員全員が眼帯を着用して有名だ、そんな特殊部隊は世界中探してもドイツしかいない。それに、一度やりあったことがあるからよく知っている。
それにしても、綺麗な銀髪だ。小柄な体格と整った顔立ちもあって西洋の人形のようだ。この透き通るような美しさを保つには相当めんどくさい手入れが必要だろう。しかし、この少女がそこまで気にするようには見えない。部隊の中に世話焼きでもいたんだろうか。
「えーっと…、今日もうれしいお知らせがあります。それでは二人とも入ってきてください」
間延びした声が教室の中からオレと少女を呼んだ。たしか、この教室の副担任の山田真耶という教師だったはず。誰にでもで平等に優しい人だと、第一印象はそれだった。あと気の弱そうな瞳とでかい胸が印象的だ。聞いたところ年齢は23と新卒らしい。先生といい生徒といいこの学園は美人、美少女揃いときたもんだ。
「レディーファーストって言いたいけどよ。ほんとの意味知ってると思うから、ここはお先にどうぞってことで」
「……」
「また無視ですかい。それじゃお先に失礼すますっと」
オレが言った軽いジョークを冷めた目で見ることもなく無視されたので、仕方がなく教室の扉をガラガラと開ける。レディーファーストってのは、女性を盾にすることだ。先に行かせて危険がないか確かめる、危険だった場合は女性は死んで自分は助かるってわけだ。一般的に知らない人は多い、だが軍に所属でもしていれば知っていて当然までとは言わない、それでも知っている人数は少なくないだろう。ちょっとしたジョークのつもりだったんだが、軽蔑されたかもしれない。オレとしては女性に嫌われるのは本意ではない、それも綺麗だったり可愛かったりすればなおのことだ。あとで謝っておこう。
「キャー!!男子よ男子!!」
「しかも織斑くんとデュノアくんとは違いタイプの!!」
「なんていうかワイルド?そうよ、ワイルドって感じ!!」
足を一歩教室に踏み入れた途端に、女性特有の黄色い声が教室内のあちこちで上がった。そういえばここ女子高だったなと、すっかり忘れていたことを女子の声量で思い出した。女子高ってのはもうちょいお淑やかなのもだと思っていたオレは、軽くカルチャーショックを感じせざる負えない。黄色い声でかき消されて聞こえづらいが、オレを怖そうという声も聞こえる。いないことはないと思ってはいたけども、オレの外面を変える気はないし、仕方ないだろう。
それにしても、目に映るのがほとんど女性ってのは良いもんだ。見渡す限りそれぞれ違う種類の美少女揃い。これなら世の男に中指を立てられても仕方がない。
軽く口元を緩ませながら真耶の隣まで行くと、後ろからちょこちょこと少女もついてきた。少女の顔をチラリと見ると、少女のこめかみがほんの少しが動いた。たったそれだけの変化にオレは引っ掛かりを覚える。別にこの状況に戸惑っているわけではなく、その表情はなんと言おうか、嫌悪、という言葉がオレの中ではすっぽりとはまった。二度も話しかけても表情を崩さなかった少女がここでこんな表情をするのは意外だった、それも嫌悪となると厄介だ。何か不味いことが起こると、俺の中の危機感が小さく警報を鳴らした。
でもそれは些細なこととして、今は心の奥に押し込んでおく。
「やあ、おはよう真耶ちゃん、今日も可愛いな」
「ちょ、ちょっと篠ノ之くん、みんなの前でそういうのはちょっと……」
「なら、みんなの前じゃなきゃいいのか?」
「え!?そ、その、ああああの!?!?」
耳元まで近づいて小さく囁くと、真耶はいきなりこんなことを言われるとは思っていなかったのか、みるみる顔が赤くなる。テンパってますといっている感じが表に出てしまうところが真耶の可愛いところだ。ただし、後ろから射抜くような視線がなければなんだが。
「おい凪。山田先生で遊ぶな、先生と呼べ。それとさっさと自己紹介をしろ」
「あいよ、千冬先生。オレとしては女性を褒めるのは当たり前だと思うんだけどな」
「なら凪、私には何もないのか?」
「いんや、千冬先生は褒める必要がないくらいお綺麗なんで、当たり前のことをいうのは失礼だと」
「まったく、口の減らないやつだ」
「それは褒め言葉として受け取っておきましょう」
そう言ってオレは西洋の騎士のするように右の足を引き、右手を体に添えて頭を下げた。オレに騎士道精神なんぞありはしないが、形くらいはできる。こんなもんだろと姿勢を正して、オレは生徒に体ごと目を向けると、一夏と目があった。なにやら意味ありげな視線を投げかけてくるが、どうせしょうもないことなのは分かってるから無視するとしよう。
「さて、自己紹介なんだが、名前は篠ノ之凪。現時点で三人目の男のIS適合者ってわけだ。趣味は料理と読書と武器の手入れ。これからよろしくってことで質問あるか?」
「はいはーい!彼女はいるの?ちなみに私は空いてるよー!」
手を上げる勢いで立ち上がったのは短い髪の活発そうな子だった。質問は定番もど定番のものだったから、このまま話しても面白くない。だから、自然な動きで彼女の近くまで行くと、彼女の顎をクイッと目が合うように持ち上げる。驚いたように見開く彼女の瞳は、綺麗で何も知らない純粋な瞳をしていた。
「名前は?」
「へ?」
「君の名前は?」
「え、えっと相川清香…です」
「どっちで呼んだほうがいい?」
「……清香でお願いします」
誰かが息を呑むような声がオレの耳に入った。その声が聞こえないのか、惚けたようにじっとオレを見つめる清香。恋愛には興味ある、けども男には慣れていないみたいだ。オレは言葉を紡ぐ度に少しずつ唇の距離をゆっくりと近づける。そんな光景に周りの視線はオレたちに釘付け。でも、だれも邪魔しようとはしない。それは時が止まったみたいだ。
「それじゃあ清香、さっきの質問なんだが、答えは、いない、だ。正確には今はなんだけどな」
「は、はい」
「それでだ清香。もし今夜空いてんなら」
「兄さん!!」
オレと清香の距離は、鼻先がくっ付くほど近い、でもこれ以上は言葉は最後まで紡ぐことも唇が重なることもなかった。凛とした他の声に遮られたからだ。
オレは予想外のことに驚いた、キスをする前に止めるのは千冬だと思っていたからだ。糸が切れたようにへなへなと崩れ落ちる清香を支え、席に座らせてから声の主を視線を送る。小さいときから変わらない黒い髪のポニーテールを揺らしている我が妹、篠ノ之箒だ。何やらご機嫌斜めのようでこちらを睨んでいる。
「こんなところで生徒を口説くな!」
「可愛いから口説くのは当然だと思うんだよ。きっかけがあるのに口説かないのは失礼だろ。そもそも冗談で空いてますだの言わねーほうがいいんだ。悪い男に引っかかるかもしれねーからな。それを知ってからじゃ遅いんだよ」
「悪い男って兄さんのことじゃ……」
「オレはいつだって紳士だよ我が妹よ」
おどけたオレの様子に箒は呆れたようにため息をついたあと、ホッとしたような表情を浮かべた。束とオレが消える前、オレがマセガキだと思われていたときのいつもの会話を再現したつもりだったんだが、どうやらお姫様はお気に召してくれたみたいだ。
周りの生徒もこそこそと時が動き出したかのように話し始めた。内容を察するにオレが箒と兄妹ってことだろう。
それも、仕方がない。寧ろオレが言うまで話題が出なかったのが不思議なくらいだ。ISに携わる者は皆、篠ノ之束を通らずにはいられない。篠ノ之という苗字は珍しいし、たまたまとは考えられないだろうに。
「凪、終わったなら戻ってこい。それとラウラも自己紹介をしろ」
この空気を断ち切ってくれたのは千冬だった。
「はい教官。ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「あの…、終わりでしょうか?」
「以上だ」
オレの自己紹介とは真反対のさっぱりしすぎた自己紹介に真耶だけでなく他の生徒も戸惑っている。オレは一夏に顔を向けると、やはり皆と同じだった。
「ラウラ・ボーデヴィッヒか、いい名前だな。なぁそう思うだろ一夏?」
「……貴様が織斑一夏か?」
ラウラの雰囲気が変わった。目に見えるように嫌悪とは違う感情が目に見えるように現れる。
「ん?あぁそうだけど」
「そうか……、貴様が」
傍から見れば知り合いなのかと思える確認お終えたラウラ、しかし、一夏を見る目は親の敵を見つけたというように見開いた。この少女は予想に反して感情に起伏が激しいのかもしれない。その感情がどう一夏に向いたのかはオレでもさっぱり分からない。
だから、まさかここでこんな変化があるとは思いもしなかった。ラウラは一夏のいる机の前まで行くと、右手をビンタするように振り抜く。ラウラのその動きは怒りに任せて何も考えていなくい、そんな風に俺には映った。
だから、注意が散漫だ。振り抜くよりも早くラウラにオレは近づき、一夏に届く前に後ろからラウラの右手を掴む。
「おいたはダメだろボーデヴィッヒちゃん」
「……チッ。織斑一夏、貴様を私は許さない。教官に汚点を残させた貴様をけっして許さない」
邪魔したオレを睨みつけ、ラウラは小さく舌打ちをしてからオレの腕を振り払うと、一夏に言葉を吐き捨てるように言った。
これは嵐が来る。そう感じさせる春のとても暖かい日だ。
「次の時間は、今日も二組と合同でIS実習だ。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。遅れるなよ」
千冬の授業が終わり、オレの周りは疲れたのか背を伸ばすやつだったり、脱力するように机に上半身を寝かすやつもいる。こんな光景は小学校以来だろう、実に学校らしい光景じゃないか。そういうオレも、座りっぱなしの疲れを取るために肩をまわす。
「おーい凪。急いで移動するぞ!」
肩の骨をボキボキと鳴らしていると、一夏が心持ち急かせるようにオレに言った。
IS学園には特殊なカリキュラムで時間割が構成されている。ぱっと見は他の高校と同じように5教科があり、さっきの時間は国語だった。小学校を卒業すらしてないオレとしては、授業内容なんて何のこっちゃとついていける自信をなくすほど分からなかった。今度、時間が空いてるやつを捕まえて、教えてもらわないと死んでしまいそうだ。
そして、それ以外に二つ、他の学校にはない授業がある。一つはSIの技術を習得する実践的な授業と、二つはこれはISの知識を勉強するための座学がある。SI学園なんだから当たり前のことなんだが、ここ以外に存在しない特有の授業と言いっていい。
そんでもって次の授業は実践の方だ。一夏が急いでるのは着替えのことだろ。遅刻でもしたら、千冬に何されるか分からないからな。
「なんだ一夏。オレはISスーツになんぞ着替えないぞ」
「そ、そうなのか?それでもダメだ。早く行くぞ」
「なんで急がなきゃいけないんだ。時間はまだあるだろ」
「あーもう!いいから行くぞ。シャルルも待ってるからさ」
一夏はオレの腕を掴むと、強引に教室から連れ出した。教室の外にはシャルルと思わしき金髪がいた。
「いい加減手を離せ、オレの手は女の子と手をつなぐためにあるんだ。男と仲良くつなぐ趣味はない」
「俺もないから安心しろよ。そうだ、紹介するよ。俺たちと同じ男のIS適合者のシャルルだ」
「シャルル・デュノアです。篠ノ之くんでいいんだよね?よろしくね」
「ん、よろしくデュノア。オレのことは凪でいいぞ、クラスに篠ノ之が二人いるから紛らわしいだろうからな」
「うん、わかったよ凪くん」
デュノアはそう言って差し出した手をオレは掴み、握手をした。
やけに華奢な手だ。男でもこんな柔らかく華奢な手は中々いないだろう。シャルル・デュノア……なんだか、きな臭いやつだ。
「いつまで手つないでんだよ。お前の手は女の子とつなぐためにあるんじゃないのかよ」
デュノアの手の感触を確かめていると、一夏が割り込んできて、自然とオレとデュノアの手は離れた。
自分の手を見つめるデュノアは、恥ずかしがるようにオレと目を合わせてはくれない。
きな臭いどころじゃなかったみたいだ。ISを動かせる男が3人、例外中の例外が3人も同じ時期に出てくるなんて天文学者もびっくりの確率だったはず。一夏を見やると、俺の顔になんか付いてるかとか言いそうな目で返してくる。
「なぁ、一夏よ。長々と握手してたオレが言えることじゃないんだろうが、時間大丈夫か?」
「時間?あっヤバイ!シャルル行くぞ!!」
「え、うん。凪くんまたね」
次の授業までそんなに時間がなかったのか。一夏とデュノアは走っていってしまった。
そのとき後ろから走る姿を眺めていたオレは、デュノアの姿を目で追った。一夏の鈍感さ具合には頭を抱えたいほどだ。どう見たってデュノアの走り方は女の子同然だろうに。
「はぁ、デュノアは害はなさそうだし、どうせオレたちの情報を盗みたいぐらいだろ。今のところは泳がせておくか」
デュノアを送り込んだ組織は一体どういう教育をしたんだか、まぁ、その組織の先は長くないのは確か、か…。
あの二人と違って着替えなくていいオレは、そのまま第二グラウンドに直行するべく、慣れない校舎内を見物しながら歩く。たぶん、こっちであってると思いたい。場所だけでも一夏に聞いとくべきだったか。
「凪!」
「あん?」
後ろから声をかけられた。だいぶ早く走ってくる音も聞こえる。
いったい誰だと振り向くと、目の前一面に靴の裏が広がっていた。
「がッ!?」
素晴らしく綺麗に決まったドロップキックは、オレを空中で半回転させ、さらに地べたをゴロゴロと転がった。
受身を取れないほどの勢いで蹴り飛ばされたオレは、蹴った張本人を確認するべく、ヒリヒリと痛む鼻を押さえながら体を起こす。
そこにはオレに跨って、ISスーツを着た鈴音が仁王立ちしていた。
「アンタのこ10日間ど」
「エロいな」
「なっ!?」
鈴音の言葉を遮ると、猫のように飛び跳ねてオレの上からどいてくれた。
よっこらせと立ち上がると、鈴音は自分の体を抱くように隠して睨みつけてくる。
「そう怒るなよ。仕方ないだろ、ここは本来女子高だんだからよ。ISスーツが男の目が入るなんて思っちゃいないだろうしよ」
「アンタが変なこと言わなきゃ気にしなかったわよ!」
シャーッと、猫が毛を逆立てるように鈴音はオレに威嚇する。
「悪かったオレが悪かった。これでいいだろ?だからそんな威嚇すんな。周りの視線が痛い」
学園の廊下には騒ぎを聞きつけた女の子たちが押し寄せていた。今まで気がつかなかった鈴音は間の抜けた声を上げると、小さくなってしまった。
「あなたが篠ノ之凪君ね?」
先頭を切って一人、メガネを掛けてカメラを持った女の子がオレに話しかけてきた。
「あたってるよメガネの美人さん。できればお名前を聞きたいんだが?」
「あら、女性を褒めるのが上手いわね。私は2年の黛 薫子よ、新聞部なの。さっそくなんだけど、取材いいかな?」
「女性の頼みは断らないのが主義なんだが、残念ながら千冬先生の授業でね。サボるわけにゃ~いかない。これオレの連絡先だから、あとでお外で食事でもしながらって、どうよ?」
制服の胸ポケットからメモ用紙を取り出すと、すらすらとオレのスマフォの連絡先を書いたメモ用紙を黛先輩に渡した。
「それでもいいけど、写真は制服がいいわ。ねえ、写真だけでもいいでしょ?」
「それくらいなら構わねぇよ。ただし…」
一つ条件があると、オレは振り向き、いつの間にか後ろの方で拗ねたように腕を組んでいた鈴音と目があった。というより合わせた。
拗ねてる理由は分かってるから、聞くのも野暮だろう。
「なによ?」
「拗ねるなよ鈴音。ちょっとこっち来いよ」
そう鈴音を呼ぶと、葛藤でもあったのか、少しの間のあとオレと一人分距離を空けるくらいまで近くに来た。
拗ねちゃって可愛いやつだよ。そんなんじゃオレの近くにいるだけで大変だろうに。自然とオレから笑みがこぼれた。
そんな俺を疑わしそうに見てくる鈴音の肩を、密着するように強引に抱き寄せると、
「こいつと2ショットで頼む。あと、出来上がった写真を2枚くれ」
「ちょ!?なにすんの、こんな前で、離しなさいよ!!」
腕の中でジタバタ暴れる鈴音を抑えつつ聞くと、黛先輩は良いネタを見つけたって言いたそうな表情をして、カメラを構えた。
「おいおい、暴れるなよ。仲良く写真撮ろうぜ」
「何を勝手に決めてんのひゃっ!?」
「写りはこれでいいかなお姫様」
なにかブツブツと鈴音は言っていたようだが、お姫様抱っこをすると可愛い声を出したと思うと静かになった。
それにしても鈴音は小さくて軽い。ちゃんと食べてるのか心配になるほどだ。それにこんな可愛いなら世のロリコンどもがほっとかないだろ。
「なぁ鈴音。オレのどこが……、いや、なんでもねぇ」
「え?」
「それじゃあ撮るわね」
オレの問いに答える前に黛先輩がシャッターを切った。
ふと、気になったんだ。なんでこんな可愛い女の子がオレを好きになったのか。
「写真はそれを使ってくれ。そんじゃ取材の連絡待ってるぜ」
さてと、次の授業に行くとしますか。
黛先輩を残して第二グラウンドに行こうとしたとき、オレに抱かれたままの鈴音がオレにしか聞こえないような声で小さく呟いた。
「あ、あたしの勝手でしょ…」
……そりゃあそうだな。