遠い宇宙のバトンリレー   作:黒兎可

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秀策と九十年越

 

 

 

 

 

「はは……! 軋轢が出るとは思ったが、まさか良い方向に影響するとは思ってなかった。校長から無理にと言われたらしいが、感謝する。塔矢」

「恐縮です。……全然慣れていないんですけど」

「伊藤達のことなら、気にすることはない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()など中々できることじゃないさ」

「……その、どちらかというと普通に勝ちに行く方が得意で」

「ははは────!」

 

 どこか、何に対してかはともかく申し訳なさそうなアキラに、海王中囲碁部の現部長・岸本薫は気楽そうに笑った。アキラより高い視線が、眼鏡越しにアキラへとむけられる。楽し気に見えるのは、決して嘘ではあるまい。

 夕暮れ時、帰り道で岸本はアキラに声をかけた。ここ数週間、部でのアキラの活動を見て、つい話したくなったということだ。横に並び駅へと向かって歩く二人。岸本は自分の手元を見ながら、思い出しつつ語る。

 

「キミがいることで多くの部員が混乱しているのは間違いない。部長の俺とてその一人だ。だが、それでもキミにぶつかっていった青木にキミはまっすぐ手を差し伸べた。

 日高もそうだ。……最初の一発がなかなかドギツいようだがな」

「あ、はは…………」

「悪い話じゃない。良い傾向だろう。奥村なんかは同学年だが、マネ碁について意外そうにしていたぞ?」

「そうですね。……ボクもちょっと懐かしくて。小さいころ、緒方さんにやったら『あっそーれ!』とあっという間でした」

「はは! まあ、オレが見てなかった時のことだが、いじめに関しては謝るほかない。ただ彼らもわかったはずだ、とにかくキミが本気で自分たちを強くしようというのを。

 ……そもそも今期の囲碁部は、準院生はいても院生経験者は少ない。大人や高段者から()()揉まれる経験があまりないといえるだろう。その点、キミ相手なら下手な大人顔負けの棋力と気迫だ。感謝する」

「い、いえ! そんな、言われるほどのことでは……!」

 

 そもそもこれは()()()()()()なのだから、と何故か照れたように慌てるアキラに困惑する岸本。だが、その友達とやらのことは顧問とアキラとの会話で覚えている。

 進藤ヒカル。この塔矢アキラと()()といえる打ち手であると。

 ……やはり現時点で、目の当たりにした棋力もあってか塔矢()()のさすところの上限の振れ幅については、いかに元院生と言えど誤解があった。

 

「進藤、といったか。……彼との勝負というのは、どういうことだ?」

「…………彼のいる葉瀬中の囲碁部は、今年から正式な部活動として始まったのはご存じですよね」

「ああ。夏季大会のエントリーについては、(ユン)先生から聞いている」

「彼は、家庭の事情もあって少なくとも一度は中学の大会に出場しないと、プロ試験を受けさせてもらえないんだそうです。だからヒカルが出るとしたら、この夏大会か次の冬大会。部員の棋力をみて、おそらく夏に出る可能性が高いだろうと思ってます」

 

 家庭の事情で、というところで岸本は少し察するものがあった。青木もそうだが、棋力がそれなりにあれど実際に進路を囲碁に振り切ることに家族が理解をしてくれるかは、また別問題。当たるも八卦当たらぬも八卦、と()()()として習い事をさせるくらいはあるだろうが、実際に進むのは難しい場合も多い。

 女子の日高とて、そもそも院生になろうとしていたが親から反対され続けてあえなく、ということだった。だからこそ岸本が()()()()()()のに対して、一年の時はかなり強く当たられたものだ。現在でこそ同士ではあるが、そこは彼女も彼女で割り切ったということだろう。

 

「だからこそ、彼から提案されました。通算二回、今年においては、ボクと彼とは囲碁部に同時に所属していることになる。だからその間、()()()()()()()()()()()()()()と────冬に関しては手をつけられませんけど、ギリギリまでは二年生、一年生とも碁を打てればと思っています」

「日高からも聞いている。だからこそ、今は大会出場者だろう三年を中心に見ていると。……青木以外にもきちんと教えているあたりは、流石というべきか?」

「その、友達が……」

「む?」

「……『お前馬鹿、大会なんて不測の事態で出るはずだったメンバーが出れないとかフツーに起こるんだから準備くらいはしといてやらないとダメだろそりゃ。そういうところは気をまわさないと。何度も言ってるけど、部員を見ろよ部員を。()()()()()()()()()()()()()ってのが目的だとしても、だからといって目の前の相手を軽視しちゃいけねーから。そーゆーとこ鼻につくって思われてるからお前知ってるやつって反応が二極化してんだよ。すげーってのと、うぜーってのと』と……、あんなにバカバカ言わなくても良いのに、ちょっと落ち込みます」

「それはそうと長いな……」

 

 謎の記憶力を発揮し、ヒカルの一言一句すべてを読み上げたアキラは少し誇らしげだ。岸本、謎の圧に困惑する。ヒカルを意識しすぎている。

 

 ただし岸本は、進藤ヒカルの言っていることは実際に妥当なのだろうとアキラを見ていて思った。別に性格が悪いというわけではないが、尹先生相手のやりとりなど、どこか向こう見ずというか。目的以外のものは全て切り捨てて、無視して()()()()先へ進んでいくような嫌な気位の高さも持ち合わせていそうだ。そのあたりを、彼の友人も懸念したのだろう。

 なりふり構わず、といえば聞こえは良いが。

 ……それはそうと容姿と棋力からくる女子人気やそれに端を発する嫉妬、という点について失念しているあたりは岸本もまだまだオコサマであった。つまり、彼もまた囲碁馬鹿の類であった。

 

 まあ、だからといって全員が全員、素直に受け入れている訳ではないが。……それでも部全体としては、アキラに対する拒絶のぴりぴりした空気から、()()()()()()()という形でぴりぴりした空気になっている。

 院生だった頃よりはまだ軽いものだが、それでも岸本はその空気が嫌いじゃなかった。

 

「そう、だな。……感謝はしているんだが、ついでで申し訳ないが頼みを聞いてもらえないか?」

「? はい、何でしょうか」

「俺とも打ってもらいたい。できれば、校外で」

「……?」

 

 不思議そうにしているアキラに、岸本は肩をすくめた。

 

「…………青木たちのように、オレも部内でキミにぶつかって色々教えてもらいたいし検討もしたいんだがな。大多数の部員の目線が、キツい」

「それは……、えっと、えっ?」

 

 嗚呼、やっぱり()()()()()()()、と。友人らしい進藤ヒカルに岸本は少し同情して苦笑い。

 

「キミが考えてることは予想もつくし、オレも同意見だがな。それでも如何ともしがたいところがある。────海王の部長が、ぽっと出てきた一年生にあっさり負ける姿を見たくない、とな。そういう視線だ」

「…………」

「くだらないだろう? ああ、くだらない。だが()()()()()()()()()()()()()()()()()鹿()()()()()()。青木がキミに敗れた後、仲良くしてる効果もあってほかの三年生も、誘われて二年も一年もキミと打つようになったが。それでもキミが来る前の海王中の囲碁部を知ってる奴らも、思うところは有る。

 いじめに繋がったのは、そういうところだ。……気にする、気にしないではなくて、集団のバランスをとるためにも必要なことはある、ということだ。人前でおいそれと負けることが出来ない。…………正直、その分オレの棋力が伸び悩むから困ったものだ」

「……はい」

 

 純粋に実力主義だろうプロや院を知ってるがゆえに。お互いそれぞれ直に知る部分と人づてに知る部分とで異なるが、それでも歯がゆいのはどうしようもなかった。

 だからこそ、だろうか。

 

「……岸本部長。今度、ボクの家に来ませんか?」

「…………?」

 

 アキラからそう提案され、岸本は節度として少し逡巡したものの。

 そのアキラの目つきが、部室で見る鬼気迫るものであったのを受けて、彼もまた挑むように微笑み頷いた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 そして岸本は朝方、塔矢邸にて。

 古い武家屋敷を思わせる建物だ。ここで、アキラの父の塔矢行洋は勉強会中でもある。

 そんな中でわざわざ自室に招いて打ってくれるというのは、何というか色々複雑な心境ではあるが。……もはやプロをあきらめた自分が、塔矢名人に教わるのは烏滸がましいという気もあるので、かぶりを振ってアキラの部屋まで、教わった通りに向かった。

 

 そして、室内では。

 

「うーわ、ここ序盤のくせにえっげつな……。緒方さんこの棋譜持って今日、勉強会で検討してるの? いや、何っつーかやっぱ碁に関してだけは面白すぎだろあの人……」

「そういう言い方は良くないよ。緒方先生も真剣なんだ。真剣にsai(サイ)に勝つ方法を探してる」

「つってもなー、基本的に緒方さんってまだ名人の()()()()って状態から抜け出せてないだろ? 何かこう気持ちがブーストできるもんでもないと中々難しくない? いや、それでもsaiとかちゃんと打ってるから、棋力の上がり方はここ1年はすごいみたいだけど」

「フフ、桑原本因坊にもまた揶揄われたらしいけどね。彼女さんよりどこのだれかわからない相手のお尻追いかけてるとか」

「その情報、絶対芦原さんからだろ~」

「ご名答」

 

 ぐりぐりされてた、と両手でげんこつを作り、間のものを粉砕するようにぐりぐりとジェスチャーするアキラに、あの人も天然なんだか確信犯なんだかなー、とヒカルは苦笑いしていた。

 なお、両者ともにコピー用紙でプリントアウトされた棋譜(※アキラのPCにプリンターが備え付けられている)を見ながらの話し合いである。棋譜自体は以前、ヒカルが緒方に連れられた先で見た、表計算ソフトを神経質なまでに切り詰めてつくったおそらく自作と思われるプログラムゴリゴリの棋譜のそれ。どうやら印刷設定もかなりこだわっているらしく、ちゃんと()()()()()()()()内容なことにヒカルは「うげぇ、神経質……」と頬が引きつっていた。

 

 そして、いきなりそんな状況に放り込まれた岸本はリアクションに困った。

 

「えっと……、お邪魔している、塔矢」

「あっ、岸本部長! おはようございます!」

 

 こころなし、ヒカルの隣であいさつするアキラの表情が明るい。目がらんらんと光っているというか、やっぱり犬なら尻尾をぶんぶん振っているような勢いだ。

 おそらくその原因は……、隣で「やっぱsaiやべぇわ。()()()()()()()()()()()()で追い越せないのは伊達じゃねぇし」などとよくわからないことを呟いている、前髪の色素が薄い少年。

 九分九厘、彼が進藤ヒカルだろうと確信を持ってはいたが、一応は岸本は自己紹介をした。

 

「あー、海王の部長さん? 何っつーか……、アキラのこと、お疲れ様っス。進藤ヒカルです」

「……気遣われるいわれはないけど、まあ、受け取る立場に違いは無いから受け取ってはおこう。進藤」

 

「えっ えっ?」

 

 困惑するアキラはさておいて。

 どうやら何かの棋譜の検討をしているらしい二人に、岸本も質問する。……なお一応、アキラの家で一緒に打たないかと誘われて来たものの、この様子を見るにどちらかといえばヒカルを紹介したかったのだろうと岸本は勝手に邪推していた。何だかこう、岸本とヒカルとを見てソワソワしているし。

 とはいえ何を話すことがあるわけでもない。当然と言えば当然なのだが、親しい同年代の友達初心者らしいアキラはその機微が良く分かっていないらしく、思わずヒカルと岸本は半笑いで肩をすくめた。

 学校とのテンションの変な落差に困惑しながらも、岸本はヒカルから渡された棋譜を見る。どう見ても高段者の手合いであり、何というか……、ところどころ手順がわからない。

 

「それ、ネット碁なんですけど。saiって知ってます?」

「…………前の院生仲間だった和谷、あー、何だか妙に詩的な表現をするやつが知ってたな」

「詩的……、ま、まあ、和谷だしな…………」

 

 伊達や酔狂で、saiに対して後に言われる「現代の定石を学び進化する蘇った本因坊秀策」のようなキャッチフレーズをつけたりしていない(?)。

 それはそうと、知り合いか? という岸本に、ネット経由で顔合わせしたんで、とヒカルは苦笑い。…………実際、ヒカルの記憶でこの岸本に対して、院生数人から「大した事なかった」というような異口同音の感想をもらっているのは、ちょっと不憫だったのかなんとなく覚えているヒカルである。

 

「で、そのsaiと、今日勉強会にきてる緒方プロが一昨日打った一局らしいです。当たり前のように中押し勝ちしてきてますね」

「………………だ、誰だ? やけに古い打ち方をしてるが────」

「定石の古さは完全に秀策の打ち筋っスよね~。布石も秀策流だし、コスミとかは当然として。黒握ったら序盤から終盤まで完全に圧倒したまま反撃の目を与えないし、フツーその段階で置くか? みたいなところに先回りしてたりする時もあるし」

 

 よし大丈夫! と言ってヒカルはその棋譜を閉じてアキラに渡す。

 検討をしていたんじゃないのか? と岸本は聞くが、ヒカルは「してますけど」と普通に答える。

 

「だったら、何故棋譜を……?」

「ん? …………あー、はいはい。ジイちゃんくらいにしか言われたことなかったからすっかり忘れてたわ。

 俺、碁の勉強って()()()()()みたいなものなんですよ。えーっと、例えば……」

 

 言いながら、ヒカルは「ちょっと借りるぜ」とアキラの足つき碁盤に石を並べていく。

 

「これは、対・中川順節戦のやつ」

 

 ヒカルから見て、碁盤の左上。

 

「これは対・坂口仙得のやつ」

 

 碁盤の右上。

 

「これは対・征矢政十郎のやつ」

 

 碁盤の左下。

 

「で、これは対……、関山仙太夫だったっけな? 名前なんか変だし、棋譜ずーっと横に並んでたし……」

 

 そして、碁盤の右下。

 それぞれ棋譜からの抜き出しなのはわかるが、さながらバラバラの詰碁のような形で当然のように石が置かれていき、岸本は目を見開いた。

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「そ! まあ、本当に全部かは怪しいですけど、俺が覚えてる範囲では全部。

 囲碁教室の先生とか真面目に通っててもジイちゃんに簡単に勝てなそうだし、詰碁の問題の意図とかもわかりにくかったから、こうやって()()()()()()()()()()性に合ったってだけですよ。だから秀策が先生みたいなもの、か……? こう、頭の中に俺と秀策の打ち方があるっつーか」

「前にも言ってたよね」

「おう。アキラなんかも、親父さんの対局とか暗記してるんじゃねーか?」

「流石にそこまでは……」

「意外と面白いものもあったりするから、ま、好き好きだけどおすすめはしとくぜ」

 

 そういって笑うヒカル────対外的な自分自身の棋力の理由付けではあるが、完全に嘘とも言い難い。秀策の打ち筋は、すなわち虎次郎が代行した佐為の打ち筋。間近でそれを見続け、ひとりとなった後もまた延々と秀策と佐為が打った対局の棋譜をかてに勉強を続けていたヒカルであるため、それこそ棋譜は骨身にしみている。

 そしてだからこそこのsaiの棋譜の検討と、暗記であった。

 

「saiは本因坊秀策の亡霊って誰か……、たぶん和谷あたり? が言ってたんでしょ? だから、この()()()()()の棋譜も覚えていったら、また新しい何かが見えてくるんじゃねーかと思ってんですよね」

 

 そして外から見た場合は恐ろしいことに、ヒカルが終始真面目にそう取り組んでいるのがわかる。あまつさえ声音も嘘が含まれていなさそうなくらい真っすぐなもので、またなんとなく親近感を覚える空気をまとっていた。

 要するに囲碁馬鹿のオーラである。

 

「なるほど、塔矢が手放しで絶賛するはずだ。……敵の学校の、あまつさえ部長として相手にこういうことを願い出るのもどうかとは思うんだが。オレが塔矢と打った後、進藤も打ってくれないか? オレと」

 

 ()()()()確認するも、当然のように「こっちこそ!」と応じるヒカル。返答が気持良い。見た目スポーツ少年のような快活さがあるが、その印象のままそっくりバイタリティが囲碁に全部向いているような雰囲気だ。

 なんとなくそのやんちゃそうなヒカルに、岸本は肩をすくめて笑った。

 

 

 

 ぱちり、ぱちりと、アキラと岸本の局面が進む────。

 

 

 

「打ってる途中だけど、俺、アドバイスとかします?」

「いや、結構だ。結構だが…………、青木、うちの部員との棋譜でも見たが、妙なところに打つな塔矢」

「あはは……。前にヒカルと打った時、布石から連続する動きに対応するためにわざと打ったのが切っ掛けだったんですよね。でも、単にブツケるだけじゃなくて、序盤にここに打つのもまた別な効果があるような気がして」

「まだ新手というほどでもないが、再発見というか……」

「緒方さんまーだ悩んでるみたいだからな、これ。やっぱ頭の中の今までの定石と、その上で急に現れた良いのか悪いのか評価が定まってないようなのを相手に検討するのは、ちょっと大変そうだったな。オジサンだし」

「ヒカル!」

「────ぐふっ」

「岸本さん!?」

「いや、多分週刊碁くらい買ってるだろうしなあ。結構アレなおじさんだってのは知ってる人は知ってるって」

「お、緒方さんは真剣なんだよ……。プレッシャーもあるだろうし」

「桑原本因坊か」

「桑原のじーちゃんとか完全に孫いじって遊んでるノリだろ、あれ絶対……」

 

 打ちながらも雑談の話題が緒方一色になり始めたのに、なんとなくいたたまれなくなったアキラは。……噂をすれば影というし、そのうち部屋の戸を開けて「そんなに俺が好きなら遠慮せず一局打とうかオラッ!」と柄悪く怒鳴り込んでくるイメージが浮かんだので、話題の転換をはかるのだった。

 

「そういえば、葉瀬中の方はどうなんだい? 電話で男子メンバーは四人くらいそろったって聞いたけど」

「おう。……本当は女子の方も三人はいるんだけどなー。ただ一人兼部だし、女子は夏の方は無理だな」

「棋力、大丈夫そう? その、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような教え方は無理、だよね」

「んー、そりゃな。学校もあるし、学校以外もあるし。フツーは碁だけが人生っつー訳じゃないし、このあたりはバランスもあるから、ムズカシイ話だよなあ」

「…………」

  

 すでにその道から降りた岸本にとっても、身につまされる話である。

 

「一応、棋力アップの算段はちったーついたんだけど、後は最近入ったやつとかどれくらい真面目にやってくれるかだなぁ……」

 

 

 

『────こりゃ、オドロイタね。まさかとは思ってたけど本当に6万分まで勝ち抜きするとは! いいよいいよ、ダケさんにもイキの良い子が挑戦したがってるって教えておくから。

 ……こーゆー感じで普通に打つのって少ないだろうし、意外と喜んでくれるかもネ』

 

 碁会所「囲碁さろん」の席亭・修老人は、三谷に連れていかれたあの日の連戦連勝っぷりに度肝を抜かれていた。

 本格的に悪質な方法で荒稼ぎを狙っている訳ではない、という前提が「そもそも事前にヒカルが電話してきた時点で分かっていた」こともあったが。まさか有言実行で、7回の簡易団体勝ち抜き戦を一回も落とさずに勝利していたとは思ってもみなかったらしい。

 

 三谷もまた「卑怯な手段に訴えることができない」こともあってか、普段より慌てて、しかし真剣に盤面を読み打っていた。あかりはまだまだだが、それでも()()()()()()()()()()()先の展開を読めるようになってきてるので、ヒカルとしては上々だと頭を撫でたりしていた。

 そして……、惜敗も何度かした三谷に対して「後は任せろ」とどこの少年漫画の主人公なんだと言わんばかりの風格を放ちながら、()()()()()本気で打ち、必勝するヒカル。碁会所のご老体たちは気づいていないが、三谷はなまじ棋力が高いからこそ、ヒカルの力がそもそも自分の及ぶものなのかどうかすら、察することが出来ていた。

 

『……悪かった。えっと、もっと次は強くなるし』

『そっか。ま、次は俺やらないから、ここでの大将は三谷になるからな』

『…………、おう』

 

 あと、正面からは死んでも認めないだろうが。

 意外と誰かと肩を並べたり、誰かに託されたり、託したりといった。こういう横のつながりがある対局というのが新鮮で、ちょっと楽しかった三谷だった────。

 

 

 

 結果としてゴネることなく、今度の週末の放課後に来ることを了承したので、ヒカルとしては万々歳。

 筒井も含めてこれるだけのメンバーを巻き込んで、とりあえずどこまでいけるかのトライアンドエラーだなと、ヒカルは気合を入れていた。

 

「ただまあ、夏場はまずどこまで上げられるかってのになっちまうし……、あんまりアレだったらそこは察してくれな?」

「フフ、ボクだって頑張ってるんだからヒカルもちゃんと頑張ってくれないと」

「何だとぅ?」

 

 こういう時くらいはボクも上に立つよと腕を組んで少しドヤ顔を決め煽るアキラに、こちらも腕を組んで上目遣いに軽く睨むヒカル。……顔が何だか歌舞伎役者のような色々()()()ニラミの表情になっていて、なんとなくじじくさい。

 それがツボに入ってしまい、長考中だった岸本はむせた。

 

 

 

「アキラさん、お昼のそうめん、できましたよ?」

「ヒカル、今中断できる? 放っておくとずっと打ってるの、良くないよぜったい」

 

 

 

 なお。朝方ここまで案内してくれたアキラの母親はともかく、一緒に現れたワンピース姿の愛らしい少女が、ヒカルにベタベタし始めてるのを見て。「私も手伝ったよ、褒めて~!」と頭をこすりつける。そんな彼女に「おー、ガンバッタガンバッタ」と棒読みで応じるヒカルと、「えぇ~? もっとおヨメさんに愛を込めるみたいに~」とか言ってさらに催促するあかりを見て、岸本の世界(とき)は止まった。 

 なんなら、アキラも「藤崎さん、最近容赦ないなあ……」などと言いながらちょっと頬を赤くしているくらいだった。スキンシップに余念がない…………。

 

 

 

 

 




※明日は多分お休みです

番外編、どちらを先に読みたいかアンケート(期限:11/3ごろ迄)

  • ①ヒカル・囲碁漫画の原案協力や監修をする
  • ②ヒカル・見合い関係で奈瀬に泣きつかれる
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