遠い宇宙のバトンリレー   作:黒兎可

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最初で最後の一局について

 

 

 

 

 

「進藤です。よろしくっス~」

「もう、ヒカル。……藤崎です、よろしくお願いします!」

「き、岸本です。お願いしま、す……!」

 

 昼食を終えたアキラの来客三名は、ちょうど一緒に昼食をとっていた塔矢名人門下のプロたちとともに素麺を食べてから、巻き込まれるように勉強会へと連行されることになった。

 当初は「人数も多いので……」とアキラが辞退を申し出ていたが「進藤なら面白い研究対象になるんじゃないか? アキラ君」と緒方がニヤニヤと笑い。それにつられた芦原が「誰が進藤クン? クン?」と興味津々にかぎつけた結果、めでたく三人まとめて勉強会へとなしくずしでお呼ばれになった。

 

 ……なお、注目は岸本よりヒカルとあかりに向かっているが。岸本からすればそれは大変ありがたいもので、同時にアキラに助けを求める視線を向けるもアキラはアキラで謎の頷きをくりかえしており役に立ちそうにない。赤べこか?

 うすうす思ってはいたことだが、塔矢アキラとはこと自分が興味を持つ対象の内のみに限る人物なのだ。それ以外は本当に雑というか、名前を憶えているだけでも褒めるべきかもしれない。

 まさしく進藤ヒカルが「アキラお前馬鹿お前よ~」みたいな物言いをするだけあるくらいだった。

 

「へぇ~、アキラくん同年代の友達、本当にできたんだ! いや~もう棋力が足りない子相手にはぜ~んぜんだったから僕ってば心配で心配で! 早いところプロに上がってきなよなんてちょっと前に言ったくらいなんだよ?」

「あー、アキラそういうところあるっスよね~。囲碁以外本当に全然興味ないっつーか。そういうことだとお前アレだぞアキラお前、フツーに恋愛結婚の話が持ち上がりかけても全然興味なくって()()()()()()()()ぱらっとフラれたりとか市河さんからアプローチされても全然気づかないまま流し続けて最終的に見合い婚とかになっても相手から『あらまあ……』とか言われて地味にしょっちゅうキレられたりするぞお前~」

「何で筒井さんどころかボクに飛び火したのさヒカル!? 芦原さん知らないでしょ!」

  

 終始こんなノリで、他の青年、壮年の人たちを押しのけるように声をかけ続ける若い青年プロ棋士・芦原。ノリが軽い。緒方が「初対面の子供相手だからこれくらいの方が良いのか?」とフンフン言ってるくらいには馴れ馴れしすぎて、あかりが若干引いている。なお、ヒカルはむしろ()()()を思い出して接しやすいのか、緒方に対する「うへぇ」みたいな顔が飛び出ず親し気な分()()をいら立たせていたりするが、そこは割愛。

 

 あと市河さんは関係ないよね!!? と色々完全に気づいていないアキラのリアクションに、ヒカルは芦原と目を合わせて肩をすくめた。

 ……すくめたものの芦原も不思議そうにしていたので意図は絶対伝わってない。というか、この人も色々ダメそうだと誰に視線を振ろうか悩むが。……緒方から立ち上る怒りのオーラをかわして、ヒカルは塔矢行洋を見て肩をすくめなおした。

 

 なお、アキラの母親はヒカルの隣のあかりを見て「てっきりアキラさんの()()()かと────」「あの子もそうですけど、ほら、あまり碁を打つタイプには────」などと色々際どい発言をして夫と小声で会話している。肝心のあかりは周囲に興味の視線と会話とでもみくちゃにされてそれどころではないので聞こえてはいないのが、救いと言えば救いだった。

 なお、岸本はこの混沌たる状況から全力で目をそらしていた。

 

 まあその辺にしておいてあげなさい、と行洋が中断させる。

 

「勉強会がある日に顔を合わせたのは初めてだね、進藤君」

「おじゃましてます、()()()()

「……フフ、()()()()()()()そう呼ばれるのも新鮮かもしれない」

 

「────で、アキラ君に対局して勝ったって本当? 進藤君」

 

 ここで芦原、空気を読まない。

 マジかよ、という顔のヒカルと岸本に、やや笑顔が引きつる塔矢行洋。まあ、「すみません名人……」と一声あとでかけるだけマシかもしれないが、興味の対象に対するアプローチが直接的過ぎて色々心配になるヒカルだった。

 いや、この妙な愚直さというか求心力はアキラや緒方にも通じる面なので、行洋とて多少老成しているから落ち着いただけで本来は…………。そう伺わせる空気感がそこにあった。

 

 どうあれせっかくだから手合わせしようかと、なんならこの後打つ予定だった岸本よりも先に打ちたいと願い出る次第。

 ヒカルも確認のために視線を岸本に送るが……、名前がどれほど通ってるかにかかわらずプロ棋士たちにかこまれてなお一切の委縮を感じないヒカルを見て、むしろ自分が素直に打ち切れないと思ったため、大丈夫ならと彼に任せた。

 

「緒方さん、名人とsaiとの対局の検討してるんでしょ? 後で混ぜてよ。あ、せっかくだしあかりはこっちで見てろよ。天下の塔矢行洋門下の検討が小声とはいえ聞こえるのは勉強なるぜ?」

「う、うん」

「…………進藤お前、どうして芦原には辛うじて丁寧語のくせに俺にはため口なんだ、えぇ?」

「えー、だって緒方さんだし……ってあーっ! もう、アイアンクローは禁止だってのっ!」

()()構えただけだ、というかもう何というか、そのうちとっちめてやるこのクソガキッ!」

 

 かくして身をかばう仕草のヒカルに緒方がつっかかっていくのを見て、ヒカルの扱いは「芦原くらいの気安さ」というあたりで固定されそうであった。

 せっかくだから、と先ほどまで芦原とアキラが打っていた盤面を一度片付けて。アキラは緒方とともに名人と検討。残りのプロ二人(岩倉と岩田と笹木と言ったか)は横からヒカルと芦原の対局を見るつもりらしい。

 

 ともあれ、ぱちりぱちりと序盤の石運びがされていく────。

 

「芦原さんって四段だっけ? アマ時代どれくらいの棋力から上がっていったのかな。ちょっと興味ある」

「んー、どうだろう。今でこそ四段だけど御器曽七段とか石原二段とかあたり相手だと比較対象が……」

 

 見知った? 名前が一つ出てきたため、あかりがヒカルの表情をちらりと見るが。ヒカルは何事もないように、布石していく。

 

「稲垣三段とかは本当、定石定石って感じで面白いんだけどね。倉田君と違って、悪い意味で」

「あー、なるほど。()()()()ですか」

「そうそう、コチコチ。……気が合いそうだね、俺たち」

「いやー、そうでもないっスよ。定石コチコチっていったら俺の勉強方法とか完全に…………、えっと、好きなんですか? 村正定石」

「いや? せっかくだし遊ぼうかなって!」

 

 アキラくんと正面から打ち合える子とだったらもっと楽しめそうだと思って、と。……自分から提案していた棋力を見る、という題材に対して、指導碁でも何でもなく当たり前に「どう面白く打てそうか!」という観点で仕掛けてくるこのノリ。面白いと言えば面白いし、自由と言えば自由だ。……いささか自由すぎて真面目にやってるのかとツッコミが入りそうである。

 ヒカルはヒカルで「加賀が何か使ってたなあ」と思い出して苦笑い。()()()()()打ち方から考えて、アキラがかつてダイレクト三々(未来の定石)を使ったことなども思い出しながら、ヒカルは不自然にならない程度にカカってきた石をハサまないように打った────。

 

 

 

「いやー、すごいね! 何か途中から訳わかんなかった!」

「芦原お前……」「いやダメだろ……」「いきなり妖刀なんて使うから……」

「いやそれが聞いてよ岩々コンビも────」

「「誰が岩々コンビだ!」」

 

「おーおー元気だ元気……」

「ヒカル……、仕草ちょっとおじいちゃんっぽいよ?」

「っと、悪ぃ悪ぃ」

 

 思わず腕を組んで目を細めて猫背で頷きかけたヒカルにあかりからツッコミが入ったため、姿勢を正して頭のうしろをかいて苦笑いだ。結果としては、持碁(引き分け)である。コミ含めてそうなるよう調整していた。そこも含めて芦原が「すごいね進藤クン、ヒカルっていったっけ? 下の名前。覚えとく覚えとく!」と気やすくヒカルの頭をがしゃがしゃに撫でて。様子を見ていた緒方から「ウカウカしてるとお前もあっという間に抜き去られるかもな」などとニヒルに笑って芦原の肩をポンポンとむしろ優しくたたいた。

 そりゃないですよ~!? と涙声になる彼に行洋もやや冗談めかしていつまで今の段位でさまよっているかとツッコミを入れるものだから、ある意味で芦原の愛されっぷり(?)がわかろうというもの。

 

 それはそうと棋譜よこせ、と芦原と肩を組んで詰める緒方と、その視線から逃れるように名人の対面に座るアキラに寄っていくヒカル。ついでにあかり。ほかのプロたちも、笹木は何かを察したのか率先して天然な芦原に追加して、緒方のデコイになりに回っていた。硬直する岸本もそこになんだかんだ参加してるあたり、ガチガチの緊張ぶりである。

 ……なおヒカルが隣に来てちょっと目を大きくして頬を赤くするアキラと、そんなアキラに目から光を消してしらーっとした目を向けるあかりという一幕はあったが。

 

「そういえば、名人はネット碁ってやられるんです? 多分あっちから死ぬほど勧められてると思いますけど」

 

 ……緒方の名前も「オジサン」というワードも回避しながらこそこそ話しかけてくるヒカルに、行洋もさすがに苦笑い。

 

「やり方だけは少しだけ。……碁を打つのは得意だが、どうにもメールだとか、文字打ちだとかは得意でなくてね。あと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが少し、不気味でね」

「不気味、ですか」

 

 どうしてもという場合は使うだろうが棋譜しか見ていないが、対面していない相手同士の手合いでもその気迫が伝わってくるんだ、と塔矢行洋。確かに()()()、佐為に言われた通り彼の代わりに、ネット越しに名人と一局打ったヒカルは思い出す。いつも通りに誰が相手と意識せずに打っていた以上に、ただの画面越しから感じたその気迫を。

 後日、再度対面した名人からもまた、幽玄の間で一度対峙したときの気迫を感じたと言われたのを。

 

 なるほど確かに、ある一定以上の打ち手であれば一手一手からでも相手の姿を幻視しても不可思議ではないかと。そう思いながらも、ヒカルは「でも残念ですねぇ~」と首を縦には振れなかった。

 

「絶対面白いことになるのに、塔矢名人VSsai(佐為)との一局とか」

「そういえば、君やアキラはたまに打っているんだったか、その、彼? と」

「とりあえず彼でいいんじゃないっスかね。……えーっと、そうですね。いやもう春先ちょっとの頃なんかアキラ何回か打っても負けて負けてそりゃーもう電話越しにボロ泣きして俺のところに色々────」

「ちょっとヒカル!? その話お父さんには内緒だって言ったじゃないか!」

「ハハ、いや、知ってはいたが」

「お父さん!?」

 

 明子が聞き逃すわけないだろう、と苦笑いしながらも。ちゃんとその電話の後に立ち直ってとても楽しそうだというのを聞いていたからこそ、行洋は特に問題視はしていなかった。……そのあたりの立ち直りの落差とか元気さなどなども、アキラに彼女が出来たのではと母親が邪推する原因だったりするが、気づくものはこの場にはいない。

 アキラの母親もヒカルたちが打ち始めるころに席を立ち、家の洗濯や掃除を始めていた。

 

「確かに腕の良さは分かる。緒方君も絶賛していたし、()()……ああいや、森下九段も少し話題に出していたな」 

「名人、プライベートだと森下九段、下の名前呼びなんですか……? 週刊碁とかテレビのインタビューとかめっちゃライバル視されてたけど……」

「ハハ、他意はないよ」

 

「お父さん、お酒の席だと森下九段たまにからかってるらしい……」

 

 ぼそりともたらされたアキラからの情報に「塔矢くんとヒカルみたいなもの、かな……?」と不思議そうにするあかり。ヒカルはヒカルで()()()()行洋を思い出す。そういえばアキラの婚活事情やら市河あたりについては色々からかってたなあと。碁については真剣そのものだしふざけるタイプではないが、一歩引くと案外茶目っ気はある男であった。

 というかその二人で飲みに行くのかよ、とかほかにも色々言いたいことはあったが、大人同士の酒の付き合いなどそれこそカオスなのは身に染みてわかっているので、ヒカルはぐっと呑み込んだ。

 

 ……なお、そういう話題だと和谷についてだけエピソードが意外とないヒカルだ。彼が本因坊戦に臨むよりも前、二十代前半のころに当時十八を超えた森下しげ子(※森下九段の娘さん)からの猛アタックのオンパレードに撃沈。陥落させられ早々に籍を入れ、()()()()()()もあってあまり呑まなかったからだ。なんなら多少子供が手にかからなくなってからも、深酔いすると家に悪いと、お酒自体もまあまあ控えている徹底ぶり。結果として悪酔いするヒカルとアキラとの殴り合いやら何やらの仲裁によく駆り出されることになっていた苦労人ぶりである。合掌。

 

「所詮、顔を合わせれば碁のことばかりだ。……そういう意味では、顔が見えないのもハンディキャップ足りえないのかもしれないが。それはそれとして、プロの立場で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()相手に、積極的に打つというところまではいかない。

 アキラならば読みの甘さがあり、緒方君はわずかだが形勢判断を誤った。……私ならそこは間違えない。それが答えだ」

 

 真の実力は対面せねばわからぬだろうがな、という行洋に、ヒカルは「それでももったいないっスねぇ……」と心底残念そうだった。 

 

 

 

 というのもそれは、()()()()()()()()()()についてその感情を知るからに他ならない。

 

 ヒカルからsaiの正体を最終的に知ったアキラは、父に対して暗に「もう亡くなっていて続きを打つことはできない」と伝えた。アキラ自身よりも、それは行洋に対してとてもとても深く心に残ってしまったしこりであった。しこりになってしまい、それだけは生涯悔いることとなった。

 惜しいことをした。もったいないことをした。何より、相手に対して()()()()()()()()()()()()()()()と。一敗で終わってしまったのが、それで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、相手にそれ以上を見せ引き上げてやることが出来なかったことが悲しい────。

 瞑目しわずかに涙を流していたというのを、アキラからヒカルは聞いており、ともにやるせない感情だった。

 

 現在の佐為────saiに関しては、アキラの部屋でパソコンを借りて打っている際、アキラが居ない隙を伺ってそっとチャットを送ったりしてやりとりをしているところから。

 ヒカル自身は時代が時代だってのでタイピングは多少慣れはしていたが(※指3本打ちブラインドタッチ)、現在佐為が取り憑いているだろう相手もまたタイピングは早いらしく、それなりの速度でやり取りができている。最近アルファベット以外にカタカナが導入されたそこでのやり取りをまとめると、次のようになる。

 

『やっぱり名人と打ちたいか? 佐為』

『────はい、そうですね……。しかしあれは、彼もまた自らの進退をかけた最初の一局だったからこそでしょう。おそらく何度でも打てる今だからこそ、最初のそれは慎重を期したい』

 

 ムズカシイもんだなあ、というヒカルの感想はそのままその通り。今の佐為と塔矢名人との一局が、かつての時のようにそれこそが誰かに見せるための一局なのかどうかすらわからないというのはあるが。仮にそういった導きがあるのならば、現在行洋がそういう状況でないというのは、時期ではないということ。

 ただそれはそうと直後のチャットに「格好良く言った風ですけど、今『でも打ちたい打ちたい打ちたい打ちたい打ちたい~~!』って言って跳ねてます」としれっと取り憑かれてる人のコメントが送られてきたりするので、まあ未練はタラタラのようであった。

 素性は探っていないものの、あちらもあちらでまあまあ苦労はしていそうである。

 

 あくまで例えるのなら、塔矢行洋にとっての佐為(sai)は塔矢アキラにとっての進藤ヒカルのようなものだったのだろう。

 打った碁に対して、これからもお互い研鑽し切磋琢磨していきたいとそう思えるだけの一局を打てる。打ち続けられる、そういった()()()()()()()()()()()()()()────。

 

 

 

 ……まあアキラに関しては、ヒカルの計算外もあっていうなれば、未来の(かつての)、という注釈はつくところだろうが。

 現状は以前と逆に、アキラがヒカルの棋力を追いかけている立場なので、世の中何があるかわからないものである。

 

「っと、そうだな。saiの話をしてるなら俺も混ぜてくれよ進藤く~ん……!」

「あっ俺も俺も!」

 

「うぇッ」

 

 そして何ともまあ()()()()()()()()()を引っ提げて緒方が背後からヒカルの肩を組む。ついでとばかりに芦原が割って入ってきて、アキラとあかりが引き離されかけた。

 なお、アキラについてはそのまま遠慮して一歩下がるも、あかりは「むん!」と一声上げてヒカルの腕に抱き着いて芦原をきっと見る。威嚇されてるようなものだが、どう見ても可愛い子供が()()()()してるだけなので、芦原としたら微笑んで「ごめんごめん」くらいしか反応がなかった。

 

「ハハ、ふたりとも絡むのはほどほどにな」

「お酒の席の()()()()()()()()()先生よりはマシですよ」

「ほほぅ言うじゃないか」

 

 少年の心を忘れないって何だよ、とツッコミを入れようとするヒカルだったが、緒方は緒方で盤面とヒカルとで視線をさまよわせ真顔。かなり真剣な様子だが、果たして何が飛び出してくるのやら。

 そして小声で、囁くように「ぶっ殺すぞお前」みたいな眼力でもって問いかけた。

 

「…………()()()()()()()()()()?」

「違います」

 

 ヒカルとしては即答だ。少なくとも()()()()()()()()()()()が、森下九段も、桑原()本因坊も、和谷も、伊角も、門脇も……多くの碁打ちの打ち筋が、九十に至るまでのヒカルの一手には流れている。

 むろんそこにはアキラも、塔矢名人も、緒方でさえ。

 だからこそ「違う」と堂々と断言できるヒカルであったが、それでも緒方は納得した様子はない。……やっぱりこの人ねちっこいなあ、と逆行前に「saiと打たせろ!」と鬼気迫る剣幕だった当時を思い出し、やはり「うへぇ」の一言だ。

 

 幸運なことにアキラには聞こえていなさそうだが、あかりはあかりで追及することなくヒカルの腕を握っている。……わずかにほんわか漂うシャンプーの匂いにドギマギせず慣れた風に少しだけ鼻を抑えてから緒方の方を見て、まだ何かあんのかよと問い直す。

 今度はひそひそと小声ではない。

 

「じゃあ、違う質問だ。……俺の目から見て進藤、お前とsaiとの打ち方は違う。違うが、その根底は秀策流の布石と打ち筋だ。だったらその根底に、共通のものがあると見ている」

「何だよ共通のものって…………」

「そうだな。……お前の目から見て、このsaiは()()()()()()()()()()()()()

「どうやってって…………いやそんなの、俺に聞かれたって────」

「お前の意見だけでもいい。以前、院生の子が言っていたんだ、()()()()()()()()()()()()と。最初の頃の活動時期が、ちょうど小学校の夏休みと冬休みだったのが理由だが」

「………………」

「結局、今は不定期になったからそれが正しいかどうかはわからないが。そういう風に、思わぬところから何かのヒントが出てくるかもしれないと思ってな」 

 

 緒方の発言に、問われてることより「また昔の俺みたいな子供相手かよ佐為お前さぁ……」という感想が先立つヒカル。うへぇ、と顔をしかめたくもなるが、それはそうとあかりやアキラ、しゃしゃり出てきた割には話題に混ざれないでいる芦原、果ては()()()()()()塔矢名人までヒカルに注目している。背中から視線は感じないので、残りの三人は三人(プラス岸本)でちょっと気を遣ってるのかもしれないが……、あとあかりに関しては「いつも見てる」ので単に今日もそれだけなのだろうが。

 誰しもが、ヒカルの意見を欲しがっている状況で……。

 

 だからこそ、あえてヒカルも少しだけ()()()()()()()()()を、教えた。

 

「……………………多分、俺みたいなものだと思う。俺、ずっと秀策の棋譜ばっかり暗記してて、秀策風の打ち方って何だってずっとやってたし」

「……ほう?」

「だからわかるっていうか……、たぶん打ち方って、最初はずっと()()()()()()()の打ち方で、そこからどんどん洗練されていったんじゃないかなって」

「…………ナルホド。『完全に秀策だけで碁を学んだ人間』か。……あながち、あの院生が言っていたようなのも、笑い話とも言えないか」

 

 現代によみがえった本因坊秀策が、現代の打ち方を学んで強くなっていってる────。 

 

 実際は秀策そのものであったがゆえにその例えは妥当どころか正鵠を射ているのだが。

 フレーズを聞いて、相変わらず感性(センス)が面白いことになってんな和谷とヒカルは左手で顎を撫ぜてから目を細くし、ゆっくり一回頷いた。

 所作がじじくさい…………。

 

 

 

 

 




※すみません、昨日ちょっと寝落ちました・・・

番外編、どちらを先に読みたいかアンケート(期限:11/3ごろ迄)

  • ①ヒカル・囲碁漫画の原案協力や監修をする
  • ②ヒカル・見合い関係で奈瀬に泣きつかれる
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