遠い宇宙のバトンリレー   作:黒兎可

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マトリックス秀策流

 

 

 

 

 葉瀬中・将棋部の部長をしている加賀鉄男にとって、囲碁に対する感情は何とも言い難いものである。

 十歳の時に将棋を打ちたかったにも拘らず親に強制されたのが、碁。とはいえ彼としても()()()()()()()()生真面目なところがあったので、取り組み自体はどちらも真摯にしていたこともあり、そちらでもしっかりと才能を発揮していく。駒を直接取る将棋と、陣地を奪っていく囲碁とでの勝手の違いも、お互いに相乗効果を発揮していたかもしれない。ただ将棋はあくまで趣味、一人遊びの範疇にさせられており、それゆえにたとえ面白かったとしても碁に対しての感情はただでさえ複雑だった。

 そこにいたのが、嗚呼、いまいましき塔矢アキラ。囲碁教室で小学生の部の主席と次席。自分がいつまでも上にいけない、目の上に座った()()()()()()()()()

 親からいつまでも認められないコンプレックスもあり、またそれと同時に碁打ちとしてもライバルだと自分は思っていたのだが。いつかお前を追い抜いてナンバー1になってやるとからかうように言ったとき、彼は何と言ったか。

 

 ──── ボク……、負けようか?

 

 全く悪気がない、小さい子供なりの気遣い。そして打った碁は、外見上は全くの手抜きがない一局。にもかかわらずコミを入れて一目半差で加賀の勝ち────。

 あからさまに加減されているとわかる打たれ方。後年見返した時に、それが()()()だったと知った時の屈辱と言ったらなかった。

 それをおそらく、父もまた棋譜を見て一目で見抜いた。父親も、アキラがいる限りは一番になれないと心が折れたら早々にあきらめる。

 

 だったら俺は何のためにこんな、中途半端に両方に手を出すような真似をさせられたんだと。

 

 そういったこともあって、加賀は荒れた。いかにもお坊ちゃんのようでいて、女の子のような雰囲気にも見えたアキラに対する反発もあったかもしれない。より男らしく荒々しくというのが、将棋の棋風だけでなく生活にも反映されたのだ。

 確かに囲碁のおかげで、他の連中より広く対局を観ることができている自覚はある。またこれは加賀自身意識していないが、定石、型の覚えが良いと部活内で指摘されたことがあった。それを言われて脳裏をよぎったのが、秀策のコスミなのだから笑えて来る。未練があるわけではないが、加賀にとって将棋の助けにもなってはいるが、それでも、おいそれと「囲碁のおかげで」などと言うつもりはない。

 ……2つも年上の男としての、まあ、良くも悪くも女々しい八つ当たりだという自覚自体はあるのだが。自省できているからといって反省できないくらいには、彼もまだ子供だった。

 

 だからこそ将棋部売店の自分の当番が終わり、りんご飴の飴成分でべったべたになった割り箸を触り続けてたのを一度洗ってから(こういうところ几帳面である)、どれ囲碁部をつくろうとまだ無駄な努力をしている筒井をからかいに行ってやろうかとへらへらと色々な感情がない交ぜになったまま足を進めてみれば。

 

 

 

「おーはーアキラ。

 お前……チョコ。鼻、ついてる」

「えっ!? …………えっと、あれ?」

「あー、ちょっと待ってろ。あかり、濡れティッシュまだあるか?」

「あるけど、塔矢くんおてての方もだいじょぶ? 何枚かあげる?」

「あ、大丈夫だよ。えっと…………、ごめん1枚だけ」

「おっけー」

 

 

 

 ……件の塔矢アキラが、同い年くらいの少年少女と何かわいわい仲良く話し込んでるのを目撃して、思考が一瞬真っ白になった。

 いやちょっと待てよと、面食らったのも無理はない。

 

 筒井がやっている囲碁のブースでどうやら少年少女の方(女の子の方は普通に可愛らしいが男の子の方の前髪がだいぶ意味不明だ)、その二人に塔矢アキラが声をかけたという流れに見える。

 先週ぶり~と気軽にアキラの鼻を拭いている少年たちを見るに、仲は良いのかもしれない。

 というかあのおすまし顔だった塔矢アキラがああも感情を露わにしているというのが、もはや色々と信じられない加賀であった。

 そして周囲のご老人たちも「知り合いかな?」とアキラのことを(碁打ちとして知らないものの)何人か声をかけ集まってきて、このまま放置すると自分が入り込むタイミングを見失いそうな状況。

 

 どうしたもんかと少し思案しながら手をバキバキ慣らしていると、変な髪の少年の方がちらりとこちらを見て。

 

「うげぇ…………」

「……いや待て何で俺はいきなりンな声かけらんなきゃならねェ、ケンカ売ってンのか、あァ!?」

 

 何かこう、あからさまに嫌そうな顔をされた。

 別に自分の恰好が将棋部であることを強調するために駒の書かれた浴衣姿だというのでその反応にはならないだろうし。

 何だ何だ()()何もやってねーぞと文句をかけに乗り込めば、「いや何かやる気マンマンじゃん!」と笑いながら引かれる。なんなら女の子の手を引いて背後に庇ってるが、彼女より身長が足りないのでいまいち様になってない。

 

 と、ちょうどそんなタイミングでアキラが「加賀くん!?」なんて言うものだから、自然とヒカルやあかり、どころか筒井や周囲のご老人たちの視線まで集中する。

 

「おーおー、覚えていやがったか塔矢アキラさんよォ」

「え? うん。覚えてる。囲碁教室を辞めて、少し寂しかったなって」

「天才サマに覚えられてるたぁ光栄だねぇ生意気にもチョコバナナなんざ食って」

「こ、これは、ちょっとあっちの方で何かくれたっていうか……」

「あれ? 知り合いなのこいつら、囲碁部の人。というか誰?」

「えっと……ごめん加賀、ちょっと整理させてくれない」

 

 閑話休題。

 

 いったん筒井が仕切る形で、その場の全員の関係がとりあえず言葉で簡単に説明されなおす。

 

 この場の筒井には、将棋部の加賀がよく絡みに来ていて。

 加賀と塔矢アキラは、かつて同じ囲碁教室に通っていて。

 塔矢アキラと進藤ヒカルは最近知り合った打ち手友達で。

 進藤ヒカルと藤崎あかりは、最近付き合いだしたカップル。

 

「……いやちょっと待て最後の情報必要だったか?」

「幼馴染ってだけでもいいんだけど、こう言っといた方があかりの機嫌良くなるかなって」

「えへへ~~~~♪」

 

 本をポシェットに入れて、両手で頬を押さえてぴょんぴょん跳ねて喜ぶあかり。

 な? とたこやきを咀嚼しながら加賀の半眼の突っ込みにヒカルは軽く応じた。

 

 それはさておき、加賀はアキラにバリバリ眼を飛ばしているのだが、アキラはアキラで「?」と微笑みながら不思議そうにしている。

 彼の認識では、当時の加賀は()()()()()打てる年上の子というだけの認識だったので、()()()()()()()程度の対局の勝ち負けは気にしていなかったというだけの話なのだが(※本気で打ちたければいくらでも番外でやればいいという思想)、このあたりの囲碁馬鹿っぷりは加賀には通じていないらしい。

 なんとなくアキラに文句をつけてかかる加賀と不思議そうなアキラとを見比べて、アキラと加賀の認識に差がありそうだと()()()で察したヒカルは、一度あかりにたこ焼きを持たせて筒井の方を見た。

 筒井も筒井でいきなり営業妨害まがいな状態でがみがみと言い争ってる……というより一方的に因縁つけてる加賀に困っているようだったが。ヒカルが「ちょっとこれ貸して!」と手に取った「名人・塔矢行洋選 詰碁集」のページをめくる。ちょっと、と筒井が声をかけようとするが、ヒカルはぱらぱら捲って後ろのページ…………、棋力の高い問題をいくつか見てから、碁盤の隅に石を並べ始めた。

 

 何をするつもりなのかと注目する筒井。ついでにそんなヒカルとヒカルの手元をじーっと見るあかり。

 

 一方、アキラと加賀とは相変わらず平行線で、のれんに腕押し状態ゆえに加賀の機嫌は加速的に悪くなっていく。

 

「そっか、今は将棋部なのか。……当時から少し打ち方の視点が違うと思ったけど、もともと将棋から来てたんだ」

「そーだよ。で、お前が()()()()()()()()をしてくれたお陰でめでたく将棋の道に戻りましたっと」

「え? でも、あの感じだと加賀くん、お父さんから強く言われてみたいだし、ボクに勝ったのなら大丈夫だったんじゃ────」

「かァ~! これだから天才サマってのは。相変わらず俺は眼中にないってか?」

「え? いや、加賀くんの碁は加賀くんの碁だよね」

 

 囲碁教室に通っていた時のノリのまま会話しているせいか、アキラもため口であるが。

 それはそうと本当に、加賀の打ち手としてのプライドやら何やらにつけられた()に自覚なく塩を擦り込むようなアキラのナチュラルな対応で、加賀の表情がさらに悪化の一途をたどる。

 流石に見かねて、準備が終わったヒカルが二人に声をかけた。

 

「アキラお前、ダメだよそういうところはお前さ~。いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()言わねーけど、ンなナチュラルに特権意識みてーな物言いしてたら反感買うの普通だろ」

「と、特権? いや実家は確かに大きいけど、べつに何もない────」

()()()()ってことと、周りがそれに追いついてるかどうかっつーところ。名人なんか切り捨ててる側だろうから、俺からいうことじゃないかもしれねーけど、アレだぞ? そのままいくと二十代くらいの時とか週間碁のインタビューとか対談とかで記者さんの前で殴り合いに発展したりとかするぞ絶対」

「や、やけにたとえが具体的だね……?」

 

 オブラートに包んでいるんだか煽っているんだか微妙なラインの物言いなので、ヒカルもヒカルでまあどっこいどっこいだが。気づいているだけアキラよりはマシかもしれないが、それはそれでイラつく加賀。

 何だお前はとつっかかれば、ヒカルはヒカルでどこか()()()風に肩をすくめる。

 

「碁で納得できないことは、結局打つしかないと思うんで。学校行事で殴り合いはまずいっしょ? でも落としどころないと、落ち着かなさそうだし」

「…………」

「で、今の将棋部の人の棋力、知りたいんだけどわかる?」

「加賀だ、将棋部の人とか言うの止めろ。で、棋力だァ?」

「アキラ、そろそろ()()()()くらいは行ってると思うんだけど、何の準備もないのに挑んだって指導碁されるのがオチだって、加賀さ~ん」

「ンだとォ!?」

 

 ヒカルにくってかかる加賀であったが、ヒカルが「指導碁」と口にした瞬間、アキラが目を見開いてヒカルを見て、そして眉間に皺を寄せる。何かをこらえるような表情になったアキラに「どした?」と声をかけるヒカルだが、何でもないとしか答えられなかった。

 結局はよくわからないというか、そんなの関係ないとばかりの加賀。「せっかく詰碁準備したのに~」と不平不満たらたらのヒカルだったが、そのヒカルが言った碁盤の方を向けば、何故か筒井が熱心に棋譜を転写している。

 

「何やってんだよ。そこの天才サマの()()()の詰碁だろ?」

「いや、違うんだ加賀。これ、そこの彼が手を加えてて……。いや、こことかしか変えてないのにこんなに複雑になるなんて…………」

「あァ?」

 

 言われて筒井の手元の棋譜と、並べられた石を見る。

 差分は石5つつほど。外見上はほぼ差がない。しかし、それによって形勢判断がいきなり難解になっていたというのを見て、へぇと加賀はヒカルを見てにやりとする。

 こんこん、と爪先で詰碁の一角を叩きながら加賀はニヤリと嫌な風に笑う。

 

「面白ぇじゃねーか。……そうだな、お前ら来年ウチの中学来るのか?」

「俺とあかりは」「ん……」

()()()()()()()()()()()、これだけ打てるやつが来るってんなら、新学期までに囲碁部の一つでもないってのは恰好が付かねぇよなぁ筒井よォ~。三人そろえて公式の団体戦に参加するっつー話はどうなってんだ、あぁ?

 前にも言ったが条件次第で出てやっても良いんだがァ……」

「……いきなり来てお客さんに問題あるような絡み方をするようなヤツの助けなんて受けるわけないぞ!」

 

 強がるメガネの筒井少年と、からかうような加賀少年。

 そんな二人を見ながら「部活……、まだないんだね」とよくわからないまでも言うあかりに、ヒカルはヒカルで「そうなんだっけ?」と首をかしげていた。

 

 ……流石に九十代までにもなると、中学に入ってからの囲碁部のことと加賀や筒井のことはしっかり覚えていたものの、初期にこの二人とどういうやりとりをして自分が大会に無理やり出場させられたかのあたりは、なんとなく緩く記憶が抜け落ちていたらしい。

 そんなヒカルたちに置いてきぼりにされてるアキラだが、アキラもアキラで思いつめたような表情でうつむいて、何も言っていない。

 一瞬そんな彼の様子を気にしてから、ヒカルは加賀の指先の示す一手を見た。

 

()()()()……、上から数えて三番目の一手だし、この感じだとフクにも届いてなかったのか? 加賀。うへぇ~、やっぱ碁の神様って残酷だわ。こりゃちょっと、アキラと打たせられねーな)

 

 自分の調整した詰碁と過去の院生の記憶からおおよそ加賀の棋力に当たりをつけると、仕方ないとばかりにため息をついた。

 

「んん……、じゃあこうしましょう、()()()()()()。俺が打ちます」

「…………あ? 何って言った()()()

「トシそんな変わりないじゃないですか」

「大違いだろ、中二と小六だぞ?」

 

 加賀の鼻で笑った物言いは、当然後期高齢者的な視点から見ればどちらも小僧の一言で一蹴である。

 そんな加賀を見ながら、ヒカルはリュックから百均で買った扇子を取り出して握り、ニヤリと笑う。

 

()()()()()()()()()()()()、でしょ? センパイ。だから筒井先輩のことも気にしてるみたいだし」

 

 ヒカルの物言いに一瞬、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした加賀と「えっそうなの!?」と目を見開く筒井。ついでにどさくさまぎれにヒカルの両肩をつかんでその頭から周囲をきょろきょろ見て状況を観察するあかり。絵面が壮絶に締まらない。

 

「馬鹿言ってんじゃねーよ、ハッ! ただオレは、筒井のやつがンな辛気臭ぇお遊びをしてンのがしょーもねぇなと────」

「じゃ! 打ちましょうよ、俺と。俺が勝ったら、筒井先輩に協力して囲碁部創設に尽力するってことで」

「はァ?」

 

 お前は何すンだよ、という加賀。

 イ○イ○棒チャレンジでもやりますかね、とヒカル。

 ついでに「100万円チャレンジ、もう番組おわってるんじゃ……」とひそかにヒカルの背後で思うあかり。

 ただ、ヒカルの返しは加賀的にはツボだったらしい。ひとしきり笑った後「考えとくからせいぜい首を洗って待ってやがれ」と加賀は腕を組んで、筒井の方へと歩いて行った。

 

「おい代われよ。打ってやる」

「…………加賀、」

「ンだよ。こぞうの口車に乗っただけだ。ほら」

 

 先ほどまでの激昂を一時忘れたように、おとなしく声をかける加賀。筒井はそんな彼とヒカルとを見比べてから、真剣な顔でうなずいて席を立った。

 

 

 

 そして対面する両者。ヒカルと加賀は詰碁を片付けて、お願いしますと頭を下げ。……うつむいているアキラにヒカルが「悪いけどあかりに解説してやってくれねー?」と声をかけ「あれっいつの間に進藤くんが対局する流れにっ!?」と一人アキラは驚愕していた。

 

 

 

 ぱちり、ぱちりと盤面が進む────。

 

 

 

「……おいおい冗談じゃねぇぞ。なんだコリャ、()()()()()()()()()()()()()()()()?」 

「そーでもないけど、センパイにその気があるなら、そうなるかもね」

「ケッ! 言ってろ────」

 

 ばさりと手元の扇子を開いて格好をつける加賀。「王将」と書かれたそれが堂々と将棋命と言わんばかりの自己主張。

 対するヒカルは扇子を開くでもなく、ぱちりぱちりと加賀が考えている間にはじく。ここにおいても、ヒカルは早碁であった。

 

 さて。囲碁教室在籍中は名前が格好良いからとよく使っていた村正定石(妖刀定石)を展開した加賀に対し、序盤早々に三々に打ち込み連携させていくヒカル。

 その一手一手を見て、アキラは少し戸惑う。

 

「どうしたの? 塔矢くん」

「えっ? えっと、藤崎さんで良かったよね。……進藤くんの彼女の」

 

 そうだよ~! とその確認にはゴキゲンそうに微笑むあかりであったが、その愛らしい笑みにアキラは特に感想はなかった。伊達に未来で彼の妻から「あらまぁ……」とオシャレした格好に誉め言葉の一つも飛ばさず静かにイラつかれてはいまい。

 

「進藤くんの、あの一手の意図がよくわからなくて……。序盤で打つような手じゃないし、いや、でもこの場合はツナギやすい位置ではあるのか…………?」

「でも、あのあたりヒカルが全体に、ええっと……トリカケ? できそうな……」

 

 よくわかっていなそうなもの言いながらも、なんとなくのレベルで盤面は読めているらしい。伊達にヒカルが指導している訳ではないのかと、アキラは健気に盤面とヒカルの後頭部を見ているあかりに優しく微笑んだ。

 そして、再び盤面を睨むように見つめる。

 

(形成は互角……? いや待てよ、ここダメじゃねぇか!? というか気づいたら何か変な感じで布石終わってるし。秀策流か?)

 

 配置がよく言われる秀策流の布石とは異なる形になっている盤面。アキラも、塔矢名人もまた目の当たりにしたこの状況に、加賀は先ほどまでは感じていなかった妙な()()()を覚える。

 盤面から放たれる一手の先が見通せない────ブラックホールの観測限界域(イベントホライゾン)からの一手と、プロ棋士の緒方が過去(未来)で形容するそれを。

 

 ヒカル自身はこの対局、以前に確か佐為が自分の試してみたい手の数々を実験のように繰り出していたという思い出があった。

 だからその影響もあり、彼もまた無意識に繰り出していたのだ────将来、AIが台頭してきた時代におけるコンピュータ囲碁から培われた定石に対して、何とか新たな方法でそれを凌駕していけないかと。プロ上位へと殴り込みをかけていたヒカルとアキラがああでもないこうでもないと言い合ったり、時に酒を飲んで普段よりも頭の回転をまわしたり別な視点をもったり、時にテンションが上がって殴り合ったり(?)と仲良くイチャイチャ(?)しながら検討した定石の()の数々。

 

 意識的にそこまで()()()()を打とうとは思っていないヒカルだが。それでも彼の碁に佐為(秀策)が潜んでいるように、彼が培ってきた九十九年の生活もまた決して隠しきれるものではない。

  

「定石定石っと」

「このヤロ…………!」

 

 ヒカルの潜めていた石の数々は、ここにきて加賀の薄い打ち込みに対していきなり全体を巻き込み、地を荒し確定地を増やす。

 負けじと加賀も対応しようとするが、そのうちいくつかは本当に()()()()詰碁のような形で要石をえぐっていく。

 落ち着けと深呼吸をし、盤面を確認すれば()()()()()()()()()()()()()を見つけ、その要石にかかり、ヒカルの打ち込みに対抗していく。

 

 ギャラリーだった老人たちもヒカルたちの対局を観て、たまげた! と声を漏らすのが数人。なにをやっているかわからない老人も多い中、展開されてる盤面で対局者たちの棋力がわかるのか、ヒカルの顔を見て唖然とする老人もいた。

 なお、そんなヒカルの打ち方を見て、あかりは両手を頬にあてて少し顔が赤い。……楽しそうに、真剣に打ってるヒカルに見惚れているらしい。

 これには解説を小声でしていたアキラも少し苦笑い。 

 

(前は彼女じゃないって言ってたけど、進藤くん、碁だけじゃなくそういうのも進めるの早いんだね……。やっぱり大人だ……)

 

 そんなアキラの益体もない微妙な感想はともかく。

 

 意地でも投了はしないとばかりに一手一手石を運ぶ加賀であったが。

 今のヒカルは、何一つ動揺することなく淡々と手を進めていくだけ。

 

 巨大なブラックホールの超重力に呑まれた恒星のように、白石が、白石のはずなのに黒く見えるほど巨大なうねりを、アキラは盤面に幻視した。

 

「やっぱり……そういうことだったんだ」

 

 今回ヒカルは()()()()()()()()()()

 はしゃいだ手はゼロとは言わないが、大前提としては定石にまず倣い、粛々と読み、盤面を支配するように手をまわしていく。

 

 それはつまり、アキラとの対戦における三十七手目までの流れであって────。

 

「……十五目半、かよ」

「中盤ではむしろセリ勝ってたように見えたのに、あの加賀が、一気に主導権を取り返された……!?」

 

「んん、ダメだな。()()()()()()()もまーだしっくり来ねぇ…………」

 

 ぶつぶつと言うヒカルの言葉など耳に入っていない中学生二人組。

 そんな二人と異なり、何かを確認するように手を握っては閉じて握っては閉じてするヒカル。

 

 そんなヒカルたちの碁盤を見て…………、アキラは両手を握り、うつむいて、ぼそりとこぼした。

 

 

 

「…………悔しい、何故、()()()()()()進藤くんの対局者が、ボクじゃないんだろう……」

 

 

 

 声に苦さ、悔しさと怒りが滲んでいるようなそれを聞いて。あかりはなんとなく一歩前に出て、アキラとヒカルの間に自分の体を置いてバリアの代わりとした。

 

 

 

 

 

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