千年後まで御機嫌よう   作:エクシーク

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(再掲)これまで不定期で連載しておりましたが、今後は更新日時を定めて投稿することにいたしました。原則として、毎週木曜日、もしくは日曜日の20時に新しい内容をお届けする予定です。引き続き無理のない範囲で、内容の質を大切にしながら更新を続けてまいりますので、今後ともお付き合いいただけましたら幸いです。


登場人物紹介:ナクセナ

 

 

【挿絵表示】

 

 

透き通った淡黄色の髪は満月を思わせ、黒く深い瞳は夜空のように光を吸い込む。その整った顔立ちは柔らかく、常に穏やかな笑みを浮かべているため、初対面では物腰の優しい少女という印象を受けるだろう。しかし、その笑顔は感情に連動したものではなく、あくまで周囲に向けて貼り付けられた仮面に近い。彼女は人と接する際、無意識のうちにその表情を崩さない。

 

両頬に刻まれた刺青は、装飾としては異質でありながら、不思議と彼女の顔に馴染んでいる。本人曰く、「これは、古い伝承『白き従者と天女の福音』を強く信奉しており、そこに語られる「天女」に対して深い羨望を抱いている。その象徴として、自らの顔に同じ印を刻んだ」と語る。要するに、自分が「天女」そのものではないことを理解したうえで、それでもなお、そこに近づこうとした選択だったということらしい。

 

しかし不思議なことに、彼女が熱を帯びた声になるのは、強い憧れを持っているはずの「天女」について語るときではない。物語に登場する「白き従者」について話すとき、言葉には力がこもり、貼り付けた笑みではない、生身の感情がわずかに滲んでいたのだった。

 

彼女はヒルコの気配や、プラーナの流れを感知する特異な感覚を持つ。これは後天的に身につけた技術ではなく、生まれつき備わっていた能力とされている。しかし彼女は、それを特別な力として語ることはなく、ましてや「ヒルコ」という言葉を使うこともない。また、各地で頻発している正体不明の爆破事件についても、彼女は何も語ろうとはしない。力を感知できるはずの彼女が沈黙を守る理由は不明であり、本当に知らないのか、それとも知っていてあえて触れないのかは、誰にも判断できない。

 

彼女は北方のある部族で育った孤児である。後に部族の長であった男に引き取られ、義理の娘として扱われるようになったが、部族の人間たちから受け入れられることはなかった。出自の不明さと、どこか異質な雰囲気を持つ彼女は、疎まれ続け、居場所と呼べるものを一度も得られなかった。泣きがちな子供だった彼女に対する、義父の「泣かすな」という言葉が歪んで伝わり、いつしか「ナクセナ」という名で呼ばれるようになったが、その名ですら彼女を守るものにはならなかった。

 

幼い頃、彼女はとある市街地で迷子になり、偶然居合わせたアキユキに助けられている。安全な場所まで導いてくれたその行為は、特別なものではなかったかもしれない。しかし、部族の人間から疎まれ、まともな人間関係を知らずに育った彼女にとって、その純粋な優しさと温かさは、空っぽだった心を満たすには十分過ぎるものだった。

 

さらに彼女は、そのとき、彼が内に秘めている力の存在に気づいている。澄み切っていて、混じり気がなく、それでいて底知れないほど強大なヒルコ。人工的に作られた歪な力とはまったく異なるそれを感じ取った瞬間、ナクセナは直感した。 伝承に語られる「白き従者」と重なる人物である可能性を知ったとき、ナクセナはそれを疑わなかった。彼こそが物語の中で、「天女」を救う役割を担う存在なのだと、静かに確信した。

 

彼女が「天女」の姿を模倣しているのは、使命感からではない。きっと救われる側として、物語の中に居場所を求めているからなのだろう。仮初であっても構わない。自分が本物でなくてもいい。ただ、誰かに選ばれ、連れ出される存在でありたい。その願いだけが、彼女の唯一の存在意義であり、最後の希望だった。

 

ナクセナは穏やかに笑い、何者でもないかのように振る舞う。

だが彼女の信仰と沈黙、そしてその視線の先に何があるのかは、まだ誰にも断定できない。




不手際により、予約投稿の日にちを1日間違えて設定していたことにより、本来の投稿時間とズレが生じてしまい、大変申し訳ありませんでした。
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