電車でスマホでやり取りをした後、席を変わるという場面を時々見ることが増えた男は、その理由を聞き驚くのであった…

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Uber席取り

電車に乗っていると携帯電話を見合わせながら、

乗客同士が席を譲るという場面に出くわす事が増えた。

娘にその話をすると、

「えっ?お父さん知らないの?

それ、Uber席取りだよ。」

とちょっと馬鹿にされながら説明された。

分かりやすく言えば、

Uberタクシーの様なもので、席に座りたいなと思った人が今から乗ろうとしている、もしくは既に乗っている電車やバスで席を譲ってくれる人を探す。その時、同じ車両にUber登録をしている人がいれば、その人に通知が行き、その人がその依頼を承諾すれば、交渉完了。

あとは座席を譲ってくれる人の所に行ったら、

携帯でQRコード見せてくれるから、

そのQRコード写メして支払い。

それで席を変わってもらうって仕組みらしい。

1回200円。

席を譲った人はUber席取りの運営会社が2割の

手数料を抜いて160円入金されるとか。

 

「席を譲るだけで160円貰えるのか!

お父さんもやってみようかな。」

いつも路線の一番始めの駅、起点駅というらしいが、から乗っている為、ほぼ座席に座れる自分にとってはちょっとした小遣い稼ぎになると私も登録してみた。

 

始めてみると意外に利用者が多いことに気がついた。

ほぼ毎朝依頼が来る。

私は起点駅から急行で4駅の場所で降りる為、座れようと、座れまいと、それほどこだわりは無かったのだが、終点まで乗る人にとっては死活問題の様で、影では熾烈なUber席取りの争奪戦が繰り広げられていたようだ。

事実、私も同じ車両でしばらくUber席取りをやっていたが、毎回同じ席だと目をつけられる様で、他の客と既に契約が成立しているにも関わらず、その人のフリをして席に座ろうとするという出来事が何度かあり、毎回乗る車両を変えるようになった。それも限られた車両数の中では限界があるようで、そのうち変えた車両まで追いかけて来る人まで現れる。中には現金で300円を半ば強引に私に握らせ、席を譲ってくれと言い出す人までいた。

私だけに限らず、世間でも問題になっているようで、チラホラとニュースに取り上げられる様にもなった。

どうやら無用なトラブルに巻き込まれそうだと感じた私は、Uber席取りの登録を消去し、アプリもアンインストールした。正直、片道160円、たまに往復で320円の臨時収入を失うのは懐に厳しいものもあったけど、やめてみるとのんびり座って通勤できるのもなかなか悪くない。この小さな幸せに改めて気付くための代償だったと諦めた。

しばらくは私をみつけて、席を変わって欲しそうな顔でチラチラとこちらを見つめる人がいたが、2、3週間もするとそう言った人もいなくなり、元の平和な通勤ライフが戻って来た。

 

私がUber席取りをやめた後も、ニュースでは席取りアプリ関連のニュースがちょくちょくやる様になった。やれ、常連となっていた男が、新参にいつもの席を取られて激しい口論となり、電車のダイヤが乱れたとか、席取りの依頼があるんだと、先に座っていた子供を無理矢理どかせて座った中年男性とか、女性のUberをストーカーの様につけ回す痴漢の新種が出て来たとか、利用者も提供側も基本的に良いイメージの報道はされない。公共の場である電車の座席を勝手に利用して金銭をやり取りしている行儀の悪い奴らだから、トラブルを起こすのは当たり前という報道姿勢が透けて見えた。まあ、公共の席を私的に云々については、いう通りなので何も言い返せ無いが、元利用者としては大変居心地の悪い気分だった。席取りをやってる頃は、疲れたサラリーマンの助けになっているとすら思っていたが、世間の評価がそんなに好意的なものでは無かったんだなと、思い知らされた。ニュースでは席取りアプリの利用者間や周囲の乗客とのトラブルによる傷害事件が多発しているとアナウンサーが言っていた。

 

既に私がやっていたUberアプリはサービス終了となったが、今でも類似のアプリが出回っている様だ。しかも、世間の批判もあり、利用が分からない様、アプリ内で全てやり取りが完結され、提供者と利用者は一切会話しなくても良いもの、提供者の減少により高額請求できる様に金額の設定を変えられるものなどはまだ可愛い方で、あえて女子高生の隣の席のみを先取りする痴漢御用達のもの、むしろ女性が売春相手を募る為に席の隣に座らせてその後2人で降りてホテルへ向かうといったふしだらなものなど数多くの種類が出て来た。私も何度か電車でそれらしき男女2人を見た事がある。

そうして悪質なアプリが氾濫し出した頃、ついにアプリ利用者による殺人が起きてしまう。

 

殺人にまで発展してしまった席取りアプリを、政府も問題視する様になり、席取り系のアプリは全て禁止となる。

しかし、それでも闇でアプリは出回ったし、アプリを通さず現金で直接やり取りする輩まで出て来た。その一向に改善しない状況を危惧した政府はついに公共の交通機関で席を譲る行為そのものを禁止する。

 

駅構内でアナウンスが響き渡る。

「電車内では席を譲る行為は禁止されております。お年寄り、妊婦、お子様連れの方であっても席の譲渡は違法となります。席を譲らない安全な車内空間の維持にご協力お願い致します」

かつて私も利用したアプリがもたらしたこの状況に、私は大事なものが失われてしまったという喪失感をこのアナウンスを聞く度に痛感するのである。


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