オスタニアの首都、バーリントン市役所。そこで三人の女性職員が話をしていた。
「課長がキモすぎる。今朝もエロい目でジトーってさあ」
「そんな短いのはいてるからよ」
「えー、だってカレシが喜ぶしぃ!」
「シャロンもスタイルいいんだしもっと出しなよー」
「子供いるとそんなことしない」
「ヨル先輩はどう思います? キモくないですか?」
話しかけられたのは黒髪の美人、ヨルだった。
「はい?」
「それ課長のコーヒー? ハナクソ入れちゃう?」
「えっ。鼻糞を入れると美味しくなるのですか?」
「……」
ヨルの発言に女性職員たちは黙った。
「ヨル先輩ってなんていうか、個性的ですよね」
「えっ」
「わかるー。異次元すぎて男寄ってこなそうー」
「ちょっとミリー」
シャロンは失礼なことを言うミリーをたしなめた。
「ヨル先輩、元が良いんだからオシャレしたら絶対モテると思うんですよー」
「はぁ……。まあ私は仕事を続けられればそれで充分です」
「えーっ、でもー先輩って27歳でしたっけ? 気を付けないとダメですよ」
「?」
ヨルは何に気を付ければいいのか疑問に思った。
「こないだー、30手前の一人暮らしの女が、近所の人から怪しいって通報されちゃったらしいんですよー?」
「なにそれ、ウケるー」
「たしかにその年で独り身はないよねー」
「あやしいあやしい」
「そうなのですね、ご忠告感謝します!」
ヨルは素直にその忠告を受け取ってお礼を言った。
「そうだ、今週末ウチでパーティーやるんですよ。ヨル先輩もよかったら来てください! ぜひパートナーとご一緒に!」
そう言い残して女性職員たちは去っていった。
※
その夜、ヨルに電話がかかってきた。
「はいブライア。ああユーリ?」
「姉さん元気?」
電話の相手はヨルの弟のユーリだった。二人は世間話をした。
「姉さん、そろそろ結婚とかどうなの? いい人いないの?」
ヨルはドキッとした。
(またその話……)
職場と同じ話題を弟にも振られたのだ。
「実はオレ昇進の話がきててさ、これまで以上に忙しく飛び回ることになりそうなんだ。でも今のままじゃ姉さんのことほっとけないし、受けるかどうか迷ってる……」
ユーリは昇進とヨルの二つの間で揺れていた。
「今のオレがあるのは姉さんのおかげだから、感謝してるんだ。だから幸せになってほしいんだよ」
「……わかってる。ありがとう、ユーリ……」
ヨルにはユーリの想いが伝わっていた。
「よかったら誰か紹介するよ?」
「え!? だ、大丈夫ですよ!」
ヨルはユーリを心配させないために嘘をついた。
「じ、実はね週末パーティーに行くのです! もちろんパートナーと!」
「えっ、彼氏いたの!?」
「そ、そうなの、アハハ……。だから安心して?」
「そうかー、よかったぁー。それって職場のパーティーだよね? じゃああとでドミニクさんに聞いてどんな人だったか教えてもらおーっと」
「え?」
ユーリはヨルの職場に知り合いがいたのだ。
「そんなことしなくても大丈……」
「楽しみにしてるよ! じゃあねおやすみ!」
電話は切れてしまった。ヨルは焦った。
(どうしましょう……! パーティーまでに誰か探さなくては……!)
どうしようかと右往左往するヨルのもとにまた電話がかかってきた。
「お客様が入りましたよ。〈いばら姫〉。ロイヤルホテル1307号室です」
それを聞いたヨルの目は鋭く冷たいものだった。
※
豪勢なホテルを歩くドレスのヨルがいた。
「すみませんレディ。こちらのフロアは現在貸し切りとなってまして……」
ヨルはそのフロアの男に止められた。
「誰か女呼んだか?」
「さあ?」
「あのでもこちらに、売国糞野郎殿がいらっしゃると聞きまして」
そう言ってヨルは武器を取り出した。
次の瞬間、男たちが投げつけられて扉をぶち破った。
「なにごとーっ!?」
「賊です!! 女が一人で!」
報告をしようとした男は背中に武器が刺さって絶命した。
「あのぉー、監査局のブレナン次官ですよね……? 大変恐縮なのですが、息の根止めさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
そしてそのフロアにいた人間は皆殺しにされた。
女は殺し屋だった。幼少期から殺人術を叩きこまれ。雇用主の命じるままに汚れ仕事を請け負い続けてきた。
「ん……? えっ、ウソっ。ドレスが……!」
先ほどの戦闘でドレスの一部が破れていた。
「どうしましょう、余所行きはこれしか持っていないのに……! パーティーに行けない……!」
ヨルはため息をついた。そしてユーリとの電話のことを思い出していた。
「……無理ですよ。私、家事はお片付けしかできませんもの……」
※
「ははみつからない?」
「うーん、難しいもんだな」
「……こづれにんきない? アーニャじゃまなこども……?」
「邪魔じゃないよ。お前の入学のために探してるんだ。心配せずにテレビでも見ていろ」
「うぃ」
ロイドは優しくアーニャを慰めた。
(どうしたら見つかるか……。まずは外見だけでも何とかするか)
そしてロイドはアーニャを連れてブティックにやってきた。
「では採寸いたしますので、お嬢さんはこちらへ」
「アーニャうりとばされる?」
「いい子にしてたら売らない」
アーニャはブティックの女主人に連れられて採寸をし始めた。
ロイドはブティックにいる女性を見た。しかし誰が妻に向いているかはわからなかった。
「すみませーん」
ロイドの後ろで女性の声がした。気配も足音もなかったためロイドは驚いた。振り返るとそこにヨルが立っていた。
(綺麗な女性だ……)
ロイドはヨルの美貌に見惚れた。
「あらぁ、ヨルちゃん久しぶり」
「こんにちは。ドレスのお直しを頼みたいのですが、急ぎでお願いできますか?」
ロイドは受付の女性と話すヨルを凝視した。
「あの、先ほどからジロジロと、何かご用ですか?」
「あ、いえ。綺麗な方だなと思って……。すみません」
ロイドは不躾に見つめてしまったことを謝った。
しかしヨルはロイドの言葉が気になった。
「それは私の容姿に好感をお持ちということで……?」
「え、まあ、はい……」
ロイドは急に距離を詰めてきたヨルに困惑した。
「あのっ」
ヨルはロイドにさらに話しかけようとした。
「ちちー! アーニャのながさはんめいしたー!」
そのときアーニャの声が聞こえた。
「だれ?」
「他のお客さん」
(子連れだった……!)
ヨルは危うく寝取りをするところだった。
(危うく人の配偶者をお誘いしてしまうところでした。そういった行為は奥様に殺されると聞いたことがあります。まあ私なら殺し返しますけれど)
アーニャはヨルの心を読んでいた。
(いけません。こんな考えではいずれ誰かに殺し屋だと見抜かれてしまいます)
(こ、ころしや……!!)
アーニャはヨルの正体を知ってしまった。アーニャはヨルに興味津々だった。
(わくわくっ!!)
少女は娯楽に飢えていた。
(あわよくばパーティーで恋人役をと思いましたが、シュラバとやらは回避せねば)
ヨルはロイドを誘うのをやめようとしていた。そんなヨルにアーニャは助け船を出した。
「ああー、アーニャははいなくてさみしぃー」
「どうした急に!?」
「ははのそんざいこいしー」
突然わざとらしくクネクネと主張しだしたアーニャ。
「奥様はご一緒では?」
「ああいや……。妻とは死別していまして、今は男手だけでこいつを育ててます」
それを聞いてヨルはチャンスだと思った。
(誘っても殺されない……!)
「あのー」
ヨルはロイドに頼みごとをした。
読んでいただきありがとうございます。
次話は一週間以内に投稿します。