サイバーパンク2077〜変なのを添えて〜 作:ロックオン
「ナイト・シティ、企業が牛耳る街ねぇ…」
なんとまぁ胡散臭い所だ。
メカ男の車に乗り込んで移動中に軽く話を聞くところに寄ると此処では企業が一番強いのだとか。
法がイマイチ機能してないからか発砲事件なんかは日常茶飯事、本日の死亡者数でクイズを出す番組があるくらいには倫理観が終わってるときたもんだ。
「薬、女、金…どれもギャング共が好むもんでさ」
そんなもんが流通しまくって区域ごとにデカいギャンググループが結成されてるのだとか。
「旦那は何でまたこの街に?」
俺に聞かれても困る。
「さあ?…遊びに来ただけかも知れねぇし、誰かを始末するためかも知れねぇな」
適当に答えると勝手に納得したのか考え込むメカ男。
少し間が空いてから恐る恐る口を開く。
「あの、それでそんなにクロームを入れてるんで?」
「あぁ、それも聞きたかった!クロームってのは何のことだ?」
聞き慣れない言葉だ。
「え!?その…サイバネティックの俗称、です」
何か歯に物が詰まったような口ぶりだが…そうかサイバネティックか。…サイバネティック?
「あぁ?俺の身体、機械化してんのか?」
腕をマジマジと見ると左上腕にはリボルバー弾倉らしき物が付いてるし、指先の感覚はあるものの温度の差が感じられない事に気づく。…あまりにも自然に動くから違和感なかったわ。
「そりゃ一目瞭然ですよ。旦那…ぶっちゃけ生身どんだけ残ってるんですか?」
さっきよりも慎重に聞いてきたな。
ちょっと待ってろよ。えーと…?意識すると目の前にそれっぽいのが見えるな…あ、これか。身体スキャン実行っと。……異常なし。凄えな俺の身体、人間大の戦車見たいな馬力と性能してら。肝心の割合は…おおぅ、驚異の87%機械だな!13%だけで人間って主張出来んのかね?
…マジでどうなってんだ?1割ちょいしか生身じゃないのになんでこんな落ち着いてられるんだ?慌てたい訳じゃないが不気味だな…ま、今考えてもしょうがないか。
「大体1割ちょいだな。それがどうかしたか?」
その言葉を聞いて一瞬ハンドル操作が乱れるメカ男。
左右に揺れる車を抑える為に助手席からハンドルを取って操作すると幸いにも事故ることは無かった。
「前見て運転しろこのラブリーが!!」
「す、すみません!殺さないで下さい!!」
動揺して運転どころの騒ぎじゃなくなった。
路肩に車を寄せて停止させると此方を凄い顔で見てるメカ男。
「すみませんすみませんすみません…」
「んな事で殺す訳ねーだろうが」
何をこんなにビビってんだコイツは。
「良いから一旦落ち着け。俺が殺す気ならお前の頭は今頃前衛芸術の仲間入りしてるはずだ。な?」
そう声を掛けるとメカ男はより一層竦んだ。なんでだ…
「だ、旦那はまだ正気ですか…?」
「正気に見えるか?…冗談だ。まだマトモなつもりだぜ」
少し胸を撫で下ろした様子。ようやく話ができるな。
「んで、なんでまたいきなり取り乱したんだ?」
言いにくそうに口をモゴモゴさせてるメカ男。…適当にリボルバーを抜いて意味なく回したり収めたりすると青い顔のまま意を決したように話し始めた。
「クロームを入れ過ぎた連中の末路はサイバーサイコしか無いからです。大抵は1割、最大でも5割が人間性を保てる限界点と言われてます」
5割が、ね…そりゃ確かに9割弱換装済みとかほぼ機械だもんな。
「…唯一の例外、アダムスマッシャーを除いては」
「アダムス…?誰だソイツは」
有名人か?知らねぇ名前だが。そもそも自分の名前も覚えちゃいねぇけど。
「ナイト・シティの生ける伝説ですよ!」
曰くこの街で伝説になるには最後にどデカい事をやらかして派手にくたばる必要があるとの事。
そんな中、全身をクロームに置き換えながらも常勝無敗の傭兵アダムスマッシャーは生きたまま伝説に仲間入りした例外中の例外だと言う。
「普通は半分も機械に置換したら精神が狂っちまう…それを旦那は9割…?別人だとしたらアダムスマッシャーに並び立つ適応率ですが」
あんな化物が2人も居るなんて考えたくないですよ…と続けるメカ男。
「まさか旦那がアダムスマッシャーですか?」
お前が分かんねぇなら俺に判るもんかよ。
「よく見ろよ。んな有名人なら顔くらい分かんだろうが」
「アダムスマッシャーは身体のパーツを取り替えるのに躊躇がないんです。時期によっては身長、体重はおろか顔すら変わります…」
だから顔写真が有っても頼りにならない、と。
「本人かどうかはIDもそうですが本人のクロームを見れば一目瞭然ッスから…」
そこまで改造してる変態は居ないから成りすましも無理だと。
嫌な共通点だなおい。
「ってもしっくり来ねぇな」
呼ばれ慣れた感じもしないし微塵も記憶にない名前と経歴だ。
「路地裏で倒れてた理由が分かんねぇよ」
そんな全身武器に交換してる戦車見たいな奴なら来るやつ全部蹴散らしてんだろうし。まぁ、スキャン結果見た後だと俺も似たような事出来そうだが…
「ま、取り敢えず別人って事で納得しな」
少なくとも俺は身体改造しようとは思わねぇし。
…もう改造し尽くした後っぽいが。
「ははは…」
乾いた笑いを零しながら少しずつ落ち着きを取り戻したメカ男。
「もう大丈夫だな?さっさと車出せ」
助手席でダッシュボードを軽く小突いて催促する。
「了解です旦那…」
先程までよりも安全運転を心掛けてるのか少しゆっくりと進む。
手持ち無沙汰になったから適当にリボルバーを取り出して排莢、ざっくり点検して再度装填。ホルスターに仕舞った辺りでメカ男が声を掛けてくる。
「つ、着きましたよ旦那…」
顔を上げて見るとぱっと見はバーに見える古びた店が目に入ってきた。
「まだディナーにはちと早いが…悪くねぇ」
看板は…エル・コヨーテか。スパニッシュ系か?…凄えなこれ、自動で翻訳して頭ん中に浮かんでくる。
「此処のギャング共には喧嘩売らんで下さいよ…?」
「ギャング絡みじゃねぇ店はねぇのかよ?」
「勘弁してください旦那…コーポの連中が入るような店なんか鼻が曲がっちまいますよ」
ま、上品すぎる店よりはこう言うところの方が性にあう…と思う。
少なくともコース料理よりは好みだな。
「ま、自分から喧嘩売ったりしねぇから安心しろ。さっさと行こうぜ」
ドアを開けて店内に入るとカウンター席とテーブル席が幾つか、恐らく2階席に続くであろう階段が奥に見えた。
適当なテーブル席を選んで座るとメカ男がそそくさと着いてきて向かいに座る。
「俺には判らんから適当に頼んでくれ」
周りを軽く見渡すとガラの悪い奴らが数人此方をチラリと見てコソコソと話し始めた…3人か、まぁどうにでもなるな。
「…旦那!取り敢えず持ってきましたよ!」
メカ男が両手に何かの豆と肉の煮込み見たいなモンを乗っけた皿と酒を持って来た。
「おぉ、悪くねぇな!」
美味そうじゃないの!…さっきのスキャン結果からすると飯は食えそうだし、酒も同様だ。生きる上で都合の良い身体で助かるわ。
「へぇ、この店で人気の料理でさぁ…ガッと行っちゃって下さい」
自分の前には酒だけを置いてそう言うメカ男を見やりつつ料理に舌鼓を打つ。美味ぇなコレ。物を食う機能は残ってて良かった…何か食った瞬間からエネルギー化してるっぽいが。
「旦那は何をお聞きになりたいんで?」
食い終わるのを待ってから声を掛けるメカ男。礼儀がなってる奴は好きだぜ?
「そりゃ全部よ。粗方記憶が吹っ飛んでやがるからな…」
思い出そうとしても何も出てこねぇし。
ボヤケた記憶だとこんな身体じゃ無かったし街ももっと穏やかな…少なくとも銃声が鳴り響く事は無かった。
空飛ぶ車見たいなモンも無かったと思う。
「ソイツぁ難儀な事で…じゃあ、この辺の状況からで良いですかい?」
「何でも構わねぇよ。街の事、人の事、歴史や風習、雑多で構わねぇ。細かい事は後で調べるから基本的な事から頼む」
そこからは本当に雑多な話題を聞いた。
NCPDはクソだとか、メイルストロームはヤバいだとか。
ホロコールについてだのリパードクなら何処其処がオススメだの。
何より驚いたのはアメリカが形骸化して企業が実権を握る様になってるってことだが。しかも日本系企業が最大手ときた。
「…大体こんな所ですかね?」
話疲れたのか少し声の枯れ始めたメカ男に感謝を述べる
「ありがとよ…大体判った」
つまりはまるで別世界だって事だ。やべぇな…そもそも俺の身体の規格がこの街の技術と合ってんのかすら分かんねぇと来た。
「ヘェ…旦那のお役に立ったなら何よりで」
頭を下げるメカ男。…凹んだ頭が痛々しいな。俺がやったんだけど。
「…取り敢えず金策が第一だな。お前、何か金稼げる方法知らねぇか?」
兎にも角にも金が要る。そもそも入金する口座もねぇしな俺。
「…旦那の強さなら傭兵業が一番じゃないですかね?」
傭兵か…アダムスマッシャーとやらも傭兵から成り上がったらしいし悪くねえかもな。
「ソイツはどうやったらなれるもんなんだ?」
「フィクサーと顔を繋いで仕事を斡旋して貰うのが一番なんですが…無名だと相手にしてくれるかどうか」
言いにくそうにするメカ男。ま、自分が誰かも判ってねぇしな俺。
「んじゃ、手っ取り早く有名になれる方法か…いや待てよ…?」
別に俺が金を受け取る必要はねぇな?
俺が必要な時に必要なだけ引き出せる金庫代わりの奴がいりゃいい。
「お前、名前は?」
「へ?俺ですかい?ジョンです…面白みのない名前ですみません」
縮こまるメカ男…ジョン。
「ジョン、俺と組まねぇか?」
コイツの名前を借りて仕事を受ける。俺がそれを解決する。金を受け取る。…完璧なルートだ。
「お前の名前で仕事を受けて俺が解決すりゃ一石二鳥だろ?」
いまいち飲み込めてない様子のジョンに説明してやる。
「俺にゃ伝手がねぇ。でも腕っぷしは確かだぜ?」
そんでお前には伝手がある。と続ける。
「勿論、報酬は山分けだ。…俺が仕事を受けられる様になりゃ解消したって良い」
少し考え込んだ後、ジョンは頷いた。
「…やりましょう。俺だってメジャーに行きてぇ!」
「よーし!よく言った兄弟!これからよろしく頼むぜ!」
そうと決まりゃ酒ですな!とカウンターへとおかわりを取りに行くジョン。
「何とか生きる算段は立ったな」
カウンターから酒の入ったグラスを2つ持って戻ったジョンから酒を受け取る。
「俺達の門出に!」
「門出に…なんだこりゃ!?アルコールの塊じゃねぇか!」
飲んだ瞬間にカッとくる酒精に驚く。
直ぐに分解してエネルギーに変わったが。
「最初の乾杯はコイツが一番でさぁ…そういや旦那はなんて名前なんで?」
飲み干したジョンから聞かれて考える。
「んー…ジョン・ドゥで行こうかと思ってたんだが…」
お前と被るしなぁ…と呟くと酔った様子のジョンから提案される。
「…じゃあブートヒル、なんてのはどうです?死体って意味じゃ同じですがこっちはガンマンの、って意味でさぁ」
ブートヒル…悪くねぇな。口なじみも良い。
「…気に入った!俺は今日からブートヒルだ!」
カラカラと嗤いながら酒を飲み干す。
そうしてナイト・シティ最初の夜が更けていく。
ベロベロに酔ったジョンを抱えて支払いをさせた後、車に投げ込んで一夜を過ごした。
今思えばこれが俺のナイト・シティでの方向性を決めた訳だが。この相棒に大分苦労させられる事になるのはまだ後の話。その辺はまた追々語らせてもらうとしよう。