サイバーパンク2077〜変なのを添えて〜 作:ロックオン
「で、話ってのはなんだよローグ」
依頼の無い日に珍しくローグに呼び出されてアフターライフへ赴くと、これまた珍しくバーカウンターや何時ものボックス席じゃなくて個室へと通された。
…秘密の会話をするならこっちの方が良いとはいえ、聞かれて困る様な話があるとは思えねぇんだが。
「急にすまないね」
全然申し訳なさそうじゃねぇぞこのババア…
「別に暇してたし構いやしねぇよ」
スペースを開けて座ると目の前に置かれてるボトルからグラスに酒を注ぐ。
「偶にはこういう場で飲むのも悪くねぇが…ただ飲もうって訳じゃねぇんだろ?」
クソ面倒な依頼でも入ったか?
何にせよ面倒な要件は先に済ませるに限る。
さっさと話せと水を向けると
「…最近、ネットランナーがやけに辺りを嗅ぎ回ってるのは知ってるかい?」
路地裏やモーテルでネットランナーが脳を焼かれて死んでるって奴か。
それ以外にも熱線で焼き切られた奴もいるって話だから単独犯って訳でもなさそうだが。
「そりゃまぁ噂程度には。俺たちにゃ関係ねぇ話だが」
ジョンはどっちかって言うとドライバーとして名が売れて来てるからな。
その実ネットランナーとオペレーターもそれなりに出来るってのは余り知られてない。
…後はまぁ、俺の方が目立ってるってのもあるか。
「そいつらの出所については?」
「俺が知るかよ…どうせどっかの企業がスパイ合戦でもしてんだろ」
興味もねぇ。と酒を煽る。
ナイトシティじゃ良くある話の一つだろうに…路上で死んでるのが気になるっちゃ気になるが。
「どうもアラサカが絡んでるって話だ」
ちょっと興味が出てきたぜ。
「アラサカ?あのメガコーポが何でまた路上でネットランナーの死体生産してんだ?」
アラサカ。ナイトシティの実質的な王として君臨する大企業の一つ。
この街でアラサカの目を掻い潜る事はほぼ不可能に近く、出来ない事は無いと断言できるほどの権力、資金力を持つお大尽様が死体を量産されてる?
そこまでして欲しい何かってのは少し気になるじゃねぇか…
「どうにも
「天下のアラサカに睨まれる様な事して逃げ切れると思ってるバカ野郎がいるって?」
笑いながら酒を煽る。そんなイカれ野郎が居るなら是非お目に掛かりたいもんだ。
俺の目を見ながら黙っているローグを見ていて1人心当たりがある事に気づいた。
まさかとは思うが…
「…デイビットか?」
元軍用試作品とかいう曰く付きの厄ネタを積んだ大馬鹿野郎。
あれの事を知ってる人間は限られてるはずだが…
「ご明察。…何でかは分からないがあの坊やに随分ご執心みたいさね」
どこまで知っててしらばっくれてんのかわかんねぇなコイツ。
サンデヴィスタンの事まで知っててもおかしかねぇが…明言は避けるべきだな。
「何でまたあのガキが?最近目立ってるっちゃ目立ってるが」
俺もローグ同様しらばっくれる様に答えた。
デイビットはここ数年で急激に名が売れだした傭兵の1人だから感想としちゃおかしくない。
「依頼で変な因縁でも出来たのかあのガキ…」
「さてね。…それに関してはアンタの方が詳しいんじゃ無いのかい?」
こちらを見透かすような目で見てくるローグ。
…例のサンデヴィスタンの事まで掴んでんなこりゃ。
「知ったこっちゃねぇ…と言いたいところだが。まぁ心当たりが無くもねぇ」
例の軍用試作品が何処由来かわかんねぇのが痛いな…
敵対企業の試作品なら奪ってリバースエンジニアリングしたいってのも分からなくもねぇが…
「あのガキ…デイビットが持ってるモンに関係してんのか…」
サイバーウェアにはさほど詳しくねぇから上っ面の知識になるんだが。
あのサンデヴィスタンはぶっちゃけ
オーパーツ地味たブラックウォール越えの技術でもあるまいし、こっち側の技術体系で出来てんならアラサカ辺りなら作った会社ごと技術を買い叩けるだろう。
寧ろ採算度外視なら似たようなモンを作れると思う。
だから何人もネットランナー費やす程の価値が有るとは思えねぇんだよな…
「俺の想像が当たってたとしてもだ。傭兵ならまだしも
それでも欲しがるとしたら…強いて言うならデイビットの特異性か?
俺ほどじゃないにしろ機械に対する拒否反応が薄いみたいだし。
…それもナイトシティ中を探しゃ100人とは言わねぇが10人単位で見つかるんじゃねぇの?ってレベルだぜ?
「さっきも言った通り、詳しい事は分からないままさね…今のところ確かなのは」
ローグも目の前に置かれたグラスを煽った。
「最近アラサカ側のネットランナーの死体がヤケに多く上がってるって事と、綺麗に痕跡を消してはいるもののどうやら狙いはデイビットらしいって事だけ」
アラサカが目を増やして嗅ぎ回ってんのをシナプス焼き切る奴と熱線で焼き切る奴が減らしてまた増援が来るって形のイタチごっこって訳だ。
そう続けて空になったグラスに酒を注ぐローグ。
「キナくせぇ話だな」
アラサカ絡みってだけで面倒の匂いがプンプンするが。
「厄ネタの匂いしかしないさね」
ローグもそこについては同意すると言わんばかりの態度だ。
「そのネットランナー殺しの犯人もデイビット絡みか?」
「状況的にそうとしか思えないだろう?嗅ぎ回ってる連中を狙い撃ちにしてるんだ」
まぁそりゃそうだわな。
…デイビットの野郎、相当ヤバい橋渡ってんじゃねぇか。
アラサカに睨まれて監視の目を潰しまくってるってのはどう言い繕っても喧嘩売ってるようなモンだろ。
まだ
いずれ尻尾を掴まれてゲームオーバーになるのは想像に難くない。
「そいつはヘビーだな…でもま、やっちまったもんはしょうがねぇわな」
そこそこ面白い話が聞けて俺は満足だ。と酒を煽る。
最悪件の試作サンデヴィスタンとやらを渡して姿を眩ませちまえば逃げ切れる可能性が数%は残るだろうが…
「アイツが
そう呟くとローグからの視線を感じて顔を向ける。
…何が言いてぇんだお前は?
そう思っていると短く質問してくるローグ。
「それだけかい?」
「それだけだな」
端的に答えるがなおも続けて問いかけてくる。
「アンタ、あの坊やに目を掛けてただろう?」
何が言いたいのか察してため息を吐きながら答える。
「確かに面白いガキだと思ってたぜ?」
認めたくねぇが数年前ならまぁ手伝ってやるかと行動したかもしれない。
ジョンもアイツには甘いしな。でも…
「今のアイツはもう一端の男だ。自分の事は自分で何とかするだろうよ。結局はデイビットの問題で、アイツの所の問題だ。俺には何の関係もねぇ。それに…」
グラスに残った酒を煽って続ける。
「デイビットが“助けてくれ”とでも言ったのか?…言ってねぇだろ?」
アイツはそう言う奴だ。此処数年でリーダーとしての自覚が芽生えたのか弱音を吐くこともなくなって可愛げが消し飛んでる。
そんな野郎が最初から助けを求める?ありえねぇよ。
「男が自分で何とかするってんならよ。横から勝手に手助けするのは無粋だろう?」
ジャッキーの時もそうだったが。
その末路が犬死にだったとしても自分でやりてぇってんなら放っとくべきだろうが。
それで納得して死ぬのが本望なんだろうよ。…俺には良く分からねぇ価値観だがな。
「………そうかい。ま、好きにすると良いさね」
それっきり無言になるローグ。
このババア、何が言いたかったんだ?
「ま、本気でヤベェってなったらアイツが直接頼みに来るだろうよ」
少し昔の記憶を思い出す。
あん時の約束はまだ有効だ。
デイビットが忘れてようが俺はまだ覚えてる。
母親を亡くしたガキが、感情をむき出しにぶつけて来た日の事を。
ほんの気まぐれで渡した連絡先を思い出しながら続ける。
「話はそれで終いか?」
「そうさね…ま、アンタには大した話でも無かったみたいだけど」
…まさか俺がデイビットを手助けするとでも思ってたのかこのババア?
「興味深い話が聞けたとは思ってるぜ?…俺たちにゃ関係ねぇが」
そう言うと空になったボトルを置いて一気に酒を飲み干した。
「楽しい飲み会だったぜローグ。また俺たち向けの依頼があったら回してくれよ?」
そう言って席を立つ。
「その時は連絡するよ」
個室から出る俺の背中に声が掛かる。
後ろ手に手を振ってアフターライフを後にした。
あのガキの周りは何時もキナ臭い厄ネタで溢れてんな…
まぁ、派手に打ち上がる花火は大好きだし精々楽しませて貰うとしよう。
ローグ視点
…このアプローチじゃ弱い、か。
誰がどう見ても親密な仲だから上手く行けば
「身内とそうじゃない奴の線引きが思ったよりしっかりしてるじゃないか」
あの男…ブートヒルにとっての身内、仲間はジョンだけってのが分かっただけ儲け物と考えるべきか。
「自発的に行ってくれたなら楽だったんだが…この分じゃ少し手を回さないと駄目だね」
それでいて自分の関与が疑われるのは絶対に避けないといけない。
あのサイボーグは自分たちを嵌めたと分かったら誰であろうと殺しにくるだろう。
「さて、どうしたもんかね…」
今のところ大きな動きはないが。
アラサカだけじゃなくてミリテクも何かデカい玩具を用意してるって話だし…
「最悪今回は見送りでも…」
少し弱気な考えが頭を過ったが直ぐに振り払う。現状ならアダムスマッシャーに匹敵する可能性があるが時間が経つにつれて
それに対してブートヒルは自身の改造を行なっていないという話だ。
それは新たなサイバーウェアを入れる余地が無いとも言える…
「やはり今を置いてチャンスはない。多少の危険は飲み込むしかないね」
時間が経つにつれてスマッシャーとブートヒルの差は広がりこそすれ縮まる事はないのだから。
そうと決まれば根回しから情報収集と忙しくなる。
肩を軽く回しながら個室を出て何時ものブースへと向かった。
坊やには悪いが利用させてもらうよ?
心にも無いことを考えて次の一手を打った。
これがどう転ぶのかはまだ分からないけれど…最後に笑うのは私だ。