オンロからの通信 ~Intermission   作:六位漱石斎正重

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 シオダが私に遺言を残した? オンロの意外な報告に訝るヘルヴァ。そしてシオダの遺言が明らかになり、ヘルヴァはシオダの想いに胸を熱くするのだった。
 シオダの遺言は2つあった。だが、オンロの予想に反して、ヘルヴァは2つ目の遺言の受け取りを拒否した。2つ目の遺言に戸惑うヘルヴァを、オンロは遺言を受領するよう諭すのだが……



第4話 シオダの遺言

 オンロはヘルヴァ宛てにシオダからの遺言を預かっており、その内容をヘルヴァに伝えるために静かに語り掛けた。

 

「それで、シオダの遺言のことだが、まず一つ目は……」

 

『歌って! 歌い続けて。それがあなたのアイデンティティなのだから。あなたは【歌う船】じゃないの! あなたのレゾンデートル(存在意義)を示しなさい。銀河中にあまねく【歌う船】の名声を響かせて……』

 

 シオダ…最後まで私のことを? ヘルヴァは叫びたいような感情に包まれた。オンロは一つ目の遺言がヘルヴァに十分伝わったのを見計らって、再び口を開いた。

 

「そして二つ目だ……物理療法士シオダは、彼女の遺産の受取人に君を指名した。無論、遺言状も完成している。他に身寄りもいないということでね……ヘルヴァ、君が抱えている【中央】に対する借入金の一部の返済に充ててほしいそうだ。そして一つだけ言葉が添えてある。『ありがとう、親友』と……」

 

 シオダ……あなたもまた誇り高い女性だったわ。あなたが親友でよかった。……過去形で言わなければならないのは残念だけれど。でも、あなたに会えてよかった。私、あなたを絶対に忘れない。たとえ、百年たっても……シオダ……

 

 二つ目の遺言を伝えた時から黙りこくってしまったヘルヴァを、オンロは黙って待った。恐らく、ヘルヴァ自身の気持ちが整理されるまで、それなりの時間がかかるのだろうと、オンロなりに配慮を示したのだったが、その時間は、オンロがやきもきするほど長い間になるとは、オンロ自身想像もしていなかった。

 

 オンロが待ち切れず、ヘルヴァに声をかけようとオンロが決心した瞬間、ヘルヴァがようやく口を開いた。

 

「シオダの気持ちはとっても嬉しいわ……でも、残念だけど、そのお金は受け取れない!」

 

 シオダが親友と認めたヘルヴァに贈られた遺言だ、よもやヘルヴァが遺産の受け取りを拒否するとは想像していなかったオンロだった。オンロは訝しげな表情で言葉をつないだ。

 

「だが、シオダは君に……」

「わかってるくせに!」

 

 オンロは、思ったより強いヘルヴァの口調に言葉をつまらせた。

 

「オンロ、あなたにはわかってるはずよ? 私はシオダと最後まで任務を遂行できなかった。私は彼女を惑星ヴァン・ゴッホに置き去りにして飛び立ってしまったっ! 私には彼女の遺産を受け取る資格がない!」

 

 ああ、そういうことか、とオンロは合点がいった。そういうことなら、この【お嬢様】を説得することができなくはない、とオンロは考えた。

 

「だが、君は【中央】の頭脳船だ。【中央】の命令があればすぐに任地に飛び立たなければならない。仕方ないじゃないか!」

 

 だが、オンロが考える以上にヘルヴァは頑なだった。

 

「理由はどうあれ、私は彼女とともに最後まで居ることができなかった……それが全てよ! 私は彼女の遺産は受け取れない……」

 

 やれやれ、と肩をすくめ、ため息交じりにオンロは言葉をつないだ。

 

「だが、彼女の遺志はどうなる? シオダの生活は質素そのものだったし、金額的には飛びぬけて多いわけではないが……それでも彼女が懸命に貯めた金だ。君のつらく悲しい気持ちはわかる」

 

 そう言ってしばらく黙り込んだオンロは、再び口を開いた。

 

「……いやわかるつもりだ。短い間だったが、私たちはチームだったのだから……」

 

 そう言ってほんのわずかの間うつむいて唇をかんだオンロだったが、そのあとすぐに顔を上げたオンロには、どんなことをしてもヘルヴァを説得すると言った強い意志を目に宿していた。

 

「だからこそだ! これは彼女の最後の願いだ。シオダは私の娘の命の恩人であると同時に私の大事な同僚でもあった。彼女の最後の願いをぜひかなえてやりたい。もう、私が彼女にしてやれることはそれしかないんだ……」

 

 力なくそうつぶやいたオンロだったが、すぐに顔を上げると目に強い決意を宿しながら、ヘルヴァに向かって叫んだ。

 

「君は! 彼女が唯一認めた【親友】である君への切なる想いを無為にするのかっ!」

 

 そう、一気にたたみかけられたヘルヴァだったが、首肯することもできず、また強く拒否することもできないまま、かすかに震えるような声でこういうのがやっとだった。

 

「でも、私は……」

 

 ヘルヴァは、それっきり言葉をつなげることができず黙り込んでしまった。

 

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