オンロからの通信 ~Intermission 作:六位漱石斎正重
解決策を見いだせず、シオダとオンロの二人の想いの間で揺れるヘルヴァだったが、突然彼女の脳裏に、二人の想いを同時に満足させる、あるアイデアがひらめく。ヘルヴァはせかすように、自分のアイデアを採用するようオンロに提案するのだが……
オンロに詰問されてしばし言葉を失うヘルヴァだったが、ふと思いついたことに自分自身驚きを隠せず興奮して叫んだ。
「そうだわ! ……えっと、シオダは遺産の受取人を私に指名したのよね?」
「さっき、そう伝えたはずだが?」
オンロはムスっとして不機嫌そうにそう答えた。
「つまり、そのお金の使い道を私が自由に決めてよい、というわけよね?」
「無論のことだ! だから、さっきから、君の【中央】に対する借入金の返済に充ててほしいとシオダが言っていたと伝えただろ?」
「ええ、聞いたわ……でも、私自身のためにシオダのお金は使えない」
こいつは私をからかっているのか? そう思った瞬間、オンロの口から思わず舌打ちがでた。
「チッ!」
「でも、そのお金の使い道を私が自由に決めることができる……」
オンロはヘルヴァのとんちのような謎めいた物言いにげんなりしながら、腹立たし気に尋ねた。
「いったい、君は何が言いたいのかね? 最近、疲労の極みで頭がうまく働かないんだ。私の鈍い頭でもわかるように説明してくれ!」
自分の思いつきに興奮しつつも、察しの悪いオンロに少々いらいらしながら、ヘルヴァはまるで出来の悪い弟に言い聞かせるように辛抱強く説明した。
「つまりね、物理療法士シオダは再パターニングによる物理療法を患者に施すのに生涯をかけたわけでしょ?」
「ああ、その通りだ……」
「だから、彼女の遺産は物理療法を受ける患者達に受け取る資格がある……」
オンロはヘルヴァが何か重要なことを伝えたいのだということだけはわかったので、ヘルヴァの言ったことを十分吟味してみた。だが、オンロにはヘルヴァが何を言いたいのか今一つ見当がつかなかった。
「だから?」とオンロ。
「だから、彼女の名前を冠する基金を設立し運営するの! つまり【シオダ基金】というわけね」
そういうことかっ! 悪くないアイデアだ。いくつかやっかいな問題を除けば……オンロはあごをしゃくってその先をうながした。
「当然、その基金のお金は宇宙病などの難病に苦しんでいる患者達の治療費および、社会生活復帰のための準備金などに支払われることになるわ」
「ほう……」
そこまでは流暢に話していたヘルヴァだったが、このあとは急に口が重くなった。ヘルヴァは言いにくそうにその先を続けた。
「でね……そのぅ……大変言いにくいのだけれど、その基金の運営を……」
ヘルヴァの言いたいことにピンとこないオンロが首をかすかにかしげた。
「あのぅ……」
だが、あまりに言いにくそうなヘルヴァの様子を見て、オンロもさすがに気がついて大声で叫んだ。
「まさか!? このブリキメッキの性悪魔女めっ! まさか、この私に【シオダ基金】の運営をやらせるつもりなのかっ!」
「嫌なの? あなた、さっき『シオダの最後の願いをぜひかなえてやりたい』って、言ったじゃない!」
「クッ!」
「ねぇ、ダメかしら?」
「チッ……」
「女ってやつは成長するごとに、男の想像を超えるほどずるがしこくなるものだな……」
「何か言ったかしら?」
「いーや、何も……」
「運営を任せるからには、【シオダ基金】をしっかり運営してもらうわよ? つぶさないように、きっちり利益を出してね?」
クッ、この機械仕掛けの魔女めっ! 少なくとも3か月前は、ヘルヴァのことを、可憐……だったかどうかは知らないが、謀略などとは無縁の頭脳船と考えていたオンロだったが、わずかの間にマキャベリズムを身に付けたずるがしこい女に成長していたとは想像していなかった。
だが、それがわかった上で、ヘルヴァの申し出を拒否できない事実に、一層腹を立てるオンロだった。
しばらくしてオンロは深いため息をついた……