オンロからの通信 ~Intermission   作:六位漱石斎正重

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 怒りに打ち震えるヘルヴァに対し、オンロは<中央諸世界>の医務官として規定の対応をする義務があった。それは数年にわたって発生している『放浪船』出現の原因を探るべく、常にシェルパーソンにプレッシャーをかけてその様子を観察する義務だった。
 ところが、オンロがかけたプレッシャーは想定以上にヘルヴァを追い込み、彼女は激しい悲しみに打ちひしがれてしまう。
 オンロは、ヘルヴァをいたわりながらある提案を彼女に行った。オンロがヘルヴァへ提示した提案とは……



第8話 オンロの提案

 悲しみに打ちひしがれるヘルヴァに、穏やかに話しかけていたオンロだったが、しばらく黙った後今度は一転して強い決意を込めて彼女に話しかけた。

 

「君の力を貸してほしいんだ!」

「どういうこと?」

 

 ヘルヴァはオンロの唐突な依頼に驚いて詳細な内容を話すよう促した。

 

「相手は巨大な組織の末端にいるチンピラ共だが、我々が太刀打ちできる対象じゃない。腹にすえかねたとしても、故人の墓を暴こうとするようなカスには暴力は通用しない。奴らにもそれなりの【バック】がついているしな」

「どんな連中なの?」

「製薬会社を基盤としたコングロマリットさ。君もCMとかで目にしたことがあるんじゃないのか? まあ、いずれにせよ、人命よりも利潤追求を至上命題とするようなロクでもない企業だ」

 

 確かに、製薬会社と自由契約を結んでいる退役頭脳船は存在する。ソフトパーソン(生身の人間)では危険すぎる場所でも、頭脳船なら強襲接舷して必要な材料や情報をとってくることができる。

 【中央】との契約が切れて自由になったら、私もこういった企業と契約を結ぶことになるのかしらと、ヘルヴァは将来に対する漠然とした不安を覚えた。ヘルヴァの不安をよそに、オンロは話を続ける。

 

「だから……シオダの墓に手を出せないように法律で縛ることにした! そう、むこう100年ほどね……実は知り合いに強力な法律家がいてね」

「そんなことが?」

「ああ、できる……そのやり手の法律家が言うにはね。無論、その【善意】の報酬として恐るべき金額を支払わせられるが…」

 

 オンロのその提案に訝しげな表情を浮かべたヘルヴァだったが、その法律の効果についての疑問は呈さず、強い決意を込めた言葉を発した。

 

「本当にそんなことができるなら私も資金面で協力するわ! あいにく、借金を抱えている身だけれど……」

 

 ヘルヴァは、例え【中央】から自由になる時期が大幅に遠ざかったとしても、全力で資金をねん出するつもりだった。

 

「ああ、期待してるさ。相手が墓を暴こうとする無法者でも……いや、無法者だからこそ法律には弱いものさ」

「……で、私に力を貸してほしいことって?」

「その法律が効果を及ぼすのに、シオダの近親者のサインが少なくとも3つはいる……」

「でも、シオダには近親者は……」とヘルヴァ。

 

 オンロの提案に訝りながらヘルヴァは言葉を詰まらせた。

 

「ああ、その通りだ、彼女に身寄りはいない。そういう場合は、彼女の身近な関係者のサインでもいいのだそうだ。そこで、今回の任務でもっともシオダに関係が近かった者、つまり……」

「つまり、あなたと、私というわけね?」

「ああ、そうだ」

「でも、もう一人はどうするの?」

 

 ヘルヴァは、先をせかすようにオンロに尋ねたが、ふと思い当ることがあり小さく叫んだ。

 

「そうだっ、病院のあの女医さんにお願いしたら……」

「私もそのように法律家に提案したが却下された」

「彼女には今回の法律上での権限がないのだそうだ」

「でも、それじゃ……」

「いや、実は既にもう一人のサインはもらってある」

「えっ、誰の?」

 

 オンロはいたずらっぽくニヤっと笑った。そしてヘルヴァの感情の変化を十分察知できるように、オンロは十分な間をとって話し出した。オンロにはヘルヴァを驚かせるに十分な確信があった。

 

「カリフさ」

「ええっ!」

 

 意外な人物の名前にヘルヴァは驚いて思わず叫んだ。

 

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