オンロからの通信 ~Intermission   作:六位漱石斎正重

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 シオダの墓を守る法律を有効にするために、シオダにもっとも近い関係の者のサインが3つ必要なのだとオンロは語った。一人はオンロ、もう一人はヘルヴァ、そして最後のアニゴニの高級官僚カリフだった。
 一方、オンロにやり込められたヘルヴァにも、彼に一矢報いるためのAce in the Hole(切り札)を既に手にしている。オンロとヘルヴァの最後の通信が今、終わろうとしている…



第9話(最終話) KH-834

 カリフは惑星ヴァン・ゴッホに駐在しているアニゴニの高級官僚で、シオダやヘルヴァと少なからず衝突した因縁があった。シオダはともかく、ヘルヴァはカリフのことを頭でっかちで融通の利かない動きの鈍いお役所勤めの人間と考えていた。

 

「あの人は、むしろシオダとソリが合わなかったように私には感じたけれど……」

「そうだな……だが、カリフは相手が気に入らないからといって公私混同するようなわからんヤツじゃないよ? 私はそんな物分かりの悪いヤツ相手に30年も友達付き合いができるほど温和な人間じゃないぜ?」

 

 惑星ヴァン・ゴッホで、物理療法プログラムの計画遂行に協力してほしいと頼んだシオダは、にべもなくその依頼をカリフに拒絶された。既知の手段では病状の改善に効果が見られなかったのだから、物理療法を試すことくらいできるはずなのに! シオダはそんなカリフに激しい怒りをぶつけたのだった。

 

 そのようなカリフの言動を目にしていたので、オンロの話すカリフという人物像にヘルヴァは意外な印象を受けた。少なくとも優秀な上級医務官であるオンロが、中身の空っぽなくだらない人間と交友を持ち続けるはずがない、それだけは彼女は確信していたのだった。

 

「カリフは惑星ヴァン・ゴッホの数少ない生き残りの政府高官だ。彼にはその地位に応じた責任が科せられており、不確実な方法に運命を託すわけにはいかない」

 

 オンロの指摘は当然だった。

 

「そして、シオダには相手を説得するといった根気が欠けていた……二人のソリがあわないのも当然さ。だが、カリフも今回の病気で娘を失っている。この病気を憎む気持ちは人一倍だ」

 

 そう、あの役人もまた、自分の血縁者を失っているのねと、ヘルヴァの心は悲しみに満たされた。そして、どうして私の周りの人たちは、みな心に傷を持っている人ばかりなのだろうと、心が沈んだ。

 

「だから、今回のシオダの治療法が幾人かの患者に、実際に効果を及ぼした時の喜びようったらなかったぜ! 君にもみせたかったよ」

 

 そういって、オンロはいたずらっぽい表情をヘルヴァに向けた。まるで、『ヘルヴァ、君はまだまだ人間を見る目が甘いな』と言わんばかりの表情だった。

 

「そこで、今回のサインの件を彼に話したら、文書もろくに読まずに、いきなりサインだ。カリフはシオダの物理療法の成果に感謝している……いや彼女の才能とその手腕に崇拝すらしていると言っても言い過ぎじゃない。大勢ではないが、実際に幾人かの患者達を回復させるのに大きな貢献をしたのだからな」

 

 ここまで話すと、オンロはしばらく黙り込んだ。彼の話がヘルヴァに十分伝わるための時間が必要だと彼は考えたからだった。

 しばらくたってから、オンロは小さくウィンクをしていたずらっぽい表情を浮かべながら再びヘルヴァに話しかけた。

 

「つまり、彼はそういう男なんだ……いささか照れ屋で不器用ではあるがね」

「そう、あの人が……」

 

 人間の認識なんか極めて狭い範囲しか知覚していないものなのねと、ヘルヴァは自身のイメージと実際の人物の性格の違いに驚きと同時に、意外さをも感じていた。

 

 物思いに沈んでいるヘルヴァに再びオンロが声をかけた。

 

「まあ、そんなことより……私が心配しているのは、むしろ君のほうなんだ……」

 

 突然、話題が自分のことになって、ヘルヴァは驚いた。

 

「何? 私の何が心配だっていうのかしら? 私だって、カリフという人と同じで、その文書を読まずに喜んでサインするわよ?」

「ああ、そのことなんだ、私が悩んでいるのは……」

 

 オンロが何を伝えたいのかヘルヴァには見当がつかず、訝しげな表情を浮かべた。

 

「つまりだな……いったいどうすれば、シェルパーソンにサインなんかさせることができるのかと……」

 

 恐らく、ソフトパーソンのシェルパ―ソンに対する認識というのは、ブローンでもなければこの程度のステレオタイプのものなのだろうと、ヘルヴァはあきれると同時に、少しだけムッとしてオンロの言のあとをつなげた。

 

「あら、私もずいぶん見くびられたものね……言っておきますけど、必要なら私はあなたが普段使っているペンのノックの部分に、最後の晩餐の完全な複製画すら描けるのよ? それなりのマニピュレータかデバイスを用意してくれるならね」

 

 ヘルヴァはそこまで言うとオンロの顔をじっと見つめた。地上に縛られたソフトパーソンには想像がつかないくらい様々なことがシェルパーソンにはできる。憐れみをかけられるのは彼女にとって不本意だった。

 

 しばらくするとヘルヴァは再び口を開いたが、今度はその声に誇らしげな成分が含まれていた。

 

「あ……えっと、念のために言っておくけれど、そのデバイスの制御ソフトは自分で組むから必要ないわ」

 

 ヘルヴァのその自慢げな物言いに少しほっとするオンロだった。この生意気だが、人間的にも魅力的な【お嬢様】には、いつでも明るくふるまっていてほしい、これはオンロの本当の気持ちだった。

 

「ほう、それはそれは……」

 

 そして、ヘルヴァも負けたままでニコニコしている人物ではなかった。なんとか、最後にゴールを決めて、この皮肉屋でジェナンの次にハンサムな男に対して、少なくとも彼を驚かすくらいのことはするつもりだった。その材料を既に彼女は手に入れてある。ヘルヴァは十分もったいぶってオンロに話しかけた。

 

「それからね、私からもあなたに言いたいことがあるの、オンロ……」

「何かね?」

「あなたはさっき、私のことをXHって呼んだけど……」

「ふむ……」

「私……もうXHじゃないわ」

 

 ヘルヴァの言葉にしばらく考え込むオンロだった。あごに手を当てて考え込むオンロの顔を視覚デバイスの中央にとらえながら、ヘルヴァは静かに宣告した。これは彼女のAce in the Hole(切り札)になるはずだった。

 

「……KHになったの」

「ほう……」

 

 ふと、オンロの疲労で疲れ切った頭の中に雷鳴のように、ヘルヴァの伝えたいことがひらめいた。

 

「そうかっ! 相手が決まったのか! やったな、おめでとうヘルヴァ! 今度の相棒はどんな奴なんだい?」

「そうね……今度のブローンは……」

 

                                        END

 




 まず全9話全てを見ていただいた方に感謝申し上げます。そして、一部の話であっても見ていただいた方にも同様の感謝を。

 本拙作の『オンロからの通信~Intermission』はアメリカの小説家アン・マキャフリイが上梓した『歌う船-The ship who sang』を参考に、質の低い私の文才をもとにスクリプトを組みました。
 もともと私は動画屋で、ニコニコ動画でドラマやトレース動画などをアップしている投稿者です。もっとも、再生数は少なく、たいした動画はアップしていませんが、始まりは以下の動画となります。

【MMDドラマフェスティバル】歌った船
https://www.nicovideo.jp/watch/sm17922748

 今回投稿した小説は、私が2014年12月にPIXIVで投稿したものを再編集・加筆したものです。今回改めて当時投稿した文章を見直してみたのですが、まあとにかく読みにくい。無駄に長い上に文章作成のルールをガン無視したひどいものです。

 初期の時代にアップした小説はひどいものですが、以下のリンク先となります。

『嘆いた船』サブストーリー
https://www.pixiv.net/novel/series/481804

 そこで、今回ハーメルンに投稿するにあたって、もう少しマシになるようアレンジを加えました。読みやすくなったかは疑問ですが、冗長な部分はバッサリ削除し、無意味に差し込んだ専門用語はなるべく削除するか別の言葉に置き換えました。多少は読むことに苦痛を感じにくくなっているといいなと思っています。

 残念ながら、アン・マキャフリイは『嘆いた船-The ship who mourned』の後のオンロのその後を発表せず、2011年11月に亡くなってしまいました。
 『嘆いた船』の読後、個人的にもっとも印象に残ったのはオンロのキャラクターでした。このまま1話の短編で終えてしまうのはいかにもおしいということで、彼を無理やり引っ張ってきて後日譚を作ってしまいました。

 【お前のオリジナルには興味がない】というご指摘ごもっともですが、これだけ広い世界です。もしや同じ感性の人がいないとも限りません。拙作を読む時間を費やしていただいた方になんらかの読後感を持っていただけたとしたら、筆者としては嬉しい限りです。

 また、拙作をきっかけにアン・マキャフリイの生み出した作品をお手に取っていただける機会となれたなら、筆者にとってこれに勝る喜びはありません。
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