今回のサブタイトルは
『喜』の終わり・その名は諏訪の神
です!諏訪の神……誰が来るかは分かりますね?
ロリコンよ、刮目せよ!がサブタイトルのサブタイトルです。
それでは皆さん、どうぞごゆっくり!
『喜』の終わり・その名は諏訪の神
「起きないなー」
暗い視界の中、誰かの声が『男』の頭に響いていく。
『男』は内心顔をしかめながら、その声を聞いていく。
「あ、ちょっとお前達!襖の隙間から覗かないの!ほらほら散って散って!」
誰かを注意するような声の後に、何処かへ走り去っていく足音も聞こえる。
意識を取り戻した『男』は、ゆっくりと目を開いた。
「……?」
「はぁ、たくっ……ってあれ、起きた?」
『男』は無言で起き上がり、キョロキョロと辺りを見渡していく。
そんな平気そうな『男』を見て、カエルのような帽子を被った少女は一息ついた。
「大丈夫?なんか飛ばされてきたからキャッチしたけど、なんかあったの?」
少女の問いに『男』は何の反応も見せない。
「うーん……あ、とりあえずは自己紹介かな?私の名前は諏訪子。貴方は?」
そう問われるも、『男』は言葉を発さない。代わりに首を横に振った。
「?貴方の名前だよ?」
『男』は反応を示さない。まるで『自分は何も知らない』とでも言いたげに。
「……まさかさ、自分の名前が分からない、とか?」
諏訪子の問いに、『男』は少し考える素振りを見せてから、ゆっくりと頷いた。
それを聞いた諏訪子は少し固まり、何かを考え込むように俯いた。
その間、『男』はキョロキョロと部屋中を見渡していく。
「………」
ふと、ある場所を見て動きを止めた。
起き上がり、『男』は部屋の柱近くまで歩き、懐からペンを出して文字を書き始めた。
数秒だけ書き、その文字を諏訪子に見えるよう位置を取った。
書かれた文字を見てみると、そこには一文字だけ書かれている。
『盃』
「え、と……さ、さかずき?」
『盃』
そう言われた男は少し考えた後、しっかりと頷いた。
確認するように諏訪子は口を開く。
「貴方の名前?」
男、盃は無言で頷いた。
「ふーん、じゃあ盃。何があったの?私が受け止めた時には全身ボロボロだったけど」
それを聞いた盃は自分の体に目を落とした。そこには包帯に巻かれた自分の肉体がある。
自分の肉体をジロジロと見た後、盃は首を横に振った。
「……覚えてないの?」
この問いに、盃は首を縦に振る。
ふぅ、と一息ついた諏訪子は座布団の上に身を任せ、足を伸ばしながら発言した。
「うー、何も覚えてないなら手の出しようが無いなー。そうだ盃、何があったかはもういいから、せめて自分の家だけでも答えてくれる?送ってってあげるよ」
そんな諏訪子の好意も、盃は首を横に振って否定する。
ガックリと肩を落として諏訪子は呟いた。
「本当に何も覚えてないのー……?」
盃は無言で頷いた。
本気で頭を抱える諏訪子。だがそこへ、一人の人間が襖を破ってロケットの如く乱入してきた。
ゴロゴロと坂道を転がる岩のような速度で転がりながら、その部屋の中心の机を弾き飛ばして、その机と共に壁に突っ込む。
砂埃が巻き起こり、部屋を覆う。
少し引く盃を尻目に、その神子を見た諏訪子はため息をついた。
「あーもう、次から次へと……」
砂埃の中から姿を現したのは、神子服を着た一人の男だった。腰辺りをさすりながら、その男は諏訪子を視界に捉えて、言う。
「何してくれてんですか諏訪子様!頭いてぇ!!」
「少なくとも私は何もしてないよ!そして頭痛いなら腰おさえるな」
落ち着きのあった部屋に、嵐のような騒がしさがやってきた。
神子の男はお祓い棒を取り出し、お札を構える。
「今度という今度は許すべからず!少しお灸をすえましょう諏訪子様ぁぁぁぁ!」
「ミジャクジィィィィ!!お願いだからコイツ追い出してぇぇぇ!!」
直後、外から紫色の触手に似た何かが乱入してきた。
それはお祓い棒を持った神子を薙ぎ払って壁に叩きつけた後、その足に巻き付いて神子を無理やり外に出そうとする。
「ぬおぉぉぉぉぉ!み、ミジャクジか!だが俺がこんな格下に負けるわけが……」
「いや流石に自惚れすぎだよ、ミジャクジも神だからね?」
「神風情が神子に逆らうか!!」
「はーい、神子って漢字を1から書いてみろバカ」
神子は何とか耐えていたが、その触手の力には勝てなかったのか、そのまま外に引き摺り出された。
遠くの方から、何かでかいものが池の中に落ちた音が聞こえてくる。
その音を聞いた諏訪子は疲れた様子で一息ついて、改めて盃の方を見た。
「うーん……まあいいや。今日はもう日も暮れるし、記憶が無いなら家にも帰れないよね。なら今日はここに泊まっていけばいいよ」
その諏訪子の言葉に、盃は無言で首を捻った。どうやら『いいのか?』と言いたいらしい。
諏訪子は笑って、
「いいよいいよ、私はどうせ一人暮らしだし、誰も文句は」
と、そこまで諏訪子が言った瞬間、いきなり屋根が割れ、天井から神子の男が現れた。
床に華麗に着地した男は諏訪子を睨み、険しい表情で歩み寄った。
「諏訪子様!私は反対です!まず男と女が一つ屋根の下で寝る事!」
「いや誰も言ってないし」
「それに風呂すらも一緒で」
「それはアンタの願望でしょ」
「そもそも!諏訪子様と同じ布団に入るのは俺だけの特権!」
「さしも毎日一緒に寝てるみたいな言い方は止めろ!!」
いつの間にか諏訪子の周囲に現れた鉄の輪が、その神子の顔面に突き刺さった。
だが、神子は鼻血を流しながらも体の軸はブレず、凛とした立ち振る舞いのままそこに君臨している。尚、やってる事はくだらない。
「いいから泊める!これは命令!」
「なっ!?そんな事されたら私の寝る部屋がなくなるじゃないですか!?」
「いやアンタは帰って寝なよ」
冷たく切り離す諏訪子。
そんな反応を返された神子は、顔文字の『ショボーン』がよく似合いそうな表情のまま放置された。
石像のように固まる神子を横倒しにし、諏訪子は盃に手招きをした。
「ほら着いてきて。部屋まで案内するから」
「それではお言葉に甘えて」
「地面に埋まって寝ろ」
一瞬のうちに諏訪子の隣へ移動し、ボケをかました神子は諏訪子の手によってねじ伏せられる。
「因みに心配はしないでいいよ。この変態、実力そのものが無いから襲われても平気」
「まるで俺が『男も襲う』みたいな誤解が産まれるであろう言葉は使わないでいただけます?」
「黙って阿○鬼の世界にでも殴り込みかけてきなよ」
今度は神子の肉体がテレビの中へ投げ込まれる。
パリィン!というガラスの割れる音が聞こえてくるが、それを無視して諏訪子は歩き出した。
場に飲まれていた盃は我に帰り、慌てて(無表情)追いかける。
「はい、ここが盃の部屋ね」
諏訪子が案内したのは、神社の中でも一番奥の小部屋だった。
六畳ほどの広さで、家具といった家具は無く、敷き布団一枚のみがそこに転がっている。
頬を指でかきながら諏訪子は笑って言葉を発する。
「あはは、ごめんね。他の部屋は他の巫女達に割り振っててさ」
「因みに俺の部屋だけ無い。これって差別?」
「アンタは他の巫女達と違って自分の寝床があるでしょうが」
諏訪子の隣にいる神子は、驚くべき執念でここまで着いてきた。文字通り床を這って。
その度に諏訪子が殴り飛ばしていたのだが、もう諦めたのか殴らない。
「ま、困った事があれば言ってね」
「死にたいとかなら俺が全力で介錯してやんよ」
「アンタにはそろそろ祟り神の実力見せてあげようか?」
最後まで騒がしくした後、二人は扉の向こうに消えていった。
一人、シーンとした部屋に取り残された盃は布団の上に寝転がり、思った。
(騒がしいな……でも、なんか覚えがあるような……?この無駄な騒がしさ……)
シルエットは頭に思い浮かぶが、見事なまでに姿が思い出せない。
そうして目を瞑って考えてる間に、盃は眠ってしまった。
物語は始まった。
脳を犠牲にして現象を引き起こす能力を持つ男の。
悲しい物語が。
今回は少し短かったですね。
さて、改名です。
『喜牙』→『盃』 読み方は『さかずき』です。
なぜこの名前になったのか、当然意味があります。
これが後の伏線になるわけですが、まあそこまで続けばいいですね←
それでは次回、【神の威厳って一体……】
お楽しみに!