え?タイトルが次回予告と違う?知りません、えぇ。
「よし、じゃあ早速始めるぞ野郎どもぉぉぉぉ!!」
おーー!というむさ苦しい男達の叫びが聞こえてくるのは、神社から少し離れた林の中だった。
その場にいる何人かの男達を統率しているのは、諏訪子の側近っぽい神子。因みに盃もそこにはいた。
朝四時に神子に叩き起こされ、無理やりに連れて来られた盃は若干不機嫌そうにしながらも手を出そうとはしない。
目をこする盃を尻目に、神子を含む男達は右腕を上げてテンションを上げていく。
なぜそんなテンションを上げるのか是非とも問いただしたい盃だったが、言葉を発せないためストレスしか溜まらない。
すると、そんな盃へ神子が近付いてきた。
「よーし盃ぃ!ここに来たからには同志だ!異論は認めぬ!」
何をする気だ?と思いながら首を傾げる盃。
そんな盃の前で、神子は勢い良く息を吸い、
「皆の者、とぉぉぉつげきぃぃぃぃ!!」
神子の合図と共に、男達は一斉に走り出した。
その男達の先には、恐らくまだ眠っているであろう巫女達のいる本堂。
そう、恐らくは寝ている巫女達にイタズラでも仕掛けようとしているのだろう。
「作戦通りに動けよお前ら!机を寝ている巫女達の頭の上に設置して、起きた瞬間に机で頭を強打する気持ちを思い知らせてやるのだ!」
想像以上に下らないイタズラをしようとしている神子達の後ろ姿を見ながら、盃は軽く息をついた。
記憶を失っているにも関わらず『下らない』と思える辺り、記憶を失う前も同じような性格だったのか。と盃は思いながら、足を進める。
目指す先は諏訪子の部屋。
「はーい、残り1000秒ー」
諏訪子は指で時間を数えながら口に出した。
その諏訪子の前には、逆さ吊りにされて500秒ほど経ち、もう全身の血が頭に昇ったであろう神子が一人。
神子は顔を真っ赤にしながらも、その状態で口を開く。
「反省もしてないし後悔もしてない。なぜなら、これが俺だから!」
イタズラがばれて、尚も胸を張る神子。因みに、一緒に神子といた男達は逃げ切ったようで、神子一人置いていかれて捕まったようだ。
諏訪子はそんな神子の言葉に、少し呆れたように顔を押さえた。
「どう思う……?いつも通りなんだよ?これ……」
ご愁傷様です、と盃は言おうとしたが、言葉が出せない為、頭を一回下げて表現した。
盃が頭を上げると、その顔を諏訪子がマジマジと見ていた。
「ねえ、そういえば盃って、ここに来てから一言も言葉発してないよね?」
首を傾げて、そんな言葉を発した。
盃も首を傾げる。
盃は記憶が無い。当然、自分の声が失われた理由も覚えてなどいない。
「あれですよ諏訪子様。話すも涙、語るも涙の」
「確かに涙も出るね。主に自分の神子の不甲斐なさに」
軽口を叩く神子を背中越しに応答して、諏訪子は盃の額に掌を当てた。
記憶喪失になる原因として、一番有力かつ有名なのは、頭に強い衝撃が走る事だ。
そのため、諏訪子は盃の脳を調べているのだろう。
数分ほど経った。
だが、諏訪子は頭を横に振った。
「ダメだね、脳に『異常が無い』。原因不明だよ」
脳の細胞が破壊されたとか、そういうものでは無いらしい。
そう、なんの異常も無く、本来なんの問題も無い脳との事だ。
「でもそれは、脳が変化を起こした形跡が無いってだけでね?盃、君の脳は元々の形が変だよ」
その言葉に、盃は少し首を傾げる。
「脳には『能力器官』というものがあって、本来は人間一人一人に、一つずつ、その能力器官があるんだけど……」
諏訪子は一旦口を休めて、続ける。
「君の脳には、それが『4個』ある」
その言葉にあまりしっくりきて無いのか、盃は分からないといった様子で首を傾げた。
むしろ、驚いた表情をしたのは神子だった。
だが、そんな神子の様子に気付かない諏訪子は話を続けていく。
「本来、能力は一人一つなんだよね。もしかしたら、四つの能力が何か影響を及ぼしているのかも?」
四つの能力。
一つは『エネルギーの変換と操作』だろうが、当然、盃はそんな記憶は無い。
盃は能力と言われて、ただ困惑したような目で諏訪子を見た。
その視線を受けた諏訪子は、ゆっくりと首を振る。
「私には、その能力の本質。つまり、どんな能力なのかを知れる力は無い。だからまあ、記憶を取り戻す一歩を踏めたって感じで受け止めてよ」
一歩。
確かに『能力が複数個ある』というのは前進だろうが、根本的な解決になるとは思えない……というのが盃の意見だった。
まずは能力について考えるか?と盃は少し考えて、改めて顔を上げた。
そして、その目には映った。
諏訪子の背後で、訝しげな表情を作る神子が。
普段飄々としていた神子が、今の会話で何を思ったのか、目を細めて盃を見ている。
だが、盃が自分を見ていると気付いた神子は、あからさまに表情を変え、
「まー諏訪子様の助言があっていれば、の話だけどな〜」
「なっ!……あと500秒追加ね」
「ちょっ」
そりゃ無いですよ、と文句を言いながら、神子は何時もの神子としてそこにぶら下げられていた。
でも、盃には何故か忘れられなかった。
神子の、先程までの表情を。
「あ、そうだ盃。神社内を見て回りなよ。どうせ暇だろうし」
とりあえず、と言った様子で盃は襖を開けて外に出た。
その時の神子の不気味な笑みは、誰も見ていない。
ーーーー
見て回ると、神社内は中々広い。
何人かの巫女が箒を持って地面を綺麗にしていたり、少数だが、お参りに来ている人もいる。
盃は神社の隅にあったベンチに腰をかけ、少し息を吐いて、考えを纏めた。
(まずはこの状況に慣れる所から始めないといけないだろうな……能力とか意味も分からんものを考えるより、まずは安全を確認しないと……)
そこでふと、自分自身の違和感に気が付いた。
そう、失った記憶は『名前』と『能力』と『自分の築いた人生』の三つに関してのみ。という事が分かったのだ。
でなければ、言葉は発せず、状況も分からず、意思表現も出来ず、下手したら空気の取り込み方も分からず窒息死していただろう。
記憶喪失といっても、そこまで悲惨なものでは無いのかもしれない。
そう考え、少し盃は不安を拭い去る事が出来た。
考えすぎは良くないと、盃は首を横に振って思考を振り払う。
と、そこへ新たな情報が巫女達の口から聞こえてきた。
「大和からの攻撃、あまり来ないわね」
「確かに、ここ数日は爆撃が無いわ」
攻撃、爆撃。
記憶喪失とは違う、全く別問題の言葉だった。
数日は、ということは、その前は攻撃を受けていたのだろう。
諏訪子と神子と巫女。
一見平和そうに過ごしているここの連中は、恐らく何か問題を抱えている。
盃は一息、ため息をついて神社回りを見渡した。
よく見てみると、凹んだ形跡のある地面や、明らかに別の土を被せて埋めたような跡がある。
神社本体もそうだ。屋根の一部が破壊されており、無理やり修復した場所が見えて、少し古びた印象を醸し出している。
(……つうか、こんな状態の場所で、あの神子はイタズラを仕掛けようとしていたのか?だとしたら、あれは縛り上げられて当然だな)
というより、あの神子は少しおかしい。
昨日出会ったばかりの盃は、それでも少しはそう感じていた。
神社のムードメーカーのようなものなのだろうが、漂うオーラが何か違う。笑顔の裏に何かを隠してそうな、そんなイメージ。
(……少し、警戒でもしとくか?)
「と、思わせといてからの〜……俺、見★参」
いつの間にか隣に座っていた神子に本気で驚いた盃は、ガタッとベンチから立ち上がった。
驚きの目で見る盃に、神子は柔和な笑顔を見せながら首を傾げ、頭上に『?』のマークを出しながら盃を見た。
「ハッハッハ、なになに?なんの考え事かな?なんにしても考えすぎは良くねェな〜」
ベンチの上で高速回転しながら神子は言う。
もはや彼に物理法則が味方しているとは思えない動きだったが、それを無視して盃は神子に神経を集中させる。
警戒されていると分かったのか、神子は回転を止め、ベンチの上に立ち上がった。
その顔には、少し不満そうな表情が浮かんでいる。
「警戒すんのは分かるぜ?ハッハッハ。まあ安心しろよ、取って食ったりはしねぇよ。不味すぎて話になんねぇもん」
神子はベンチから飛び降りると、人差し指を立てて、
「なあ、一つ質問」
『?』
「お前は今、『声を操れる』のか?」
その言葉は、盃には意味の分からないものだった。
それを『声が出せないのか?』と解釈して、盃は首を横に振った。
すると、神子は少し目を細めて盃を見た。
その視線の先は、盃の首。
声帯のある位置。
少しの間、盃と神子は一歩も動かなかった。
数分経った後、神子はフゥと息を吐いて、いつもの笑顔を顔に出した。
「くっはっはっはっは!!まあどうでもいいか!!ほらほらぁ、そんな無表情じゃなくて、もっとハイテンションに行こうぜ!!」
盛大に笑う神子だったが、盃は真剣に笑えなかった。
さっきまで、ドロリと、全身に纏わり付くような空気が場を支配していたからだ。
今の盃の目には、不特定の姿を持つ、気持ちの悪い人間の姿が映し出されている。
「……あー」
突然、神子の笑みが止まった。
その目は遠くを見つめている。
「おーおー、来やがったな。しかも何人だ?今回は本気で宣戦布告でもしにきたのかね」
盃も釣られるようにそちらの方向へ目を向けるが、何も映らなかった。
神子は悪戯をしようとしている子供のような笑みを浮かべながら、視線の先の何かを人差し指で指差し、軽く上下に動かす。
その行動は何を意味していたのか、盃には分からない。
ただ、その行動の後の神子の表情は、少し満足したようなものに近かった。
「んー、さてと。なあなあ、諏訪子様からかいに行こうぜー!」
諏訪子のいる神社を指差しながら、神子はいつものテンションで話し出した。
先程のまるで別人のようなテンションと、今のうるさいくらいのテンション。
どちらが本当の『神子』なのか、盃には測れない。
ただ思える事は一つ。
気味の悪い。
ーーーーーー
地球の大爆発から少しの時間が経った。
ロケットの中に座る人々は、前から襲いかかってくる圧力に耐えるように、目を瞑っていた。
その中で、明らかに圧力など気にしていない人間が四人。
だが、その四人は他の人々とは比べ物にならないくらい辛そうだった。
その四人は、地球で引き起こされた爆発を起こした人を知り、それを前に何もすることが出来なかった者達である。
四人の間の空気は、その四人から発せられる負のオーラにより捻じ曲がっている。
青い服を着、扇を持っている女性が、ゆっくりと口を動かした。
「申し訳……ございません……私が、皆さんを気絶させておきながら……何も……」
絞り出すような声だった。
それを聞いた三人のうち、青髪の少女は俯いて口を開く。
「私こそ……何もせず、ただ怠けてただけだった……」
その声は震えていた。
それを聞いた長刀を持った赤い服の女性は、歯ぎしりをして、悔しそうに口を開いた。
「私こそ……呑気に寝て……!!こんな時に!」
ギシギシと彼女の剣が音を立てる。
それを聞いた青と赤の服を着た女性は、頭を抱えて呟くように言った。
「私も……自分で作った薬に眠らされているんじゃ、なんの為に……!」
四人は小声で言い合う。
そんな事をした所で何が変わるわけでもない。
あの爆発で生きている筈の無い。更に豊姫や月夜見の話では深手を負っていたという。
喜牙は、恐らく死んだ。
それはもはや決定事項。
だからこそ、四人の士気はドン底にまで下がっている。
と、そこへ。
「目標の星への到達を確認しました。今から着陸体勢に移ります」
兵士の一人から連絡が入った。
次回予告……はアテにしないで下さい!
次回【襲撃!諏訪の統括する村】
お楽しみ……に?