なんだか怪しい神子。
今回のあらすじ
とりあえず次回予告通りの内容に出来て良かった。
盃は神子を押し退けて、神社下の村に来ていた。
全体的に人は多く、色々な人とすれ違っていく。
ただ、屋根が破壊されている所などを見ると、完全に平和というわけでは無いだろう。
今はたまたま平和というだけで、いつこんな事をした奴が来るか分からない。
とは言え……。
(平和すぎて実感が沸かないな)
『神子』とか言う存在以外に気を張る人物はいそうに無く、住めばそこそこ安心できそうな場所に感じられる。というのが盃の意見だった。
諏訪子は祟り神らしく、その力を恐れて妖怪という存在は入ってくることは無い為、あながち間違いではないかもしれない。
(まぁいいか、平和で何が悪い。朝早くに起きすぎたし、ちょっとその辺で昼寝といく……ん?)
ふと目を凝らしてみると、村の入り口付近から何かが歩いて来ていた。
一人二人ではない、おおよそ三十人くらいの大所帯だ。
ピリピリとした空気を撒き散らしながら、尚もその人達は道を進む。
商売中の人も、荷物を抱えた女性も、腰の悪そうな婆さんも、全てを無理やりに押し退けながら近付いてきた。
盃は眼中に入っていない。
彼らが見据えるは、村の頂点に立つ巨大な神社。
とくに、その軍団の一番前を歩く、締め縄を巻いた紫髪の女性は闘気を放出しながら進んでいた。
まるで軍隊。
これから戦争でもおっ始める気なのかと疑うほどの闘気。
その圧倒的な光景を前に、盃は動くことを忘れていた。
「……ん?」
先頭を切る締め縄の女性は、自分達を前にしても道を譲ろうとしない盃を見て、怪訝な顔をした。
「すまないが、そこを退いてくれ。我は諏訪の神に用がある」
それを聞いた盃の脳には、諏訪子の姿が頭に浮かんだ。
この軍団を見た村の皆は、明らかに良い顔だけはしていなかった。
「……お?」
締め縄の女性の目が移る。
盃の背後から歩いて来た、白い神子服の男へ。
「どーも神奈子さん」
「ふむ。以前の話し合いの時に諏訪子の隣に居た神子か」
神奈子と呼ばれる締め縄の女性は、腰に手を当てて、神子を見下ろす形で話を進める。
「で?あけ渡す気にはなったか?」
「我らが主、諏訪子様は諦めていませんよ。ならば当然、我ら巫女も諦めません」
ふっ、と薄く笑うと、神奈子は自分の背後にいる男達を肩越しに指差し、
「我らの戦力は、少なくとも100人以上の神だ。そちらは諏訪神一人に巫女数人。もはや勝敗は決まったも当然だろう」
だから諦めろ、と暗に要求してくる神奈子。
対して、神子はいつも通りの薄気味悪い笑みを浮かべて神奈子を見据える。
「それを決めるのは俺では無く、主・諏訪子様ですから」
「ふっ、違いない」
神奈子が軽く笑うと、神子は踵を返して背を向けた。
「付いて来て下さい。存分に話し合いましょうか」
神子が歩み始めると、神奈子達『神』がそれについていく。
どこに行く気なのかは分かる。恐らく諏訪子の元だろう。
なんの話をする気なのかは分からない。だが、その場の空気から、ロクでも無い話である。という事くらい盃は分かった。
「おい」
気付くと、締め縄をした女性は既にその場にはおらず、代わりに図体のでかいおっさんが佇んでいた。
見てみると、神奈子の率いる神の軍勢は少し遠くを歩いており、俺は取り残されていた。
だが、この男の纏う雰囲気は、あの神奈子の率いる『神』のものに類似していた。
恐らく、この男は最後尾を歩いていた神奈子の部下。
その男は、僅かな怒気を放ちながら盃の顔を睨みつける。
「貴様、なぜ神奈子様の道を閉ざしていた?たかだか人間風情が」
筋肉のついた腕を回し、彼は呟く。
「これは……お仕置きが必要だな」
その言葉と共に、男の怒気と殺気は一気に膨らみ、爆発した。
それに気付いた時には、もう遅い。
何が起きたかを知る前に、盃の肉体は遥か後方に弾き飛ばされていた。
「!!おいそこ!何をやっている!!」
騒ぎに気付いた神奈子は振り返り、男の神の姿を見て怒鳴る。
だが時すでに遅し。
盃の肉体は10秒ほど滞空すると、民家の壁に背中から叩きつけられた。
壁を容易くぶち破り、土煙を上げる。
顔面に鈍い痛みと、背に鋭い痛みが同時に襲いかかる。
(あ……ぐ、がッ……)
盃は痛みを堪えながら顔だけを神に向ける。
土煙で視界は遮られている。それでも、溢れんとする殺気で大体の位置は掴めた。
痛む体に鞭を打ち、なんとかその場から離れようとする。
数歩横に動いた。
その瞬間、先程まで盃が倒れていた位置に何者かが空から着地した。
盃を殴り飛ばした神だ。
その巨大な神は白い歯を見せながらニヤリと笑うと、盃の顔より大きな手で、盃の頭を掴み上げようとする。
それを見た盃は咄嗟にステップを踏み、そのリーチから逃れる。
神の手はからぶった。
だが、神は止まらない。
腰を落とし、レスリングのように構えると、地面を蹴って盃の眼前に迫る。
能力を使えず、更にダメージで細かな動きが出来ない盃に、それを避ける事は不可能だった。
神の魔手が、盃の脳を握り潰そうと……。
「オ イ 」
神の魔手は何者かの言葉によって止められた。
男の神の殺気を丸ごと呑み込むかのような、圧倒的な殺意の塊がぶつけられる。
男の神の額に汗が流れ、先を歩いていた神達も騒ぎに気付きながら、その声を発した神から視線を逸らそうとしていた。
締め縄をした神。
神奈子と呼ばれていた存在。
それが殺気を撒き散らしながら男の神を睨んだ。
ビクッと肩を震わせて、男の神はその場で膠着してしまう。
「お前は何をしている。我々は話し合いに来たのだぞ」
神奈子が言う。
「で、ですが神奈子様、こやつは我等の道を」
「黙れ!」
神奈子の一喝に、男の神は子供のように縮こまる。
先程まで武力を振りかざしていた者とは思えない。
「いいか。我々の方が強いとは言え、ここに申し出に来た側。つまり我等は客。主であるここの人間にはそれなりの敬意を示すべきだ」
男の神は返事をしなかった。
一息はいて、神奈子は盃を見た。
殺気は全て引いており、辺りは静寂を取り戻している。
「大丈夫だったか?すまないな、うちの者が無礼を」
一言謝罪すると、神奈子は踵を返して自分の部下達の待つ場所まで戻った。
いや、戻ろうとした。
だが、神奈子は自分の目の前に出てきた神の姿を見て動きを止めた。
「これはこれは。我の方から出向こうと思ったのだがな」
「……残念ながら私とて、自分の領域に入られた挙句、ここの住民に手を出した所を見せられたら、見てぬ存ぜぬは無理だね」
そこには、神奈子より一回りも二回りも小さい子供のような少女がいた。
カエル帽子を被り、手に鉄の輪を持つ少女。
ここの村を統括し、ミジャクジを従え、悪事を行う者に制裁を加える神。
諏訪子。
祟り神。
いや、祟り神『ミジャクジ』を統括できる唯一の神。
「大丈夫?盃?」
諏訪子は盃を見て、そう言った。心配そうな顔だ。
盃は無言で首を縦に振る。
それを見て諏訪子は安心したような表情を作ると、キッと神奈子を睨みつけた。
「怖い怖い、今日こちらは争いに来たわけじゃないし、もっとフレンドリーにいかないか?諏訪の神よ」
「争いに来たわけではない?どうだか。先に手を出したのはそちらだろう、大和の神」
二人の間に険悪な空気が流れる。
だが、実際に敵意を向けているのは諏訪子だけで、神奈子は余裕すらあるように見える。
神奈子は諏訪子の貫くような視線を浴びながら、諏訪子の手にある鉄の輪をチラリと見た。
「ほう、ご丁寧に武装までしているのか」
「……元々私はここの住民が手を出されたから来たんだよ。武装もせず、暴れている神の元へノコノコ出ていくとでも?」
苦笑をする神奈子へ、諏訪子は更に言葉を発する。
「それに、武装をしているのはあんたもじゃないの?」
見透かしたかのような諏訪子の視線に、神奈子は薄い笑みを浮かべた。
神奈子は掌を天に掲げる。
直後、上空より何かが飛来した。
それは荒々しい音と砂を撒き散らし、地面に佇む。
それを見た諏訪子は僅かに眉を潜め、ポツリと呟く。
「……御柱、か」
「更に神力で硬質化させた特注品だぞ?」
御柱の表面に優しく触れながら、神奈子は改めて諏訪子の目を見た。
「さて、では我がここに来た目的を単刀直入に言わせてもらおうか」
神奈子は自身の何倍もある御柱を片手で地面から引き抜き、それを諏訪子へ突きつける。
「ここの土地と信仰を寄越せ……我々の力は、ここ数日で見た筈だ」
ここ数日で我々の力を見た筈。
その言葉で、盃は神社や土地の爆撃跡が誰の仕業なのか察した。
対して、諏訪子の目の鋭さは更に増し、鉄の輪を持つ手に力が更に加わる。
「ふん、断るね。軽々しく開け渡すもんか」
神の答えを聞いた神奈子は、残念そうに目を瞑った。
「ふう、なら……避けられない、か」
次の瞬間、神奈子の目が闘気を帯びる。
諏訪子と神奈子、二人の神のおわす空間、その中心に火花が散った。
今までの精神的なものではなく、物理的物体による干渉によるものだ。
御柱と鉄の輪が衝突を起こした。
せめぎ合う二つの力。
諏訪子は拮抗する片手の鉄の輪から意識を離し、もう片手に握られた鉄の輪を、御柱により両手を封じられた神奈子へ投げつけた。
鉄の輪が空を切る。
だが、神奈子はそれをかわそうとせず、逆に御柱を握る手に力を加えた。
「ッ!!」
いきなり倍加した力の前に、諏訪子は簡単に弾き飛ばされてしまう。
そして神奈子は、その勢いのまま横から迫り来る鉄の輪を弾いた。
弾き飛ばされた鉄の輪は、持ち主の手に戻る。
諏訪子の両手に武器が戻るのを確認したあと、神奈子は躊躇なく地面を蹴った。
諏訪子も負けじと構える。
二人を中心に、破壊が散る。
周りの神達は、まるで祭りでも見ているかのような雰囲気で神奈子を支持していた。
対して、諏訪子支持の民達は、その神達に恐れて隠れている。
周りの空気に流されるのなら、間違いなく神奈子が勝つだろう。
だが、そんな中でイレギュラーが二人。
一人は、何もせず呆然と立つ盃。
もう一人は、
「あ〜……フレッ!フレッ!諏訪子様!はいフルコーラス!」
「「はい!はい!諏訪子様!!」」
いや、もう一人では無かった。
一人の神子を中心に、『罪』と書かれてある袋を被った、上半身全裸の男達がいる。
味方でも近寄り難いオーラを放出するその奇怪な集団は、どこから持ってきたのか分からない『I LOVE 諏訪子!』と書かれた旗を振っている。
「あー……貴様罪袋A!声が足りてないぞ!」
「すみません神子様!そして私は罪袋Cです」
敵である神も、味方である農民も、全てがその集団に近付こうとしない。
そして盃は無言で距離を取った。
そんなバカみたいな中、二つの神は全力で戦い続ける。
「はっはァ!それで終わりか、諏訪の神!疲れが見えるぞ!」
「疲れてんのはアンタでしょ!あんたみたいなババアと私のスタミナ、一緒にしないで欲しいね!」
その言葉を言った瞬間、神奈子の動きが急激に止まった。
「……いま、なんて言った?」
肩を震わせる神奈子を見て、諏訪子は『?』と僅かに首を傾げ、言う。
「だから、お前みたいなババアと私のスタミナを一緒に」
「誰がババアだ!」
その神奈子の怒号を合図に、天より御柱が新たに召喚された。
数十本もの巨大な御柱が雨のように降り注ぎ、地面を文字通り叩き割っていく。
その攻撃は諏訪子のみを狙った攻撃ではなく、自分を中心とした全方位に攻撃を仕掛けるもの。
故に、逃げ場は無い。
諏訪子は宙にフワリと浮かび上がり、御柱の隙間を縫うようにして動き回る。
「ちょっ、そんな攻撃をしたら周りに被害が出る!止めろ!」
諏訪子の言葉一つでは、攻撃は終わらない。
御柱は次々と降り注ぎ、更には仲間の神達の上空にすら出現した。
「え?う、ああぁ!?」
いきなりの誤爆に、神達は驚きながらも散開した。
が、数が多いのが仇となったのか、お互いがお互いの足を引っ張り合う結果となり、上空から放たれる御柱をかわせなかった。
「ギャアアアァァァァア!!」
断末魔と共に神は踏み潰されていく。
半分以上の神は御柱によって踏み潰され、残った神は全て空を飛んで逃げていった。
踏み潰された神は形を留めなくなり、光の粒子となって空中で分解されてしまう。
そんな中、神子達の方へ攻撃が行かない訳も無く、
「オオワァァァァァ!!!」
罪袋と呼ばれていた男達は全力で逃げていた。
諏訪子応援グッズを大切そうに抱きしめながら、全力で。
だが、
「ほ、とっと、はい頑張れ諏訪子様ー!!」
神子だけは違った。
踊るようなステップを刻みながら、その御柱の攻撃をぬるりとかわしている。
(本当に何者なんだ?あいつ……)
避け続ける神子を無表情のまま見つめる盃。
そこへ、
「ッ!!盃!!!」
諏訪子の叫び声を聞いて、盃は我に返った。
その目に最初に映ったのは、地面。
いや、その地面に映る何らかの影。
「ッ!しまった、私とした事が!!」
怒りから目が覚めた神奈子は、盃の上空を見て叫んだ。
何があるのかと思いながら、盃は上空を見た。
御柱。
そこには、神をも簡単に踏み潰せる、神奈子の武器があった。
諏訪子が鉄の輪を放ち、神奈子が御柱を投げつける。
だが、どう考えても間に合わなかった。距離が空きすぎている。
咄嗟に盃は目を瞑り、頭を守るように両手を上に出した。
反射的に行われた行動。
だが、盃の細腕で受け止め切れる力の大きさでは無い。
直後、
何かが溶ける音がした。
次回 【能力……!?盃の力・他の世界の住民】
次回はとある人とコラボをして、その人のキャラを出させてもらいます!
これで次回のネタは稼げました←