地獄のヒーローになった男、青春に憧れる。   作:ナマエナガ

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さて、デンジ君はビナーに勝てるかなぁ?


地獄のヒーロー

 

ヴヴン!!

 

チェンソーが頭と腕から飛び出す。久々の変身に鈍い痛みが走るが、それも変身した後の今なら心地よくすらある。

 

息を吐き、両腕のチェンソーを構える。眼前にいる白ヘビ野郎を睨んで攻撃を警戒する。

 

すると、白ヘビ野郎が俺に吠えた。空気が軋むような、鈍重な金切り声が砂漠に響き渡る。

 

「ハッ!元気いっぱいってかぁ!?いいぜ!かかってこいよォ!」

 

俺の声に答えるかのように白ヘビ野郎からミサイルが飛んでくる。それを砂漠を駆け抜け、避けながら接近する。

 

「たかがミサイル程度に怯むかよォ!」

 

砂漠を飛び上がり、白ヘビ野郎の身体にチェンソーを突きつける。チェンソーは瞬く間に装甲を切り裂く…かと思いきや、堅牢な装甲は浅く傷が出来るだけで大したダメージにはなっていない。

 

「カッテェなぁ、オイ!」

 

一度の攻撃でダメなら何度も攻撃するだけだ。俺は白ヘビ野郎の巨体を駆け回り、ひたすらにチェンソーを振り回す。

 

だが、コイツもただ俺の攻撃を受け続けるつもりはないらしい。その巨体を激しく揺さぶり、俺を振り落とそうとしてくる。

 

「ヤベェ!ってマジィ!?」

 

落下と共に飛来してくるミサイル。空中で身動きの取れない俺はそれをまともに防御も出来ずに食らってしまう。

 

ボンッ!ボンッ!バァン!!

 

更に、ミサイルに気を取られた俺は白ヘビ野郎が振るってくる尻尾に気付けず…

 

「グベェ…!」

 

ペシャンコに潰されてしまった。

 

潰れた体で震える右手に力を入れる。スターターになんとか指をかけて、精一杯引っ張る。

 

ヴヴン!!

 

「ア゛ア゛!!クソ痛え!!」

 

白ヘビ野郎の第二撃が来る前に回復し、砂漠を駆ける。注意深くヤツの周囲を駆け回って様子見をする。

 

その合間にもミサイルは飛んでくる。背中に爆発の熱を感じながら避け続ける。

 

「ハァ、クッソ…あんなのどうすりゃ倒せんだよ…!」

 

無尽蔵に飛んでくるミサイル。ただ動くだけで砂嵐を起こす巨体。与えた傷が無意味になる堅牢さ。まさしくバケモノ。悪魔よりも悪魔してるぜ。

 

膠着した状態に痺れを切らしたのか、白ヘビ野郎は口を開いて俺を睨む。口の奥、喉の方から段々と光が灯って…

 

「オイオイ!そんなん反則だろうがよォ!?」

 

アツィルトの光。

 

その極光が白ヘビ野郎の口から飛び出る。それは真っ直ぐに俺を狙って、砂漠を駆ける背中を追尾する。

 

「防戦一方じゃどうにもなんねぇか!」

 

覚悟を決めて白ヘビ野郎に接近する。側面から回り込み、ヒットアンドアウェイを繰り返す。白ヘビ野郎も自分のビームで自爆することを恐れたのか、ビームを出すのをやめてミサイル攻撃と単調な物理攻撃にシフトした。

 

「ビームも厄介だけどよォ、一番ヤベェのはコイツの硬さだなァ!」

 

カチカチの装甲はチェンソーの刃からコイツの体を守っている。お陰で傷つけられても表面だけで深くダメージを与えられない。

 

そんなとき、白ヘビ野郎の尻尾が振るわれる。これを食らうのは二回目だ…!もう食らわねぇ!

 

「ハッ!同じ攻撃が二度も効くかよォ!」

 

咄嗟にその場から後退し、尻尾を避ける。

 

だが刹那、砂煙が消えるとビームを溜めている白ヘビ野郎の姿があった。白ヘビ野郎は砂煙のせいで攻撃を予測できなかった俺に向かって口を開き…

 

「ヤベッ…」

 

ジュッ、と肉が焼ける音がする。俺の下半身は光に飲まれて蒸発してしまった。砂漠に俺の上半身だけが倒れ伏す。

 

更に白ヘビ野郎はトドメと言わんばかりに尻尾を振り上げ、俺に振りかざした。

 

「アギャッ、グベェッ」

 

白ヘビ野郎の瞳が、砂漠の光を反射してギラリと光った。まるで「虫けらでも見るような目」だった。

 

白ヘビ野郎は倒れた俺を視界から外してユメ先輩の背中を睨んだ。どうやら一人も生かすつもりはないらしい。その巨体を操ってユメ先輩を追いかける。

 

砂の熱が、血と一緒に体から抜けていく。視界の端で、ユメ先輩の白い影が揺れた。あぁ……クソ、まだ……終われねぇ。

 

俺の血が砂上にダラダラと流れ出る。輸血パックは持ってきてねぇし、取り込めるような血なんて…いや、ある、俺の血が…!

 

「うぅ…ア〜、ングッ!」

 

ボロボロの体を引きずって破れた砂上の血に口を付ける。砂が口ん中にこびり付いてジャラジャラと鬱陶しい。喉を鳴らして血を飲み込むと僅かに回復した手でスターターを引っ張る。

 

ヴヴン…!!

 

「ハアッ…!ハァッ…!なんとか、死なずにすんだぜ…」

 

ペッ!と砂を吐き出して、震える足でなんとか立ち上がる。白ヘビ野郎の背中を睨みながら息を整える。

 

「クッソ…!ペチャンコにしたからって勝った気になりがって…まだ勝負は終わってねぇんだよ!」

 

ヴヴ…ヴヴ……

 

気合を入れてスターターを引っ張る。だが、流石に血を使いすぎた。貧血のせいでチェンソーがちょっとしか出ない。

 

「う…流石に限界か…」

 

それでも諦めるわけにはいかない。弱った状態のユメ先輩はまだ白ヘビ野郎から逃げ切れてねぇ…せめて気を引くことくらいはしねぇと…

 

白ヘビ野郎を追って砂漠を駆け出す。幸い、まだ距離は離れておらず上昇した身体能力を生かして追いかける。

 

「ユメ先輩はやらせねぇぞ…!まだ一揉みもしてねぇんだからよォ!」

 

だが、そんな俺の声なんて知らず白ヘビ野郎はユメ先輩を付け狙う。白ヘビ野郎の口が開いて段々と光が収束していく。

 

「はぁ…はぁ…」

 

白ヘビ野郎を背にして走るユメ先輩。だが砂漠による遭難を経た肉体はまともに走ることさえできず、体力が尽きると膝を付いて止まってしまう。

 

白ヘビ野郎の光が、輝きを増していく。

 

「おい…おい、そりゃ、ないだろ…ユメ先輩、ユメ先輩!」

 

どうする!?白ヘビ野郎に攻撃してビームの軌道を逸らすか!?いや無理だ。今の俺にアイツの体をぶっ飛ばせるような力はない。

 

じゃあ、こうするしかねぇじゃねぇか!

 

「ユメ先輩!!」

 

「デンジ君…!?」

 

白ヘビ野郎が光を吐き出す。俺はユメ先輩に駆け寄って力いっぱい、ユメ先輩を突き飛ばす。俺の腕がモロにビームを食らい、二の腕から先が蒸発する。全身に焼けるような痛みが走る。

 

だが、これでユメ先輩は助かった。助かった…はずなのに…

 

「ハァ…ハァ…ユメ先輩、大丈夫ッスか…?ユメ先輩…?」

 

…なんで、ユメ先輩が腹から血を流して倒れてんだよ…なんで、腹が抉れて内臓が出てきてんだよ…

 

「ユメ…せんぱい…」

 

「ぁ…デ、ンジ…君…」

 

心臓がうるさい。ドクンドクン跳ねて静かにしてくれない。俺は力の入らない体で地面を這ってユメ先輩に寄る。

 

「ユメ先輩…ユメ先輩…!」

 

言葉が出ない。色々な感情がゴチャゴチャと渦巻いて口に出す言葉が定まらない。

 

「…デンジ君…ごめんね、こんな、ことに…なって…」

 

ユメ先輩は涙を流し、心底から悔いるように呟いた。小さく微笑んで空を見上げて…まるで、最後のときを迎えるかのように。

 

「ち、がう…!ユメ先輩のせいじゃない…!ホシノを連れてこなかった俺が…弱かった俺が…!」

 

思わず涙が流れる。ユメ先輩が死にかけている…いや、死んでいくこの時間が苦しくて苦しくて胸がズキズキと痛む。

 

「私のこと…大好きって…言ってくれて、ありがとう…私も、デンジとホシノちゃんが…大好き、だよ…」

 

まるで、遺言のようにユメ先輩はそう囁いた。そして、そして…

 

「息、してくれよ…!ユメ先輩…!」

 

二の腕から先が消えた腕でユメ先輩の身体に触れる。ユメ先輩の身体は驚くくらいに早く熱を失っていき、瞳の光が消えていく。

 

息は止まる。血は流れる。視界が歪む。怒りが、胸を締め付ける。

 

「………ハハ」

 

なぜか、笑ってしまう。苦しいのに、痛いのに…それが不思議に思えて笑ってしまう。共にいれると思っていた。ユメ先輩を助けてホシノと三人で抱き合って…これからも三人で仲よくやれると…

 

なんでだ…?ずっとその疑問が頭の中で反芻する。

 

なんで死んだ?なんでこうなった?なんで俺は笑ってる?なんで助けは誰も来ない?

 

――あぁ、もう、どうでもいい。兎に角、今は…!

 

「テメェを…殺す!」

 

身体を黒い鎧が覆う。腕は再生し、下腕から二つに別れてチェンソーが飛び出る。頭部には鋭利な数本の棘が伸び、体躯が一回り大きくなる。

 

腹から腸が飛び出し赤いマフラーのように首に巻き付く。もはやデンジの様相は微塵もなく、純粋な悪魔がここにいる。

 

マキマ曰く、地獄のヒーロー。誰かが助けを呼ぶとやって来る。多くの悪魔が恐怖し、多くの悪魔が崇拝したチェンソーの悪魔。

 

ビナーは恐怖した。デンジが突然姿を変えたから、という予想外の事実も一因ではある。

 

だが、最大の理由は…

 

その佇まい。その雰囲気。ただいるだけで見たものに死を連想させるオーラ。機械仕掛けの預言者は心底恐怖した。ないはずの心が震えてしかたない。

 

……砂漠の風が止んだ。

 

ヴヴン

 

チェンソーの回転音だけが、静寂を切り裂く。

 

ビナーは、理解した。

——“死”が、歩いてくる。

 

「ヴァア…」

 

小さく、うめき声が木霊する。その呟きにビナーは後ずさる。自身を超える"ナニカ"が自身を襲ってくる。そう身構えたとき…

 

ザンッ!

 

倒れた。自身の身体が、何等分にもされて砂上に横たわる。

 

なん、だ?なにが…

 

何が起こった!?何をされた!?理解不能!再現不能!解析不能!なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ!?!?!?!?!?全てのリソースを動員しても今の動きを理解できない!!

 

視界に映る黒いシルエット。ビナーは刻んだ。己の記憶領域に深く刻み込んだ。この悪魔を、このバケモノを、忘れてはいけないと。

 

ビナーの頭部にチェンソーを突き立てる黒い体躯。そして、ビナーの意識はプツリと途絶えた。

 

◎ アビドス高校・校門前

 

「ユメ、せんぱい…うぅ…あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」

 

気付いたら、ユメ先輩を抱えてアビドス高校まで戻ってきていた。ホシノが、ユメ先輩の亡骸を抱えて泣き叫んでいる。

 

俺は…俺は、ただぼおっとしていることしかできなかった。何も感情が湧いてこない。悲しくもないし、楽しくもないし、怒っているわけでもない。

 

ただ、大切な何かが胸から欠けてしまった感覚がけがあった。

 

ユメ先輩の亡骸を強く抱き締め、泣き叫ぶホシノは顔を上げ俺を睨みながら口を開いた。

 

「なんで…なんでユメ先輩が死んでるんですか!?なんでデンジがいてこうなったんですか!?」

 

怒り。ただ強い怒りの感情が籠もっていた。

 

「俺が…弱かったんだ。ユメ先輩が出ていったことを知ればホシノは心底から後悔するって思って…」

 

「それでユメ先輩が死んだら元も子もないでしょう!?」

 

その通りだ。こうなるだなんて思わなかった。単に、調子に乗っていたんだろうな…デンジになり、チェンソーマンの力を得て何でもできる気になっていた。

 

そんなとき、ホシノの一声に意識がハッと浮き上がった。

 

「なんで…涙の一つも流さないんですか…!」

 

――やっぱ俺、悪魔らしいわ。

 

◎ ???

 

「クックックッ…いやはや、実に面白い戦いでした」

 

とあるビルの一室。朝日が差し込むオフィスの中で黒いシルエットが笑う。

 

「あの姿…デンジさんの意識は存在していなかったと見ていいでしょう。ビナーでさえも認識できない速度、パワー、精度…クックックッ…とてつもない力ですね」

 

パソコンを通して見ているのはドローンを使い、遠隔から撮影したデンジの戦闘記録。特に真のチェンソーマンに変身したあたりの映像は注意深く見つめている。

 

「私が思うに…デンジさんの失敗は三つ…」

 

彼は語る。特に聞き手がいるわけではない。自らの中で情報をまとめる為に口にするばかりだ。

 

「まず、暁のホルス…小鳥遊ホシノさんに助力を願わなかったこと。梔子ユメさんをビナーの魔の手から逃がすのであれば戦力は一人でも多い方がいいですからね」

 

事実、ホシノであればユメを背負って逃げることができただろう。デンジがビナーの気を引きホシノがユメを守りながら、であれば可能性は十分にあった。

 

「二つ目、これは単純にビナーに挑んだことですね。逃げの一手を取り、ひたすらに距離を取ることに集中すれば、あるいは…塵程度の可能性ではありますが、逃げ切れたかもしれません」

 

デンジとビナーには圧倒的な差がある。大量のミサイルにアツィルトの光、動くだけで砂嵐を起こせる巨体。今のデンジが一人で相手をするにはあまりにも強大すぎた。

 

そんな相手に逃げの一手を取ったからといって逃げ切れるかは怪しいところだ。だが、少ないとは言え可能性があったことは事実。

 

「最後に…クックックッ…デンジさんが普通だったこと、でしょうか」

 

足りない。デンジの戦闘を見て、単純にそう思った。肉体に精神が追いつけていない。まだまだあの肉体にはポテンシャルがあるのに、デンジはそれを引き出せていない。

 

黒い彼は静かにパソコンを閉じて机に膝を付いて腕を組む。静かに笑いながら何処か遠くを見つめている。

 

「私もいい加減、観客の立場にいるのは飽きてきたところです。そろそろ、舞台に立つとしましょうか…」

 

その言葉の直後、オフィスの扉が開いた。

 

舞台に立つ、その始めの作業としてまずは…

 

「クックックッ…それでは、交渉と致しましょう。小鳥遊ホシノさん」




基本的にこの作品のデンジ君はチェンソーマン原作のデンジ君より弱いです。
黒服が言っていたようにイカれ度合いが足りないのと、戦闘経験が足りないので引き際や突っ込むべき場面を考えきれないので
チェンソーマン原作デンジ君を10としたらこの作品のデンジ君は7くらいですかね。
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