地獄のヒーローになった男、青春に憧れる。   作:ナマエナガ

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テストって必要っすかね!なんで俺は数学の点数がやったらと低いんだー!


ユメの終わり

◎ アビドス高校・生徒会室

 

デンジがユメ先輩の亡骸を抱えて帰ってきてから、私は何をするでもなくユメ先輩を抱えていることしかできなかった。

 

時間はあっという間に過ぎていって、窓からはオレンジ色の光が差し込んできている。朝にデンジが帰ってきたから、数時間ほどここにいたらしい。

 

そっと、ユメ先輩の頬に触れる。

 

冷たい。綺麗に色づいていた頬は病的なまでに真っ白になって、瞳には光がない。お腹には大きな穴。

 

もう、ユメ先輩が動かないことを確認する度に、涙を流した。叫んで泣いて嘆いて…今は、何もしたくないと思っている。

 

「ユメ先輩…なんで、死んじゃったんですか?」

 

返答はない。ユメ先輩は相変わらず動かず、デンジは今この部屋の外にいる。私を気遣ってか、校内のパトロールをしているようだ。

 

私は、ユメ先輩が死んだ理由を聞いていない。正確に言うなら、聞いてはいるがアレは嘘だろう。

 

デンジはこう言った。アビドス高校を出たユメ先輩は途中でヘルメット団に襲われ、最後には戦車砲をお腹に受けたんだと。

 

でも、そんなはずない。いくら戦車砲を受けたからと言ってこんな傷になるはずがない。デンジは確実に何かを隠している。

 

「なんで…私は、何も知らないんですか…!私だって…私だって…!」

 

仲間だったはずだ。友人だったはずだ。同じ先輩の背中を見ていたはずなんだ。なのに…

 

「私は、ユメ先輩が死んだ理由さえ知れないんですか…!」

 

ギュッと拳を握る。怒りと後悔。グチャグチャになった感情が渦巻いて頭が爆発しそうになる。

 

「…デンジ」

 

兎に角、今は誰かに会いたい。誰かの体温を感じたい。私は一人じゃないんだと、そう思いたい。だから、私は生徒会室を飛び出した。

 

◎ アビドス高校・グランド

 

校内を探してもデンジはおらず、グランドに出てみると隅のベンチにそっと座っているデンジがいた。

 

「デンジ…」

 

名前を呼ぶと私に気付いたデンジがこちらに視線を向ける。

 

「ホシノ…もう、いいのか?」

 

いいわけがない。ただ、今は誰かに甘えたい。

 

「…デンジ、少し、動かないでください」

 

「おう…って、おわっ!」

 

デンジの胸に思い切り飛び込む。予想外の行動にデンジは驚きの声を出したけど、離そうとはせずに優しく背中に手を回してくれた。

 

「デンジ…私は、知れないんですか?」

 

デンジが目を見開く。なにを意味している問いなのか、すぐに察せたらしい。

 

「悪ぃけど、話せない…内容的に、信じちゃもらえねぇだろうから」

 

ということは、相当に非常識なことが起こったんだろう。今のデンジの声には、瞳には嘘がない。きっと、まともな感性では信じられないことが起こったんだ。

 

だから、私には教えてくれない。私だけ、仲間はずれ。やっぱり、寂しい。

 

「デンジは…いなくならないでくださいね」

 

もう、私に残っているものは貴方だけなんですから。

 

そんなとき、スマホが震えた。

 

◎ とあるビルのオフィス

 

「突然…なんの用なのさ、黒服」

 

目の前にいる黒いシルエットを睨む。突然呼び出されたかと思って来てみれば、黒服はいつも通りの笑顔を浮かべて椅子に腰掛けていた。

 

「いつも通り、契約を持ちかけに来たんですよ。クックックッ…今回は、少し…特殊なものになりますが」

 

その余裕綽々な笑みが気色悪くてつい苛ついてしまう。怒りを内心で抑え込みながら"特殊"と聞いてその意味を問いかけようか迷う。

 

だが、黒服が持ちかけてくる契約はろくなものじゃない。それに"特殊"と付くなら更に酷い内容になっているんだろう。

 

聞く気が失せた私は手早く話を終わらせようとツンと言葉を返す。

 

「…いつも通りの取引なら私の回答もいつも通り拒否しかないよ」

 

そう言って黒服に背を向ける。今はユメ先輩の遺体についての対処が先だ。

 

――せめて、安らかに眠れるように、景色の良い静かな丘にお墓を作ってあげたい。そして、またデンジと…

 

そんな私の背中に、黒服から衝撃的な言葉がぶつけられる。

 

「クックックッ…では、梔子ユメさんが生き返るかもしれない、と言ったらどうですか?」

 

「…は?」

 

思わず振り返って黒服を見つめる。黒服は相変わらず不気味な笑みを浮かべていた。

 

「では、契約の内容を説明しましょうか」

 

その言葉を皮切りに黒服はツラツラと言葉を紡ぐ。

 

「私が要求するのはデンジさんの肉体です。生死は問いません。心臓さえ無事なら四肢が無かろうと頭が無かろうと構いません」

 

「…待って、なんでそこでデンジが…それにユメ先輩が生き返るって…!」

 

私は黒服に詰め寄る。机にドンと手をついて黒服を睨む。

 

「理由は教えられませんが、デンジさんは特別なんですよ…それこそ、貴女と並ぶほどに」

 

デンジが特別?…確かに、キヴォトスにはヘイローのない男の生徒なんていない。それこそ、デンジが初めての存在かもしれない。だけど…

 

「私が無理だと分かったから、今度はデンジってこと…!?」

 

「似ているようで違います。単純に、今の私はデンジさんの方に強い興味を抱いているだけです」

 

…驚いた。今まで私に何度もしつこく契約を持ちかけてきたくせに、そんなにもアッサリと諦められるんだ。

 

なんだか、少しだけ安心してしまった。私はもう黒服に狙われてはいないのではないかと、そう思えたから。

 

「それでは、改めて契約について説明させて頂きます」

 

「先ほども言ったように、デンジさんの身柄を渡してください。その対価として、アビドス高校が背負う借金の大半を代わりに返済しましょう。そして、梔子ユメさんの蘇生を試みます」

 

その言葉に、私は思ったままの疑問を口にする。

 

「…ユメ先輩の蘇生なんて、本当にできるの?」

 

「可能性はある、とだけ。」

 

私の問いかけに黒服は指を立てながら段階的に説明を始めた。

 

「まず、死してから48時間以内であること」

 

「二つ目に、破壊された臓器が生命維持の観点から見れば重要性の低い臓器であったこと…

そして、デンジさんの存在があれば、蘇生の可能性は十分にあります」

 

思わず、揺るいでしまった自分がいた。ユメ先輩が生き返る。その甘い言葉に釣られてしまいそうになった。だが、黒服の言葉に乗るつもりなんて今も昔もない。

 

「…話にならない。そんなくだらない話、私は信じない。」

 

「お前みたいな大人の言葉なんて、どうせ嘘なんだから」

 

今度こそここを立ち去ろうと足を進める。黒服はそんな私の背中に言葉をかける。

 

「本当に、そうお思いで?私は契約事に関しては真摯に対応しますが」

 

言葉は返さない。振り向きもしない。もう私はここにいたくない。もう、黒服の言葉なんて聞きたくない。聞いたら、聞いたら…

 

「クックックッ…返事は明日の夜まで待つといたしましょう。期待していますよ、暁のホルス…小鳥遊ホシノさん」

 

「………」

 

私は、期待なんてしていない…!

 

さっきよりも何倍も重い足取りで、私はビルを後にした。

 

◎ アビドス高校・生徒会室

 

生徒会室に戻って来ると、そこにはデンジがいた。静かに机に座って窓の外をぼおっと眺めている。

 

「…デンジ、戻りましたよ。」

 

「ん、おう…そっか、おかえり」

 

曖昧な返事。ユメ先輩の亡骸を抱えて戻ってきたデンジはずっとこんな調子でぼんやりとしていた。

 

…あれから、私達はこんな風にしか会話できていない。

 

先ほどは突然抱き着いてしまったけれど、アレは本当に珍しいことで、ユメ先輩の亡骸を抱えて帰ってきてからまともに会話もしていなかった。

 

ユメ先輩がいないことが信じられなくて、その実感が湧かなくて、まるで雲の上にでもいるかのようにぼんやりとした会話ばかりが繰り返されている。

 

「私は家に帰りますが…デンジはどうしますか?」

 

「俺ぁ、ここが家みたいなもんだからなぁ…柴関ラーメンにでも行くかな」

 

覇気のない声で言って立ち上がるデンジ。財布をポケットに入れると生徒会を出ようと私の横を通り過ぎる。

 

「ここ、閉めちまうな」

 

デンジがガチャリ、と生徒会室の扉に鍵を閉めた。そうだった…今まではユメ先輩が閉めてたけど、もうそれも…

 

「んじゃ、またな」

 

手を軽く上げて別れを告げるデンジ。段々と遠ざかる背中がなんだか寂しくて、私は駆け寄った。

 

「デンジ!私も、ラーメン食べに行きたいです」

 

「え〜、言っとくけど奢らねぇからな?」

 

そんな軽口を交わしながら私達は柴関ラーメンへと向かった。

 

その道すがら、ふと思った。ユメ先輩が死んでしまったから忘れていたけれど、私はこんな時間が好きだったんだ。

 

誰かと気分のままにラーメンを食べに行って、誰かとはしゃいで…

 

夜の道をデンジと歩く。そっとデンジの手を握ると、デンジは優しく握り返してくれた。やっぱり暖かくて安心できる、優しい手。

 

…ただ、空いた片手に違和感を覚えて仕方なかった。

 

◎ 柴関ラーメン

 

「ん…相変わらずウメェなここのラーメンは」

 

「そうですね。人もそれなりにいますし…いつ食べても美味しいです」

 

柴関ラーメンに着くと、いつも通り二人でラーメンを注文して麺をすすっていた。そんなとき、大将が元気な様子で私たちに声をかけてきた。

 

「兄ちゃんたち今日も来てくれてありがとな!今日は二人だけらしいけど…なんかあったのかい?」

 

その言葉に、胸がドキリと跳ねた。

 

…伝えるべきなのだろうか。ユメ先輩はもういないことを、ユメ先輩が死んでしまったことを。私がそう悩んでいると、デンジが口を開いた。

 

「ユメ先輩は風引いて寝込んでるんスよ。本当は三人で来る予定だったんすけど、ユメ先輩が俺らだけでもって」

 

デンジがそう言うと、大将は心配そうな顔をしてくれた。

 

「そうか…なら、また風邪が治ったら三人で来てくれ!その時はサービスするからな!」

 

大将はそう言うとキッチンの方へと戻っていった。私はデンジの耳元に近付いてそっと耳打ちする。

 

「あの…あれでよかったんですか?」

 

「…ああ言うしかねぇだろ。ユメ先輩が死んだなんて…まだ言えるような気分じゃねぇし」

 

デンジの表情は沈んでいて瞳には元気がない。ユメ先輩が死ぬ場面を直視したらしいデンジは笑うことがなくなってしまった。

 

「はぁ…」

 

このラーメンも、ユメ先輩がいればもっと美味しかったのに…

 

◎ アビドス砂漠・郊外

 

ラーメンを食べ終わった後、デンジは途中まで見送ると言ってくれた。共に夜の道を歩いている。

 

デンジは少し先を歩いていて、背中を私に晒している。あの後、私たちは会話が続かず無言ばかりで、静寂が場を包む。

 

ふと空を見上げてみれば星空が綺麗に輝いていた。何故か昨日の夜から砂嵐が止んでおり、天気予報では晴天続きが予想されている。

 

輝く星空に照らされながら、デンジの背中を見る。

 

――今、ここで撃ったらどうなるんだろう

 

…っ!?私は…!私は、何を考えていたんだろう…!デンジを、デンジを撃つ?そんなこと…

 

――でも、それでユメ先輩は助かるかもしれない

 

うるさい!あんなの黒服の嘘っぱちだ!アイツはいつも私を…私たちを利用しようとしているだけで、それで幸せになれることなんて…

 

――でも、幸せにはなれなくても…そこにはユメ先輩がいる

 

でもデンジがいない!それじゃダメだ!ユメ先輩もデンジも私も…三人じゃないと…

 

――じゃないと、アビドス生徒会じゃない?

 

そうだ…!じゃないとアビドス生徒会じゃない!三人でやってきたんだ。たった数日だけど、確実に絆を紡いで、共に努力して…

 

――でも、デンジがいなければこうはならなかったかも

 

…そんなこと、ない。

 

――本当に?本当に、デンジに責任がないとでも?

 

それは…

 

――デンジがユメ先輩を探しに行くとき、私を呼んでいれば?

 

…もっと、早くユメ先輩を見つけられたかもしれない

 

――あのとき…私がユメ先輩と喧嘩したとき、デンジが私を追いかけずユメ先輩と共に生徒会室に残っていたら?

 

…出ていくユメ先輩を、事前に止められたかもしれない

 

――そもそも、デンジと会わなければ?

 

…ユメ先輩は、死ななかった

 

――だから…

 

だから、撃つべきなの…?

 

――それは、()が決めるべきことだよ

 

でも、でも…撃ったら、デンジと築いたものが、崩れ去ってしまう…!一緒にご飯を食べて、一緒に水族館に行って、一緒に星空を見上げて…

 

それを壊してまで、ユメ先輩を選ぶ…?それは、それは…

 

息が荒くなる。胸が苦しくて苦しくて、左手でギュッと握り締める。

 

そんなとき、一つの疑問が唐突に浮かんできた。

 

「デンジ、デンジはなんで…泣いてないんですか?」

 

デンジは、私に背中を向けたまま、静かに立ち止まって僅かな沈黙の後、言った。

 

「俺もよくわかんねぇけど、きっと…悲しくなかったんだろうな」

 

気付いたら、私はショットガンを握っていた。

 

◎ とあるビルのオフィス

 

「クックックッ…意外に早かったですね。さて、色々と準備するべきでしょうか…」

 

彼が見るパソコンに映るのは、背中を撃ち抜かれ倒れるデンジと、それを見下ろすホシノの姿。ホシノはデンジの言葉を待たず、頭に第二射を撃ち込んで完璧に殺していた。

 

相変わらずの監視を通して、彼は笑う。

 

画面越しに広がる光景。一人の人間の脳みそが地べたに広がり、血が道路を埋め尽くす。少女が地面に膝を付いて、光のない瞳で涙を流す。

 

「悲しくなかった…ですか。私の見解としては、それは違うのではないかと思いますがね」

 

――個人的には感覚が麻痺しているだけなのだと思うのですが…それさえ分からないほどに焦燥しているということなのでしょう。

 

なんとも哀れ…ではありますが、契約は契約です。

 

画面の先では、ホシノが震える手でスマホを取り出して、どこかに電話をかけようとしていた。

 

黒服は静かに笑ってスマホを取り出す。

 

『デンジを…デンジを、殺したよ…ちゃんと、心臓は、避けて…だから、ユメ先輩を…』

 

『ええ、もちろん。契約は成立しました。貴女の先輩は、私が全霊をもって治療いたしましょう』

 

電話越しのホシノの声は震えていた。ガチガチと歯が震えて息が荒い。そして…まるで縋るような弱々しい声だった。

 

そのまま電話を切って立ち上がる。

 

――さて…まずは梔子ユメさんの遺体を運ばなければいけませんね。それとデンジさんの肉体も回収して解析と実験を進めましょう。

 

クックックッ…実に、楽しみです。

 

◎ 数日後・とあるビルのオフィス

 

暗い部屋に一人の少女が足を踏み入れる。

 

幼い顔立ち。ピンク色の綺麗な髪。ぴょこんと出たアホ毛が可愛らしく映る。

 

何よりも…光のない瞳が美しい。

 

そんな彼女が見つめる先に立つのは真っ黒な人型。その顔は普通の人間とは言い切れない不気味な仮面のように白く燃えている。

 

「黒服…ユメ先輩は…ユメ先輩は、本当に治った…の?」

 

「ええ、もちろん。私も賭けではありましたが…しっかりと、成功しましたとも」

 

掠れた声で聞く少女に黒服はニヤリと笑って答えた。

 

「少々お待ち下さい。今から連れてきますので」

 

黒服はそう言って奥の方にある扉へと消えていった。扉が閉まる音が静かに響く。

 

少女は…ホシノは答えなかった。沈黙を返答として返してただ立っていることしかできない。黒服の言葉なんて全てどうでもいい。

 

ただ…生きているユメ先輩をもう一度…

 

そう願って、静かに待っていると再び扉が開いた。

 

「え、えっと…ホシノちゃん…?」

 

「ユメ…せんぱい…!」

 

黒服と共に出てきたユメ先輩は、以前と変わらない様子で立っていた。

 

真っ白だった肌は程よく色付き、瞳には確かな光が宿っている。どこも血を流していないし、痛々しい傷跡があるわけでもない。

 

確かに、私の知るユメ先輩が、そこにはいた。

 

「ユメ、せんぱい…ユメ先輩…!ユメ先輩!」

 

「わわっ!ホシノちゃん!?」

 

思いっきりユメ先輩の胸元に駆け込んで抱き着いた。暖かい…ちゃんと脈もあるし、お腹には穴もない。

 

「ユメ先輩…!良かった…!良かったです…!生きていてくれて…ありがとうございます…!」

 

思わず、涙が溢れる。絶望の底にいた心に光が差し込んで、暖かく、優しく私を抱き締めてくれている。

 

だが、それはデンジを殺して得た光だ。血で濡れた光だ。

 

「えっと…ごめんね、ホシノちゃん。私…その…」

 

「…?どう、したんですか?」

 

私には幸せなんて程遠い。それを、私は理解していなかった。いや、理解したくなくて…認めたくなくて、目を逸らしていた。

 

だから、こうなるんだ。

 

「私…覚えてないんだ…」

 

「…は?」

 

ユメ先輩の顔を見上げる。その表情には不安と困惑が混じっていて…

 

「…ユメ、先輩…なに、冗談言ってるんですか?覚えてないだなんて…そんなの…!だって、私の名前覚えてるじゃないですか!」

 

「それは、黒服さんから少し前に教えてもらっただけで…」

 

その言葉に目を見開く。私はユメ先輩の言葉が信じられなくて愕然と膝を付いてしまった。ふと、私たちを見つめる黒服に視線を向ける。

 

「クックックッ…おや?なにか?」

 

静かに笑っていた黒服は私の視線に気付くと、何事もないように首を傾げた。

 

「なにかって…ユメ先輩は、ちゃんと治ったって…」

 

「ええ、見ての通り、生きていますが?」

 

相変わらずの黒服の透かした態度に歯を食いしめる。怒りが沸々と湧き上がって叫び声にも似た声を出す。

 

「だから!なんでユメ先輩の記憶がないの!?」

 

「クックックッ…記憶がないことが、そんなに重要なのですか?」

 

…本当に、この男は何を言っているんだろう。なんで、そんな事を言えるんだろう。

 

「単純に、記憶まで蘇生させることが出来なかっただけですよ。一度死んだ人間を蘇らせたのですから、文句はないのでは?」

 

「それは…そうだけど…!でも!」

 

でも…でも、私は何も言えなかった。だって、黒服がユメ先輩を助けてくれたんだ。黒服の力がなければ、ユメ先輩は生き返らなかった。

 

だから、私は奥歯を噛んで俯くしかない。

 

そんな私に、ユメ先輩が優しく声をかけてくれた。

 

「ホシノちゃん…ごめんね、何も覚えてなくて…私は何も覚えてないけど…これからは、ちゃんとホシノちゃんと一緒にいるから」

 

ギュッと、私を抱き締めるユメ先輩。

 

本当は跳ね除けたい。この人はユメ先輩のようでユメ先輩ではない誰かだ。なのに…その仕草があまりにかつてのユメ先輩を彷彿とさせるから、何も言えないし出来ない。

 

「それでは、今回はありがとうございました。出口はあちらを」

 

黒服が手を向ける先には、私が入ってきた扉がある。

 

私は、ユメ先輩に優しく手を引かれてこの場を去った。

 

「クックックッ…」

 

その刹那。静かに笑う黒服を見た。

 

私は理解した。あぁ…今回はまさしく、黒服の一人勝ちだったんだと。




ちなみに黒服の48時間はユメ先輩が生き返る可能性のある限界ギリギリの時間です。早いほうがいいよーっていう表現としてこう言ってましたね。
次の話で過去アビドスは最終回です。
本当は今回の話で終わらせようとしてたんですけど主に俺の体力が持たなくてここで一旦切ることになりました。
ちゃんとそれっぽくなるように頑張るぞー!
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