時系列?知りませんねぇ
◎ ブラックマーケット
ブラックマーケットの狭い路地の中に、一人の漢がいた。
金髪の髪とそれなりに引き締まった身体。目付きの悪さや気の抜けた姿勢から、どこかヤンキーっぽくも見える少年。
暗がりの路地の中、彼は胸元に一つの茶封筒を抱えていた。サイズは普通の雑誌程度だろうか。それを真剣な表情で抱え、守るように周囲を警戒している。
彼…デンジが抱えている茶封筒の中身が気になる?デンジがあんなに大事そうに抱える物とは?
よろしい。では答えよう。それは…
「ようやく…見っけたぜ、エロ本…!!」
そう!エロ本である!!
―――――
時間は一時間ほど前に遡る。
今日、デンジはいつも通りにブラックマーケットで賞金首を狩っていた。悪徳企業を壊滅させたり、不良どもを懲らしめたり…いつも通りに休日をエンジョイしていた。
そして、とある悪徳企業を壊滅させ、一人でオフィスにいたデンジは棚の中を物色していた。
「ふんふふーん。なんかねーかなー」
オフィスの壁に沿うように並べられた棚を漁る。中にはよく分からん書類やら、高級そうな壺やら食器やらがあった。相手が公序良俗に反する悪徳企業とは言え、やっていることは強盗そのものである。
「うーん…あんま良さそうなのねぇな」
そう呟きながらデンジは溜息を吐いた。どうやらデンジが期待していたような物はなかったらしい。
デンジが期待するもの…それは面白そうなものである。お金は先生からの小遣いがあるし、今まで狩ってきた賞金首の報奨金は貯金してある。お金にはそうそう困らないデンジは退屈凌ぎに腰を据えていた。
「最後は…ここだな」
デンジが向かい合うのは一つの机だ。社長が使っていた物らしく、矢鱈と豪華だし鍵付きの引き出しもあった。一番凄そうなこの机だけは取っておいたのである。
「ごかいちょーう」
鍵付きの引き出しを無理やりブチ破る。力任せに引っ張って木製の箱をバキッと引き出した。
「あぁ~ん…」
出てきたのは小難しい書類ばかりだった。何処ぞの会社との取引記録だとか、明細書だとか…まぁ、重要そうではあるがデンジにとってはどうでもいい事である。
デンジは退屈と落胆に包まれていた。
「悪徳企業ならもっとヤベぇモン持っとけよなぁ。しけた悪徳企業だぜ」
そうして、最後の引き出しに辿り着いた。どうせまたよく分かんねぇ書類なんだろうなぁ、と思いつつもデンジは引き出しに手をかけた。
そして、
「…………ぁ……こ、れ………はっ……ぁ………!!!!」
それは、紙だった。雑誌だった。
写っているのは露出度の高い格好をしたグラマラスな女性たち。水着やらメイドやら牛柄やら…兎に角エッチなその本にデンジは興奮を覚えて仕方なかった。
信じられなかった。この本の存在が。
キヴォトスにいる女性の殆どは未成年だ。だからキヴォトスにはこういう類いのエロ本は存在しない…少なくとも、キヴォトスにいる生徒を題材に作ることはできない。制作していたら作者は速攻ヴァルキューレに捕まり、矯正局で人生を終えることになるだろう。
表紙に写る彼女たちにはヘイローがない。その上外見は明らかに二十歳よりも上である。
この事実から見えてくる一つの答えがある。
それは…
「わざわざ…取り寄せてたのか、よ……」
そう、この悪徳企業の社長は外の世界からエロ本を取り寄せていた。
キヴォトスでは存在しない幻を、許されるはずのない神秘を…この企業の社長は、求め、追求し手にしたのだ。
デンジは感動した。この社長の行動力とその心に、一人の漢として敬意を示した。この漢こそは最も勇敢であり、勇気のある存在だったと!
ありがとう。その言葉しか見つからない。
「いよし…エッチ確認!」
パラパラとページをめくり、内容を軽く確認する。その辺にあった適当な封筒にエロ本を丁寧に入れると、デンジはオフィスを抜け出したのだった。
―――――
◎ ブラックマーケット・大通り
「ふんふーんっ、いやっほいやっほやっほっほほー」
デンジは機嫌良さげに鼻歌を歌いながら歩いていた。帰ったらこの本を1ページ1ページ丁寧に眺め、読まない時は慎重に保管しよう。そんな事を考えていた。
と、そんな時である。
なにやら黒い制服を着飾った生徒達が大通りで検問をしているようだ。生徒の中には見覚えのある大きな胸…ゴホンゴホン、翼を持ったハスミの姿もあった。
「うげっ、正実かよ…」
デンジはダルそうな顔をして物陰から彼女たちを盗み見た。なんでこんな所に…と思い、そう言えばここら辺はトリニティ郊外近くだった事を思い出す。
面倒くせぇなぁ…ブラックマーケットにいるだけでも怪しまれるのに、この本が見つかったら…
「しょうがね…ここは引き返すか…」
デンジは踵を返してその場を立ち去ろうとする。少し遠回りになるだろうが正実に捕まりエロ本を取り上げられるよりかはマシである。この本だけは死んでも離さない、そんな面持ちだ。
ピキシャーンッ!!
だが!それを許さない存在がいた!!それこそぉ…!!
「ちょっと、アンタ。止まりなさいよ」
ピンク髪の髪。ピョコンと生えた小さな翼。鋭くもあどけない顔付きをした少女は…
そう、下江コハルである!
「ここら辺に悪徳企業があるって話なんだけど…アンタ、何か知らない?」
ヤバい、とデンジは焦る。このピンク髪の生徒に足止めされエロ本が見つかっては…くそっ!
「あ、あ~えっとぉ…あ、あっちにそれっぽいロボットがいたかなぁ…」
デンジは目を逸らしながら適当な路地を指差して言った。
くそっ…なんで正実がいるのか分からなかったがそういう事か…!多分コイツらは俺が潰した悪徳企業を懲らしめに来たんだろう。アイツらトリニティで何か悪さしようとしてたのか…!?
「ふぅ~ん…ま、ありがとうね。」
何処か興味なさげに…半分信用していない声で、デンジの答えに軽く頷いて立ち去ろうとするコハル。エロ本没収は免れたか…とホッとするデンジだが…!
「あ、その封筒、何かチェックしていい?」
だが!コハルは立ち去る寸前に振り返り、デンジの抱える茶封筒を指差した。ギクッと背筋が固まり、震えるデンジ。
「え、ぁ…あ~…っと…み、見せないとダメ?」
「一応確認させなさいよ。ブラックマーケットにいる時点でグレーなんだから、怪しまれても文句ないでしょ!」
うぐっ、と顔を顰めるデンジ。コハルの言葉は正論である。ぶっちゃけデンジもやっていたのは強盗なので言い返せない…もしチェンソーマン原作のデンジであれば無茶苦茶言って逃げたりするんだろうけども。
「え、えーっと…、これは見せられないといいますか…」
「なんで?なにかいかがわしい物でも…?え、エッチなのだったらすぐに没収するからね!?」
勝手にいかがわしい物を持っていると思われている…!?いや、事実持っているが!
「わ、悪いけど俺はこれから用事がありましてー!」
必死に駆け出す。ダメだ、これが見つかっては俺の唯一の楽しみが消え失せてしまうぅー!!
慌てて逃げるデンジにコハルは声を上げ、その背中を追いかける。
「あっ、ちょっと待ちなさいよ!エッチなのはダメ!死刑ぇ!」
うおおお!!
なんか前世で聞き覚えのある響きがしたが、それらを無視して我武者羅に走る。兎に角捕まったら終わりだ!
いやまぁ、捕まっても先生がワンチャン助けてくれるかもだけど…流石にこんな下らない事で先生に助けられるのは男として情けない。
「く、クッソ…!変身して逃げちまうか…?」
はぁはぁ、と息を荒くして足を進める。チェンソーマンに変身して、向上した身体能力とチェーンを使ってスパイダーマン的行動が出来れば…
「待ちなさーい!エッチなのはダメなんだからね!」
でも、後ろのチビを撒かない限りはそれも出来ない。必要なのは後ろのチビの視線から逃れ、気付かれる事なく変身して逃げ去ること。
「…いよし!」
走っていると、ちょうど良さそうな曲がり角を見つける。アソコを曲がって、更に次の曲がり角を曲がる。そこで変身しソッコー帰宅、コレしかない。
クルッ
1つ目の曲がり角を曲がり、
クルッ
2つ目の曲がりを曲がる。
「アイツ、何処に…」
コハルの小さな声が聞こえる。走りながら呟いただろうその声は距離ができたことによって更に聞こえづらく、小さなものだった。
「いっよしゃあ!」
ヴヴン!!
胸のスターターを引っ張る。頭部と両腕からチェンソーが突出し、突き破られた皮膚から血が流れる。慣れきった痛みを感じながら、身体能力が上昇する感覚がある。
いやっほー!
本当は声を出して快活に叫びたいところだが、それでチビに気付かれても困る。心の中で風を感じる快感に声を出しながら、デンジはブラックマーケットを後にした。
◎ 数日後 シャーレの部室
ブラックマーケットでの出来事から数日後、デンジはシャーレの部室にいた。いつも通り、先生と書類仕事をしていたのである。
仕事を初めて何時間経っただろうか…昨日の夜から一睡もせずにやって、今は午後三時…占めて二十時間ほどの無休労働だ。
「うげぇ…」
デンジはうめき声を上げながら、書類が山積みになった机に突伏した。チェンソーマンたるデンジの体力はまだある。だが些か優秀とは言えないデンジの脳みそは既に限界でもあった。
「デンジ…大丈夫?」
そんなデンジに、給湯室から戻って来た先生が声をかけた。コーヒーカップを両手に持って、目元に薄い隈を浮かべている。先生もデンジと同じように徹夜中だが、コーヒーで何とか息をつないでいた。
先生はデンジに新たに淹れたコーヒーカップを差し出す。お互いに疲れ果てていることは承知しているが、片付けるべき仕事はまだある。ここでギブアップされては自分まで潰れてしまう。
「先生…アザッス…」
デンジは軽く礼を言いながらカップを受け取る。コクリとコーヒーを口に含み、その苦さに顔を顰め同時に頭が冴え始める。
デンジはそんなカフェインによって活性化した…つまり、徹夜によって別方向にイカれた頭で、最高なアイディアを思い付いた。
「……読もう」
「へ?」
デンジの呟きに、彼の隣に着席した先生が困惑の声をあげた。それはそうだろう。
だって…デンジは先生の隣でバッグからエロ本を取り出したのだから。
「うへ、ぐへへぇ~…」
デンジの気持ち悪い声が響く。うへぇ〜、グヘヘと喜びの声が上がる。カフェインによって起き上がったデンジの脳みそは、また別の熱気で更に活性化を迎える。
「………」
先生はそんなデンジを目をカッピらいて見ていた。
いや、ホント信じられない…!幾ら徹夜してるからって私の前でエロ本を読むかな、普通!?と言うかなんでエロ本があるの!?と言うかいつ何処で手に入れたの!?
先生の胸の中で色々な声が浮かび上がる。困惑だったり怒りだったり驚愕だったり…兎に角いっぱいだ。
「うわ、エッチぃ〜…」
そして、その中で一番昂ぶっていたのは…
「やっぱり牛柄だよなぁ〜」
ガタリッ、と椅子を除けて立ちあがる。デンジはそれにさえ気付かず、エロ本を熱のこもった視線で見つめている。
「…デンジ」
バシッ
「え」
デンジの持つエロ本を取り上げる。
ビリッ…
「あ、」
エロ本を掴む両手に力を込める。
ビリビリビリィ!
そのまま、力いっぱいエロ本を真っ二つに破り去った。デンジは唖然とした様子でそれを見て、更に驚愕することになる。
バサッ…カチッ、ボワッ!
「ひょぇ…ぁ、ぇ…」
先生は破ったエロ本を床に投げると、ライターを取り出し火をつけた。それをエロ本に落っことして…
燃え盛るエロ本を前に、デンジは跪く。目の前で緩やかな光が灯る。
あ~…あったけえなぁ…冬が明けたばっかりでまだ肌寒い時期だもんなぁ…
「デンジ、こういうの、もう買っちゃダメね」
先生の冷たい声が聞こえる。チラリと視線を向けると、先生は氷のように冷たい瞳をしていた。絶対に反抗を許さない圧迫感…この人本当に教師っすか?
「ぐ、うっ…」
デンジは眉を顰め、顔を歪める。悲しそうな顔には沢山の後悔が見て取れる。
そして…
「うううあああああ!!!」
シャーレの部室近辺にまで、デンジの叫び声が響いたとさ。
チャンチャン。
明らかにモチベがなくなってきているので更新頻度はオッソいと思いますがご容赦お願いします
言うてコハル要素少なかったのでタイトル変えました