◎ アビドス郊外・市街地
「ふぅ…ようやく終わったわね」
紫関ラーメンでの忙しないバイトの時間を終えて少女は街を歩いていた。
先生たちが店を訪れてから数時間ほど経った後、いつも通りにバイトを終わらせれば気付けば夜になり肌寒さすら感じる。
……今日は忙しかったわね。先生たちがやって来たせいで無駄に疲れたし…もうっ!本当に皆はっ…!
内心で先生たちに溜息をつく。楽しくなかったか、と聞かれたら"それは違う"と否定はできるが、だからと言って疲れたのは本当だ。
ただでさえアビドスは砂漠化やら気候変動やらで忙しないのに、こういう平凡な一日でさえ慌てるようじゃ本当に疲れっぱなしになる。
「せめて来るなら連絡くらいはして欲しいわね…」
全く皆はっ!とツンと意地を張る。そんなとき…
「おい、お前が黒見セリカだな?」
「…なによ、アンタたち」
サッと、目の前に現れたヘルメット団に警戒心を高めた。
「悪いが、会話をするつもりはない。捕らえろ」
ダダダダダダッ!
「……ッ!!」
突如飛来してくる弾丸。それに対抗しようと自らの銃に手をかけるが…
後方からも飛来してくる弾丸にまでは気付けず、少女の意識は刈り取られた。
◎ アビドス郊外・砂漠
「ひっぐ…うぅ…」
その日の夜。一人の少女が泣いていた。
静かな夜だった。いつも通りの夜であり、誰もがいつも通りに終わらせるはずの一日だった。
だが、だからこそ、その少女の絶望は深かった。
日常から非日常への急降下。死が遠いキヴォトスという場所において、"もしかしたら"程度の可能性とはいえ自らの死を予感させるほどの暗闇を感じた。
「ホシノ先輩…アヤネちゃん…うっぐ…」
先輩の名前を呼んで、仲間の名前を呼んで…微かな希望を抱く。来ないはずの助けを願い、あり得ないはずの光に縋る。
だが、それも所詮は夢物語。
ガタンガタンと、時折地面の凸凹に音を立てながら進むトラックの中。少女は、黒見セリカは泣いていた。泣くしかなかった。
紫関ラーメンでのバイトが終わって、ようやく帰れるというところでのヘルメット団による襲撃。全くの想定外の事態に黒見セリカはまんまと誘拐された。
このトラックを運転しているヘルメット団がどこに向かっているのかは分からない。だが、微かにあった隙間からはアビドス郊外の砂漠にある路線が見えた。
セリカは後悔した。これから自分がどうなるのかは分からない。砂漠に埋められてしまうのかもしれないし、アビドス高校に対する人質として使われてしまうのかもしれない。
どちらにせよ、この状況が最悪であることには変わりない。
ただ…そう、ただ…
「裏切ったって…思われちゃうんだろうな…」
砂漠まみれの学校で、孤独ばかりの土地で、負債ばかりしか残っていないこのアビドスで…
出会い、話し、絆を紡いだ仲間を裏切ってしまうことが、何よりも怖かった。
だが、現実は非常なものだ。セリカがどれだけ祈ろうと、恐怖しようと今の彼女ではこの現状を変えられない。
バイト終わりの疲労の溜まった状態で受けた襲撃。およそ数時間の強制的な昏倒。頭はぼんやりとして心は落ち着かずに揺れている。
セリカ自身が、誰よりも無力を実感していた。
……私、死んじゃうのかな…もっと、皆とお話しておけば良かったなぁ…
別れ際のときには"死んじゃえ!"とか言っちゃったし…皆が押しかけてきたとは言え、ちょっと暴言が過ぎたわよね…
先生やチェンソーマンとも、もう少し仲良くしておけばよかったな…二人ともアビドスとは無関係なのに命をかけて戦ってくれた。アビドスを救おうとしてくれた。なのに私は、まだツンとした態度が抜けきれなかった…
「うぅ…んん…ひっぐ…まだ、死にたくないよ…」
セリカは涙を流す。後悔と未練に苛まれ、過ぎ去った思い出に涙を流した。
静かな夜だった。少女の涙が静かに落ちた夜だった。このまま特に救いも光もなく、静かに進んでいく夜だった。
だからこそ、その音は響いた。静かな夜を引き裂くように、その赤は唸りを上げた。
バーンッ!ヴヴン!!ダダダダダダッ!ギャハハハ!!
「…これ、なに…この、音…」
セリカは顔を上げた。膝に埋めていた顔を上げて遠くに小さく聞こえる音に耳を澄ませた。
そして…
ヴヴン!!
確かに、その唸り声を耳にした。
暗闇を引き裂くように現れたそれは、瞬く間にトラックをぶち抜いて、セリカに手を伸ばした。
「よォ、生きてっかァ?」
月光に照らされながら現れた悪魔をセリカは見つめていた。
赤い金属的な頭部と、両腕と頭部から生えるチェンソー。グロテスクな見た目と言動はキヴォトス中から賛否を集めている。
仮に、セリカが賛否どちらかを選べと言われたら。
これからは、絶対に賛を選ぶだろう。
「…アンタ…まったく、遅いのよ…!それと、泣いてなんかないからね!」
「別に泣いてるとか泣いてねぇとか俺一言も言ってねぇし…」
……多少はデレが強くなってもいいかな、とか思っちゃう程にその悪魔は黒見セリカにとって希望の光になったのだ。
◎ アビドス・市街地
ヘルメット団からセリカを救出した俺は対策委員会の連中に連絡を済ませ、結局一人じゃ動けなかったセリカを背負ってアビドス高校へ向かっていた。
「と言うか、なんでアンタが一番最初に来たのよ」
背中にいるセリカが聞いてきた。俺はこれまでの事を思い出しつつセリカに話す。
「おう、まぁ説明するとな。眼鏡っ娘がお前の不在に気付いて、んで連絡さえ取れねぇってなるだろ?
そっからお前が誘拐されたかもってなって…細かい位置特定は先生たちがやって、俺は先に周辺調査ってなったんだよ。
そしたらアビドス郊外に向かうヘルメット団の連中を見つけてさ。試しにブッ潰してみたらお前がいたってワケ」
ちなみに俺が先に周辺調査をやる事になった理由は単独での移動ができたからだ。チェーン使って壁と壁の間をこう…スパイダー的な感じの移動法で。
フッ、こういう所で頭を使えるのがチェンソーマンだぜ…振り回すだけがチェンソーじゃねぇ…天才インテリ脳みそが活躍しちまったなぁ〜!
「なるほど…そういう事だったのね…というか、ちゃんとアヤネちゃんや私の事名前で呼びなさいよ!」
「あ~、はいはい。わかってますよ〜」
とは言いつつも、なんだかなぁ…と悩んでしまう。
アビドス高校において、俺という人物は死んだことになっているのだろう。もしくは既にアビドスを去った薄情者か。
深く関わりづらいんだよなぁ、立場的に…
だってそうじゃん?
デンジとして見ると既に死人で?ホシノの伝え方によってはもっと酷くなってるかもしれねぇし?
チェンソーマンとして見ても一時的に協力しているだけの部外者だし?先生込みで考えても俺が化け物である事を加味すればやっぱり距離感が出てくるわけで。
「そーいや、一つ知りたいんだけどさ」
「なによ?」
背中にいるセリカに一つ、ふと思い付いた問いかけをする。
「アビドス高校でさ、デンジって奴知らね?」
「…?デンジって、誰かしら?」
うーん、なるほど…
やっぱりホシノは、一人で背負うことに決めたんだな。
◎ アビドス高校
徐々に朝日を迎えつつあった朝方、デンジたちがアビドス高校に戻った時、私たちは大きな安堵と共にセリカを迎えた。
相変わらず戦ってきたんだろう。ボロボロなデンジと疲れ切った様子のセリカを見た時はハラハラでいっぱいだった。
そしてセリカは…
「セリカちゃん!無事で良かったです!」
「今回はおじさんもハラハラしたよ〜セリカちゃん、無事に戻ってきてくれてありがとうね…」
対策委員会の皆に囲まれて、温かく抱き締められていた。
「ちょ、ちょっと…!そんなに引っ付かれても…!」
セリカはなんだか困ったように、でも嬉しそうに受け入れている。頬は赤くなって口元は恥ずかしそうにモニョモニョとしていた。
か、可愛い〜!セリカが恥ずかしさでデレとりますよ!やっぱり猫耳ツンデレ美少女のデレは心に来ますな〜
「チェンソーマン、お疲れ様!よくやりましたっ!」
「ってオイ…頭撫でんなよなぁ、先生」
そして、私は私でデンジの頭をくしゃくしゃと撫でていた。今回のMVPは間違いなくデンジだからね。頑張った生徒には報酬をあげないと。
デンジはしかめっ面で私の手を受け入れている。まぁ、離そうとするのを跳ね除けて無理やり撫でてるだけだけども。
と、そんなとき、セリカが私たちに改まって向き直った。
「チェンソーマン、ありがとうね。助けてくれて…本当に」
「おう。今回も助けてやったんだし、これからは態度柔らかく頼むぜ」
「う、うぅ…分かってるわよ…ここまでされて突き放すなんて礼儀知らずはできないし…」
セリカはデンジの言葉を受け取ると、俯きながらも頷いた。そして、握手を交わそうとしたんだろう。そんなとき…
「チェンソーマン、先生、ありがとう。皆のお陰で私はこの通り元気に…うっ…」
ぐらっ、とセリカが倒れ込んでしまった。それをデンジがギリのところで受け止める。
「うおっと…あっぶねー、寝ちまってるぜ」
「Flak41の対空砲を受けたんだもん。歩ける方がおかしいって。…今は、ゆっくり寝させてあげよー」
ホシノの声に皆が頷いた。セリカも襲撃されたときの疲労が溜まっていたんだろう。むしろ良く今まで歩けたものだと思う。
セリカをシロコに預けて保健室に運んでもらう。それを見送りつつ、僅かに悔しさが込み上がる。
心配だなぁ…と言うか、思えば私って今回なにも出来てない気がする…!
今回はデンジがセリカを助けてくれたけど、次もそうなるとは限らない。今度こそ、私が助けるんだ!
生徒を助ける事こそ先生の本懐!内心でムンッ!と意気込んでいると、アヤネが口を開いた。
「セリカちゃんの事も心配ですが…皆さん、これを見てください」
そう言ってアヤネが出したのはヘルメット団が所持していた武器についての詳細な分析データだった。
「戦闘中で回収した、散らばった戦車の部品を調べたところ、キヴォトスでは使用が禁止されている機種でした。
もう少し調べる必要はありますが、ヘルメット団は自分たちでは入手できない武器まで保有しているようです」
「その武器の流通ルートを調べれば、ヘルメット団の裏にいる存在を探し出せますね!」
「そうだね。まぁ、ゆっくりやってこ〜」
ホシノの緩い…だけども、適度に緊張感の籠もった声が教室に響いた。
こんな感じで、セリカ救出大作戦は幕を閉じたのだった。
◎ ヘルメット団・アジト
夜、アビドスの郊外にあったヘルメット団の一つのアジトに重い銃声が響いていた。
ダダダダダッ!バンッ!バンッ!
「ク、クッソ!何者なんだお前ら!」
ヘルメット団のリーダーが見上げる先にいるのは長い赤い髪と、クールビューティーな洋装の女生徒だった。
「……ふふふ、こんな汚い場所がアジトだなんて、貴女たちも冴えないわね」
彼女は自信ありげにリーダーを見下ろした。銃口を突きつけ、余裕な笑みを浮かべる。
「いいわ。貴女たちを労働から解放してあげる。これからはアビドスは私たちに任せなさい」
「は、はぁ!?どういう事だよ!?」
「要するにクビってことよ。現時刻をもって、アビドスは私たちが引き受けるわ」
「ふざけるな!お、お前たちは!一体何者だ!?」
彼女の言葉にリーダーは怒りを露わにする。恐怖で震える足をなんとか動かして踏み出そうとするが…
バンッ!
それも無意味だった。すぐにリーダーの意識は刈り取られた。
彼女たちは…壊滅したヘルメット団・アジトの中で立っている四人は、静かに夜風を受けながら語る。もう聞き手はいないだろうが、せめてもの手向けとして…
「私たちは、便利屋68。金さえ貰えれば何でもやる…」
赤い髪の女生徒が語る。他三人もまた、彼女に寄り添うように背後に陣取る。
「何でも屋よ」
新たな刺客は、既に来ている。
まどマギ面白いっすね〜!初めて見たけど面白かった!それはそれとして最終話と映画の円環の理あたりは良く分からないぃ…あとまどかは髪縛ってない方が可愛いと思います。異論は認める。
あとホシノですがデンジ君の事は誰にも喋ってません。存在すら誰にも明かしていません。話した所で意味ないし、ホシノにとっては黒歴史もいいところだし…まぁ他にも理由はありますがね
そして皆さん!FGO2部終章読みましたか!?俺ぁもう読みました!泣きそうになりましたよ!読んでないマスターさんははよストーリー進めい!泣くぞ?泣け!