部屋の掃除ってイイもんっすねぇ。部屋がスッキリすると気分転換にもなるし心もスッキリしますわ。
◎ アビドス街
パンッ!
「おっと、危ない危ない」
決戦の始まりはアルのスナイパーライフルから飛来する弾丸から始まった。高速で飛来する弾丸をシールドで防いだのはホシノだ。
「くッ…」
アルは僅かに苦悶の表情を浮かべて一歩下がる。至近距離から放たれたスナイパーライフルの弾丸を撃った後に反応して防ぐだなんて想定していない。アルは冷静にホシノを風紀委員長と同列に警戒する。
「ハルカちゃん、続けるよ」
「はいっ!」
アルが一歩下がると共に前衛に出たのはムツキとハルカだ。接近する二人にホシノとチェンソーマンが構える。
「行こうぜ」
「ほいほ〜い」
前衛を務めるムツキとハルカ、ホシノとチェンソーマンがぶつかる。
お互いの配置はこうだ。
便利屋68はアルを中心とし、カヨコの冷静な思考とムツキ・ハルカの破壊力で戦う。互いに完璧に合わせられるチームワークで臨機応変に、一つの生命のように成立する。
対するアビドス高校はチェンソーマンとホシノを前衛に固め、それを補助するようにできている。二人の援護を務めるセリカ、先生の護衛であるシロコ、状況に応じ撹乱と一掃を行うノノミ、回復と支援を担当するアヤネ。
単純な比較をすれば、アビドス高校に優位がある。
キヴォトスでも屈指の強さを誇るホシノと、怪人として恐れられるチェンソーマン。更には指揮能力なら誰にも負けない先生がいる。
それはアルも理解していることだ。先生の活躍は耳にしているし、チェンソーマンの強さは彼女が一番知っている。
故に、便利屋68に必要なのは先生やチェンソーマンでも対応できない奇策。
「吹っ飛んでください」
ドッカ~ンッ!!
ムツキとハルカ、ホシノとチェンソーマンがぶつかる、その寸前でハルカが小型爆弾を投げつけた。防御のために足を止めるホシノとチェンソーマン。シールドを突き出し、チェンソーの側面を向ける。
爆発を受けて、ホシノとチェンソーマンは察する。近距離で受けたにしては衝撃は柔く、幕の広がりが広い。
――目眩ましか…
そうチェンソーマンとホシノが理解した瞬間。
バンッ!
「流石に、全特攻は予想できないでしょう!?」
便利屋68、全員が煙を押し出して現れた。
――先生によって指揮され、チェンソーマンと彼女が先頭に立つ陣形はそう簡単には崩せない…
「二人とも、距離を取って!」
先生の指示が飛ぶ。
――そう、あまりに前衛が敵と接近してしまうと流れ弾が仲間の背中を撃ち抜くことになる。多少の被弾なら気にもならないでしょうけど、彼女たちほどの信頼関係ならそんなことはしないでしょうし…なにより…
アルは後方にいる先生をちらりと見る。
――先生なら、生徒に仲間の背中を撃つようには指示しないでしょう!?
便利屋68はそれぞれ銃を構えてチェンソーマンとホシノに詰め寄る。対アビドス高校において一番の難関、そこを全員の一斉近距離攻撃で突き抜ける。
――ここまで近付いたなら、貴方にも届くんじゃないかしら
アルはスナイパーライフルをチェンソーマンに向ける。距離は僅か1メートルほど。普通ならこの超近距離で放たれた弾丸を対処することはできない。
だが…
――ここから下がっても撃たれることには変わらねぇ。後ろからの援護もムリ。ならよぉ…
ヴヴン!!
チェンソーマンは唸りと共に、足を踏み込む。
キンッ!
「近い分、当てやすくなるモンだろ」
――普通は当たらないわよーー!!??
チェンソーマンは踏み込むと共に弾丸を真っ二つに切り割いた。更に踏み込んだ足を軸にアルを蹴りつけ、同じく接近していたムツキにぶつける。
「うへぇ、チェンソーマンくんやるねぇ~」
チェンソーマンが動いたとほぼ同時に、ホシノも攻撃に転じる。
向けられてるカヨコのハンドガン。それを撃たれるよりも前に蹴り飛ばし、格闘で引き離す。
「カヨコ課長!」
ハルカがカヨコに駆け寄り、ホシノに向けて爆弾をばら撒く。ショットガンを爆煙に向けぶっ放す。
が、ホシノはそれを全てシールドで防ぎ前進する。
バンッ!
煙を抜け、ホシノはショットガンをハルカとカヨコに向ける。
「動かないでね〜?」
ホシノは柔らかな声で二人にショットガンを突きつける。カヨコとハルカはホシノを睨むだけで動けない。
――ここらへんで退いてくれるとありがたいんだけどなぁ…
ホシノは決して二人から視線をそらさず、アルに注意を向けた。
―――――
「アルちゃん、大丈夫?」
「…ええ」
アルはムツキに支えられながら立ちあがる。チェンソーマンを真っすぐと見つめ吐息が漏れる。
「まだ、やんのか?」
その言葉は暗に、"便利屋68はアビドス高校には勝てない"という事実を示していた。
――悔しいけど、認めるしかないわね…
「…四人がかりで二人を相手して苦戦。相手の仲間意識を利用してまで立てた作戦は失敗…」
アルはチェンソーマンを見つめ、小さく頬を緩める。遠い夜空に浮かぶ星を見つめるように。
「やっぱり、まだ遠いわね」
その囁きはムツキにのみ届いた。
「…そうだね、アルちゃん」
アルは静に目を瞑る。憧れに挑んで、憧れに本気を出して、その上で負けた。悔しいけど、どこかスッキリしている。
アルはショットガンを向けられ、動けないカヨコとハルカをちらりと見る。その視線に二人は気付く。
――逃げるわよ
アルはコクリと頷く。
「…分かりました、アル様」
そして、辺り一帯が煙幕で包まれた。
―――――
「ゴホッゴホッ…皆、大丈夫?」
立ち込める煙を払いながら私は皆に声をかける。段々と晴れていく煙と共に、各々の姿が現れる。
「ん、私は大丈夫。」
「私たちも平気だよ〜」
返事に頷いて辺りを見回す。便利屋68…アルたちは既にいなくなっていて、どこにも姿は見当たらない。
「まったく、逃げ足だけは早いわね!」
セリカがフンッ!と腰に手を当てて不満気に言う。
「最初、俺らとぶつかって煙幕を敷いたとき…一部を爆発させずに残しといたんだろーな」
デンジの言葉に続いてアヤネも声を出す。
「困りましたね…妙な便利屋にまで狙われるとは、先が思いやられます」
「まぁ、少しずつ調べるとしようよ。社長のアルって子から身元を調べればなにか分かるよ、きっと」
私はホシノの言葉に頷いて皆に声をかける。一先ずは学生に戻って休養を取らせてあげたい。今回頑張ってくれたデンジとホシノは特にね。
「皆、お疲れ様。早めに帰って休もうか。」
そうして、便利屋68との本当の決戦は終わった。
◎ アビドス・住宅街
翌日の朝、私はデンジと共に住宅街を歩いていた。
「先生、溜めてる仕事やってんの?」
「え、ええっと…リモートで、う、うん…やってぇ…るよ、うん…」
雑談混じりに朝から危機感を持たされるのは思ってもみなかったけど…というかデンジはやってるの?
――アビドス高校に戻った私たちは暫く身体を休ませ、夕方になるとそれぞれ家に帰った。私とデンジはホテルに戻り、そのまま就寝した。
そして翌日、つまり今日になるとまた二人揃ってアビドス高校に向かっているのだ。
朝の空気は程よく冷たく澄んでいる。
まだ朝方の太陽は心地良い暖かな光を届けてくれて、爽やかな空気と相まって気分がいい。そこに友人のような、仲間のような生徒が隣にいるとなれば尚更だ。
「んっ〜…今日もいい天気ですな〜」
歩きながら伸びをして呼吸する。やっぱり最近の人間にはこういう爽やかな空気が必要だと思う。心もスッキリしてなんだか良い気分。
と、そうやって歩いていると道中でアヤネの背中を見つけた。
「おーい、アヤネー!おはよー!」
「あっ、先生、チェンソーマンさん。おはようございます」
振り返り挨拶を返してくれるアヤネ。
「よっ、アヤネ」
デンジも軽く手を挙げて声を出す。
ふぅ…眼鏡っ娘美少女の笑顔、朝から良いモノを拝めた気がする…
「ここら辺でアヤネがいるの珍しいね。今日は早めに学校行くの?」
「今日は利息を返済する日なので…色々準備があるんです」
浮かれる内心を留めてアヤネに話しかけた。そっか…今日は利息の返済日だったんだ。
「早めに登校して返済の準備もしないといけませんし、今後の計画も見直さないとけいないので…」
「そっか…大変だね。私たちでも手伝えることがあったら言ってね」
アヤネは困ったように微笑んで頷いてくれた。"そこまで頼るのは申し訳ない"そんな感情が笑みから見て取れる。
「へっ!?」
「うぇっ?」
デンジとアヤネの頭に手を置き、優しく撫でる。二人は突然の私の行動に何がなんだか戸惑っている。
「ちゃんと頼ってよね。先生なんだから」
まぁ、その分私も君たちに頼ったりするけど。そこはギブアンドテイク。私も皆に頼るから、頼ってよね、ホント。
◎ アビドス高校
「お待たせしました、変動金利等諸々適用し、利息は四百十六万五千二百円となります。
……はい、確認しました。全て現金でお支払い頂きましたので、今月は以上となります。
カイザーローンとお取引頂き、毎度ありがとうございます。来月も宜しくお願いいたします」
ブロロロロ……
「………」
立ち去っていくカイザーローンの輸送車を眺める。四百万を超えるバカみたいにデカい利息に皆口を閉ざしてしまっている。
私が高校生の時に"月に四百万も稼いで、それは利息で五億の借金が本命である"とか言われたら失神しているだろうなぁ…
「はぁ…今月もなんとか乗り切れたねー」
ホシノが眠そうに片目を瞑りながら言った。態度は柔らかいけど見るからに気分は良くなさそうだ。
「……完済まであとどれくらい?」
「ええっと…百七十年返済なので…」
シロコの問いかけにアヤネが答えようとする。それをセリカが遮った。
「あー、やめて。正確な数字で言われると更にストレス溜まりそうだから…」
セリカは続けて顔を顰めてイラッと声を出す。
「どうせ死ぬまで完済できないんだし、計算しても無駄でしょ!」
「えー、意外とあるかもだぜ?宝くじ当てるとか臓器売るとか」
「それ何万分の一の確立なのよ!というか臓器売るとかバイオレンスなこと言わないで!」
「パワーストーンで金運アップ狙うよか高いと思うぜ。あと臓器売るは流石にジョーク」
「ぐっ…うぅ…」
あ、なにも言えなくなった。
「それにしても、なぜカイザーローンは現金でしか受け付けていないんでしょうか?わざわざ輸送車まで用意して」
セリカの側でノノミが言った。
確かに今の時代に現金オンリー、キャッスレス不可とは珍しい。輸送する手間や道中の危険を考えれば電子マネーで良いだろうに。
「……」
「シロコ先輩、あの車は襲っちゃダメだよ」
遠くなっていく輸送車を見つめるシロコにセリカが言う。
「ん、わかってる」
「計画するのもダメだからね!」
「んん…」
そんな二人に苦笑いを浮かべる。シロコの強盗グセはここ数日で聞き及んだし、強盗未遂にも慣れた…いや慣れたくなかったけど。
そして最後、ホシノが締めくくるように言う。
「取り敢えず、今対処するべきは目の前の問題でしょ。とにかく教室に戻ろっか」
その言葉に頷いて、皆で対策委員会の部室へと向かった。
◎ アビドス高校・対策委員会部室
いつも通り教室に全員が揃うとアヤネが口を開いた。
「まずは、二つの事案について話したいと思います。最初は昨晩の襲撃の件です。」
「便利屋68…ゲヘナで色々暴れてる便利屋だぜ。部長…じゃねぇや。社長はアルで、他は室長・課長・平社員な」
アヤネの言葉を遮り、続くようにデンジが答えた。って…
「チェンソーマン、あの子たちの事知ってたの?」
「ゲヘナにいた時にちょいちょい見かけてたぜ。それに、昔にアルとはちょっとな」
むぅ…明らかにアルとの関係を隠してる…知りたーい!
一瞬、ホシノの視線が、デンジに強く向けられていた気がしたけど…
「さ、遮られてしまいましたが…概ねチェンソーマンさんの言う通りです。基本はゲヘナ学園で活動しているようですが、今はアビドスにいるようですし…もっと気を引き締めなければいけません!」
自身の言葉を遮られたことが気になったのかアヤネが立て続けに言の葉を綴った。気にしてるところが愛いなぁ…小さく謝ってるデンジもグッジョブ。
「続きまして…セリカちゃんを拐ったヘルメット団についてです」
息を整え、二つ目の議題を口にするアヤネ。セリカを襲ったヘルメット団について…私も真面目に耳を傾ける。
「使われていた武器の型番を調べてみたところ、今は生産がされていない物だとわかりました」
「今は生産されていない…」
アヤネの言葉にセリカが反芻する。
「ってなるとブラックマーケットだろ。似たような武器は見たことあるぜ」
「ブラックマーケットって…とっても危険な所じゃないですか」
ブラックマーケット…確か、連邦生徒会非公認の企業や部活、不良や悪徳企業で溢れかえっているんだっけ。
「便利屋68もブラックマーケットで活動が確認されているようですし…ここが重要ポイントかも知れません」
アヤネの言葉に頷く。これは決まりかな。
「それじゃあ、ブラックマーケットに行ってみようか。意外な手掛かりがあるかもしれないからね」
皆が頷くのを見届けて、さっそく準備を始める。それじゃ、ブラックマーケットにしゅっぱっーつ!
デンジ=チェンソーマンって知ったアルとホシノを話し合わせたらどうなるのか気になる