◎ ブラックマーケット・大通り
アビドス高校を発った俺たちはブラックマーケットの大通りにいた。
「ここがブラックマーケット…」
「わぁ☆すっごい賑わっていますね!」
「ん、本当に…小さな市場をイメージしてたけど、街一つくらいの規模だなんて」
「うへ~、普段私達はアビドスばっかりいるからねー。学区外は結構変な場所が多いんだよー」
対策委員会の面々がそれぞれ口を開く。ブラックマーケットに初めて来た奴らからすれば、その規模感や開放感は新鮮に映るだろう。
「俺はここら辺、よく歩くからなぁ。案内は任せていいぜ〜」
何しろ、この二年間ブラックマーケットの不良共・悪徳企業共をブチのめしてきたんだからな。ブラックマーケットはもはや俺のホームグランドだぜ。
「つかホシノ、言い方的にここ来たことあんの?」
「んにゃ?ちょっと知ってるだけだよ。他の学園には変ちくりんなものがいっぱいあるんだって」
ホシノの答えを聞いて少し安心する。少し前までここに住んでた俺が言えるもんじゃないが、ダチがブラックマーケットに関わってたら心配しちまうしな。
「ちょーデカい水族館もあるんだって!アクアリウムって言うんだけど…また、行けたらなぁ…」
きっと、小さくて誰にも聞こえないような呟き。寂しそうで、悔やんだような表情。
「…俺も、行きてぇなぁ…」
正直な話、ホシノとは和解したい。
俺は殺された事なんて気にしてない。だって俺は基本死なねぇし、俺を殺したのだってユメ先輩の為だ。黒服は契約通りにユメ先輩を蘇生させてくれて、借金も半分なくなった。
黒服も恨んでいるわけじゃねぇ。むしろ感謝してる。理由はどうあれ、経緯はどうあれ…ユメ先輩を救ってくれた。それだけで釣りが来るくらいだ。
でも、やっぱり分かんねぇ。
黒服の元で生き返って、実はチェンソーマンで、ブラックマーケットで過ごして。その全てを喋って…
ホシノはきっと泣くよな。もしくは怒ったりするのか?
そんなホシノを前にして、俺はなんて言ってやればいい?気にしてねぇ、って言うのか?もう謝んなくていいって不躾に言ってやるのか?
…人を殺して、その人が生きていて…
俺がホシノだったら、なんて言われたら納得できるんだ?
「皆さん、油断しないでください。そこは違法な武器や兵器が取引される場所です。何が起こるか分からないんですよ」
思案に耽っていたらアヤネの声で我に帰った。
いけねぇ、いけねぇ。ここはブラックマーケット…ちっと気ぃ抜きすぎたな。ホシノの事は…また、後で考えよう。今は思考を切り替える。
「つっても、大抵は俺を見たら逃げてくんだけどな」
「それでも、です!チェンソーマンさんだって万能じゃないんですから」
うわ、なに!?凄い嬉しいこと言われちゃったよ俺!頼られるのも嫌いじゃないが、心配されるのも悪くない…グヘヘ…
「なに気持ち悪い笑みを浮かべてるのよ…」
近くにいたセリカに馬鹿にされた。なんかセリカに指摘されたことが妙に癪に障るぅ…
「なにかあったら私が…きゃあっ!?」
アヤネが再び注意の言葉を吐こうとした瞬間、銃声が響き渡った。
タタタタタッ
「オイコラ!待てぇ!」
「う、うわああ!まず、まずいですっ!!ついてこないでくださーい!!」
「そうはいくか!」
叫び声を上げながら逃げるツラの良い女とそれを追いかけるチンピラ。ドンドンとコッチに向かってくるはた迷惑そうな連中だ。
…つーか、追いかけられる奴に見覚えあんだけど。
「あわわっ!そこ退いてくださーい!」
「シャッコイヤー!」
足と腕を広げて準備態勢OKだぜ!
「なんでそうなるんですかー!?」
ドンッ!
「いたた…ご、ごめんなさい!」
うん、近くで見てやっぱり確信したわ。
「お前、ま〜たペロロ様かよ」
「へ?」
―――――
「あはは、またチェンソーマンさんに助けられてしまうとは…」
隣を歩くペロロ狂い…ヒフミの声に思ったまま返す。あの後、ヒフミを追っかけていた不良を追っ払い行動を共にしていた。
「お前は相変わらずペロロ様目的なんだろ?懲りねぇよなぁ」
「あはは…限定ペロロ様のためですから!」
開き直りやがった。あんなキモい鳥の何処がいいんだ…まだコケピーの方が愛嬌あると思うぜ。首がないのはともかくとして。
「と言うか、二人はどんな関係なのさー。おじさんにも教えておくれよー」
ホシノからの質問に素直に答える。別に隠すもんでもないしな。
「俺が主にブラックマーケットにいた頃な。今みたいにペロロを求めてやって来るどアホを助けたことがあってよ。」
「それからも何度か助けてもらうようになりまして…あとペロロ様ですからね。様、ちゃんと付けてくださいね。最低でも呼び捨てはやめてください」
うっせー、うっせー。ペロロ狂いがなんかアホなこと言っとるわ。
「今回探しているペロロ様の限定グッズはこれです!ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみ!」
そう言ってヒフミがスマホに表示し見せてきたのは、チョコミントのアイスを口に押し込まれているペロロのぬいぐるみ。限定100体しか生産されていないと言う貴重品らしいけどよぉ…
「ねっ?可愛いでしょ?」
そう言って笑顔で問いかけてくるヒフミ。こんなキモい鳥よかお前の笑顔の方が可愛いと思うのは俺だけでしょうか。
だが、意外にもこのキモい鳥に食い付いた奴はいたらしい。
「わぁ☆モモフレンズですね!私も大好きです!ペロロちゃん可愛いですよねぇ!私はミスター・ニコライが好きなんです!」
そう言ったのはノノミだった。笑顔で仲間を見つけたかのようにヒフミと語り合っている。
「……いやぁーなんの話だか、おじさんにはさっぱりだなー」
「分かんなくていいだろ。一部の変な愛好家が推してるだけだし」
特にペロロに関してはそれが際立っていると思うぜ。ペロロが可愛いかは分からんが、明らかにマスコット狙えるキャラデザじゃねぇだろ。
「と、そう言えば…皆さんはなんでブラックマーケットに?」
一旦話終えたヒフミが問いかけて来た。それに先生が答える。
「私たちもここに探し物に来ててね。もう生産されていない物だから、ここになら…ってね」
「そうなんですか…似たような感じなんですね」
先生の答えに頷くヒフミ。と、そんな時…
「皆さん、大変です!四方から武装した人たちが向かってきています!」
アヤネの報告を受け、ドンドンと足音が近付いてきているのを理解する。既に数人のチンピラが俺たちを見つけて駆け寄ってきていた。
「あいつらだ!!」
「よくもやってくれたな!痛い目に合わせてやるぜ!」
そう叫んで銃を構えるチンピラ共。なんの因縁か…とも思ったがなるほど。さっきヒフミを追っかけてた奴らの仲間か。
元々金目的で人を襲う奴らだしよ〜…ブチのめしていいよなぁ?
「へっ、ささっと片付けちまうか」
「チェンソーマン君、すごく三下っぽいセリフになっちゃってるよ」
ホシノにイジられた。うっせえやい。俺だって中身は一般人だぞ。三下根性万々歳だぜ。
ヴヴン!!
―――――
「おわーー!!逃げろ逃げろー!」
「撤退撤退ーー!!」
四方に逃げ去っていくチンピラ共。元から連携なんてあってないような連中は俺とホシノだけで大半が撤退を選んだ。
土煙を立てながら走り去る背中を見て、俺たちは武器を下ろす。
「ふぅ…やっぱホシノと組むと楽でいいぜ」
「うへ、おじさん褒められちゃったや」
つーかトントン拍子に行き過ぎて変な気分だ。昔に戻ったみたいで逆に調子狂うぜ。
そんなことを思いつつ、変身を解いて先生たちの方を振り返る。
「むぅ…」
と、なんか先生が俺らを見て頬を膨らませていた。
「…先生、なんか言いたいことでもあんのか?」
「いや、別にないですけどぉ?」
うわ、面倒くさ。時々拗ねた子供みたいになるんだよなこの人。
「面倒いから簡潔に言ってほしいんだけど…」
「…最近、私っているのかなぁって思ってさ…」
……はぁ!?なんでそうなんだよ!?突然すぎて言葉が出んわ!
「まぁ、私たち最近活躍あんまりないもんね」
「ん、大体ホシノ先輩とチェンソーマンで勝てちゃう。つまんない」
セリカとシロコが先生をフォローするように言った。まぁ、実際俺とホシノがタッグ組んでからはコイツら出番少なくなったもんな。
「私、最近指揮してないなぁって思ってさ…」
およよ…とわざとらしく涙を拭う演技をする先生。そんなこと言われても困るんすけど…それに今のアビドスに先生はマストだろ。
「だからっていらねぇってことはねぇだろ。少なくとも俺は先生がいないとヤだぜ。」
「…えへへ」
思ったことを言ったら笑われた。悲しんだり喜んだり情緒の上下が激しい人だな、ホント…
そんな先生をいったん置いておいて、ヒフミが口を開く。
「皆さん、応援が来る前にここを移動しましょう!」
「ん、なんで?幾らでも相手してあげるつもりだけど…」
シロコの疑問の声。そっか、こいつらマーケットガードを知らないんだったな。
「ここの治安機関に見つかると面倒なんだよ。特に俺は嫌われてるからなァ」
俺は基本的に悪徳企業や不良共をブチのめしていただけなのに、お構いなしに攻撃してくるからな。一度ぶっ潰してやったら粘着されちゃったし。
「うへ、ここはヒフミちゃんとチェンソーマン君に従おうか」
「ふん!運の良い奴らね!」
チンピラ共に恨み節を吐くセリカを宥めながら俺たちは足早にこの場を離れた。
◎ 便利屋68・アジト
プルルルルル……
「…………」
便利屋68のアジトにコール音が響く。
その音色が出ているのは、社長であるアルが座る席だ。デスクに置かれた古めかしい黒電話を見つめ、アルは顰めっ面を隠さずにいた。
「アルちゃん、何してんの?電話出ないの?」
「表情が暗いけど…もしかしてクライアント?」
一向に電話に出ようとしないアルにムツキとカヨコが言う。カヨコの言葉から状況を察し、"あちゃ~…そりゃ出れないか"と納得したように苦笑いを浮かべるムツキ。
そう、便利屋68がアビドス高校を襲撃したのは"そういう依頼"があったからだ。どういう目的、どういう計画があるのかは知らないが、金が貰えるなら何でもやるのが便利屋68のモットー。
しかしまぁ、今回はクライアントが普通ではない。アルもよくは知らないが、前任のヘルメット団に与えられていた武器やその規模からして相当の資産を有しているのは察せられた。
つまり、相手は超ド級の大物なわけだ。
プルルルルル……
「………」
尚も無言を続けるアル。その内心は…
――どーしましょうーー!?!?!?この電話すっごく出たくないわーー!!
荒れに荒れていた。それはもう、今までにないくらいに荒れていた。
――失敗したことは事実…それを報告することは依頼を受けた者としての義務よ。だから、そこまではいいのだけど…
そう、そこまではいい。便利屋68として、一人のアウトローとして果たすべき責任は果たす。その覚悟はとっくの昔に決めたつもりだ。
しかし…
――私達だけが追われるならまだいいわ。でも、もし…再度襲撃を依頼されたりしたら…
もう一度アビドス高校と戦え、だなんて言われたら最悪だ。便利屋68は確かに負けたのだ。
敗者が惨めったらしく再戦を申し込むだなんて…
――そんなダサいこと、できるわけないじゃなーーい!!!
プルルルルル……
しかし現実は非情なもの。コール音は止まない。
「くっ……」
アルは顰めっ面のまま、祈るように目を瞑り受話器を取って耳に当てた。
◎ ???
ガチャ
暗いオフィスの中、一人の大型なロボットが悩ましげに目を細めていた。
「…奴らのデータは自体は正確なものだったはず」
彼が想起するのは便利屋68とアビドス高校の戦闘記録。秘密裏にドローンで撮影した映像は脳内CPUに事細かに保存されている。
「チェンソーマンという予想外があったのはそうだが、あの力は明らかに…」
そう、戦力は十分なものだったはず…少なくとも、小手調べとしては多いくらいだったはずだ。
突如現れたチェンソーマンという変数への対応で、作戦に支障が生じたのは分かる。しかし四人がかりで前線の二人さえも倒せないなど…
「いや、再度襲撃の依頼は済んだ。資金もまだある。例え失敗しても他の傭兵共を雇えば…」
そう。例え失敗しても、成功するまで繰り返せばいい。先ほど電話を済ませた便利屋68も最初はモジモジと抵抗していたが、断ることの危険性を理解したのか結局は頷いた。
それに資金もまだある。無論自分が動かせる資金にも限界はある…が、それが莫大なものであることに変わりはない。
「チッ…!ここでもあのクソチェンソーが邪魔になるとは…!」
冷静になって沈めていたはずの憤怒が頭を満たす。静かに収めていた怒りが沸々と湧き上がってきた。
あのチェンソーには何度も世話になった。ブラックマーケットに点在する子会社幾つも潰され、討伐隊も返り討ちにされた。そのせいで、最近の企業の業績はあまり良くない。
しかし、今回は別だ。アビドス高校と共に確実に轢き潰してやる…!
と、チェンソーマンへの怒りで震えていた彼に、新たに現れた黒い服の人型が語りかける。
「…おや、お困りですか?」
「……いや、困ってはいない。アビドスの連中が私の想定以上に強かっただけのこと」
気分が悪いところに更に面倒な奴がやって来た。出そうになった溜息を引っ込めて答える。黒い服を纏った人型は不気味な笑みを浮かべていた。
有用な取引相手ではあるが、コイツの態度はいつまで経ってもいけ好かん。
「クックック…データに不備はありませんよ。ただ…」
「……?」
続かない言葉に首をかしげる。データに不備がないのなら何だと言うのか。
「いいえ…私はアビドスにどのような変化があったのか、調査してきましょう」
そう言って黒い影は消えていった。まったく、やはり不気味で妙に信じられん奴だ…
―――――
「そう、ただ…彼を、データで測れる存在とは思わないことです。」
黒い影はどこでもない暗闇の中で囁く。やはり思うのはチェンソーマン…デンジのこと。
「いやはや、面白いことになりそうですね。デンジさんと先生、それとホシノさん…」
研究者として、探究者として、変数が混じり合うこの状況には興奮を隠せない。未知とは可能性の塊だ…やはり彼の行動を縛らなくてよかった。
さて…物語が上手く進むのは良くてここまでだろう。遠くない内に面白いものが見られる。そんな気がするのだ。
「クックック…」
あぁ、楽しみだ。実に楽しみだ。
「期待していますよ、デンジさん」
貴方のような異物が生み出すカオスを、私は喜んで拝見いたしましょう。
ヒフミ→デンジ
ブラックマーケットにいると時々助けてくれる近所のお兄さん的な人。この人が兄だったらどうなるのかな、とか考えたりする。
デンジ→ヒフミ
ペロロが大好きなアホ。世話が掛かるけど、何やかんや言って助けちゃう。ペロロよりコケピーの方が可愛いと思う。