ホシノの漏らした一声に、生徒会室は凍り付いた。大きな怒りと冷たい感情の籠もった声は、瞬く間に俺の心を凍てつかせた。
「…ユメ先輩、少し…デンジを借りますね」
「え、ホ、ホシノちゃん…?」
ホシノは静かに席を立ち、俺に歩み寄って来る。その表情は真っ直ぐと俺を睨んでいて…
「ちょちょちょ、ホ、ホシノさぁ~ん!?腕が取れちゃうよぉ〜!」
ホシノは俺の腕をガシッと掴むと生徒会室を出ようと歩を進める。俺もそれに従って無理やり足を動かされる。
「ホ、ホシノちゃーん!どうしちゃったの〜!」
ユメ先輩の明るい声が段々遠くなる。廊下に引きずり出された俺は、空き教室へホシノによってぶち込まれたのであった。
◎ アビドス高校・空き教室
「ちょ、ホシノ!さっきから何なんだよ、お前!」
こんにゃろ〜!俺が何か悪いことでもしたのかよ!ちょっと人の名前言っただけなのによぉ…!
「最初から、怪しいとは思っていました」
ホシノは冷たい瞳で俺を見つめている。そして、ショットガンを俺に向け、ゆっくりと語りだした。
「アビドスに入学してくれて、私を助けてくれて…だから油断してました」
「まさか、黒服の仲間だっただなんて…!」
なんか盛大に誤解されてるぅ!俺黒服の仲間なんかじゃないんですけどぉ!?
「ホシノ!それは誤解だ!俺は黒服の仲間じゃない!」
「ならなぜ黒服を探しているんですか!」
う、うぐぅ…それは言いづらい…まさかお金が欲しいから身売りするために探してたなんて言えねぇ…!
黙りこくる俺にホシノはより一層睨みを利かせて俺に詰め寄る。
「ほら、言わないってことはそうなんでしょう…?」
く、くぅ…言わねぇと殺されちゃうよな…恥ずかしいけど、仕方ねぇか…!
「あぁもう、わかったよ!言うよ!金だぁ!金!黒服に身売りしようとしてたんだよ!」
「……え?」
数秒、ホシノの沈黙。
ほらぁ!言ったら言ったでドン引きされんだよ!だから言いたくなかったのにぃ!
「え、あの…み、身売り…?」
「そうだよ!金ねぇから身売りして稼ごうって思ったんだよ!キヴォトスで働けるような身分証とかねぇし!」
するとホシノは気が抜けたように肩をガクッと落としてしまった。驚きに満ちた顔で俺をぼおっと見ている。
「そ、そんなことの為に黒服を探していたんですか…?ただ、お金がほしくて…?」
ホシノは完全にヤル気を失せたようで、側にあった椅子にあっけらかんといった様子で座り込む。
眉間にユビを当てて頭痛を抑えるようにグリグリと指を動かしながら聞いてきた。
「あ、あのですね…黒服がどんな存在かわかって言ってるんですか?」
「あ?よく知らねぇけど…悪いやつなんだろ?それでもまだマシな方って聞いたけど」
ホシノの反応的に違うのか?クッソ!前世の友達め、俺に嘘を教えやがったなぁ〜!
「黒服は悪いも悪い、超悪人ですよ。交渉事は守るかもしれませんが…それでお金が得られても不幸になるだけですよ」
言い方的にホシノは黒服と知り合いなのだろうか。それにちゃ随分と黒服を嫌っているようだけど、なんかあったのかな。
「なぁ、ホシノは何でそんなに黒服に詳しいんだ?」
「私が黒服に詳しいとかやめてください。よく契約を持ちかけられているだけですよ…何度も断っていますがね」
なるほど、ホシノは黒服から何度も勧誘されているわけか。となると気になるのはその内容だな。
「内容は?臓器売るとか傭兵になるとかか?」
「なんてバイオレンスなこと考えてるんですか…まぁ、似たようなものですよ。その対価にアビドス高校が抱える借金の大半を負担すると言って…あ…」
…今、借金って言ったよな?ん、んん~…聞いてなくね…?え、この学校借金あるの!?
「ホ、ホシノ…今、借金って…」
震えた声で聞いてみる。するとホシノは気まずそうに顔を逸らしながら呟いた。
「そ、その…砂漠化に対抗しようとした今までの生徒会がお金を使いまくって…大体10億ちょっとほど…」
「……マジっすか」
これは絶句するほかない。
アビドスが廃れた学校だったのは理解していた。目覚めた時から人の少なさ、校舎の状態から余程の経営難なんだろうなぁ〜と思っていたけど…
「じゅ、10億…!」
流石にこれは俺もどうしようもなくね…?俺ら3人で10億返済って、死ぬ気で働いてそれでも足りねぇじゃん。
「とんでもない額なのは私たちも理解しています。それでも…この学校をなかったことにはしたくない。ここは…ユメ先輩との、唯一の思い出の場所なので」
……ホシノにとってユメ先輩は大きい存在ってわかけか。
まぁ、そうだよな…誰にだって、どうしても失いたくない居場所はあるもんだ。ホシノたちは偶々それがここだっただけで変なことは何もない。
「だから、この学校は何があっても守ります。黒服の案に乗るつもりはありませんが…それでも…」
ホシノの瞳には強い覚悟が籠もっている。何があってもアビドスを守ると宣言した彼女の瞳は、不意に見惚れてしまうほど凛々しくてカッコよかった。
「なるほどな…ならよぉ…」
立ち上がってホシノに歩み寄る。右手を座っているホシノに差し出して…
「腹減ったし、ラーメン食いに行こうぜ!」
「…え?」
ホシノの驚く声。始めて聞いた声に笑いながらも俺はホシノの手を取った。
◎ 柴関ラーメン
「へいっ!柴関ラーメン3人分お待ち!」
柴犬な大将が出してくれたラーメンをまじまじと見つめる。
透き通るようなスープ。ストレートでありながらもスープが適度に絡みつく麺。程よい火通りのゆで卵。そしてラーメン全体に寄り添うように佇むメンマやチャーシューたち。
思えば、まともな飯を食うのは久々だなぁ…キヴォトスに来てからずっと、ブラックマーケットに売ってあった不正品ばっかり買ってたからなぁ。
「うんめ〜!!」
「デ、デンジ君。声大きいよ…!」
久々に食ったラーメンは度肝抜く美味さだった。つい笑顔になってしまって声が張る。すると大将が可愛らしい笑顔で俺に声をかけた。
「兄ちゃん、イイ顔で食ってくれるなぁ!」
「そりゃ、このラーメンがバカみてぇに美味いからなぁ!」
柴犬の大将とにこやかに笑いながら言葉を交わす。するとホシノがムッとした顔で割り込んできた。
「あのですね…ユメ先輩が賛成したからここに来ましたけど、なんで突然ラーメンを?」
口に含んでいた麺を飲み込むとホシノの問いに答える。
「そりゃ、腹減ったからに決まってるだろ。それに…」
単純に、思い詰めているホシノが心配になった。アビドスを救いたい。その思いは良いものだし、綺麗な願いだと思う。
でも、ホシノは少し真っ直ぐすぎる。いつか思い詰めて黒服の提案に乗るかもしれない。
だから、少しは気まぐれになるかなぁ、と飯を食いに来たわけだが…
「あの、なんです?いきなり見つめて…」
ホシノをジッと見てみる。幼さの残る顔立ち。オッドアイの綺麗な瞳とぴょんと出たアホ毛。
本来なら、ホシノは今頃友達と遊んでいるはずの学生だ。借金なんて面倒なことを考えることもなく、少しずつ大人になっていくべき子供。
出会って間もない関係ではあるが、三人しかいない学校の仲間だ。出来るだけホシノにはのほほんとしていてほしい。
「いんや、別になんでもねぇ」
ホシノから視線を外してラーメンを啜る。
ユメ先輩とホシノ、そして俺。三人で食った初めての飯は、今までで一番楽しい時間だった。
◎ アビドス・柴関前
ラーメンを食べ終えた俺たちは、店を出てアビドス高校に戻ろうと足を進めていた。
「いや~、やっぱりあそこのラーメンは美味しいね!また三人で行こっか!」
「そうですね。基本的に借金返済で忙しい私たちですけど…また行きましょうか」
俺の少し前を歩くユメ先輩とホシノが談笑を交わしている。その後ろ姿をそっと眺めていると、何処からか視線を感じた。
「あれ?デンジ君どうしたのー?」
「どうかしたんですか?」
気の所為か…?確かに見られているような気がしたんだが…まぁ、アビドスに人が残っているとも思えねぇし…
「おー、なんでもないっすよ。今行きまーす!」
ユメ先輩とホシノの隣に駆け寄る。あの視線が何だったのか分からねぇけど…今は三人で帰る方を優先するぜ。
◎ ???
「…おや、まさか気づかれてしまうとは…クックックッ…流石はチェンソーマンと言ったところでしょうか」
真っ黒な男は一人、自らの部屋で佇む。彼の視線の先にはパソコンの画面があり、まさに柴関ラーメンから帰るデンジ達を映している。
「気になります、ええ、気になりますとも。その力、その存在、その原理を…私は知りたい。」
「クックックッ…いずれ、お会いしましょう。チェンソーマン…デンジさん。」
彼は笑う。
いつかの未来でデンジと会うことを願い、未知を解明することを願い、崇高を願って…彼は笑う。
その笑みは、見れば震えてしまうほど暗く、深く、不気味なものだった。
あと2、3話くらいで過去編は終わるかな
できるだけ綺麗に終わらせられるように頑張ります!
次回はデンジ君のバトル書けるかなぁ…書きてぇ!!