転生先はゲームの世界(意図せず曇らせフラグをへし折る系男子) 作:アンダギー
屋敷の庭で、カンカンと木刀がぶつかり合う音が鳴る。前日の約束の通りギルバートさんと手合わせをしていた。やはり当初感じたとおりギルバートさんはかなりの使い手である。いくら攻めても簡単に塞がれる。あくまで手合わせのため魔法を使わないがきっと使っところで意味を持たないだろう。
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「ここまでにしておきましょう」
その言葉と共に持っていた木刀を弾かれる
「…はぁ…はぁ…」
息も絶え絶えの私に対してギルバートさんは汗一つかいていなかった。この晴天の中でどんな体力をしているのか末恐ろしさを感じる
「ニック殿の腕はその歳にしてはかなり…いや、異常なくらい達者でありました」
「…はぁ…はぁ…汗…ひとつ…かかせられないのに…皮肉に…聞こえますよ…人が…悪い…ですね」
「皮肉に聞こえたなら謝りましょう。しかし、本当に賞賛をしているだけなのですよ。ニック殿が私のように経験を重ねればきっと私より強い剣士になられることでしょう。今回の勝敗は単なる年季の違いだけですよ」
「…はぁ…はぁ…ふぅ〜…ギルバートさんより強い剣士ですか…」
「えぇ…そのためには焦らず鍛錬を続けることです」
「ギルバートさんそれなら…」
「……もちろん。お付き合いしましょう。ニック殿も最初から私から指南を受けるため手合わせの依頼したのでしょう?」
「何もかもお見通しですか…本当に何から何まで完敗ですよ」
「これも年季の差ですかな」
そういうと、ギルバートさんは空を見上げて少しだけ笑い声を上げる。その姿がやけに目について離れなかった
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ミーネ様の執事になって早一年が過ぎようとしていた。今日も今日とてギルバートさんに稽古をつけてもらう。最初はギルバートさんについていくのがやっとだったが今では少しであるが剣術も上達してある程度はついていけるようになった。もちろんギルバートさんには遠く及ばないが日々強くなっていく自分に喜びを感じてきていた
「ニック殿」
稽古の休憩中、いつものようにギルバートさんと話をしていると少し神妙な面持ちで名前を呼ばれる
「どうしました?」
「いえ、そういえばこの屋敷にあなたがきて丁度一年になりますな」
「えぇ、あっという間でした…特にミーネ様のことが…」
この一年はものすごい忙しくでも、とても充実した一年であった。特にギルバートさんとの稽古や屋敷内の仕事についてであるが。ミーネ様との日常はそれはもう言葉にできないくらい激動の毎日なので思い出にふけている時間もない。スターニャさんとの関係もあの食事事件の後はかなり良好になっており、逆に気を遣われるようになった。最初は泥棒とか言ってたのに今では被害者だと思われているようだ
「はっはっは!確かにお嬢様はニック殿が大好きですからな。まぁ愛情がいきすぎることも多々あるやもしれませぬが許してあげてください。お嬢様もお嬢様できっと寂しいのです」
ギルバートさんが言わんとしていることもわかる。現に私もミーネ様を強く拒絶することができないのは私の前だけでしか甘えられないミーネ様に少し同情しているからでもある
「執事になった以上、主人の幸せを願い務めるのは当たり前のことですので…」
「貴殿も不器用ですからな…ある意味似たもの同士でありますな」
ミーネ様と似たもの同士?甚だ遺憾である。私は残念ながらミーネ様のように嫉妬で想い人の目を焼き払おうなど考えない。至ってノーマルな人種なのだ
「不満そうですな…なら今から質問すらことに嘘偽りなく答えてくだされ。今目の前にお嬢様がいるとします。そこに集団の男女がお嬢様を取り囲み暴力を振るっていました。さて、ニック殿はどのようにしてその場をおさめますかな?」
ふむ…なんだ簡単なことではないか。これがテストとはギルバートさんもやきがまわったものだ
「男女両方とも首を刎ねます。一瞬ですので気づかれる心配もありません。ましてや、ミーネ様に不貞働いた蛮族です。もし仮にバレたとしても罪には問われないでしょう」
「あぁ…なんと最低な…」
「最低!?なぜです!?」
「自覚がないのが一番の恐怖です。お嬢様と同じと言った点は訂正します。あなたの方が幾分がタチが悪い。一度出家なさい」
「随分と辛辣じゃないですか!?」
ミーネ様よりタチが悪いとは…確かに少し主人に対して過保護な部分はあるがそれは仕方ないと思う。四六時中一緒にいたら愛着も湧くものだ。というか、主従関係というより家族としてみている節すら自分にはある。ミーネ様は妹のような存在なのだ。前に一度そう伝えたらアホみたいにキレられたので2度と本人には伝えないが
「うぅ…少し控えるようにします…」
「かなり控えなさい。少しではなく」
少し引きながらギルバートさんに忠告を受ける。なんか自分が情けなく感じた
「あ、それはそうとギルバートさんに聞きたいことがあったんです」
「ん?なんですかな?」
「ギルバートさんは何故このお屋敷で働いておられるのですか?きっかけとか教えてもらえれば…」
その言葉を発するとギルバートさんからピリッとした空気が伝わってきた。一年という月日が経って少しは仲良くなったと思ったが…やはりギルバートさんにはなにか隠していたいことがあるのだろう
「あの…無理にとは言わないのですが…」
日頃よくしてもらっている分、かなり引け目を感じた。まるで我が子のように育ててくれた相手に嫌われるのはさすがに堪えるため話題をそらそうとする
「……そうですね…少し話すと長くなるのと私の中で整理する時間が必要なので今日の夜まで少し時間をもらえませんかな?」
「いえ!無理にとは」
「いや、あなたには伝えておきたいのです。よければ聞いてもらえませんか?」
「それでしたら…」
「では、今日の20時にこの場所で」
「はい」
そこから少し気まずい空気の中屋敷の中に2人で戻って行った
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「…バゼット…マルス…」
年季のはいった部屋の中、飾られている写真立てをギルバートは懐かしむように手に取り眺める
最初にニックが手合わせをお願いしてきた時、本来は断る予定であった。ましてや指南役などもっての外だと思っていた。なのに、何故だろうか、気づいたらニックのため剣術を親身に教えていた。まるであの時の傷を癒すかのように…彼に私の心の内を吐露したら軽蔑するだろうか…それはかなり堪えるな…そんなことを考えながらニックとの一年を振り返る
「バゼット…マルス…私は…私は…」
部屋には1人の啜り泣く声に返答はない。ただ虚しく男の声は空虚に飲み込まれるだけであった
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「ミーネ様…少し相談が」
食事を終えた後、主人に今日の顛末を報告する。主人は少し考えた後「受け止めてあげなさい。私にしたように、貴方なら救えるわきっと」と意味ありげな言葉を残して去って行った
約束の時間の10分前、月明かりに照らされている庭のベンチでギルバートさんを待つ。虫の声に耳を傾けているとポンっと肩を叩かれた
「待たせましたかな?」
「いいえ、今来たばかりですよ。あ、よければギルバートさんもどうぞ」
話が長くなることを想定してギルバートさんにあったかい飲み物を渡す。ギルバートさんはそれをありがたそうに受け取りベンチに腰を下ろす
「今からいう話は私にとってとても言いづらい過去になります。もしかしたら私のことをニック殿は軽蔑するやもしれませんが…それでも構いませんかな?」
「ギルバートさんのことを軽蔑するなどあり得ません。だから、教えてください。ギルバートさんのことを」
「そうですか…では話しましょう。あれは、今から8年前のこと」