転生先はゲームの世界(意図せず曇らせフラグをへし折る系男子)   作:アンダギー

27 / 37
 師匠と弟子と

 

 広い大浴場に男2人、先ほどの吐瀉物事件からすぐにお風呂に直行して現在2人で仲良く入浴中

 

 「あの…すみませんでした…なんか色々と堪えきれなくて…」

 

 「…いえ…まぁ…はい…」

 

 浴場に気まずい雰囲気が漂う

 

 「そういえば、こうやって2人でお風呂に入るのって初めてですね」

 

 思い返してみるとこの一年、ギルバートさんと一緒にお風呂を共にしたことがないことに気づき、さらりと伝える

 

 「…確かにそうですな…あなたが来て一年ですか…」

 

 そういうと、じっと私の目をギルバートさんは見つめる

 

 「どうなされました?」

 

 疑問を感じ、ギルバートさんに声をかける

 

 「いやはや…時の流れは早いものだなと感傷に浸っておりました。それと怖いなとも」

 

 「…怖いですか?いったいなにが?」

 

 「…そうですね…先ほどの話の続きなのですが、私がここに来た理由はおおかた話したのですが、一つお伝えしていないことがありましてな」

 

 伝えてないこと?私は首を傾げる

 

 「それはいったい?」

 

 「この屋敷に来て、お嬢様の護衛をしている間も私はドーズのことをまだ追い続けているのです。もちろん、お嬢様も承知の上で、それでも私を護衛としてこのお屋敷に置いてくださっている。しかし、この一年…いや、ニック殿と稽古を始めてから段々とドーズのことより、君のことを優先している自分がいるのが怖いんです」

 

 「…それになにか問題でも?」

 

 「…私の中で復讐より、お嬢様とニック殿を守り強くすることの方が重要になっていること、なにより、私がお二人の成長する姿をみて幸せを感じていること、それが怖くて仕方ないのです。天国にいるマルスやバゼットは、私のこのような姿をみてどう思っているのが…仇討ちすらできていない半端な私を恨んでいないのか…こんな私が幸せを感じてもいいのか…それがとても怖いのです」

 

 「…ギルバートさん…」

 

 「私はねニック殿…幸せになってはダメなのです。復讐の思いを、家族の無念を忘れてはならないのです。それなのに…貴方達と過ごして、段々と幸せを感じ、復讐という気持ちが風化していく、それが怖くて堪らないのです…それに」

 

 「それに?」

 

 「私は…ニック殿にマルスを投影していたんです」

 

 「…息子さんを…?」

 

 「えぇ、お伝えするかずっと悩んでいました…ですが、今言っておかないとずっと言えないと思いまして。貴方は私のことを慕ってくれていることはわかっていました。ですが、私はそんな貴方に亡き息子の姿を投影し、ずっと貴方をみていなかった…自分の後悔の気持ちを発散させるため、解消させるために貴方を利用していたのです」

 

 「…そうですか…」

 

 衝撃的なカミングアウトを受け、呆然としている私にギルバートさんは矢継ぎ早に話を続ける

 

 「どうですか…貴方が慕っていた男は、ここまで醜い存在なのです。幻滅したでしょう?ですから、この件を皮切りに私との稽古は…」

 

 「やめませんよ?」

 

 「…え?」

 

 今度はギルバートさんがポカンとする

 

 「稽古はもちろん、ギルバートさんを慕うこともやめません!」

 

 「っ…話を聞いていなかったのですか!!私は貴方に慕われていい人なんかじゃ…」

 

 「勝手に私の気持ちを知ったようなこと言わないでください!それに!天国にいる奥さんや息子さんも同じことを思っていますよ!なにが恨んでるかもしれない、幸せになってはいけないですか?そんなこと言ってまだ逃げ続けてるだけじゃないですか!復讐の心が風化する?はっ!馬鹿馬鹿しい!!」

 

 「…馬鹿馬鹿しいだと…?」

 

 「えぇ!馬鹿馬鹿しいですよ!今から証明してあげますから、というかあなたの存在自体が証明なんですけど」

 

 「…なにを!?」

 

 ギルバートさんの両手のひらを、彼に見せるようにむける

 

 「この手…ギルバートさんの気持ちを表しています。私なんかが語れるはずもないほどの努力と執念の手です。家族の無念を晴らすためそこまで自分を追い込みそのために一生を過ごしている。私が息子だったら恨むなんてしません。そこまで私のためにしてくれているのであれば、逆に幸せになってほしいと願いますよ」

 

 「…しかし、バゼットは…」

 

 「…ギルバートさん目を閉じてください」

 

 「…え?」

 

 「いいから!」

 

 「…はい…」

 

 「ゆっくり深呼吸をして、今からバゼットさんの顔を思い浮かべてください。……………どうですか?」

 

 「…っ…どうとは?」

 

 「貴方の頭に残っているバゼットさんは貴方を恨んでいましたか?貴方が愛した奥さんは、貴方を恨むような人でしたか?」

 

 「…いや…違います…そんな女性では…」

 

 「そうです。そんなんですよ。だから、貴方が勝手に決めてはダメなのです。それこそお二人に怒られちゃいますよ!だから…」

 

 スッと両手を包み込む

 

 「貴方は貴方なんです。他の誰でもない。貴方の復讐心も貴方の幸せも全て貴方のものなのです。逆にいえば、バゼットの心も幸せも、マルスさんの心も幸せも、全てお二人のものなのです。貴方が勝手に決めていいものではない。貴方の心も勝手に決められていいものではない」

 

 「…しかし、私は」

 

 「でもも、しかしなんてものはありません!貴方は貴方らしく!復讐の心が風化することなんてありません!今は私たちのことで手がいっぱいでそれどころではないだけです!あと!別に私のことを息子のようにみてくれてることは全然嫌じゃないですよ!むしろウェルカムです!」

 

 「ニック殿…」

 

 「だから、ギルバートさん…もう自分を許してあげてください。勝手に幸せを諦めないでください。過去に囚われるなとは言いません。私はギルバートさんの復讐をものすっごく応援してますから。しかし、今もちゃんとみてみてください。貴方の瞳に映るのはもう過去のお二人だけではないはずです。お嬢様や屋敷の使用人の方々、それに私がいます。そのみんながギルバートさんの幸せを願っているんです」

 

 「…私は…僕は…」

 

 「…今はいっぱい泣いて、いっぱい後悔して、そして明日からいっぱい笑いましょう。もう貴方は1人ではないんです。私達がいますから」

 

 泣き縋るギルバートさんの背中をさする

 

 私の瞳にもたくさんの涙が頬をつたった

 

ーーーーーーーー

 

 「…なにかどっと疲れましたな…」

 

 「そりゃそうでしょ…あれだけ泣けば」

 

 「ニック殿だって、泣いていたではないですか」

 

 「師匠の溜まっていた分の涙を私が代わりに流してあげたんです。感謝してください」

 

 「ふふ…本当に生意気な弟子をもったものです。今後が思いやられますな」

 

 「…お互い様です」

 

 2人で悪態をつきながらも、顔を見合わせると笑い声が漏れる。今日の一件でギルバートさんとはなにか強い絆のようなものを感じた

 

 「あ、あとこれからはギルバートさんのこと師匠って呼んでいきますから。弟子をもって勝手にやめるなんて半端なこと、師匠ならできないでしょう?ていうか、させませんから。あと、私のことはニックと呼んでください。あと、敬語もダメです」

 

 「…それはまた…でも本当にいいんですか?私なんかで」

 

 「敬語やめてください。今度また間違えたらミーネ様に報告しますよ。師匠は私の心を弄んだ!って、あ、それはそれで面白そうですね…」

 

 「それはやめなさい!バカ弟子!」

 

 「あ!!言うなこと欠いてバカとはなんですか!バカとは!このアホ師匠!!」

 

 「よしわかった!明日からの稽古、厳しめにしよう!こんなに師匠想いの弟子をもって僕も嬉しいよニック!!」

 

 「へへ…なにを言ってるんですか師匠。あ、お背中でもお流ししましょうか?へへ…だから、明日は緩めに…ね、そうしましょうよ〜」

 

 「…頭がいいのか悪いのか…本当に面白い男だなニックは」

 

 悪態をつきあいながら、それでも顔を見合わせたら2人とも笑顔が漏れる。ギルバートさんもとい師匠との強い絆を感じながらお互いの背中を流しあった

 

ーーーーーーーー

 

 「それじゃ!師匠!また明日もよろしくお願いします!」

 

 「えぇ、それじゃあまた明日」

 

 上機嫌に帰る弟子の後ろ姿を見送る

 

 「ニック!!」

 

 「え?どうしました?」

 

 なぜか呼び止めてしまう、身体が勝手に弟子の方に向かっていく。気づいた時には弟子を抱きしめていた

 

 「師匠?」

 

 「…ニック…本当にありがとう…君に出会えてよかった…」

 

 「…私もです」

 

 感謝の気持ちを伝えて数秒ハグをした後、今度こそちゃんと見送った。その後ろ姿にもう亡き息子の姿は映っていない。ちゃんと一番弟子のニックとしてしっかり刻まれていた

 

 ニックと別れた後、自室で厳重に保管されている箱に手をかける。これはかつての自分の家、もとい家族と過ごした家から持ってきたのものであり、亡き妻の遺書が封印されている箱であった。実際は見るのが怖くて今まで厳重に保管していたものである

 

 「スゥーー……、バゼット…今日ね弟子ができたんだ。この僕にだよ。本当に笑っちゃうよね…その弟子から逃げ続けるなって言われちゃったよ。はは!本当に生意気な弟子だよ…でも、僕も師匠としていつまでもかっこ悪いままでいれないからさ、だから…今日、君とちゃんと向き合うよ。遅くなってごめんね…バゼット」

 

 震える手で箱を開け、手紙を読む

 

 『ギルバート、私の最愛の人。勝手に先立つ私を許さないでください。貴方のように強くなれない私を許さないでください。私達の愛する子どもを殺したドールのことを許さないでください。私は先にマルスのところに行って、マルスが悲しまないようにそばにいようと思います。私は貴方の糧になります。貴方の復讐のための糧に。貴方をそばで支えてあげられないこと、それだけが後悔だけど、貴方ならきっとやり遂げてくれると信じています。私はどんな時でも貴方を愛しています。それと同じようにマルスも愛しています。家族を愛しています。本当にごめんなさい。だからせめてこれを送ります。貴方に送る最後の言葉』

 

 はらりと手紙から何かが落ちてくる

 

 「…これは、クローバー?しかも四葉の…なるほど…わかったよバゼット。君の気持ちしっかり受け取った。どうか天国でマルスと共に見届けてほしい。僕の僕だけの復讐を」

 

 四葉のクローバーその花言葉…『幸福』、『復讐』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。