転生先はゲームの世界(意図せず曇らせフラグをへし折る系男子) 作:アンダギー
「ニック!正面で受け止めるな!受け流すことを心がけろ!!」
「はい!師匠!!」
屋敷の庭を活用し、今日も今日とて稽古に励む。しかし、あの一件から稽古にも違いが出始めた。まず、指導がかなり厳しくなったこと。それはひとえに弟子として成長してほしいという親心らしい。とてもありがたいが、厳しすぎるため偶には休ませてほしいと少し後悔をする日が増えた。それに何より変わったことがもう一つ
「お疲れ様、ニック」
そう、なにを隠そう我が主人である。あの一件を報告したら、労いの言葉と感謝を述べられ、興味本位で稽古の見せてほしいと言われたため安請け合いしてしまったことが原因である。私と師匠の仲の良さが気に入らないようで、稽古が終わるといつもタオルを持って労いに来るようになった。一使用人に対してあまりに手厚すぎるため控えるようにお伝えするが言うことはもちろん聞いてはくれなかった
「ミーネ様…ありがたいのですが」
「ほら、汗凄いわよ。拭いてあげる」
言葉を発することをさせないためか強引に顔を拭かれる
「今日も仲がよろしいようで、ニックも使用人冥利に尽きるな」
師匠はその姿を呑気にみているが、実際のところ貴方が原因なんだけどな心の中で愚痴を吐く
「さて、拭き終わったし…次はこれを飲んでみて」
そう言うとミーネ様は、水筒を突き出してきた
「飲み物ですか…?」
初めての差し入れだったため少し驚いてしまう。しかし、水分を失った身体に願ってもないことであったため、疑うこともせず素直に水筒を受け取った
「ありがとうございます!修行が終わったらすぐにいただきます」
「?」
ミーネ様は不思議そうに首を傾げていた
「?」
真似をするかのように私も首を傾げる
「今飲まないの?」
「…えぇ、まだ私が持ってきた水筒にも少し水が入っておりますので。飲み終わった後に、ミーネ様のをゆっくり頂こうかと」
ミーネ様に見えるように、持参した水筒を掲げると、ミーネ様は少し考えるそぶりをみせた
「…ニック、その水筒少し見せてくれない?」
「なにか気になることでも?」
「いいから、早く見せてちょうだい」
「はぁ…承知しました」
主人のお願いどおり水筒を渡す。すると、ミーネ様はその場で水筒の蓋を外すと当たり前かのごとく水筒を逆さまにした。重力に逆らえず水筒の中の水は、ドボドボと地面に吸収されていく
「……え?」
その行動にただ、訳も分からず呆然としてしまう。隣の師匠も同じようにポカンとしていた。終わりの告げるかのように、最後の一滴がぴちょんと音を立てる
「ごめんなさいニック、間違えて水筒を逆さに持ってしまったわ…貴方の貴重な水をごめんなさい。でもよかったわ、丁度私が持ってきたものがあって。さあニック、お詫びも兼ねて飲んでちょうだい」
ミーネ様は、あとで飲むように置いておいた水筒を手に取り、私の前に突き出した
「…ミーネ様。なぜ、逆さにしたのですか?」
水筒を受け取る前に、素朴な疑問を投げかける
「ん?」
先程の質問のどこに疑問を感じているのか分からないが、ミーネ様は首を傾げた
「ん?ではないのですが…」
「ん〜?」
さらに語尾を強くする始末である。これはこれ以上聞くなと言うことなのだろう。諦めて目の前の水筒を渋々受け取る
「ありがとうございます…」
「ん!!」
主人が人の言葉を忘れてしまったことを嘆く
「で?」
「え?」
今度の一言は少し違った。んではなくでであった
「飲まないの?」
その言葉に何故か不安がよぎる。最初に受け取った時はなにも疑わずに受け取れたのだが、わざわざ私の水筒をこぼしてまで飲ませようとする、この行動に強い不信感を抱いた
「えぇ、やはり勿体無いな〜っと思いまして。やはり、稽古が終わった後にゆっくりいただくことにしようかなと」
「うーん…」
ミーネ様は少し考え込んでいる。うまくいったのかもしれないと心の中で安堵する
「よし…なら命令にするわ。今すぐに私の目の前で飲み干しなさい」
しかし、救いなどはなかった。結局は私は使用人。雇い主の命令には逆らえない生き物なのである。しかも注文が飲むだけでなく飲み干すとのパワハラ付きである。まさかのアンハッピーセットのお届けに目眩がする
「ミーネ様…何卒ご勘弁を。飲むことはさせていただきますが、飲み干すのは許してください。このとおりでございます」
ただ私にできることは主人の前に頭を垂れることのみであった
「…うーん、今回はわかったわ。じゃあ早速飲んでちょうだい」
今回はと言う言葉に違和感を覚えるが、なんとか説得ができてよかったと、取り敢えずは納得するようにした。取り敢えず、今は目の前の水筒に目線を下す
「さぁ、さぁ、さぁ!」
某卓球選手のように、はたまた飲み会の席の上司のように一献を促される。覚悟を決め、一度胸の前で小さく十字架をきり水筒に口をつける。すると、口の中にかなり甘い風味が広がって…というか、ジャリジャリするというか…なんというか…うっ…
「…ブハァ!!!??」
あまりの甘さに吐き出してしまう
「ゴボゴボ…ミーネ様…なんですかこれ?」
「…せっかく作った…私のドリンク…」
「あ…」
ミーネ様はただ吐き出された場所を見つめていた。その瞬間主人の気持ちに答えられなかった自分に後悔が襲ってくる
「申し訳ございません!!ミーネ様!!」
いくら飲み物とは到底いえないものだとしてもミーネ様がわざわざ作ってくださったもの、さすがに吐き出すのは悪かったと心の中で猛省をし、謝罪を述べる
「…いえ、私も悪かったわ…味見もせずにニックに渡しちゃって…ごめんなさい…今後は気をつけるわ」
そういうとそっと私から水筒をとり、トボトボと屋敷に戻ろうとする
「…!ミーネ様!!お待ちください!!」
屋敷の中に戻ろうとする主人を呼び止める
「…どうしたのニック?」
「えっと…その…なんといいますか…」
「なにも用がないなら失礼するわ…ごめんなさい私みたいなのが貴方の主人で…」
先程のことがかなり堪えたのか、珍しく落ち込んでいた
「ミーネ様!私は確かに飲めませんでした。それは私めの主人に対する信用失墜行為であり、私の失敗でございます。これは私の責任です。ですから、どうか私に罰をお与えください」
その言葉にピクリと反応をする
「…罰?でも…そんなことできないわ」
ミーネ様は顔を伏せて答える
「なんでも…どんなことでも受けますゆえ。何なりと命じてください」
「なんでも?どんなことでも?」
更に反応が濃くなる
「…はい…できる範囲のことであれば」
「…ふふ、計画通り」ボソッ
ミーネ様の方からなにか声が聞こえたが気のせいだろうか
「…わかりました。貴方のその誠意、主人としてしっかり受け取りましょう。そうね…貴方の罰は今日の夜に伝えることとするわ。いいわね?ニック」
「はい。承知いたしました」
「それじゃあ、取り敢えず私は屋敷に戻るから。貴方もしっかり励みなさい♪」
先程とは打って変わってスキップをしながら屋敷に戻っていく。その姿を見て機嫌が治ってよかったと一安心する
「ニックよ…なんと哀れな…」
何故か師匠は可哀想な人を見る目で私をみて肩にポンっと手を置いた
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「スゥーーーーハァァァァーーーー」
ミーネは自室でニックの汗を拭ったタオルを鼻にあてがう。周りの人間が見たらドン引きするであろう行動であるが、ニックの稽古に顔を出した初日から行っており、もはやルーティンのようなものになっているのである
「ふふ…ふふふふふ…全く…もぅニックったら♪なんでもなんて、本当にお馬鹿さんなんだから♪でも、どうしようかしら…してもらいことがありすぎて困っちゃうわね…それにしてもこうも上手くいくなんて、持つべきものは優秀なメイドね。スターニャには後で褒美を渡さないと」
広い部屋で独り言を呟いていると、コンコンコンとノックをする音が響いた
「あら…どなた?」
「お嬢様、お楽しみ中に申し訳ございません。スターニャでございます」
「入りなさい」
「では…失礼致します」
ガチャっと音と共にスターニャが入室する。スターニャは、主人の奇行にまだ慣れないのか、少し不快そうな顔を覗かせた。それもそのはず、つい数年前は、敬愛していた主人が、使用人である少年の汗を拭ったタオルに顔を押し付けているのだから
「スターニャ、よくきました。丁度貴方に用があったの」
「…いえ、私も確認をしたいことがありましたので。それで、私に用とは?」
「まずは、貴方の提案した『ドキ⭐︎水筒爆弾大作戦』が見事に成功したわ。ともなって、ニックは私の言うことをなんでも聞いてくれることを約してくれたし、貴方には感謝しかないわ。ありがとうスターニャ」
「……本当に実行したのか…」ボソッ
今回の一件は何を隠そう、メイド長であるスターニャの案であった。ことの端末として要約すると、最近ニックがギルバートばかりと仲良くするとてもとても悔しい!ニックは私のものなのに→そうだ!スターニャに相談だ!→スターニャがあくまで!冗談として!水筒に罠を仕掛け相手の罪悪感を煽る方法を教える→実行→成功→よくやった!さすがはスターニャ!ハッピーエンド!と、いう流れなのだが、スターニャは、まさか主人が本当に行動に移すとは思ってはおらず、少し、ほんの少しだけ主人にひいていた。当の主人はなにを頼むか妄想に耽っている。主人の独占欲を甘く見たことを後悔しながら、イマジナリーニックに心の中で謝罪をする
「ねぇねぇスターニャ?」
「…いかがなされましたか?」
「…一応…一応確認なんだけど…」
ミーナはもじもじとしながら、スターニャになにか、尋ねようとする。その姿をスターニャは「かわいい…男性にも嫉妬するくらいの独占欲の化け物だし、好きな男性の汗の染み込んだタオルを嗅ぐ変態だけど、やはりお嬢様は可愛らしいと」考えていた
「お願いでね…その…いや、やっぱりそれはダメよね!ごめんなさい…忘れて」
ミーナの周りにフワフワした空気が流れる。対照的に「可愛い…このお嬢様、本当に可愛い。私が男じゃなくてよかった…いや?もしかしたら女でもワンチャン…」などと邪なことをスターニャは考えていた
「失礼ながら、ぜひお聞かせ願います。また、なにか協力できるやもしれません」
「…えっと…一応!本当に一応聞くんだけど…」
「さぁ!どうぞ!!お聞かせください!!」
スターニャは、前のめりになってミーネの次の言葉をまつ
「…地下室とか…」
「あ、協力できかねます。それでは失礼します」
主人の言葉を遮りスターニャは回れ右をする
「まってまって!!ごめんなさい!冗談!ほんの冗談よ!お嬢様ジョーク!!だから戻ってきなさいスターニャ!」
スターニャは、訝しんだ目で主人を見つめる。その瞳は、主人に対する尊敬など最早持ち合わせていないほどの眼差しであった
「…スゥーー…お嬢様。さすがお嬢様です。冗談かどうかわからないほどの演技力。おみそれしました。私めの完敗でございます」
スターニャは一呼吸いれ、なんとか冷静を取り繕う
「そ…そうでしょう!全くスターニャもまだまだね!私がニックのことを地下に閉じ込めておいて誰にも交流させず私しか見せないようにするなんてことすると思ったの?みくびられたものね!まったく」
冷や汗を流しながら早口で捲し立てる主人を見て、ドンドンとスターニャからのミーネの株が落ちていく。というより、そこまで考えていたことに究極の恐怖を感じた。ましてや、スターニャがもしかしたら協力してくれるかもと思っていることも恐怖であった
「…なによその目は」
「いえ…なんでもございません」
つい先程のフワフワした空気から、ギスギスした空気に変わる。スターニャはその空気を変えるかのようにミーネの一つの提案を促した
「お嬢様。一つ私からの提案なのですが…」
「……なにかしら?」
先程のことが気に食わなかったのか、少し不機嫌に答える
「お願いについて……ということは如何でしょう?」
「それは…うん、ありね!やるじゃないスターニャ!さすが私のメイド!」
「はっ!ありがたき幸せ」
提案にご満悦な表情見せ、足早に準備を始める主人に、スターニャは取り敢えず一安心するのであった