パワーと共に、岸辺から世界の終わりのような訓練を施され続け
ついに、彼の左頬へ一撃を叩き込むことに成功したデンジであったが
高揚感、達成感、解放感も今はいずこ。
その日の夜は、悪夢にうなされていた。
モノクロの世界で、扉越しに話しかけてきたのはポチタだ。
「デンジ」
「あ…ポチタ!」
夢の中くらい撫でさせてくれ、と続けるデンジ。
しかし、無機質なトーンで投げ返されたのは――
「絶対に開けちゃダメだ」
明確な、拒絶の言葉だった。
「――…!!!!!」
そして、デンジは飛び起きた。
全身には脂汗が滲む。
「はあっ…は」
目覚めた場所は、姫野の自宅だった。
いつものように"手土産"を入手し、陽が落ちたころに転がり込むと
夕飯をご馳走になり、気づけば始まる酒盛りを受け入れ
ピークへ近づくテンションと共に姫野を抱き
タバコの匂いに包まれて眠る。
世間一般においてスリーアウト
デンジにとって満点に近い生活は
しかしこの夢を見てしまうことを抑制するに至らず
むしろ、原作以上の幸せを手にしている分
落差により、余計彼を苛む始末であった。
「なーに、どおしたの…」
「はあ…なんか悪夢を…」
眠たげな眼をこすりながらも、純粋な心配の気持ちを向けてくる
姫野の生まれたままの姿が目に入った途端、全ては雲散霧消してしまったのだが。
最早、幾度となく目にした光景ではあるものの
デンジという生き物は基本、良くも悪くも単純さが本質であるため
早くも彼の脳内は、煩悩が大部分を占めつつあった。
「ん~?私とのセックス、気持ちよくなかった?」
「良かったでェす!!」
「ふふ。そうでしょ、そうでしょ…なら、お風呂入ったらさ?私とデートしに行こうぜ」
顔に手を当て、一瞬のフリーズ状態となるデンジ。
「ん~…まだこれ夢?」
「起きろー、現実だよー」
この期に及んで寝言じみた物言いをする、デンジの口が塞がれた。
姫野の唇と舌からは、タールと男の欲望の香りがした。
*
そして、翌日。
初めてのデートは、正に夢のような時間であった。
初っ端に、姫野のハイカラな私服姿に目を奪われて以降(デンジは先に待ち合わせ場所へ向かわされた。)
回らぬ頭のままに、観光地を巡り
「デンジ君!パンダだよ、パンダ!」
「でけぇ!」
ショッピングを楽しみ
「デンジ君!これ、どーよ?」
「かわいい!」
ホテルで燃え上がり
「やべ、ゴム忘れちった…まあいいか」
「!!?」
デンジはすっかり姫野にお熱となっていた。
現在は、絶賛瀉血処置を施されているパワーに代わり
倒れる寸前のマキマが即席で組ませたバディ、ビームを地中へ潜航させつつ
ゴキゲンな様子で町のパトロールへと繰り出している。
(そっか…!これが愛って奴か!俺ぁ今、姫野のためなら何だってできるもんな…!)
現金な話だったが、これは本質を捉えていた。
倫理的なアレコレはさておき、問題がないわけではないのだけれども。
「悪魔被害を受けた子供達に募金お願いします!」
街角の、活動団体がデンジの注意を引く。
掲げられたプラカードを見るに、何かしらのNPOであろうか。
「愛あるから募金もできるぜ!」
「ありがとうございます!」
言いつつ、女が1輪の花を取り出しデンジに差し出した。
「募金してくださった方に、花をプレゼントしています!」
「ふ~ん…キレイ!」
まるで、それがそうするものであるかのように
受け取った花を口の中へ放り込むと、そのまま嚥下してしまうデンジ。
「キレイって思えんのも、愛があるからなんだな」
ドン引きする女を気にした風でもなく
再び、都会の雑踏へと身を溶かしていった。
(…でもなぁ。姫野が"好き"なのって、アキなんだよな。俺ぁ知ってんだぜ、こーゆーの。ワリキッタカンケーっつうんだろ?)
デンジは目を閉じて考える。
(だから…暇になるとマキマさんの他に姫野が思い浮かぶようになっちまっても、俺の心はマキマさんだけのモンだ。絶対に他の人を"好き"になったりはしねえ!!)
ザァーーーーーッ…
「ギャー!逃げろ!」
思考と決意を遮るように、にわか雨が降り注いだ。
「キャキャ!水だ水だ!水だ!…ア」
「ビーム!てめえはひっそりしてろよ!人にバレたら表歩けなくなるだろ!」
「ハイ!」
馬鹿みたいな名前をしたサメの魔人に一喝を入れつつ
デンジは急ぎ、走って雨宿りするためのポイントを探した。
当然、傘など持ってきてはいない。
折角のいい気分へ文字通り水を差されたことに対し、一抹の苛立ちを覚えつつも
偶然見つけた電話ボックスの中へ駆け込んだ。
「わー!」
暫く様子を窺っていると、女の叫び声がする。
「ひー」
徐々に電話ボックスへ近づいてきた声は、ついにボックス内へ飛び込んで来た。
「わあ、どうもどうも。いやいやスゴイ雨ですね」
「あ~…ああ」
どれくらいの距離を走って来たのであろうか?
完全に濡れネズミとなっていた女の前髪は、ベッタリと顔に張り付いて
その表情を、窺い知ることが出来ない。
「天気予報は確か…む…え!?」
女はお構いなしに続けるも
突然、雨音にも負けない勢いで笑い出した。
デンジも少々引き気味である。
「んだよテメー…」
かと思えば、女は泣きだしていた。
情緒不安定が過ぎる。
理由を問えば、デンジの顔が死んだ飼い犬に似ていたからという
分かるような分からないような答えを返されてしまう。
いよいよ、内心どうしたものかと窮するデンジであったが
見知らぬ変な輩とはいえ、女は女。
ここで邪険に扱えば男が廃る、と思い直し
女を慰めようとの一心で、咄嗟にピエロを演じた。
「タラーン!」
取り出したるは、先ほど嚥下した白い花。
胃までは送らずに、食道へ引っかけておくのがコツだ。
借金取りに飼われていた頃、同じ要領でタバコの吸い殻を食べたように見せかけて
小銭稼ぎをしていた経験が活きた(?)
「わっ、手品!スゴイ!」
デンジが差し出した花を、不快そうな素振りも見せずに受け取る女。
「ありがとう…」
瞬間、雲の切れ間から日が差し始めた外のように
女の前髪はハラリと分かれ、ベールに包まれていた表情が露わとなる。
花を右手に持つ太陽が、デンジへ微笑んでいた。
「あ~!雨、止んだよ!」
義務教育を受けていない人間は、太陽を直視してはならないことを知らない。
それがうっかり、その双眸を吸い込まれるように見つめてしまったものだから
視神経は、脳は、ものの見事にプッツリと焼き切れてしまった。
「私、この先の二道ってカフェでバイトしてるの。来てくれたら、このお礼してあげる」
カフェの方角を指さし、絶対来てね!と〆ようとした女だったが
「あ~…どうせなら、このまま連れてってくんねぇ?俺ぁこう見えても、公安でデビルハンターやってんだ。最近はブッソーだかんな…お礼のお礼っつうことで、ボディーガードしながらよ。ダメか?」
デンジから差し出された右手に、ごく一瞬の逡巡。
後に零れたのは、満面の笑顔。
「え、なになに?ひょっとして私、ナンパされちゃってます?モテる女は辛いですな~」
応じたのは、女の左手。
絡めた指は、雨で下がり切った互いの体温を徐々に取り戻していくようで。
「仕方ないから、私がエスコートしてあげましょ~う!こっちこっち、こっちだよ!」
「ぉわっ!滑っから急に走んなって!」
「体幹を鍛えてくださーい!」
[第11話] 愛・ラブ・ユー
「次のニュースです。民間のデビルハンター、通称:ライダーさんが声明を出しました。声明では、数日以内に○○で強力な悪魔の出現が予測されるため、近隣住民に対し事前の避難を促しており――」
都内のサイネージにも流れるニュースは、2人の耳へ届くことはなく
ペトリコールだけが、祝福するように、穏やかに、デンジと女を包んでいった。
ライダー:民間のデビルハンター。最近カルトをぶっちめて乗っ取った。ふたりはペイルキュア Sicks Heart。
デンジ:原作主人公。太陽銃ガン・デル・ソルの後継者。姫野の真意には未だ気づかず。
姫野:4課のデビルハンター。デンジへの想いを完全に自覚した。背後から猛追するT-1000には未だ気づかず。
女:ソ連からの刺客。何で初手自爆しないのコイツ。配点(無意識で一目惚れした上に慣れた態度へガチ焦り。)
ビーム:サメの魔人。未来デパートから取り寄せたドンブラ粉を愛用してる。HPは50112254。
デンレゼ観たい?
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続けたまえ
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あっもう結構です