[第12話] セーブザランデブー
東京某所、カフェ二道にて。
女に手を引かれるまま、閑古鳥が鳴く店内に案内されたデンジは
いそいそと給仕用エプロンを着用する女をジッと眺めていた。
「よし!」
「遅刻した分、給料から引いとくからね」
「ケチ~」
マスター相手に軽口を叩きつつも、トレイを手に取る。
それを気にした風でもないマスターは、女に指示を出した。
「4番テーブルにお水ね」
「ケチケチケチケチ」
女は、トレイにコップを乗せて4番テーブルへ。
デンジは、その様子を瞬きもせずに目で追い続けている。
「ご注文はお決まりですか、お客様~?」
「そうだなぁ…カレーと…アイス…あ!あとチャーハン!」
「かしこまりました…ついでに、当店のコーヒーはいかがでしょうか?」
「…飲む。ミルクもくれ」
微笑と共にデンジを見つめ返しつつ、女は密着するように距離を詰め
彼のすぐ右隣に座ると、左手を挙げて客のように振舞いだした。
「へいへいマスター!オーダー入ってるよ!コーヒーは私の分もね~?」
「店員でしょアンタ」
「いいじゃないですか~。モーニングにしか客なんてこないんだし」
「もお~…」
暫くすると、渋々と言った雰囲気で
マスターが2杯のコーヒーをテーブル上に配膳した。
「お礼はコーヒーでした!コーヒー好き?」
「にげぇし、あんま好きじゃねー。けど…」
「けど?」
ミルクを垂らし、スプーンでかき混ぜたのちにグイッと一杯。
半分ほどを飲み干すと、デンジは続けた。
「ツラの良い美人にサービスされたコーヒーはうめぇ」
「ぷっ…なにソレ。淹れたのも持ってきたのもオジサンなんですけど」
「言い方」
「気持ちん問題だよ、気持ち。分かってて言ってんだろ…えっと」
「レゼ。私の名前、レゼ。キミは?」
「デンジ」
「デンジ…デンジ君」
左手を、流れるようにデンジの右太腿に添えると
頬を染めつつも、レゼはごく自然に言い放つ。
「デンジ君みたいに素敵な人、はじめて」
それは、必殺の口説き文句。
レゼが想定していた流れとは少々違ってしまったし
そもそも、ハニートラップを仕掛ける必要もなかったのだけれど。
彼女の理性が、任務遂行のため、と脳内でロジカルに舵を切った結果であったのだが。
「だろ~?そのまま、俺んこと好きになってもいいんだぜ?」
当のデンジは、無自覚にカウンターを決めていた。
左手で頬杖を突きつつ、レゼの方を向いた顔には喜びと余裕のブレンドされた笑みが浮かぶ。
姫野1人相手とはいえ、女性の扱いについて経験を積んでいた彼は
好意をストレートにぶつけてくるのならば、受けて立つぞと言わんばかりである。
「あっ…ぇ」
先に言葉を詰まらせたのはレゼだった。
デンジはレゼの手を取ると、畳みかける。
「俺ぁもう、さっきから目が離せねぇ。バイト、終わったら暇あるか?レゼさえよけりゃ…だけど、どっか遊びにでもよ」
「今日は午前いっぱいだったかな?」
「ちょっとマスター?!」
チャーハンを作りつつも、レゼに対して華麗なフレンドリーファイアを決めるマスター。
テーブル側に背を向ける彼は、薄く笑っていた。
「い~こと聞いた。じゃあレゼ、あの電話ボックスで待ってっから!今日いっぱい!」
すっかりエラーコードを吐きかけていたレゼは
これはチャンスだ、と気合を入れ直した。
妙な流れになってしまったが、向こうから2人きりになれる可能性を提示してくれるのなら
任務を思えば願ったり叶ったりなのであるからして。
後は適当に丸め込んで、人気のない所へ連れ出して、デンジの心臓を奪ってしまえば
「…しょっぱいエスコートだったら承知しませんよー?」
奪って、しまえば――
「ああ!泥船に乗った気でいろよな!」
「デンジ君ソレ沈んじゃう。大船、大船」
「あれ、そうだったか?」
果たして、素なのかわざとなのか。
おどけてみせるデンジに、つい笑ってしまったのはどちらなのか。
今、己がどんな顔で彼の前に居るのか
…レゼには分からなくなっていた。
*
一方その頃、ライダー教会(仮)内にて。
今日も今日とて、俺とシーちゃんによる悪だくみが繰り広げられていたのだが。
ビルを乗っ取るにあたっての戦闘で生じた、瓦礫だとか遺体だとかを
前者は片っ端から、しかし丁寧に太平洋へ投棄し
後者は地獄の悪魔共に饗させるため、丹精込めて調理し
各種後始末をテキパキとこなしていた落下ちゃんの耳にもそれが届いたらしく
思わず、といった感じで話に加わってきた。
「宇枝慈郎…貴方という人間は。最初からそのつもりで、このビルからカルトを叩き出しましたね?」
「そうだよ。受け皿の必要性、管理しきれない建造物のリサイズ、台風の悪魔、落下ちゃんのパワー…全部を加味した一手だったんだな、コレが」
「悪魔も唸る計略を案じたかと思えば、今度はこのように…お言葉ですが、甘っちょろいことを仰る。私は貴方がよく分からなくなってきましたよ」
疑問を呈しつつも、手は全く休めない。
俺は落下ちゃんのマルチタスクっぷりに舌を巻きつつも、それに答えた。
「言ってるじゃない。俺はシーちゃんのことが何よりも大好きで大切だけど、その前に漫画:チェンソーマンのファンだって。普段から悪魔をシバくのに使ってる焼夷弾もそうだけど、被害なんて抑えられるなら抑えるに越したことはないって思ってるし」
無論、どういう展開となるにせよ利用はさせてもらう。
例えば――こちら側のスケジュールの問題で、マキマちゃんの排除が間に合ってしまったこともあり――
デンジくんとレゼちゃんの恋の行方などを齧り付きで見守って応援したくはあるが
(※この男、自分の不用意な一言により現場へかなりの影響が及んでることを把握していないのである。)
それはそれとして、彼らはライダーの出汁にする予定なのだ。
「左様で。とはいえ、およそ人間的な発想でないことに変わりはありませんけども」
「そうかな?今回は、原作で見せてくれたアレを応用するわけでもないし…そもそも、ファンなら生で観たい!ってなるのは普通じゃない?」
「それが既におかしいと申し上げております。他人事であるからこそ、フィクションであるからこそ、人間の心にはブレーキが掛からなくなるというのに」
「シーちゃん、シーちゃん。落下ちゃんがいじめてきます。俺はこんなにも、落下ちゃん素敵!かっこいい!抱いて!とラブコールを送っているのに」
俺はよよよ、とシーちゃんの肩に寄りかかると
ハンカチを噛みしめて落下ちゃんに向け指をさした。
「…落下?」
「おわー!」
シーちゃんからのガチ目の殺気を受けて
冷や汗を浮かべながらたじろぎ、重力制御を乱してしまう落下ちゃん。
おわー頂きました、ごちそうさまです!
「話が逸れた。それで、シー君?詰めは、私と2人で?」
「うん、待ち伏せする感じで。来なかったら…まあ、その時はその時。ま、俺は来ると信頼してるけどね」
「念のため、先に私だけでも二道で顔見知りになっておきたい。当日、少しでも警戒心が薄まる…と思う。変に抵抗されても困るから」
「あ、いいねソレ。採用」
議論は続く。
これまでも同じと言えば同じであったが、ぶっつけ本番である上
デンジくんとレゼちゃんが接触したなら、時間は限られているのだ。
多くを話し合い、より詳細を詰めておくに越したことはない。
確か、今日を合わせて猶予は8日しかなかったハズ。
「後さ、TV局に渡したアレだけど…先走って放映されちゃった時のために――」
すっかり黒幕ムーブが板についてきてしまったな、と
内心苦笑しつつも、身体を預ける先に感じる最愛の女性と一緒ならば
きっとどこまでも行けて、何だってやってしまえるのだろうという
昭和的な精神論以外の何物でもなかったけれども、力強いエネルギーが全身を満たすのを感じていた。
宇枝 慈郎:オリ主。名前の由来は宇宙の枝を慈しむ野郎。つまり、IF時空に愛を捧げる存在。
死の悪魔:最強の悪魔。心なしか、圧倒的パワーの減衰を感じている。最終兵器彼女。
落下の悪魔:死の悪魔の眷属。妖怪塩揉み女。前職はコンビニバイトで前前職は騎士で前前前職は警備兵。
デンジ:原作主人公。トリックフラワー採用型マスカーニャ。そのオクタンとエテボースは何だお前。
レゼ:ソ連の刺客。どこかへ連れ出す宣言にドキがムネムネ。信じて送り出した武器人間がry。
マスター:モブ。問おう貴方が私のアジアか。オセアニアじゃあ常識なんだよ!