祭りの喧騒を掻き消す様に、夜空へ火薬の花が開いていく。
1輪、2輪と続けざまに咲き誇る鮮やかな炎色反応を臨む高台。
互いの想いを確かめ合った、2匹のネズミの間を阻むものは何もなく
悦びと幸せを知った身体を突き抜ける、青く烈しい衝動が命じるままに
交じり合い、溶け合う。
「デンジ君、デンジ君っ!大好き…愛して、るっ」
「俺も、好きィ!レゼ!!」
デンジの熱を全て受け入れると、レゼは切なげに肢体を震わせた。
数秒のちに、背中へも温かな液体の付着を感じたため
元気過ぎだと軽口を叩こうとしたのであるが。
茹り切った脳は急激に冷え、落ち着きを取り戻していった。
――繋がった状態で体外へ排泄されるのは、どう考えてもおかしいからだ。
「デンジ君!!?」
振り向いた彼女が目にしたのは、刃物のような腕により胸部を貫かれ
一言も発することなく絶命していた、愛しい男の亡骸。
通常であればレゼは立ちすくみ、悲鳴の一つでも上げる場面だ。
しかし生憎、当の2人が普通ではなかった。
流れるように、下手人たる"人形"の頸部へハイキックをお見舞いし
一撃で頭ごと粉砕せしめたレゼは、急ぎ腕からデンジを引っこ抜き、力強くスターターを吹かした。
「イッたあ!クソ、ああっ…!」
デンジの蘇生を見届けることもなく、崖下の車道を見下ろすレゼ。
そこに蠢く人形の群れを確認し、自分たちがあっという間に包囲されつつあることを知る。
「この下品なやり口、サンタクロースか。空気くらい読んで欲しかったよね」
そうやって愚痴をこぼす間にも、まるで梯子を組み立てるように
人形が人形の肩へ足を乗せ続け、最短ルートにて強引に柵を超えんとしている。
「ダメみたいだな~。そりゃダメか~」
元々期待などしていない、と吐き捨てるかの如く
チョーカーのピンに手を伸ばしたレゼは
「なら仕方がない。皆殺しコースかな」
躊躇いなくソレを引き抜き、頭を爆発させた。
「レゼ!?ああクソ、どーなってんだ!おいビーム、ジアンだジアン!応援呼んで来い!!」
武器人間としてのレゼが再構築される前に
デンジの命令を受けてタッチの差でビームがこの場を去ったため
連絡先へ余計な混乱を生まずに済んだのは、不幸中の幸いか。
「この格好。可愛くないから、デンジ君へは見せたくなかったのに…」
完全な武器人間形態へと転じたレゼは、デンジをお姫様抱っこで持ち上げ
両足を爆発させながら、スケートリンクを舞うように空を往った。
*
2課の訓練場はビームの闖入により、にわかに色めき立っていた。
野茂に頭を下げられ、合同訓練という形で指導を行っていたアキと
参加というよりはバディとしての付き添いで施設内へ居合わせた姫野は、サメの魔人の元へ急行する。
パニックを起こしていた彼を、2人がかりで一旦落ち着かせると
アキが膝をつきつつ、穏やかに事情聴取を始めた…のだが。
「チェンソー様、女と一緒!サンタクロースに襲われた!交戦中!!交戦中!!」
ビームから伝えられたのはかなり、否、相当に深刻な情報。
姫野は違う意味で顔色を変えていたが、背後に目を持たないアキはおかまいなしで思考を走らせた。
デビルハンターの間でサンタクロースといえば、主にドイツで活動する危険人物のことを指す。
人形の悪魔と契約しており、その凶悪で冷徹な仕事ぶりは世界中からマークされるほどだ。
最近では寿命による死亡説が囁かれていたりしたのだけれども、噂は噂でしかないと証明されてしまった。
「まさかとは思うが、本体が来てるのか?」
「違う…違う…人形が来た!人形が増えてる!」
「そうか。ならお前、下手を打ったな。団体さんのお出ましだ」
「ア」
アキの言葉に反応して、屋外へ視線を移した姫野の表情が、タバコを咥えたまま歪む。
駐車場を埋め尽くす勢いで、猛ダッシュのままに迫る人形の集団が見えてしまったから。
間違いなく、ビームはサンタクロースに文字通り泳がされたのだ。
救援を求めた先に、デンジの身内が1人でも混じっていれば万々歳といったところか。
人質確保兼感染拡大を狙った悪辣な一手はしかし――
「――いいえ、それがいいのです。護衛対象が分散していない、この形こそがベスト。よくやりました、サメの魔人」
「ア…ア…」
ビームが間の抜けた声を上げたのは、己の失態に気づいたからではない。
上空より建物入口前へと降り立った、根源的恐怖の悪魔に心底震え上がってしまったためだ。
「お初にお目にかかります。本日の調理を担当する私、落下の悪魔…と申します。以後、お見知りおきを」
「次から次へと…なあ、アキ。日本はいつから地獄の一丁目になったんだ?」
「知りませんよ…」
劇的な変化を続ける戦況に対し、それでもアキは冷静さを失わない。
本人の気質もあったが、一番の理由は移植した未来の悪魔の右目。
何の気まぐれか、頼んでもないのに数秒未来のビジョンをアキの脳内へ
素早く、かつ鮮明に流し込んできたからである。
部下に命じてカビの悪魔の力を行使させようとする野茂を制止しつつ、アキは続けた。
「野茂さん、手出し無用です。あの悪魔に、今のところ俺たちをどうこうする気はない…肉盾になってもらいましょう」
「では、暫しのご歓談を。私はオードブルの調理に取り掛かるといたしましょう。題して、犠牲者風人形のパテ」
落下の悪魔を名乗る女は、宣言と共にその恐るべき能力をむき出しにした。
足が千切れんばかりのスピードで接近していた人形の集団であったが
今、彼らは一人残らず空中の一点へと浮き上がり圧縮されている。
場に響き渡るのは、筋肉の断裂音と骨の破砕音だけ。
圧倒的出力の重力制御に囚われた人形たちは、血液や糞尿すらも地へ還ることを許されない。
巨大な肉ペーストの形成を確認した落下の悪魔は満足げに頷くと
停めてあった車両群を綺麗に"おろし"、ガソリンタンクだけを取り出した。
ドボドボと余すことなくタネへ浸し終え、さあ仕上げだと言わんばかりに
幽霊の悪魔を構えて警戒を続ける姫野の口から、タバコを拝借。
同時に、誰よりも早く地獄のシェフの意図を察した姫野が叫んだ。
「皆、目と耳塞いで口開けろ!!」
「ボンっ」
ドガンッ!!!!!
大爆発、大炎上…辺りに充満するは髪や血が燃焼した、厭な匂い。
地獄の一丁目どころではない、大焦熱地獄だとかに迷い込んでしまったと
錯覚するほどの光景に背を向け、呆然と立ち尽くす公安メンバーへ向き直る落下の悪魔。
しかし、そのアルカイックスマイルは申し訳なさげに崩れており
この上なく場違いな謝罪と提案を、ナチュラルに行うのであった。
「あれま、私としたことが。皆様のご希望も伺わないまま…失礼いたしました。パンは如何ですか?当店では胡桃パンをお勧めしておりますが」
*
「落下からの合図が来たね、シー君。コレは…プランB?」
「だね。どうもレゼちゃんは2課の所に向かわなかったらしい。もっと言うと、ビームくんがデンジくんを抱えて逃げていない」
東京上空。
頭の上にシーちゃんを乗せつつ、俺は現状を見定めていた。
「あの低空で起きてる連続爆発は、きっとレゼちゃんだ。人形の大群を何とか振り切ろうとしてる」
「デンジ君は抱えてる?」
「サーモが役に立たないから断言は出来ないけど、恐らく。高台へ置き去りにしたら多勢に無勢、人形にデンジくんを奪われちまう」
一旦、2課勢は落下ちゃん任せで良いだろう。
例えクァンシちゃんがちょっかいをかけてきても、落下ちゃんには敵わないからだ。
俺たちの取るべき選択肢は、2つ。
1つ、デンジくんとレゼちゃんに加勢する。
1つ、サンタクロース本体を探して始末する。
可能ならば後者で行きたい所だが、正直言って全く現実的ではない。
デンジくんの心臓を闇の悪魔に捧げるため、座標指定して彼を地獄へ引きずり込む必要がある故に
そう遠くない場所で、呑気にハンバーガーでも食べていそうなものなのだが。
如何せん、砂浜に落としたコンタクトレンズを探すような話だ。
ハンバーガーショップだけに限っても、一体都内に何店舗存在するというのか。
「あっ」
そこまで考えて、俺は閃いてしまった。
逆転の発想、サンタクロースに与える致命の一撃を。
厄介なのは、あくまで闇の悪魔の肉片を食らった後の彼女だ。
今のサンタクロース本体など、余命幾ばくも無い生身の人間の女に過ぎない。
仮にダメージを人形へ肩代わりさせることが、現段階で可能であったとしても
「もし、"死に続けたら"。そこまで行かなくても、"身動きが取れなくなったら"。打つ手はあるかな、師匠ちゃん?」
「シー君、とても悪い顔してる。惚れ直しそう」
「そう、じゃなくて惚れ直した…じゃない?何度デートしても何度抱いても何をやっても、倦むどころか積極的になるばっかでしょシーちゃん」
そうと決まれば善は急げ。
俺たちはレゼちゃんをめがけて、一筋の流星になった。
宇枝 慈郎:オリ主。また何かよからぬことを思いついたらしい。口笛を吹いてる。
死の悪魔:最強の悪魔。合体剣の素材にすると雷門中のFWになる。2025年4月1日に準制限となった。
デンジ:原作主人公。聖ゲオルギウスのドラゴンに囚われた姫。今夜もお楽しみでしたね。
早川 アキ:4課のデビルハンター。死んだふりをすると身体がピンクに発光する。好物はぼんち揚。
姫野:4課のデビルハンター。ビームの爆弾発言により一瞬我を忘れる。私は横綱ではありません。
落下の悪魔:死の悪魔の眷属。リンゴ万引き常習犯。悪魔は怖い生き物です!
レゼ:ソ連からの刺客。第5弾の入場者プレゼントで作者が死んだ。また観に行くよ。
ビーム:サメの魔人。我々は何を見せられているんだ。でも幸せならOKです。
野茂:モブ。対魔2課が誇る四皇の1人。合コンには連れて行ってもらえないかも。