ヴヴヴヴヴ
一方的だとかワンサイドゲームだとか、そういった形容表現も不適切だと思える程度には
見るに堪えない蹂躙の嵐が、局所的かつほんの一瞬の内に吹き荒れた。
地獄の底から鳴り響くような、重く威圧感のあるエンジン音。
餓鬼の断末魔を想起させるような、高く狂騒感を煽る回転音。
あいさつ代わりだと言わんばかりに、まずバルエムの首が宙を舞った。
間髪入れずに、音の主――チェンソーマンは闇夜を駆けた。
目標まで一直線、ビルからビルへ部屋も壁もブチ抜き荒ぶるその姿には、いっそ神々しさすら覚える。
そうして数秒と経たぬうちに、獲物へ狙いを定めたチェンソーマンは
全くスピードを緩めることなく、人影めがけ4本の腕を叩き込んだ。
両手両足から壊れた蛇口もかくやといった様子で流れ落ちる鮮血を意にも介さず、クァンシの四肢が吹き飛んでいく。
「ヴィエヴォ!!」
「参ったな。両手をもがれちゃ降参――」
クァンシの首が落ちた。
「も出来ん」
最初の一撃で、手足はおろか首も切断されていたのだが
そのあまりのスピードに、彼女の身体は遅れた反応を返していたのだった。
直後、チェンソーマンは再びの大跳躍を見せる。
向かう先はファミリーバーガーだ。
「ずっと、待っていました…チェンソーマン…」
「…」
宇枝やクァンシの入店はまだ行儀が良かったのだ、との錯覚を生存者たちに植え付けつつ
黒尽くめの巨躯は、血の池に沈みつつあるマキマを見下ろしていた。
何かを言いたげな雰囲気を醸し出していたチェンソーマンは、同時に彼女からの言葉を催促しているようでもあった。
「…感情豊かですね、貴方は。この匂い…強烈な、困惑と悲しみ…少なくない憤りも感じます」
「ヴァ?」
「私は、貴方のことを何も分かっていませんでした。やることなすこと無茶苦茶で、全てを殲滅するヒーロー…あの日まで、そう思ってきましたが、こうまで見当外れだと…いっそ笑えて来ますよ」
一息。
「バルエムを遣わせたこと、怒っているのでしょう?安心…してください。全ては、貴方を呼び覚まして…助けてもらうための…お芝居。全てが台本通りな、退屈極まる映画のようなモノ。いえ、分かっています。火炎放射器を使ったりだとかは…やり過ぎということくらい…ふふ」
マキマはやっとといった風で、儚げに左手を伸ばす。
「クァンシは…曲刀に毒を塗っていたようです。首こそ、繋がりましたが…臓器へのダメージを受け流せません…かふっ!で、すから…その前に。チェンソーマン、もし私を…憐れんで頂けるのでしたら。どうか殺してください…貴方の、手で」
武器人間たちのソレと同様に、チェンソーマンの表情を窺い知ることは出来ない。
オマケに、本人がその気を大して持っていないのか生まれ持った性質なのかは定かではないが
ヒトの言葉を用いた意思の疎通も一苦労と来ている。
しかし、目や耳の代わりに鼻を判断基準にしているマキマは…歓喜に打ち震えていた。
「ああ、チェンソーマン…!ありがとう、ございます…けほっけほっこほっ!私のために、など…泣かないでください。ただ、愚かにも貴方を利用した…私を蔑み、殺し、笑ってくだされば、ごほっ!!それで私は…満足でし、たのに」
チェンソーマンは、怪人による被害を受け絶望する少女をあやすように
血染めのかいなで以って、力強くマキマを抱きしめた。
回転する4枚の刃に彼女の肉体は抗えず、血煙を撒き散らしながらバラバラになっていく。
店内いっぱいに飛散しようとする彼女の赤い奔流は、すかさず舐められ啜られ吸い込まれていく。
"中身"までしっかり受け止めてやろう、という幻聴が聞こえてくるようだ。
「何という
最期にマキマの脳内へ駆け巡った走馬灯は、意外にも今わの際の最高のやり取りではなく
廃工場内でゾンビの群れを蹴散らした後のデンジを思わず抱きしめた、あの時の流れ。
(デンジ君…正直に言いましょう。私は、今の今まで貴方のことなどどうでも良かったのです。ですから)
あの時はチェンソーマンを感じるため、ただの私欲に身を任せていただけなのだが
今、心中を支配するのは全く別の想いであった。
(私の終わりを締めくくる本心は…1度しか言いませんよ?貴方の未来も、素晴らしいモノでありますように――)
*
屠殺場を思わせる大胆な改装が施され、半壊した店内に声が一つ。
「――ガルガリ君、すぐにサンタクロースを拘束して。今、支配が逝った。人形とのリンクは切ったみたいだけど、人形の悪魔との契約がまだ生きてるとマズいから。人形の魔人が生まれかねない」
「!!?…が、合点!」
「コベニちゃん、私の頭をくっつけてもらえると助かる。断面を合わせるだけで大丈夫」
「ひっ…え、うぇ…えええっ!!?」
「皆、今日見たこと聞いたことは全部忘れて。それが自分のため」
「ファミリー!!!!!」
少なくとも、ハンバーガーパーティーなど開いている場合ではなくなったのは確実なのだが
死の悪魔はあたかも厨房へ指示を飛ばすスタッフのように、事後処理へと入っていく。
当のスタッフらは、最早ヤケを起こしている。
「チェンソーマン」
「ヴァ?」
「私に思うところはあるだろうけど、また暫く眠ってて。貴方の出番は、まだ先」
チェンソーマンの心臓へ、ライフル弾が命中した。
*
ファミリーバーガーより北東700ヤード以上先の、雑居ビル屋上。
人形により光源を破壊しつくされ、ゴーストタウンのようになっていた一角だが
念入りにも光学迷彩を発動していた蛸の悪魔が覆い被さる形で、息を殺し続けていた狙撃手と観測手が居た。
「命中を確認。次弾装填しておけ」
「了解」
それは果たして、岸辺とヒロフミであった。
「お、位置がバレたな」
「はっや」
岸辺は双眼鏡を、ヒロフミはM1500を即座に放棄。
蛸の悪魔の召喚を解除し、2人は急いで立ち上がり、大げさなほどにバックステップを決めると
「ヴァエヴァ!!?」
狙撃地点だったモノが、チェンソーマンの吶喊により粉微塵となる様子を、特等席で観る羽目となった。
ヒロフミの額から、1滴の汗が流れ落ちる。
岸辺は静かに銃を構え、血の滴る心臓へと狙いを定める。
「ようデンジ。いや、今はチェンソーマンだったか。まあそれはどうでもいい」
構えは解かぬままに、岸辺は顎をしゃくった。
「さっきお前に撃ち込んだのは、パワーの血を凝縮して作った特別製だ。身体ん中で暴れてるだろ?鋭利に凝固した血が、そこかしこから組織を貫いてんのが見えるぞ」
「ヴ…」
「心臓だけになった時、どれくらいの血で蘇生できるのか?活動限界は?訓練で全部測ってるから誤魔化せると思うな。どの道その形態はあと5分と持たん。現代戦は情報が肝だ」
畳みかける。
それは、脅迫というよりは説得のようで。
「誰も悪いようにはしねえから投降しろ。抵抗すれば、せっかくのマキマの
――何が決定打となったのかは分からない。
ひょっとすると、単純に時間切れだった可能性もある。
確かな事実は、その場で膝をついたチェンソーマンがデンジの姿形を取り戻していき
糸が切れたようにうつ伏せで倒れこんだ、ということだけだ。
「…」
岸辺は深いため息をつくと、銃を下ろしてタバコを咥えた。
その後ヒロフミにソフトを向けたものの、彼に無言で睨み返されてしまう。
「そういやお前まだ高校生だったな」
「馬鹿ですかアンタは」
ライターのガス切れに気づいた岸辺は、内ポケットからマッチを取り出した。
「俺はシンデレラって話がどうにも好きじゃねえ、都合がよすぎてな。アレはまず、主人公のツラが良くなきゃ成立しないし…継母のコネと、それまでの積み重ねとは一切無関係な超越者の無償奉仕が不可欠だ」
「現実はマッチ売りの少女だとでも?」
「現実味はあるな。特にマッチ売りが死んだ途端…思い出したように気をつかって涙を流す町人共の胸糞悪さは素晴らしい、大好きだ」
時刻はいつの間にか、0時を回っていて
「ハイ、それまとも。酒が足りてませんね」
長い夜が、終わろうとしていた。
死の悪魔:最強の悪魔。めちゃめちゃに空気を読んでた。妹の幸せを邪魔する命は絶対刈り取るウーマン。
チェンソーマン:地獄のヒーロー。デンジを食べて命を繋ぐ。レゼに食べさせ可能性を紡ぐ。マキマを食べて心を救う。
マキマ:支配の悪魔。原作第一部公安編ラスボス兼ヒロイン。推しに抱かれ、切り刻まれ、啜られながら幸せに逝った。
バルエム:5課のデビルハンター。ポチタが覚醒しなければ、親殺しで煽る予定だった。踊り食いされなくてよかったね。
クァンシ:中国からの刺客。単騎で宇枝たちを詰み寸前まで追い込むも、敗北。愛(魔)人と共に連行された先は…?
ガルガリ:暴力の魔人。対サンタクロース菌感染防止用エクゾスカルゴム手袋。ぺすとますくしてるし、やくめでしょ。
東山 コベニ:4課のデビルハンター。わあっ!?あっ…!頭!頭だア!!ゆっくりし(ていって)ね!!!!!
岸辺:1課のデビルハンター。ナイフの悪魔の名前はリベリオン。針と爪の悪魔の名前はエボニーとアイボリー。
吉田 ヒロフミ:民間のデビルハンター。ヒ(イ)ロの弾丸。「お前を殺す(デデン」とかいう最強の生存フラグにひれ伏せ。
蛸の悪魔:会員番号、堂々の1に君臨する雌蛸。光学迷彩能力は作者が勝手に盛った。蛸なんだからいけるいける(適当)