チェンソーにかける愛   作:皮入れ大根

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八つ墓村大好き!


[第27話] インザハイパーボリックタイムチャンバー

改めて言うまでもないことだが、悪魔とは基本的に頑丈な生き物だ。

血液を用いた治癒能力が全個体に備わっていることもあり

指の1本や2本を落とされるような、特にその程度のダメージは

人間の感覚で例えるならば、突き指くらいの軽傷だと言ってよい。

しかし、目の前のコレは何とも際どいラインだ…と、アキは瞬時に考える。

 

「蛸」

 

アキを庇った結果、真っ赤な床の上で芋虫のように呻くのは天使の悪魔。

彼のデビルハンターという経験上、秒単位で命に係わることはないと断言出来た。

出来るが、このままでは1時間と持たないであろうことも明らかであった。

加えて、この場では延命措置を阻む刺客が既に次の1手を打とうとしている。

天使の悪魔どころか、一呼吸二呼吸後にはアキの命が散りかねない。

 

「墨」

 

状況を脳内で高速整理しつつ、彼が決断したのは逃走へ繋ぐ応戦だった。

光学迷彩を解除した蛸の悪魔から放たれた墨に対し、冷静に抜刀。

未来の悪魔の力を借りて、漆黒に染まり切った視界から迫り来る連撃を次々にいなして行く。

そうして打ち合うこと十数秒、その洗練された脚捌きでU字を描くように"後退"していたアキは

ヒロフミへの警戒を怠らずに、ついに目的であった出入口のドアノブに左手をかけると――

 

「そうすると思ってたよ」

 

「!!?なっ…」

 

ドアノブに擬態していた蛸の悪魔の吸盤が、アキの手をガッチリと捕えていた。

勝利を確信したヒロフミが、次こそはと放った必殺の縦一閃。

アキを鮮やかなまでの開きにせしめるハズだった一撃は、空しく宙を切り裂いた。

触手相手に腕力勝負をしている余裕がないことなどは、素人目にも明らかだったとはいえ。

彼はアッサリと、獲物を使って左手を放棄していたのだから。

 

「やるな。けど、片手じゃ満足に刀も振れないだろ?終わりだ」

 

「ああ、お前がな」

 

新たに室内へ開花したド派手な曼珠沙華をチラリと一瞥することもなく、アキは間髪入れず刀すら放棄すると

いつの間にか伸ばされていた天使の悪魔の手を、力強く握りしめた。

 

「最善は、部屋から脱出して皆と合流することだったが…ままならねえな」

 

これには流石のヒロフミも、度肝を抜かれていた。

だってその悪魔の手のひらは寿命を吸い取る最恐の器官で、制御も出来ないから敵も味方も触れてはならない禁忌で。

ヒロフミがフリーズから回復した時、アキは既に事切れていた。

 

「全く、誰だよこの人間をまともとか言った奴…頭のネジ、飛びまくってるじゃんか」

 

気が付けば、部屋から天使の悪魔の姿が消えていた。

ヒロフミの視線並びに声のする先、アキの死体だったモノが何事もなかったかのようにすっくと立ちあがる。

髪色は天使の悪魔のソレへと変色し、頭上にはハイロウが現れ、背中には見事な黒い翼の生えた――

"天使の魔人"が、そこに居た。

 

「残念だったね。本当は、僕が初撃を庇って死ななかった時点でゲームセットだったのさ。"人間君は瀕死の僕を助けるために死んだ"。"公安はもう人間君を辱めることが出来ない"。"僕を惨殺してもチェンソー君は何とも思わない"」

 

一息。

 

「いくらでも上げるよ、戦術的勝利なんて。そういうわけだから…ほら、大人しく降参したら?」

 

「ふふふ…早川アキ。お前は、最悪な死に方をしただろう。公安の少年にとって、ね。」

 

場に、新たな声が加わった。

天使の魔人の右目そのものである、未来の悪魔が彼の煽りに便乗する構えを見せている。

どうやら、相当に愉しい見世物であったらしい。

 

「ウフフフフ!自分を仕掛け人側だと思っていたかな?このためにお前らへ、早川アキの未来をリークしたんだ!全部、俺の手のひらの上だぜ!!」

 

「…それだったら、俺たちにも考えがある」

 

未来最高、と勝手にバイブスをブチ上げていくパリピの悪魔へ対する静かな怒りを制御しつつ

ヒロフミは懐より、おもむろに手鏡を取り出して続けた。

 

「一旦、ノーサイドにしちまうってのはどうだ?」

 

手鏡を天使の魔人に向けたその時、室内へ全速力でドローンが突っ込んできた。

危機への対応としては全く自然なモノであり、隠し部屋の中の様子など生存者数以外を知る術もなかったのだが。

 

「俺が来た!逃げ場はないぜヒロフミくん!」

 

刹那の静寂。

 

「あっ」

 

「あっ」

 

「あっ」

 

天使・未来・ヒロフミ…三者三様の間抜け面が晒される中、手鏡からは1本の指が伸びて来ていて。

 

「えっ?」

 

「パン」

 

哀れ、天使・未来・ドローンのズッコケ3人組は

老いの悪魔の声と共に、彼の者の世界へと拉致監禁されてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってんだよ副総帥!」

 

大自然が広がるのどか(?)な老いくんの世界に、天使くんの絶叫が木霊した。

あ~こりゃ相当に怒ってますわ、くわばらくわばら…。

 

「あるぇー?いや、その…俺は神の一手を打ったハズでぇ。武器人間は不死身だから、俺が先行して確認すればリスクは最小限になるハズでぇ。あれ、俺何で怒られてるの?不可抗力じゃね??」

 

「…計画の全貌を聞いた時、俺はアンタのブチキレ具合に感動を通り越して恐怖すらしてたんだけどな。馬鹿と天才は紙一重、か」

 

"アキくん"も完全に呆れ顔だ。

こんなの絶対おかしいよ!

 

「チェンソーマンの覚醒役を押し付けられたアキくんを公安から保護して!1度死なせることで寿命問題を踏み倒して!天使くんの死にたい・働きたくないって願いを部分的に叶えて!オマケに想定外の奇襲を完全封殺して!何が不満なんだ!!お!!?」

 

「巻き込まれる必要のないトラブルに組織のブレーンがハマったからだろ」

 

「それな!過去最高の回答だよ未来くん!」

 

ズビシ!という音が聞こえてきそうなほどに勢いよく未来くん(目)を指さした俺は、深くため息をつく。

 

「けど、どうしたもんかな…実際」

 

「そもそも、ここはどこなのさ?」

 

「ここ?ああ、ここはね――」

 

「ここは、老いの悪魔が作った世界だよ」

 

お前が説明するまでもないと言わんばかりに、鬱蒼とした木々の奥から現れたのはパンイチの中年男性だった。

これで現在位置が確定…本当にワンチャン、別人もとい別悪魔の仕業だったなら面倒は少なくて済んだのだけれども。

深いほうれい線が刻まれつつある中で、しかし82年も浮世から切り離されてしまった哀れな口元は、あたかも自意識を保とうとするかのように言葉を紡いだ。

鏡の前で軽口を叩いたら、老いくんの世界へ片道旅行を強制されてしまったこと等々。

原作で語られた情報が、淀みなく過不足なくこの場の全員に共有されることとなった。

 

「じゃあつまり何か?俺たちは、ここで気の遠くなるような時間を過ごす以外に出来ることなんて無いってのか?」

 

おじさんの語りが終わって早々、冷静に問うたのはアキくんだ。

状況としては永遠くんの手口に似通っていたものだから、かなり落ち着いて思考・分析が出来ているのだろう。

今回は相手が悪すぎる上に悪魔の力が封じられているため、ホテルでデンジくんがしでかしたようなゴリ押しはハナから望めそうもないので

やや諦めの混じる様子ではあったが、兎にも角にも取り乱さないでくれるだけで万々歳である。

ここでコベニちゃん辺りが巻き込まれていようものなら、全力でシバいて拘束するところから始めなければならない故、とは釈迦に説法だと言えよう。

 

「まあ、そこは心配しなくても大丈夫だよ…多分。脱出プランはちゃんと用意してあるからね。俺が今考えていたのは、その後のこと!」

 

漂い始めていた重苦しい空気はどこへやら。

あっけからんと言い放った俺に全員が目を丸くしていたのも、敢えて言及する必要のないことだろう。

 




宇枝 慈郎:オリ主。デッキトップ操作→踏み倒しのガチコンボを披露。おい、決闘しろよ。

早川 アキ:4課のデビルハンター。復讐も武器も寿命も手放したミニマリスト。財産は増えた。

天使の悪魔:堕天使の悪魔。余りにも躊躇なく身体をくれたアキに激堕ちくん。一生一緒。

未来の悪魔:例のアレ。目をくり抜いたのは老いの世界で詰んだ時の保険。意外と堅実派。

吉田 ヒロフミ:5課のデビルハンター。しまっちゃうおにいさん。悔しいでしょうねぇ。

蛸の悪魔:会員番号、堂々の1に君臨する雌蛸。強欲な壺も吃驚。SGとAK-47は禁止コンボ。

老いの悪魔:根源的恐怖の悪魔。辛子味噌を詰めて食べると美味しい。お洒落は足元から。

82年前のデビルハンター:モブ。原作はヨツコブツノゼミ。本作は多分、ただのミンミンゼミ。
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