「犠牲者が出てもつまらなかったから急いで来たんだけどさ…これ、どういう状況?」
場所は第四東高等学校の校庭、すわ局所的な地割れでも起きたのかという荒れ模様は一旦置いておくとして。
武器人間形態へ移行しつつも棒立ちでいるデンジくんとレゼちゃんに、同じく棒立ちのアサちゃん・ヨルちゃん。
そして、お手本のように三つ指ついて土下座をブチかましている推定キガちゃんが居た。
接触時に小競り合いが発生したことは、ドローンちゃんに制御を預けた目を通して把握していたのだが
俺も彼女も読唇術を習得しているワケでもないため、何を話していたのかまでは分からないのだ。
「はい!説明いたします!先ほど、飢餓の悪魔より"全校生徒を皆殺しにしてやる"という旨の恫喝を受けました…そのため、我々は逆に彼女を脅迫した次第です。"やれるものならやってみろ。そんなことをすればお前の姉の友達も巻き添えだ。わざわざ恨みを買って死にたいのか?"と」
アサちゃんからの報告は、なるほど納得するしかない話であった。
最高にスマートな対応でもあったから、思わず感動すらしていた。
こういう俺好みなゲスい論法は、デンジくんかヨルちゃんの発案であろう。
意外と脳筋戦法を取りがちなレゼちゃん、または頭の固いアサちゃんからこの手の発想が出てきたのだとしたら
成長に対する喜びと解釈違いを起こした内なる厄介オタクで、情緒がどうにかなってしまいそうだ。
「飢餓――今の話、本当?」
とてつもない怒気を孕んだ、それこそ地響きでも伴いそうな言葉を向けたのはシーちゃんだ。
ステイステイ、レゼちゃんとアサちゃん・ヨルちゃんが泡吹きそうになってるから…ね?
キガちゃんに至っては、ビビり散らかし過ぎて高周波ブレードの刀身みたく震えている。
さて…このままでは埒が明かないので、俺の方からも対話を促すとしようか。
シーちゃん相手ならまだしも、キガちゃんの性格を鑑みれば、能力が低いと見下してる人類の発言こそに耳を傾けてくれるハズだ。
「やあ、初めましてキガちゃん。俺はジロウって名前で…まあ、そんなことはどうでもいいや。こうしてシーちゃんを抑えてて欲しければ、質問に答えてよ」
「グ…ギギ…!くっ、屈辱です…が、質問とやらを許可しましょう…」
「じゃあ、単刀直入に。今回、キガちゃんが凶行に走ろうとした理由は?」
「それっ…は。さっきも言いましたよね…"潜伏している火の悪魔を引きずり出して、チェンソーマンに食べさせて、人類を救済"するためだ、と。じょ、情報の共有も出来ないんですか!?やはり、貴方たちは可哀そうです!」
揚げ足取りの安っぽいナチュラルマウントを無視して、俺は続ける。
「話が飛躍してるな。俺も知ってるよ、ココに在籍してるライダー強火ファンが火くんと契約してるってことくらいは。目立った悪さをしていないから、刺激しないようにしていただけでね。けど、それが何で人類の救済へ繋がる?」
「火の悪魔こそが!恐怖の大魔王の力を増幅させてしまうからですっ!ウヴヴっ…本来、恐怖の大魔王は姉さんの力を覚醒させるほどの被害をもたらさないのに…」
「…ふーん、それは恐怖の大魔王が何なのかを分かっている口ぶりだ。正体を教えてもらっても?」
これは、俺も確信の持てなかった推論。
転生する前の世界において、チェンソーマン第二部は未だ完結していなかった故に。
全ての核心が今、白日の下に晒された。
「正体は、恐怖の大魔王とはっ…!来たる7月に、太陽が放つスーパーフレア…!!それに伴う地球上の全電力網完全寸断と、全人類を襲う飢え・暑さ・寒さのことです!!貴方たちは皆、苦しんで苦しんで苦しみぬいて死ぬことになるでしょう!!!!!」
*
太陽フレア、という自然現象が存在する。
詳しい発生メカニズム等はともかく――要するに、太陽の表面で起こる爆発のことを指す。
結果として何が引き起こされるかと言えば、放出された莫大な電磁波が地球へと殺到し
現代文明へ対して、機器異常に代表される様々なダメージをもたらすのである。
スーパーフレアとは、その名の通り特大規模の太陽フレアだ。
太陽クラスの恒星では、数千年に1回程度の確率で発生し得るのだが
このレベルになると文明絶対壊すマンと形容しても過言でない、それはそれは甚大な影響が及ぶ。
具体的にはキガちゃんが解説したような…コ〇ミックイ〇のやべーやつこと、ニュートロンジャマーめいた
いや、ニュートロンジャマーよりも凶悪な被害が出ること必至だ。
何故なら核分裂反応を阻害するモノではないため、対策なしに静観していると世界中の至る所で血のバレンタイン祭りになるから。
ところで、俺たちはイオン化した物質とソレが放つ光エネルギーと熱エネルギーの複合体を火と定義して久しいが
言うまでもなく、チェンソーマン時空には"火の悪魔"が実在する。
スーパーフレアへの恐怖はつまりプラズマに対する恐怖であるからして、概念を包括する火くんは際限なく強化されていく。
天体単位の災害といえど、長くても1か月もすれば――人類文明の復興実現性はさておき――覚める悪夢は
いつしか生物単位の災害へと原因を変容させ、シーちゃんが安らぎを与えるまで延々と続く、地獄の責め苦となるであろうことは想像に難くない。
火くんをチェンソーマンに食わせるということは、実質的にこの宇宙から太陽を消滅させるということ。
それはそれで地球の半恒久的な寒冷化を招き、変わらず絶滅のトリガーとなってしまうのではと思わずにはいられない
極めて浅慮で短絡的な行動だと評さざるを得ないとはいえ、ノストラダムスの大予言をどげんかせんといかん、との一点については
キガちゃんへ全面的に同意するし、何なら火くんにとっても不本意というかいい迷惑だろう。
アンタ、その姿の通り(力のバラ撒き方はともかく)ヒトにはめちゃめちゃ友好的だったじゃんか。
「そういうワケだから、会いに来たよ未来くん。しれっと大予言の詳細をキガちゃんにリークしたの、アンタだろ?最重要事項についてだ、裏はしっかり取らなきゃな」
ライダー教会本部、そのとある一室にて。
アキくん・天使くん…の右目に向かって、俺は言い放つ。
公安地下施設への便利な裏口扱いするのは少々申し訳ないと思いつつ、現実問題として立ち入り禁止区画にズカズカと乗り込んでいくよりは、と自分を正当化し
あの無駄にテンションが高くてやかましい悪魔の応答を、じっと待った。
ほどなくして――大方その辺りの床か壁から、鬱陶しい調子でニョキニョキと生えてくるビジョンを2人に見せつけながら――彼は"クラッカーの音"を響かせた。
「ミク最高って言えば出てくるよ!離乳食祝いだぜ!」
「はったおすぞ」
「悪いね、副総帥。ウチのバカがさ」
「後でキツくシメとく」
"天使の魔人"の表情がコキュートスより冷たくなっている。
2人には一体何が見えているんだ…。
「最後の最後までノリの悪い奴らめ…まあいい、質問への答えはイエスだ!悪魔としても、俺たちを怖がってくれる人間が絶滅しちゃ困るからな!学校への奇襲が成功して、お前の慌てふためく顔が観たかったのは否定しないがね。うふふふふ」
未来くんの語るロジックは、とても理に適っている。
ここで嘘をつくメリットが全くない以上、これからはスーパーフレアの到来を前提にして動いて行こうじゃないか。
「ジロウ、この際だから聞いておきたい。第四東高等学校に潜伏している火の悪魔…契約者は誰なんだ?」
「あ、僕も気になるかも」
「ソレ訊いちゃう?アキくんも天使くんも"全部伝えた勢"だし、何となく察してるとは思うけど。ライダーの真似事をしてるだけあって、契約者は2人居てさ。1人は校外の子で、いわゆる偽チェンソーマン…この時空では偽ドローンって言うべきかな?」
一息。
「――もう1人はアサちゃんの友達で、ユウコちゃんって言うんだ」
宇枝 ジロウ:オリ主。最悪は極まらず。正体がメテオだった場合はどうしようかと思っていた。
死の悪魔:最強の悪魔。好きなDCヒーローはオジマンディアス。"救済をしなくて良かったな"。
早川 アキ:民間のデビルハンター。料理も人間関係も大事なのは塩加減。未来の悪魔は練習台。
天使の悪魔:堕天使の悪魔。流石に苦しんで死ぬのはご免らしい。ドクターキリコ信奉者。
未来の悪魔:例のアレ。多分最大のライダーファン。悪魔たちは恐怖を食し発火する皿を誘導する。
三鷹 アサ:原作主人公。アラバスタ王女の必殺技を食らった。新型デンプシーロールの使い手。
飢餓の悪魔:ちいかわ。間違いなく人類の味方ではある。コミュニケーション能力は…ナオキです。