恐怖の大魔王の正体が確定したその瞬間から、宇枝のアクションは実に迅速なモノであった。
彼はまず、ライダー教会副総帥として隠し持っていた最後のカードを電撃的に切った。
即ち、全国へ向けた生中継で、死の悪魔の素性を一切包み隠すことなく完全公開したのである。
超をいくつ付加しても不足するであろうショッキングなカミングアウトに対しては、熱量の大小問わず少なくない反発が当然生まれたのだが――
彼女を(ますます)支持する圧倒的な数の暴力により、時には封殺され時には説き伏せられ、すぐに下火となっていった。
信仰対象が実在すること(解釈違いを許さない)・カルトにありがちな陰謀論ではなくあくまで事実の羅列であること(反論を許さない)等が作用し
教会が内部分裂を起こしにくい構造を保っていた背景があった、とはいえ。
平成初期はオールドメディアが隆盛を誇っていた時代であり、令和の世から転生してきた男がそれを知らないハズも利用しないハズもなく。
嘘は絶対に拡散しない、但し伝播させるのは初報を除いて良い側面だけを繰り返し繰り返し…といった具合に
SNSが栄華を極めていては諸刃の刃となっていたであろうこの戦術も、偏向報道を徹底させることで結局は莫大なプラスとなったのだ。
噎せ返るようなセンセーションは更なるセンセーションを呼び込み、ついにファンの総数は13億人を突破。
未来の中国人口に比肩する数字はヒンドゥー教をもブチ抜き、イスラム教のパイまで食わんばかりの勢いを見せている。
ここまで来ると、宇枝が当初描いた絵図のように死の悪魔が文字通り神格化されていったことも当然の帰結と言えよう。
世間が彼女を見る目は最早、死を司り人類種を絶滅させかねない醜悪で危険な悪魔というよりも、安らぎを司り人類種を慈しむ美しき救世の女神といった風だ。
なお、ドローンの悪魔は死んだ魚のような目で"まともなのはボクだけか!?"と連呼していたので、輪をかけて教会という名の方舟の外へは出せなくなった。
その潮流のままに、彼らは日本政府へ対しても以下のように働きかけた。
いわく7月中は全世界の原子炉運転停止を義務付けさせろ、いわく同じく全世界に水と燃料と保存食の備蓄を急がせろetcetc
勧告したことが重要であるから従わせなくともよい、話を聞かなかった国はガタガタになるハズだから復興支援を名目に"何でもできる"、とオマケを添えて。
こちらも予定通りスーパーフレアの発生・到来自体を阻止する気は毛頭なく、制御するのは死の悪魔の力だけだとの意思表示を兼ねていた。
(そもそも天体規模の災害など今の人類が持つ文明レベルでは止めようがない、とは誰しもが理屈でなく直感レベルで理解する話であろうが。)
無論、大予言の日に暴走を始める火の悪魔(の力)対策も欠かすことはなかった。
いくら上位の悪魔だとはいっても、全人類の恐怖が一点に集約されるとなると溢れるエネルギーを抑えきれない。
顕現しただけで世界各地へ重力異常をきたした落下の悪魔さながら、本人にその意思がなくとも悪しきことは起こってしまう。
一方で、飢餓の悪魔がしでかそうとした対策は危険極まりなかったし、火の悪魔を予め殺しておくのもまたナンセンスな話だった。
悪魔は輪廻転生の輪に囚われた生物であるから、己の意思に依らない事象を排除するのは不可能な上、次の火の悪魔が人類を敵視した場合は目も当てられない。
ならば、どうすればよいのか?
宇枝と死の悪魔が下した結論は――
*
第四東高等学校の屋上にて、あたかも自室かの如く寛ぎ寝そべる少女が2人居た。
制服に汚れやシワが付くことを気にもかけず、両手両足を大きく広げている。
「流石はライダー様、とっくにバレちゃってたか。なら、アレやコレやは黙認してくれたって言うより…見逃してくれたって方が正確かな?」
「こっそり火の悪魔と契約してたこと?それとも、校内のいじめグループを粛清したこと?」
「そういうの全部だよ、ぜ・ん・ぶ」
アサとユウコである。
翳ることのない春の日差しは、互いを柔らかく包み込んでいた。
「まあ、総帥…副総帥は何だかんだで滅茶苦茶に甘いし。選択肢が一つしか無くなった時は、どれだけ残虐非道なことでも一切の躊躇なしにソレを実行できるってだけで。子供を1万人助けるために日本政府へ中指立てる方だよ?そんなのむしろ、評価してくれるくらいだと思う」
副総帥はユウコのファンだしね、と付け加えたアサにユウコは怪訝な表情を向ける。
「ソレさぁ。何度聞いても信じられないって、アサちゃん?だってあのライダー様だよ?最高に嬉しくて、頭がどうにかなりそうだけど…困惑と疑念で今は冷静になっちゃってる」
「読心能力持ちにこんなしょうもない嘘ついても仕方ないでしょ。何だったら、私から副総帥に言う?ユウコが会いたがってる、って。多分、2つ返事でオッケーもらえる…と思う」
ポケットから取り出したソフトをナチュラルに差し出され、吸う?と問われたユウコは呆れ顔だ。
「あーあー、私悲しいなぁ。魔人になってからも、暫くは真面目でいい子だったのに…隙あらば人を喫煙・飲酒に誘うわ、ヨルちゃんやレゼちゃん共々デンジ君と盛るわ!すっかり不良になっちゃって」
「じゃあ上げない」
「吸わないとは言ってない」
どちらからともなく、2人は笑った。
様々な意味で、実にいい空気を吸っている。
自身の分へ火をつけたアサはライターを敢えて渡さず、既にユウコが咥えていたタバコへ鮮やかなシガレットキス。
軽く一言の礼を告げたユウコは、心境とは裏腹にとてもリラックスした様子だった。
「じゃあ、ライダー様はこっちも本気なんだ。火の悪魔と、私のこと」
煙を全て肺まで送り込み、ニコチンによる多幸感を味わいながらユウコは続けた。
最初は灰を袖に落として穴をあけたりしていたが、今や彼女も慣れたものだった。
「うん。あの方は、スーパーフレアが収束するまでの間…力ずくで火の悪魔の影響を押さえつけるつもりでいる。信者数にモノを言わせた、人海戦術でね」
コレが、ライダーの決定。
具体的には、人里離れた場所へユウコごと火の悪魔を隔離する。
また、火の悪魔の能力により(姿を変えて)暴れる者たちを片っ端から拘束する。
更に、火事場泥棒的に暴れる者たちは片っ端から始末する。
酷くシンプルで、平たく言えば力押しの策だ。
ひとたびスーパーフレアが地球に到来すれば、もたらされる被害による恐怖で強化された火の悪魔が、ソレを助長してしまう。
火の悪魔は殺すワケにも消すワケにもいかないので、永遠に続く可能性すらあるこの災害を乗り切るためには
結局、人類が平常心を取り戻すまで支援を続けていくしかない故に。
ライダー教会の本懐は民間のデビルハンター業であるから、泥臭く地道に降りかかる火の粉を払い続けようと言うのだ。
「ねぇ、アサちゃん…もし、私が正気を保っていられなかったら。せめてアサちゃんの手で――」
言い終わる前に、機嫌を悪くしたアサは勢いよく副流煙をユウコへ吹きかけた。
たまらず、ユウコは咳き込む。
「縁起でもないこと言わないで。そうなったら、正気に戻るまでユウコを引っ叩き続けるし。その後で、例えユウコが悪魔になっちゃっても…縁を切ったりなんてしてあげないから。残念でした!」
瞬間、目を丸くするユウコだったが…すぐにだらしのない笑みを浮かべた。
「何、その顔」
「別に~?私、とーっても素敵な友達を持ったんだなぁ…って」
ある日の、昼休みのことだった。
宇枝 ジロウ:オリ主。眷属化した老いの悪魔にユウコを幽閉させるのが最適解だったと気づいてる。やったぜ。
ドローンの悪魔:オリ主。ボートと水と食料は用意した。船の名前はスカーガストル号って言うんですって。
死の悪魔:最強の悪魔。死神超えてああっ女神さまっ。手勢と一緒に方舟じゃなくてナグルファルへ乗ってそう。
三鷹 アサ:原作主人公。楽しいことだけ考えて飛ぶと決めたままに。いわゆる"まとも"から放たれた人生を!
ユウコ:高校生。身体の中に火の悪魔が!オリ主の軽はずみな発言はついにここまで影響を及ぼしてしまった。