血の魔人に、フラストレーションが溜まっていた。
もちろん、駆除対象になった悪魔を始末して回る時間そのものが与えられなかったワケではない。
しかし、最後に大暴れしたのは一体いつの話だったか。
サンタクロースが大規模なテロを仕掛けてきた時には、瀉血処置のため前線を離れていたし
ライダー教会が公安を相手にド派手なテロを仕掛けた時には、機密保持の観点から半ばハブられていた。
力を抑えることに難儀していたのは、死の悪魔だけではなかったのだ。
彼女の場合は、より身勝手な理由ではあったのだけれども。
「ガハハハッ!人間共をブチ殺してやるのは最ッ高じゃな!たまらぬ匂いで誘いおって…そんなにワシが恋しいか!?」
偽ライダーたちの出現を皮切りに、恐慌状態へ陥ってしまった哀れな市民――ではなく。
今がチャンスだとばかりに確固たる理性を持って略奪や暴動に走り、スーパーフレアへの恐怖をいたずらに煽る輩をターゲットとして。
今となっては鳴りを潜めがちな悪魔らしさを剝き出しにしたパワーは、凄惨極まりない殺戮ショーを演じていた。
「そら、去ねぃっ!ザ〇キーマ!!」
ノリノリの口上と共に突き出した手のひらの先、放火だとかに手を染めるケダモノたちの息の根が、1人また1人と止まっていく。
知る人ぞ知る某RPGにおけるザ〇系呪文の初期設定、血液凝固による死のメカニズム。
暇に任せて興じていた架空の世界よりもたらされたアイデアは、同系統の超能力を行使する存在へ認知された瞬間より凶悪無比な兵器として機能する。
従来の運用とは比較するまでもなく、コストパフォーマンスが段違いだ。
リーチを稼ぐために武器の内部を空洞化するといった、繊細な力加減とは永久におさらば出来る影響も然ることながら。
何よりも、血液を操作する性質故に副次被害がほぼ間違いなく発生しないことはこの上ないメリットだった。
宇枝が想定していた、デビルハンターとしての死の悪魔が弱体化後に用いる戦術、そのものであったことは言うまでもなかろう。
なおバディ…否、事実上の保護者枠としてはプリンシを付けている。
理由は非常にシンプルで、パワーのボルテージが最高潮に達し暴走を始めた際、対応可能なフィジカルと能力を併せ持っているから。
ただのお守りに留まらず殺り漏らしを処す任務も兼ねていたのだが、面白いようにザ〇キーマが決まっていくので現状は案山子もいいところであったが。
「なーんじゃ何じゃ、張り合いがないのぉ…おうおうっ!ワシはパワー!ライダー教会の大元帥、スーパーウルトラエリート様じゃぁっ!!ウヌら、揃いも揃って頭が高いわっ!!」
何を言っているのかはよく分からないが、パワー節全開である。
そうしてイキり散らかしている間にも、粛清と移動を繰り返す大嵐は1分1秒ごとに勢力を強めていった。
反比例するように、細やかな注意力だとか観察力だとかは脳細胞から欠落の一途を辿ったので、ソレに気づいたのはプリンシだけだ。
恐慌に駆られた一般市民を装った暴徒たちに紛れ込んだ、糸の切れた操り人形の如き死体や自作自演の破壊行為を被写体にケチ臭く撮影し続ける3名の不審な男。
彼らの内2名が辻ザ〇キーマに巻き込まれ、あっけなく命を散らしたというアメリカへとっての小さな悲報に。
「…」
悲鳴にならない悲鳴を上げ、遮二無二といった風で路地裏へ逃げ込んだ最後の1人をじぃっと視認していたプリンシは
一瞬の逡巡の後、男の追討を選択したのだった。
プリンシが彼女から目を離したのは、ほんの数秒間。
「パパパパワー!ギャーッはッははハハッハハッはっはっは!!!!!ワシが最初の大統領なんじゃああああああ!!!!!」
ただでさえ身を焦がすような喧騒と混沌が周囲を支配する中で、男の断末魔は誰の耳にも届くことは無く
赤い角付きが発する下品な高笑いのみが、どこまでも響き渡っていた。
*
一方その頃、ライダー教会関連施設の地下シェルターにて、宇枝の仕込んだメインウェポンが発動していた。
「こりゃ楽でいいや。私はバカみたいに力を垂れ流してるだけでいいもんね」
ナユタの、支配の悪魔としての能力である。
大前提として、チェンソーマン時空における悪魔との契約は違反した際の代償が極刑同然である代わりに
履行周りの判定が非常にファジーというか、屁理屈上等で言ったもん勝ちな傾向が強い。
原作において、地獄の悪魔相手にサンタクロースがしでかしたことなどその極致と言えよう。
マキマだとかヨルだとかとは一線を画し、自身の懐を全く痛ませないどころか…関係者ですらない者を生贄として成立させたのだから。
ならば、であれば、宇枝とナユタの間に結ばれた契約へ異を唱える者などあろうハズもない。
"火の悪魔の影響により変異した存在を全て沈静化のため支配する代わりに、支配の悪魔であるナユタちゃんへ人権を与える"
"但し弱体化の影響により能力が及ばない場合の特別条項として、恐怖の大魔王到来時に限りライダー教会の一般信者を能力強化のリソースとして支配下へ置いても良い"という契約へ。
初手で13億人強という圧巻の外付けブースターをポン付けされたナユタは、その無法な権能を遺憾なく発揮し
今や自動的に変異を検知し、支配を用いての拘束かつ能力圏の拡大を行うループのコアと化していた。
「いや~…相変わらずえげつないことするなぁ、ジロウ君はさ。普通、信者数にモノを言わせるってなったら信者たちを混乱抑止に派遣したりとかでしょ?私、人間燃料タンクの運用を人海戦術扱いする人なんて初めて見たかも」
「姫野、アイツはお姉ちゃんを射止めた男だよ?頭んネジなんてぶっ飛んでるに決まってるじゃん」
言いつつも、およそ"子供"らしくもない酷薄な笑みを浮かべるナユタはすこぶる愉快な様子であった。
作戦の立案こそ宇枝によるものだったが、最初に対スーパーフレア作戦への参加を切り出したのは他でもない彼女だ。
息をひそめてずっと待ち続けた千載一遇の機会、デンジと肩を並べる女になりたい一心で脊髄反射的に志願した過去は今、確かに実を結ぼうとしている。
(身体ん繋がりを持つには、私はまだガキ過ぎる。いや、デンジはエロでヤリチンだから挑発したら襲ってくれるかもだけど!とにかく成長を待ってたら、デンジん中の"ナユタ"が庇護しなきゃいけない義理の娘で固定されちゃう)
それは。
(それは、それでっ!めっちゃ嬉しいこと…!でも、私はデンジの後ろじゃなくて隣の方が良い!!後ろなら、背中合わせの方が良い!!私が夢見る天国は、そこだからっ…)
それは、どこまでもピュアな好意だった。
"マキマ"より不意打ち気味の分からせを食らった経緯があるとはいえ、デンジに対する想いは紛れもなく本物であるから
正にスーパーフレアの如き大爆発を続ける友愛と思慕と性欲が、支配の悪魔をオールトの雲の更に向こうまで突き動かす。
「だからさ、私はこれでもジロウに感謝してんだ。お姉ちゃんのファンを"薪"扱いするわ、子供を鉄火場に駆り出すわ、とんでもない野郎だけど…そうじゃなきゃ、私は舞台にも立てなかったし」
「…――ああ!なになに、もしかしてナユタちゃん妬いてたんだ!?自分だけ蚊帳の外にされちゃう、って!!かーわい~い…ね、ね、支配の悪魔って生まれつきそういうキャラなの??」
ウザ絡み親戚おばさんと化した姫野の脳天に、支配の鎖が吸い込まれた。
ぐぇ、と絞められた家畜のような声が上がる。
「うるさい黙れ。脳ん中ぐっちゃにするよ」
ナユタの顔は、太陽のように真っ赤となっていた。
スーパーフレアにより通信途絶