チェンソーにかける愛   作:皮入れ大根

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Fate/stay night [Heaven's Feel]大好き!


[第40話] クッキング・クラブ

イマイチ意味がよく分からないことだが、どうやら生きとし生ける者には元々"じゅみょう"とか呼ばれる概念が存在したらしい。

チェンソーマンがおいの悪魔なる者を食らったことにより、紐づいていた現象と切っても切れない関係にあると判定されたのか

巻き込み事故のような形で消滅の憂き目に遭ったようで、今やソレを正確に覚えているのは副総帥といった極一部の層だけだ。

成長とは全くの別物であり、鉄筋コンクリートが雨風の影響を受けて経年劣化していくように、ボロくなっていくのが普通だったというのだから驚きだ。

住処のリソースを食い潰さないために備わっていた生物の自壊作用である等の説明は、一見合理的に思えるが――

 

ちょっと冷静になって考えてみると、やっぱり何を言っているのかサッパリである。

だって結局のところ食物連鎖からは逃れられていないのだから、例えば人間一つピックアップしてみても天敵たる悪魔が間引いていた現実に変わりはないハズ。

オマケに劣化した同族なんて彼らはきっと見捨てることが出来ないだろう(医療現場を見た考察)から、貴重なエネルギーを劣化個体へ注ぎ込む歪みが発生していたハズ。

こういった疑問に食い下がるでもなく、あっけらかんと"それもそうだね"と言い放つ副総帥の振る舞いは、よく絶滅しなかったな人類と思わせるには十分な説得力を伴っていた。

閑話休題。

 

「日本の国民食と言や、ラーメンなんかを外すことは出来ねぇが…アレは長時間の配給には向いてない。こういうのはカレーに限る、コイツが苦手な奴なんて…まあ、そうそう居ないだろ」

 

先ほどからずっと、アキ君は食欲をそそるターメリックの香りを身に纏いながら、一心不乱といった風でジャガイモの皮むきへと精を出していた。

炊き出しのカレーに追加投入する材料を下ごしらえしているのだが、コレがまた憎いほどサマになっている。

流れ作業同然でボウルへ放り込まれていくジャガイモを、慣れない手つきで手に取りながら手ごろな大きさへ変えていくのは、あの時僕の手足を持って行った"死神"だった。

アレ、本当に死ぬかと思うくらい痛かったんだからな…全く。

 

「そういうワケだから、まだまだ働け。こうやって終末を乗り切ったら、その時は全部水に流してやる。安いもんだろ?」

 

「ノアの大洪水みたいにか?そりゃどうも…あーあー、不器用なのがバレちまった。刃物なんて、悪魔やヒトにしか向けてこなかったしな」

 

「要領は変わらねえよ。素早く、正確に、切るべきところを切るだけだ」

 

「血生臭い話をやめろ馬鹿ども。せっかくのカレーが不味くなっちまう」

 

会話に割って入ったのは、火炎放射器の武器人間だ。

何やら食には一家言あるのか、不機嫌さを隠そうともしていない。

 

「並んでる"客"のことを考えるんだよ。料理ってのはな、味や見た目は勿論だが…食う時の空気感もメチャ重要だ。ハイソな堅苦しいラウンジで、夜景でも見ながらお行儀よく食うジャンクフードなんぞを美味いと思うか?」

 

彼の器用さ…繊細さ(?)には思わず舌を巻く。

カセットコンロではどうにもならない大鍋の過熱を、極限まで調整された火炎放射で代用することにより、現場の要の一人となっていた。

 

「すまなかった。バルエム、迷惑ついでに訊くが…キガはちゃんとやってるか?」

 

「ン…体のいいウソ発見器として役立ってるぜ、今のとこはな。てめえで食糧備蓄は済ませてるってのに、列へ並ぶふてぇ輩が未だチラホラ居るんだ。"飢餓の悪魔として"繰り返しお願いでもしときゃ効果は抜群さ」

 

そう、驚くべきことに(?)現在ライダー教会が抱える最高戦力の一人と言えるキガちゃんは、あろうことか空腹状態判定装置としてコキ使われていた。

バッタの悪魔を討伐した際、調子に乗って不要な大規模被害(ギリギリ死人「は」出なかったらしい)を周囲へ撒き散らしたことで、副総帥がキレた結果である。

嘘をつく側も巧妙になり、敢えて炊き出しからしか摂食しないことでチェックをやり過ごそうとする者たちも現れる始末だったが、そうは問屋が卸さない。

空腹感へ付随する恐怖が生む逼迫感をも感じ取れるまでに強化されていた彼女は、心のどこかで余裕を持っている不届き者を篩にかけたというワケだ。

僕たちだって無尽蔵に物資を確保できてなどはいないのだから、厳しく扱い過ぎだとかの気持ちこそ全く無かったのだけれども。

 

「お目付け役も俺の"後"が適任だ、って?いや、あの娘22歳だけど…」

 

「そうだ。フラットに評価して、フミコは美人だから人目を惹くし…不測の事態が起こっても、ある意味で武器人間連中よろしく"気にかけないでいい"人だしな。どこかに拉致されて10回や20回も犯されるぐらいだったら、むしろプラスと言っていい」

 

「だからお前な…はぁ、もういい」

 

これは、別にアキ君が群を抜いたド畜生だという話ではない。

当然、彼女に特別辛く当たっているという話でもない。

客観的な事実として、他者へ対する肉体の上書きコピー能力が性交渉時に発動する点と、本人が性交渉そのものを心底愉しんでいる点。

この個体はコピーが自己連続性を持たないにも関わらず、後のことをコピーに託して自身の死を許容できる、というヒトのソレとは余りにもかけ離れた精神構造をしている点等々。

単に、それらを総合的に勘案した扱いに過ぎないのだとは明らかにしておいた方が良いかもしれない。

 

「"気にかけなければならない"人たちを取りこぼす方が、よっぽど問題だろう。目の前で死なれるのだけは、もう御免だ。ここはおい…もっと言うとじゅみょうが無い世界だと言うのなら、俺たちを縛るモノなんて何もない。俺は、あの日からずっとキャッチボールが――違うな。きっと誰かの手を引いて、"大丈夫だ"・"俺がついてる"って声をかけたかったんだ。安心させて、やりたかったんだ…」

 

「…」

 

にわかに生じた沈黙の中、仮設会場を満たすのは包丁の音とバーナーの音。

そして少し離れた場所からメガホン越しに響く、性病ガールによる溌溂とした小気味の良いアナウンスだった。

 

「ライダー教会は炊き出しを行ってまーす!あったかいカレーが皆様を待ってるっすよー!今日を凌げそうにない方は誰でもウェルカーム!人間だとか悪魔だとか細かいことはナシナシ!輪を乱すのは誰でもメッすよ!滅!!」

 

共通の"敵"が出現した際、例え一時的であっても諍いは減ったり無くなったりするものだと、地球の歴史が証明しているけれども。

僕なんかにこの奇妙な輪へ加わる資格があるのだろうかと、この期に及んで思ったりもしないと言えば嘘になってしまう。

だって現にキガちゃんは副総帥の怒りを買っていて、僕が皆を虐殺してしまったのは清算できない過去で。

マキマに支配されていたことなど言い訳にもならない、彼らのじゅみょうを丸ごと吸い取って…じゅみょう?

おかしい、少なくとも僕はスーパーフレアが発生する前まで手紙での国際便でのやり取りを続けていてまさかまさかまさか。

 

ふと、アキ君を見つめる。

脳を共有している彼には、僕の混乱が伝わっていたのだと思う。

大丈夫だ落ち着けという思念と共に、苦笑が浮かんでいた。

 

(副総帥。アンタって人は、一体どこまで計算してんのさ…?しかもそれを鼻にかけるでもなく、シーちゃんシーちゃんとばかり言ってるついでのようにサラッと。こんな借り、どうやって返せって言うんだよ…)

 

「…アキ君」

 

「どうした?」

 

「後で教えてよ。包丁の使い方」




スーパーフレアにより通信途絶
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