時は少し戻り、1999年7月10日。
この短い付き合いでも宇枝クンが狂人であると断定するには十分な期間と言えたため、つまりボクは並みのことでは流石に驚かなくなっていたつもり…だった。
闇くんを始末しようぜ、などと――カツオを野球に誘う中島のようなノリで――このド級のイカレポンチが世迷言を吐き出すまでは。
原作ファンなら知らないとは言わせない、"ラスボス前にエンカした裏ボス"だとか"チェンソーマン時空のミホーク"だとかの曰くを恣にする根源的恐怖の悪魔。
ドローンの武器人間(の心臓)となった今ではボクも半不老不死となったようなものだから、余程のことがない限りご臨の終となることは無いだろうけれども。
超越者にガン飛ばされただけで普通の悪魔はストレスで死にそうになると、彼ほどのチェオタなら把握してると思うのだが人の心とかないんだろうか?
話の筋が通っていることは分かる、スーパーフレアによって闇の悪魔へのバフがモリモリのモリになることなんてコーラを飲んだらゲップが出るくらい当然だし
"原作"同様この世界線においてもアイツはチェンソーマンのハートキャッチをしくじっているから、アポカリプスなうを好機と見て動く可能性も頷ける。
そうなった場合は宇枝クンの戦略が破綻しかねないため、何かしらの対策を練らなければならないという理屈は、スゲーよく分かる。
しかし何故そこで始末ッ!?レントンクンもびっくりの飛躍だよ!!エキセントリックボーイが過ぎやしないかい、激強火厄介オタクくんさぁ…。
もっとこう、何かあるだろ!日本政府経由で各国に水面下のホットライン繋いで、迎撃可能な戦力貸与を打診するとかさ!先進国なら、根源勢を一人くらい隠し持ってるって!!
「…い、一応訊いておくけどっ?その始末って誰かに任s」
「実行は勿論ライダー教会がやる。各所に余計な借りを作りたくないのが一つ、俺たちだけで十分やれる作戦を思いついたのが一つだよ」
半ば確信していたことだったとはいえブッダは寝ているらしい、メンタルリセット。
なお続く言葉に再びボクのメンタルは引き裂かれる模様。
「ドローンちゃんの、過剰なまでに死を恐れる姿からインスピレーションを得たんだよね。ひょっとして、闇くんも死が怖いんじゃないかなってさ。闇なんて概念は、一体いつからあるモノだ?天文学的な大昔から一度も死んだことの無い怪物が、今更チェンソーマンの心臓を狙う理由をずっと考えてた」
聞いてるだけで卒倒しそうな言い草(やべーことをやらかそうとしてるのは、言外にボクが原因だと言っている。)であるが、同時にハッともさせられる。
「ぬくぬくと育った生物が、ストレスですぐ弱ってしまうように。リスクを極限まで減らしても、怖いものは怖いように。生に執着してないタイプを否定はしないけど、闇くんがソレだとすると全く腑に落ちない。だと言うなら、師匠ちゃんへの対価が肉片じゃなくて丸々全身とかじゃないとおかしい」
「老いの悪魔と同じように、ってこと…でも、だけどっ!マキマちゃんみたいに、ほっ…ほら!何か消したい概念があって――あっ」
彼の透き通るような眼光が、ボクを射抜いた気がしたのは気のせいなのだろうか。
「そう。要するに、消して安心したいんでしょ?自分が脅かされないように。何らかのエゴを通したい場合でも、通すだけの最強に近い暴力を持っているから、チェンソーマンの力を借りる必要なんてないだろ?闇くんを以てしてなお、どうにもならない概念はもう"死ぬ"しかないじゃない」
言っている傍から、脳内に悪魔も泣き出す作戦が共有されていく。
詳細を知らされて一層ドン引きしたボクは、どこまでも宇枝クンが味方で良かったと、そう安堵せずには居られなかったのであった。
*
そして現在、1999年7月31日。
「アンタが出しゃばってくる可能性は読んでた。何せ、地球上の全送電網が完全に沈黙するんだ。人類生息圏から粗方消し去ったハズの根源的恐怖が世界規模で復活するわけだから…ギャップなんかも相まって、闇くんが相当な強化を受けるのは考えるまでもなかったけどさ」
一息。
「地獄で大人しくしてれば良かったものを。国家っていうシステムを保てなくなるくらいにドイツで暴れてソ連で暴れて、この分じゃチェンソーマンの心臓もちゃっかり頂いていく予定だったかな?もう処断するしかなくなっちゃったよ」
何のために火くんの影響を押さえつけているというのだ、この状況において世界各地で大暴れする闇くんなど看過できるわけがない。
だから俺は、保険として考えておいた必殺の作戦を発令した…アンタを分からせるにあたって今回講じた策は以下の通りだ。
まず、闇くんに落下ちゃんをぶつけてヘイトを買うだけ買ってもらう。
別に倒してしまっても構わないが、戦うヒロインと化した今の落下ちゃんには荷が重いだろう。
他でもない彼女のファンが、本来は途方もないハズの力を削いでしまっている。
そうやって上手いこと闇くんが釣れたなら、次に地獄へ向かわせた岸辺くんとクァンシちゃんを人間ビーコン兼光源として扱い
こんな風に俺たちとカチ合わせた場合、"地獄に居る闇くんと相対するシーちゃん"という図が出来上がる。
シーちゃんは今、即死攻撃の対象や範囲を制御できるほどに弱体化しているから、闇くんをシバいて終わり――ここまでが骨子である。
闇の悪魔の死体を全て差し出す代わりに、闇の悪魔死亡後はその魂を扉の外へ出さないようにすること。
肝となるのは、俺が地獄くんと結んだ上記の契約だ。
これにより、転生がライフサイクルへ組み込まれた悪魔という摩訶不思議な生物を完全に"殺せる"ようになる。
アンタの最期は
既に死んでいるワケだから本人がどうにかすることは出来ない上、第三者が地獄くんを説得するのも至難の業だと考えられる。
力ずくで鍵を開けるためには闇くんの死体でとてつもない力を得るであろう地獄くんを殺さなければならないし、懐柔しようにも地獄くんは契約で縛られた後なので闇くんの死体以上の値打ちモノを提示出来たとしても無駄となる。
ダメ押しとして来世を人質に取って二択を迫れば作戦終了、こちらはこちらで"悪魔"を相手にした宗教屋のやり口じみていたので思わず笑ってしまったが。
当然、仮に知識チートというズルが無かったところで最後まで油断など欠片ほどもしてやる気はない。
デンジくんとナユタちゃんがそれぞれ火くんの身体と能力を徹底的に抑えているため、終末が過ぎ去りつつあるのは事実なのだが
"原作"が完結する前に転生を果たした弊害で、この先もう一波乱あるだとかの可能性を否定する材料はこれっぽっちも持っていないのだから。
今はただただ、大叫喚の終息を阻害する推定最大要因にこの世から立ち退き願う計画を完遂するのみだ。
驕らず粛々と、ちょうど砂漠のように乾ききった王手を、今。
「てなわけで、ほら。選びなよ。俺と契約して、転生権の剥奪を未来永劫放棄させる代わりに現世の一切へ未来永劫関わらないようにするか。ここで、シーちゃんに"殺される"か。動いたら"殺す"。選ばなかったら"殺す"。余計なことをしたら"殺す"。妙なことを考えたら"殺す"」
地獄へ事前搬出することでスーパーフレアによるダメージを免れていた、巨大な照明装置と電源を背に
劇中演出の如く闇くんへと、闇〇衣を剥ぎ取るジゴフ〇ッシュを浴びせながら
静かに、どこまでも澄んだ様子でシーちゃんが言葉を重ねる。
それはまるで全ての始まり…否、終わりを告げる一言だった。
「…私達の邪魔をするなら、死んで」
スーパーフレアにより通信途絶