チェンソーにかける愛   作:皮入れ大根

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チェンソーマン大好き!


[第43話] 動き切った馬

1999年8月15日。

運命の七夕から40日目、終戦記念日、お盆――そして恐怖の大魔王が鎮まり、人類が終末に打ち勝った日。

全てが終わってなおスーパーフレアが残した爪痕は凄惨極まりなく、ライダー教会の尽力と献身が無ければ暗黒の日々はまだまだ続いていたことであろう。

純粋に友好的なタイプから将来の打算をしていたタイプまで、腹の中こそ千差万別なれど

終息を喜んだのはヒトだけに留まらず、一部の悪魔も共にお祝いムードであったという。

 

兎にも角にも、大勢の人間が命を散らした。

総数にしておよそ9000万人、第二次世界大戦における総犠牲者数のグラデーションを僅かに上回る数値は、終末の期間を考慮すると未曾有の大惨禍だったと言える。

主な死因は悪魔被害によるもので、スーパーフレアが際限なく増幅した恐怖の"おこぼれ"を考えなしに貪った悪魔の、同時多発的な大量発生・凶悪化が世界各地で相次ぎ

ババを押し付けられてしまったのが、内訳2/3ほど。

残る1/3には火災などの事故へ巻き込まれたりだとか、少ないながらも餓死してしまったりだとかいった、バリエーション豊かな悲劇がつらつらと並んだ。

 

それでも、後の人々が口を揃えて9000万人で済んだのは奇跡だと説いた理由は、火の悪魔からの変異被害を受けた者たちに依る所が大きい。

その数は驚くなかれ24億人…地球人口の2/5(クリスチャンの数と大体一致する。)という、最早ピンと来ない領域に肩まで浸かっていた。

もしナユタの力が及ばなかったのなら大多数が漏れなく暴徒と化していたので、死の悪魔の能力とは別口で人類は存亡の危機に陥っていたと考えられるためだ。

変異は不可逆的なモノであり、悪魔人間(便宜的呼称)たちは支配の力の下で記憶と人格を取り戻してはいたものの、理性までは"快復"しなかったから

同様に殺人衝動や食人衝動を抑え続けている彼女は、今や法と正義の女神扱いである。

 

女 神 扱 い で あ る 。

ナユタが支配の悪魔であることは最早周知の事実だったが、どこかの誰か()が女神扱いし始めてからこっち、当人の生物学的性質にも突然変異が散見される程度には大きな声だ。

恐らく、恐怖と似て非なる畏敬の感情を過剰摂取した帰結だと推測されたが、重要なのは理由ではなく結果。

有していた権能が洗脳よりも抑制の色合いを強くする頃には、すっかり小さくてかわいい希望の光となっていた。

無論、コレは彼女に限った現象ではない。

 

アサ・ヨルが戦と自由の女神にクラスチェンジして、武器化能力が武装解除・接収能力に変容したり等々。

絶大な信仰を集めるライダー教会の中枢に近い者たちを主として、影響は緩やかながらも地球全体へと及んだ。

そのような中で、波紋の中心たる当の死の悪魔…否、愛と救済の女神はありとあらゆる意味での"安らぎ"を振り撒き続けていた。

一歩間違えばディストピア一直線のやり口だと物議を醸すかもしれないが、そこは心配するなかれ。

この"安らぎ"は各々が望む形で発露するため、例えば"放っておいて欲しい"と心から願っている場合は何も起こらない故に。

 

問題となったのは、ズタズタになったインフラの復旧であるとかの物質的な話だ。

特にハードというハードが全損した事実は重くのしかかっており――人類は暫く、原始時代のような生活を強いられるに違いない。

精神的なケアが手厚すぎるほどに施されているのは不幸中の幸いとはいえ、運が悪ければ現代文明の再興など二度と叶わないのかもしれない。

現実はDr. ST〇NEのように、積み重ねれば積み重ねるだけ報われるわけではないことなど百も承知で

時は2000年8月15日、羽をもがれた蝶を思わせる気高さと共に、泥濘にてもがく一人の男が居た。

 

宇枝ジロウ、その人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誤解を恐れずに言うと、こういう意味でも出来るだけ犠牲者は減らしたかったんだよね。復興に必要なのは物資とマンパワーとインテリジェンスだから、物資は最悪の場合でも地球各地から剥ぎ取れるだけ剥ぎ取るとして…残りの二つはどうしようもないんだな、コレが。純粋な人口と、知識層の消滅ないし激減は痛恨の極みと言っていい。ナユタちゃんなんかにはもう、頭が上がらないぜ?」

 

場所はライダー教会本部、嫁と娘と俺のための部屋。

世界各地にファンネルめいて拡散させた目と耳と口より、ちょっとした"ハロウィン"のように叩きこまれてくる情報の暴力を、俺は必死に捌き続けていた。

ドローンちゃんの協力の下で新規に獲得した、目による撮影を応用して耳や口を移動式公衆電話のように扱えないか、という試みが成功してしまったためだ。

電話回線等が未だに死んでいる現在、強固な情報網を構築できたのは疑いようのない朗報なのだが、管理保守兼オペレーターが二人だけなのは本当に良くない。

マキマちゃんやナユタちゃんの頭は一体どうなっているのだろうかと思わずにいられない、聖徳太子も裸足で逃げだす職場であろう。

 

「おぎゃ…おぎゃ」

 

今週は早くも四徹目、ドローンちゃんは脳内で定期的にフリーズと再起動を繰り返している。

この在りし日のデンジくんみたいな状態になってしまうと、こちら側からのアクションは彼女の復帰を遅らせるだけになってしまうので、そっとしておこう。

流石に現場単位で話を聞くのはアホのやることであるから、各地のライダー教会支部と連携を取っている形だが、それでも支部の総数は666箇所。

フットーしそうになる頭と苛立つ神経を、隣のシーちゃんより直に摂取する癒しの波動で、強制的に鎮静化させているのは褒められた話ではないと思いつつも

我慢してパフォーマンスを下げたら何かいいことがあるのか、と詰められると返す言葉もない…違う、これはただのビタミン剤じゃ。

 

「お母さん、お母さん。お父さんがまた何かブツブツ言ってるー」

 

「シー君が本気で疲れてる時の、いつもの発作…かな。休み時間が作れたら、私たちで思いっきり甘やかしてやり過ぎなくらい甘えようね。そうしたら、きっと元気百倍」

 

最愛の最推し兼嫁にここまで言わせて、やる気スイッチが入らない男などいるのだろうか、いやいない。

図らずしも選別(極限状況下という条件付きだが、身勝手に振舞う者たちはほぼ死んだ。)が済んだこの状況、愛妻と愛娘のため徹底的に利用させてもらう。

先ほど苛立つ神経などと冗談半分に考えたが、今の俺は正に"ノア"なのだ。

世界再生の神話の先頭を生きる者として、身体中にまとわりついた責務は自覚しているしないがしろにする気もないが――

ソレは結局、シーちゃんへのブラックホール的推し活の延長線上における話だと言い切っても相違ないのだから。

 

そう、予てからの作戦は完遂され、大目標もほぼ満点に近い形で達成された。

しかし忘れてはならないのが、今立っている地点は通過点どころかあくまでスタートラインでしかないという事実。

障害の排除に全力を尽くしていたら、行くところまで行ってしまった感は否めない。

されど、そもそも因果関係が逆であり…俺はシーちゃんを幸せにしたくて恐怖の大魔王までもをやり過ごしたのである。

これからは、築き上げた全てを補強して整備して盤石にしていくターンの始まり、というワケだ。

 

「――俺たちの創世は、これからだ!!」

 

「シー君、ソレ打ち切りっぽい。縁起でもないから訂正してほしい」

 

「…"最終回じゃないぞよ。もうちっとだけ続くんじゃ"?」

 

そういうことになった。




宇枝 ジロウ:オリ主。死の果てに殉ず。世界を最愛の最推しへ捧げる。

ドローンの悪魔:オリ主。死も闇も退ける。最高の安寧を手にする。

死の悪魔:最強の悪魔。死は二人を分かたず。今を生きる神話となる。

ミク:ケムトレイルの悪魔。死と愛の結晶。人と悪魔の未来の象徴。
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