魂の話を聞かせてよ
瞳を逸らさず見つめてよ
貴方は私が何処にもいないと思ってる
見えない場所まで走るなら
いらない飾りは振り捨てて
心を剥き出しにしても荷物は重すぎるの
吹けば飛ぶよな夢だけが
二人を結んでる
全てを見せる星の導きに背いて
まっすぐに駆け上がる空にある扉へ
何処までも私は行くの
時は流れ、2011年。
"ナユタちゃんの一つ下という扱い"になり、去年で高校を卒業した私はキャンパスライフを謳歌していた。
…え?私が誰かって??やだな、もう…私だよ、宇枝ミク!ケムトレイルの悪魔!
話の腰が折れてしまった、失敬失敬。
とにかく――そう、私は"高校を卒業"して"キャンパスライフを謳歌"中なのだ。
10年以上の年代ジャンプがあったとはいえ、文明の復興すら怪しかった状態から随分と優雅な生活を送っているなと思われるかもしれない。
けれど、想定内の想定外的スピードで実際に現代人としての生き方を取り戻しつつあるのだから、優雅でも何でもないごく普通のJDだとは前置きしたい。
その上で一体何が起こったのかというと――今から6年前の2005年に――
私たちのモダンなライフスタイルを支える、電気を始めとしたエネルギーや物資の名前を冠する悪魔が大量に発見されたのである。
後に悪魔特需と呼ばれたこの現象は、社会再生のネックだった諸々を彼らとの契約の下で紙の様に吹き飛ばしてしまった。
これは本当に偶然で、お父さんのいつもの悪だくみだとかお母さんのガメていた眷属だとかは一切関わっていない。
関わっていないのだけれども、いつかこうなる可能性はそう低く見積もっていなかった、とはお父さんの言だ。
曰く、この世の全てには1-1で紐づく悪魔が居るのだから、純粋な恐怖よりも畏敬の感情を変化球的に貪るのが熱い今は
二匹目のどじょう狙いで、"有用"な悪魔たちがこれ見よがしにコンタクトを図って来てもおかしくないのだとか。
言ってみれば(女)神扱いされてるお母さんたちを餌に、川底へ魚籠を仕掛けたようなものだから…あれ?結局またお父さんがやらかしたか??
そんなこんなで私たちは今、単純比較こそ出来ないものの大体"明治~大正時代"を生きている。
ウチのとこの教授も何やら力説していたが、もう10年もすれば"平成初期"くらいには回復するだろうと言われているため、浪漫なんてなかった。
まあ腐っても鯛というか、ジャンクと化した旧世界の遺物そのものが失われたわけじゃないしね。
知識だって残っているから、解析やら研究やら模倣やらの過程もオールカットで済む。
この際、いっそ過渡期の摩擦なんかもカットで済めばいいのに。
「ミクちゃん!」
「はい、おはようナユタちゃん」
手を振りながら、脳を休めることはしない。
終末前を旧世界と表現したのは、別に私がポエミーな女だからというワケではない。
ヒトと一部悪魔の融和ならびに混血は深まる一方なので、再生ではなく進歩の段階へ入ったとて、待ち受けるは皆の知る平成と何もかもが違う何かなのだから。
現在では世界最大宗教となったライダー教が、ヒトだろうと悪魔だろうとタチの悪い輩をフクロにして旅立たせる工場のライン然としたスキームを組んでおり
少なくとも、ムーブメントに発展しかねないような衝突を未然に防げてはいる。
くすぶる火種を完全に鎮火出来ているのか、と問われたならば答えはノーだ。
いや、彼らの言わんとすることというか気持ちは分かる。
お前に不利益を押し付けた奴と我々は違う…このような正論を振りかざしたところで、到底納得など出来ないハズだから。
つい最近まで主なコミュニケーション方法が殺し合いだった連中と、これからは仲良くなっていこうぜ等と言われても
良くて困惑・普通なら断固抗議・悪ければ発狂することだろう、むしろこの世界に残された者たちの民度が高すぎるくらいである。
「また何か難しいこと考えてたでしょ~」
「んーん?皆がもっともーっとお互いを大切に出来たらいいね、って。ただそれだけの、めっちゃ簡単なことだよ?」
"平行世界からの武器人間が最強の悪魔に授けた娘は、最強の悪魔の妹兼元宿敵の生まれ変わりと大の友達"…多様性、極まれり。
私たちの関係がまあまあ目立った問題もなく成立していることこそ、ここが新世界である何よりの証明と言えよう。
その辺りに関しては、もっと派手に好き勝手やってるデンジさんがいるため、自惚れるな(?)と言われるかもしれない。
人間・武器人間・魔人・悪魔人間・悪魔、全員を娶って抱いて孕ませた、ライダー教会が誇るハイパー兵器。
ガハハと笑うのは彼の妹分の方だが、そういえばどっちもギザ歯の女尊男卑マンだな、などと巡らす下らない想像はご愛敬。
「違いないや。チビたちのためにもね…ね、愛する旦那と子供が居るって最高に幸せだよ~?」
「やー…願望はあるんだけどさ?こう、何て言うの?身内が良くも悪くもとんでもない男ばっかりだから、脳が肥えちゃったっていうか…」
嫌味ったらしいナルシズムではなく事実なので正直に言わせてほしいのだが、私はいわゆる高嶺の花と言っていい。
ただでさえハードルが星の海へと伸びている状況で、お父さんやらデンジさんやらが頼んでもないのに頭を丸焦げにしてくるため
ハッキリ言って、恋愛を楽しめそうな理想の殿方を私自身も想像すら出来ていないのが正直なところだ。
多分、私の恋とか愛とかは育まれるものじゃなくて0か1…超極端な一目惚れのような様相を呈するのだろうな、と
自慢げな眩しい笑顔と共に左手のエンゲージリングを見せつけるナユタちゃんへ向ける私の目が、やや遠いソレとなっているとは想像に難くない。
「言えてるね。じゃあ、男や家族じゃなくて友達のことを――」
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!!!
続くナユタちゃんの声は、突如として耳を劈いた破砕音に全てかき消されてしまった。
発生方向へ、分かりやすく苦々しい表情を向ける彼女に倣って私もチラリと視線をやれば、そこには入道雲のような(土)煙と微かな悲鳴が広がる。
こればかりは旧世界そのままの平成だと言わざるを得ない。
ヒトと悪魔が相当に歩み寄った一方で、人類の死因の内45パーセントは悪魔被害が占めており、消えたじゅみょうを鑑みても殆ど横ばいの数字であるからして。
オラつくのは自由だけど…そういうのはもう流行らないよ、"オジサン"・"オバサン"?
怖がってくれる人間たちを無差別に殺して回るのはコスパ最悪だって、終末の時に散々思い知ったハズなのに。
何より、私の目の前でここまで傍若無人な真似をされたら、見て見ぬふりをするワケにもいかなくなってしまう。
後進に道を譲る潔さも、価値観をアップデートする柔軟性も、リスキリングの気概すらないろうg…ロートルには精々肥やしになって貰うとしよう。
講義には多分間に合いません、と心の中で教授へ謝罪した私は、肩を竦めながらナユタちゃんに向き直った。
支配の悪魔の、法と正義の女神の顔はいつの間にか、12歳前後の年相応な、新しい"おもちゃ"を前にした喜悦の笑みに変わっていた。
「…じゃ、やっちゃいますか」
「やっちゃお、やっちゃお!」
*
花びらの黄色い寂しさを
二つの心で舐め合えば
貴方は孤独がここから消えると思ってる
今だけ欲しい慰めより
乾いた流行の笑いより
私は貴方の真ん中が見たいと思ってるの
全てを見せる星の(本当の貴方と本当の私が)
導く優しい明日(出会える場所まできっと行けるはず)
それより明るい未来へと(運命に背いて涙を散らしてそれでも会いたい)
行くから(We will reach to nowhere land)
(Take me to the nowhere land)
「さっきまで暴れてた悪魔、もうやっつけられちゃったの!?」
「地震の悪魔だって!強そうなのにね」
「またライダー様がやってくれたらしいよ」
「え~?あの方は今、復興支援で手一杯でしょ?」
魂の話を聞かせてよ
瞳を逸らさず見つめてよ
花びらの黄色い寂しさを
振り向かず二人は何処まで行こうと思ってるの
全てを見せる星の導きに背いて
まっすぐに駆け上がる空にある扉へ
優しげに微笑む運命に背いて
貴方にもし私を捜す勇気があれば
何処にでも私はいるの
「ねえ、聞いた聞いた?」
「駆けつけてくれたのはライダー2号…ペイルライダーじゃなくて、ホワイトライダーって噂だよ!」
[第44話] ΝΕΟΝ
愛を胸に、死を想え。
この世は舞台、人はみな役者。
愛と死の輪舞こそが、世界を回すスターターでありエンジン。
貴方は、本気で愛を捜し本気で死を見つめたことはありますか?
チェンソーにかける愛 完