(そういう事だったのか、見つけたぜ…俺の本気!俺のゴール!それは…!)
「胸だ!!」
「ムネダ?」
デビルハンター東京本部、対魔特異4課、課長執務室。
部屋の主である女、マキマは
唐突に何を叫びだすのだコイツは、という
不快感を心中に押し込めつつ、オウム返しした。
声の発生源、そのすぐ左隣に立つ青年、早川アキは
不快感を通り越した、驚愕の表情を隠そうともしない。
「おい!話聞けバカ!」
「はなし…?」
針の筵の中、上の空でボーっとしていたのはデンジだ。
上司であるマキマより早朝に呼び出されていた2人は
課長執務室にて業務連絡を受けていた…のだが。
この男、マキマの説明を話半分どころかその全てを
右から左へ素通ししていたのだった。
原因は2つ。
1つは、昨日、東練馬区の魔人討伐へアキと共に赴いた際
自身の心臓と一体化してしまった親友の、最期の言葉を思い出してしまったから。
今までの生活水準と比較すれば、この上なく満たされた数日をして
どこかで渇きを覚えていたデンジが、辿り着いた結論。
身も蓋も無いことを言ってしまうと
女性の乳房を揉みしだくこと、ソレを人生の目標に定め
テンパりきって湯だった脳が記憶を幾度となくリフレインする内
ちょうど暴発するかのように、口を突いて出てしまったのである。
もう1つは、今朝のニュース番組。
マキマの話同様、アキの自宅で心ここにあらずと言った風で
味のしない朝食を機械的に胃袋へ詰め込んでいた時
垂れ流すだけ垂れ流されていたTVより、飛び込んで来た速報を耳にしてしまったから。
ソレは巷のセンセーション、ライダーの活躍だった。
強大な悪魔を一方的に屠る姿と、彼女(?)へ向けられる黄色い声の数々。
あんなトンチキ極まりないいで立ちのデビルハンターですら
頑張れ・ありがとう・大好きの拍手喝采だ…であれば、自分は?
定めた目標は、アッサリと手が届いてしまうのでは??といった具合で
暴発を招く導火線に、あっけなく火がついてしまったのである。
「デンジ君には、今日からバディを組んでもらう」
話の腰を折られたマキマが、強引に軌道修正を図る。
「バディ…?」
アキの形相が、それはそれは物凄いことになっていたけれども
叱責の念を一身に浴びるデンジ本人はどこ吹く風、暖簾に腕押しであった。
「気をつけてね…彼女は魔人だから」
マキマが言い終わるや否や、ズカズカと威勢よく
課長執務室へ、さながらヤンキーのような仕草と共に入室してきた女は
大げさなポーズを取りつつ、勢いのままに名乗りを上げた。
「おうおう!ひれ伏せ人間!!ワシの名はパワー!バディとやらはウヌか!?」
瞬間、宇宙猫然としたツラをポカンと晒したのち
ここに来てようやく、デンジは我に返った。
そして、文字通りパワーしか感じないその名前に驚き素性に驚き
ひとしきりツッコミを入れ終えた後、最後に彼の視線はパワーの豊かな胸を泳ぎ――
「まあいいか!!よろしくなあ!」
振り出しに戻った。
脳内メーカーにデンジと入力したが最後
きっと、胸の1文字で埋め尽くされることであろう。
アキはいよいよ無表情となる。
この、ウォーターカッターめいたストレスの中
よく堪忍袋の緒を守り切れるものだと、アンガーマネジメントに勤しみながら。
役者が、次々に揃いつつあった。
Xデーは最早、遠い未来ではない。
*
一方、第四東高等学校。
「愛だ」
「アイダ?」
時は放課後、既に傾きかけた日が差し込む教室。
帰りどっかよるー?だとか、バイトめんどくせーだとかいった
若い喧騒が眩く交差し、支配する空間にて
死の悪魔――ここではキガを名乗っている、飢餓の悪魔は泣いていい――は
唐突に一言ポツリと呟くと、友人の目を丸くさせた。
「キガちゃんさぁ、何かあったん?ここんとこ、いつもよか生き生きしてるけど…ボーっとする時間も増えたし」
そう、心配と気遣いの声がかかるが
もし、この場に読心術持ちの何者かが居たならば
安心しろとの旨を伝えたのち、生暖かい視線を向けていたことであろう。
今、死の悪魔の脳内処理へ過負荷をかけているのは一人の男。
ついに彼の者への想いを自覚した言語野が、いよいよもって処理落ちを始めた結果
うっかり、無意識で、ちょうど平生において呼吸をするように
喉を伝い、舌を伝い、胸中の悟りめいた自覚をアウトプットしてしまったのだ。
平たく表現すると、彼女はすっかり色ボケしていた。
出会いは、本当に裏も何もない偶然であった。
当初の計画では、チェンソーマンと戦争を極限まで強化するべく
人類を恐怖のどん底に叩き落とす必要があったため
その実行役を可能な限り手中に置きたい、という思惑のもと
落下の悪魔に命じて手当たり次第の"スカウト"を繰り返していたのだが。
まさか、落下の悪魔がドローンの悪魔を仕留めそこなうとは。
まさか、逃亡先でデビルハンターが食われてしまうとは。
まさか、魔人となる寸前の身体に平行世界からのまれびとが入り込むとは。
まさか、まれびとがドローンの悪魔と契約して武器人間になってしまうとは。
…契約内容こそ不明だが、以上がことのいきさつだ。
原理的に不可能ではないのであるからして
蘇った武器人間を、問答無用で眷属としても良かったのだけれども。
死の悪魔サイドのアドリブの、更に上を行く形で
件の爆弾発言が、ブチ込まれることとなる。*1
以降は下り坂、というよりもいっそ断崖絶壁と形容した方が正確かもしれないが
天辺からひたすら、重力任せに引かれて惹かれて落ちていくばかり。
マキマの自宅にデカデカと飾られた、ギュスターヴ・ドレの挿絵*2さながらである。
今日では死の悪魔が男を、宇枝のことを考えていない時間など存在していない。
己を等身大のままに受け入れてくれる彼を、どうしようもなく好きになってしまった、愛してしまった。
「ごめん、今日はもう帰るね」
「えーっ!今日もぉ!?キガちゃん、最近付き合いわるーいっ!!」
「人を待たせてる。また明日」
言うが早いか、テキパキと帰り支度を終えると
死の悪魔は脇目も振らずに教室から歩き去ってしまった。
取り付く島もないとはこのことで、ちょっぴりの疎外感を覚えつつも
あとに残された2人は、どちらからともなく口を開き始める。
「人、だって…ねぇ、アレどう思う?」
「そりゃあもうアレよ、男じゃん?」
「ぅぬ、ぐうぅぅぅ…。じゃあじゃあ、やっぱりあの校門らへんに毎日立ってる人が」
「違いないっしょ」
友人がチラリと、窓の外を見やる。
瞬間、疑惑は確信へと変わる。
4つの瞳が、決定的場面をとらえていた。
「あーらら、奥さんご覧になりまして?お熱い抱擁ですこと」
「ぎゃーっ!めっちゃ堂々と、き…きききキスまで!ウチらの目があるってのに!キガちゃんが汚れて…やめっ、やめろぉ!!もっとやれぇ!!」
「情緒」
「うぇぇぇぇぇっ!あいつらこの後交尾するんだ!!シッポリと夜の街に消えてッバッコリと行くんだッッッ!!」
「うるさい、恥ずかしい、縁切るぞコラ」
「いった?!ねーちょっと?角はないんじゃない、角は!!」
やいのやいのと他愛のない会話が続く。
そこには自然と人の輪が形成されていき
話題も話者も、次々に移り変わっていく。
そんな、姦しい青春の1ページを
冷ややかな思いで見つめる瞳が2つ。
「…バッカみたい」
小声で、吐き捨てるように言い放つと
声の主はサッと踵を返し、教室の前から去っていく。
心の中で、本当は分かっているのに。
ただ、私も混ぜてよ…と
口にすれば済むだけの話なのに。
どうしようもない生き辛さを抱えたままに
一人だけで人生を完結させる力も信念もないくせに
承認欲求とにらめっこするなど愚の骨頂であると
理性も本能も、己を諭し続けているというのに。
彼女の独り言を聞いた者は、誰一人としていなかった。
夜と定義される時間には、まだまだ早い。
そんなことは、誰もが抱える心の闇だと
三鷹アサが思い知り、後悔の中で1歩を踏み出すのは
まだまだ、先のお話。
宇枝 慈郎:オリ主。出番がHELLSING。被食秒読み。
死の悪魔:最強の悪魔。宇枝への愛を自覚してしまった。捕食秒読み。
デンジ:原作主人公。4課に配属された金玉ハンター。前世は多分フォルゴレ。
早川 アキ:4課のデビルハンター。趣味は自分の寿命と皮膚削り。かつおぶしかな?
パワー:血の魔人。ジョースター家の末裔。ブチャラティに舐めさせたい女ランク1位。
マキマ:支配の悪魔。内閣官房長官直属のクソ映画ハンター。弱点はバウムクーヘン。
友人A:モブ。黒髪の方。死の悪魔のかけがえのない財産。
友人B:モブ。黒髪じゃない方。死の悪魔のかけがえのない財産。
三鷹 アサ:原作主人公。冷笑系界隈急先鋒。グループのテンションを1段階下げられる。
姫パイどうする?
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生きろ、そなたは美しい
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死んでくれ姫野、若く美しいまま