植物っぽい種族になって麦わらの一味の船に乗ろう!   作:九条空

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船の上②

「ちょっと! アンタ自分の花壇があるでしょ、なんでそこに植わってんの!」

 

 みかんの木の横に植わっていたぼくを見つけると、ナミはすごい剣幕でぼくを怒鳴った。

 ぼくの腰をひっつかみ、ズボッと引き抜く。

 そんなに怒られるとは思っていなかったので、ぼくは根っこごとしゅんとした。

 

「先輩にごあいさつしたところ、ちょっと一緒に光合成でもとすすめられました」

 

 ナミにとっては言い訳にすぎないかもしれないが、一応事情は説明しておく。

 ぼくの説明に対し「先輩?」と首を傾げたナミに対し、みかんの木を指さした。

 

「植物と会話できるの!?」

「まあなんとなく」

 

 ヒトヒトの実を食べたトナカイであるチョッパーは、悪魔の実の力で人間の言葉を話せるようになった。

 そうなる前から、彼は動物と会話ができる。

 それと似たようなこと――とはちょっと違うかもしれないが、ぼくも人間の言葉と植物の言葉の両方を理解することができる。植物の場合、言語といっていいのか不明だが、意思疎通は可能だ。

 

「素敵なおかあさんだったんだねえ、ナミ」

 

 ぼくの体の中には、ぼくを産んだ親、その親の親――遡れる限りの先祖たちの記憶がすべて宿っている。

 視覚や聴覚だけの情報に限らず、感情や思考なども引き継がれているのだ。

 ぼくらは言葉では伝えきれないことも伝え合うことができる。

 だからぼくより先に船に乗っているという意味で先輩にあたる、みかんの木からいろいろとご教授をうけていた。

 彼らの旅のこと、旅に出る前、ココヤシ村でのこと、いろいろだ。

 

 ナミは怒るのはやめてくれたが、ぼくを植え直してはくれなかった。

 

「……ともかくそこに植わるの禁止! みかんの木に栄養がいかなくなったら困るでしょ」

「そんな強欲な真似しないよお」

 

 そもそも、土に植わっていなくとも光合成はできる。

 効率は落ちるし、リラックス具合もガタ落ちだが、ただ日光を浴びるだけで小腹は満たせる。

 土に植わっての光合成は、日本人における、湯船に浸かることくらいだ。

 つまり、やらなくとも直ちに死ぬわけではないが、ずっとできなかったらどんどん心が弱っていく、くらいのことである。ちょっと萎れたりもするかもしれない。

 

「そういえばだけど、食料って食べたらなくなるらしいし、船の上だと調達が大変だよねえ。光合成できるぼくは食事を用意してもらわなくってもいいからねえ」

「サンジくんが聞いたら凹むわよ、それ」

「あええ?」

 

 配慮のつもりだったが、的外れだったらしい。人間というのは本当に難しい生き物だ。

 むむ、と悩みながらも、足を根っこから人間の足へと変える。

 未だにぼくを持ち上げたままだったナミは、それを見てようやくぼくを甲板に降ろしてくれた。根っこのままでも歩けるんだけどな。

 

「逆に奮起するかしら? ま、私の言葉の意味が分からないなら、サンジくんに言ってみたらいいんじゃない」

 

 ナミはぼくのあたまをぽんぽんと撫で、その場を離れた。

 大変に子ども扱いされているように思われるが、ぼくはこの場の誰よりも年上だと思う。

 

 ううむしかし、確かにナミの言葉の意味を理解できていない。

 生命体としてはぼくの方が年長かもしれないが、人間として、社会的動物としては圧倒的に彼らの方が経験が長いということであろう。

 ならば忠告に従って、先の言葉をサンジに言ってみてもいいものだろうか。

 しかしナミが凹むかも、と言った意味もわからなかったので、サンジを意味も分からず凹ませてしまうかもしれない。

 いいんだろうか、そんなことして。

 

 ぼくが花壇の淵に腰かけて、悩みに悩んでいると、トレイを持ったサンジが颯爽と話しかけてきた。

 

「本日のデザートはレモンシャーベットです、レディ……いや、レディではねェんだったか?」

「うーん、人間の定義だとどうなんだろうねえ」

 

 どちらでもあるというのなら、レディではあるのかもしれない。同時にジェントルでもあるというだけで。

 ぼくは生まれてこのかたあの島で、植物以外とのコミュニケーションを知らずに育った。

 だから社会的なことはほとんど忘れかけているし、ジェンダー的な問題もよくわかっていない。

 

 サンジが持ってきたのはシャーベット――これはおぼろげな記憶によると、冷たくて、そのうち溶けてしまう食べ物だ。

 皆が食糧難に陥るのは悲しいので、食事を辞退しようかと考えていた。

 しかしこれは今すぐ食べなきゃならないものらしいので、ぼくは一旦受け取ることにした。

 

 スプーンですくって、口の中に入れる。

 冷たさと甘み、ほんのりとした酸味。冬の日の夜明け前のようだ。

 ずっと口の中に入れていたかったが、ぼくはまだ舌とか喉とかをうまく使えないのでうっかり飲み込んでしまった。

 長年使用していなかった部位なので、使い方をあまり思い出せないでいるのである。

 

 ふと気になったことをサンジに尋ねる。

 

「ねえ、これってルフィたちも同じもの食べてる?」

「いや、アイツらにはこんな上品なもん食わせてねェよ。お気に召しませんでしたか? レ……いや……」

「サンジが男女によって態度を変えているというのは理解した。だからぼくをどっちに分類するかで悩んでるんだよねえ。ぼくとしてはどっちでもいいよお、サンジの好きな方で」

「それが! それが難しいんだ……!」

 

 それが難しいらしい。どうして?

 

「女が好きだと思ってたけど、男も好きなの?」

「女が好きだ!」

 

 即答だった、なんの迷いもない。では一体なにで迷っているのだろう。

 

「女だと思いてェ、なぜならその方が嬉しいからだ。だが男の部分もあると思うとそう信じ切ることが難しい……」

 

 彼の迷いを取り去るために、ぼくにできることはあるだろうか。

 

「見る?」

 

 ワンピースの裾を少しばかり持ち上げて提案すると、サンジは真顔になった。

 しばらくそのまま固まっていたが、声を絞り出すようにしてこう言った。

 

「……いや! おれは……ロマンを取る……!」

 

 その言葉の意味は理解できなかったが、サンジの鼻からはたらりと鼻血が垂れたため、あんまりロクな内容ではなさそうだ。

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