植物っぽい種族になって麦わらの一味の船に乗ろう!   作:九条空

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農業とは

「旅行するならどこに行きたい?」

 

 健闘した方だと思う。

 生まれてこのかた争いというものを経験してこなかった割には戦えた。

 ぼく自身に経験がないだけで、ぼくのご先祖には経験があり、ぼくはその記憶を受け継いでいるから、知識自体はある。そう考えると上手な方ではなかっただろう。

 きっともっとできることがあった。しかし後悔は先に立たないなあ。

 

 ぼくはちぎれかけた手足をそのままに、地面に寝転がった状態で、巨体の男を見上げた。

 旅行するならどこに行きたい? 少し前なら考えたこともなかった質問だ。

 もう一生あの島に閉じこもると思っていた。

 

「畑のあるところがいいなあ。農業にあこがれてるんだよねえ。ぼく、自生しかしたことがないから、一回くらいお世話されてみたいなあ」

 

 不思議な力で飛ばされ、ぼくたちは散り散りになった。

 しばらく空を飛んで移動していたが、どこかの島に着陸した。

 海の中じゃなくて良かった。悪魔の実の能力者ではないので溺れることはないが、海水は苦手である。

 降り立ったのはどことなく薄暗い島だ。ぼんやりあたりを見渡すと、一人の男がいる。

 

「農家さんですか?」

「……くまか」

「熊じゃないよお」

 

 農家であるかという質問には答えてもらえなかったが、彼はきっと農家だ。

 麦わら帽子を被り、首にタオルをかけているからだ。話に聞く農家の格好と一致する。

 

「貴様のせいで畑が台無しだ」

「わ……わあ!」

 

 ぼくにしては大きな声を出して、最大限の驚きを表明した。

 ぼくが座り込んでいる地面には、くっきりと、巨大な肉球の痕がついていた。

 それは畑の土を強く固め、その下に植えられていた種たちを窮屈にさせている。

 

「ご、ごめんねえ、悪気はなかったんだ。きみたち無事?」

 

 体に鞭打って、枝分かれさせた腕を伸ばす。

 枝の1本1本で土を掘り返し、植わっていた種を取り出した。すべてがまだ芽吹いていない種たちだ。

 新芽でも出ていたら潰れていただろう。

 ともかく、これほど固められてしまった土では育つのは難しそうだ。種を全て回収し、腕を人の形に戻す。種の様子を確認するが、皆無事のようであった。

 

「ああ、うん、大丈夫そうだねえ、よかったあ。農家のおじさんに、もっといい場所に植えてもらおうねえ」

「ほう」

 

 掘り起こした種たちを両手に持って、農家のおじさんの方に差し出す。

 農家のおじさんはさっきまでの不機嫌さがどこかにいって、なんだか感心した顔をしているような気がする。

 

「もっと日当たりのいい場所のほうがいいんじゃないの?」

「この島はどこもこの調子故」

「ええー? きみたち、それで大丈夫? ああ、おひさまはそんなにいらないの? へええ、ああでも、ぼくの故郷にもきみたちみたいな趣味の子はいたねえ、そっかそっか」

 

 日陰の方が居心地の良い植物というのも多い。

 もっとじめじめした場所が好きという苔のようなタイプもいるわけだし――ああ、そこまでではない?

 

「じゃああの辺が良いよお、土がおいしそう。生まれたてでも馴染めそうな感じだし、風通しもそこそこだねえ」

「参考にしよう」

 

 ぼくから種を受け取った農家のおじさんは、ぼくが指さした土をしげしげと眺めた。

 

「それで農家のおじさん」

「ミホークだ」

「ミホーク。ぼく見ての通りボロボロなので、ちょっとどこかに根っこを据えて休みたいんだけど、どこなら君が困らないかなあ?」

 

 体のちぎれかけている部分を修復することもできないくらいだ。こんなにボロボロになったのは生まれて初めてのことである。

 

 肉球で巨大なスタンプを押してしまったのは不可抗力だが、これからどこかの畑からうっかり栄養を吸ってしまったとなればぼくの責任である。

 森の中で共生は基本だ。時には日光や栄養を奪い合うが、まずはお互い邪魔にならないよう相談するのが植物の基本である。

 

「どこでも構わん。代わりに他の畑の様子も見てくれ」

「いいよお。今から見ようか?」

「後でいい」

 

 ミホークは鍬を持って、ぼくが先ほど指さした場所の土を耕し始めた。

 その言葉にほっとする。正直かなり限界だったからだ。

 もっといい場所はいくらでもありそうだったが、移動する体力もない。

 ぼくは足を根っこに変え、その場に植わった。

 

 畑作業をするミホークを見て、鍬が地面に突き立てられる規則正しい音を聞きながら、うつらうつらとする――。

 

 それからどれだけの時が経ったのかはわからない。

 ぼくは人間より随分感覚がのんびりしているので、結構長い時が過ぎたのかもしれない。

 この島は常に薄暗いので、昼か夜かわかりにくいのだ。眠っているととくに。

 

 たくさん寝たことでぼくはずいぶん元気になった。

 もはや初めての戦闘を経験する前よりも元気と言える。

 

 ミホークは定期的にぼくの元へやってきては、ぼくが植わっている土に水や肥料をまき、虫食いの多い葉や変色した葉を取り除き、時折霧吹きで水をかけた。

 この島はぼくにとって日当たりが悪すぎ、湿度も少々高すぎるが、それを考えても居心地が良かった。

 世界でいちばん植物にとって暮らしやすいとされていたぼくの故郷にも引けを取らないほどである。

 

 これが農業――すばらしい人間の文化だ。

 

 機嫌がいいときにしか咲かないぼくの花も常に咲いているほどである。

 対価として畑について助言しているが、ミホークは呑み込みがはやく、そのうち必要がなくなりそうである。

 

 とてもお世話になっているので、ぼくもミホークになにか返してあげたい。

 でもぼくにできることといえば、いろんな野菜や果物を生らせることだが、ミホークは畑で育てているので大して必要としていない。

 畑の植物たちに話を聞いて、環境の改善について話したり、こういう風に育ってほしいと交渉したりすること以外に、役に立てることはないかなあ。

 

 根っこを引き抜き足にする。

 皆の調子でも確かめようと畑に向かって歩いていると、いつもと違うことが起きた。

 

「な……! だ、誰だお前ェ!?」

 

 ふよふよとピンクの髪の女の子が飛んできて、ぼくを見て驚いた。

 幽霊のようだったが、骸骨が喋るのだし、喋る幽霊くらいいるだろう。

 世界にはいろんな種族がいるんだなあ。

 

「あー、そういうときなんていうかぼく知ってるよお。人に名前を聞くときは、まず自分から名乗りましょう、だよねえ?」

「いや、名前とかよりだな……! 私はペローナだけど……!」

 

 素直な女の子のようであった。

 名前に聞き覚えはないが、特徴的な見た目と種族なので、原作のキャラクターなのかもしれない。

 ぼくはそれほどワンピースを読み込んでいたわけでもないので、麦わらの一味以外のキャラクターはかなりうろおぼえだ。ただでさえ前世の記憶は遠くあやふやだし。

 

「こんなにカワイイのが島にいたなんて、全然気づかなかったぞ! もっとはやくに知ってれば、アイツなんて助けなくてもよかった!」

 

 ペローナはよくわからない理由で、空中で地団駄を踏んでいる。器用なことだ。

 

「とにかく遊びに来い! 男ばっかで辟易してたんだ」

「ぼくは雌雄同株だよお」

「ホロホロホロ、お前にはもっと似合う服がある! 着せ替え甲斐がありそうだ!」

 

 雌雄同株について説明しようとしたが、ペローナは上機嫌でぼくをひっぱって行き、全然話を聞いてくれなかった。

 ぼくが自分で編んだワンピースは、ペローナのお眼鏡には適わなかったということなのか。

 

「この服変?」

「素朴すぎる」

 

 そういうものだろうか。

 素朴ってだめなんだろうか。植物的にはいい響きの言葉だけれど。

 

 ペローナに手を引かれて連れてこられたのは古城である。

 ミホークがここに住んでいることは知っているが、城の中に入ったことはない。

 ペローナもここに住んでいるのか。まあ、この島には他に住めそうなところは見当たらなかったしな。

 

「おい鷹の目、こんなカワイイのがいたなら教えてくれたっていいだろ!」

「気づかんお前が悪い」

 

 城に入ったペローナは、まっすぐキッチンに向かい、ミホークへと文句を言った。ミホークはペローナの文句を聞き流している。

 ぼくが気になったのはミホークの手元である。目にも留まらぬスピードでトマトが切られ、そのままフライパンへと飛び込んでいっていた。

 

「ミホークって料理もできたんだ」

 

 サンジにも引けを取らない包丁さばきだ。

 農家は趣味で、本業はコックだと言われても納得する。

 炒められていくトマトやベーコンからはとても良い香りがする。

 

「おいしそう」

「なんだ、飯が食えたのか。もっとはやく言え」

「ぼくだって食べられること最近知ったんだもん」

 

 彼による世話があまりに心地が良かったので、人間の食べ物のことなどすっかり忘れていた。

 言われてみるとサンジの料理が恋しい。

 

 というか、もっとはやく言っていたら料理を作ってくれていたということだろうか。

 ぼくのその疑問はすぐに解消された。ペローナによってテーブルにつかされると、ミホークがペローナとぼくの前にそれぞれ皿を置いたからである。

 

 ミホークは自分の分の皿を持ち、ワインボトルとグラスを片手に、ぼくたちとは別の席に着いた。

 ソファに背を預けワインを傾ける姿は、麦わら帽子を被って農作業をしている時とは違い、貴族のような上品さがある。

 

 ミホークの分をとってしまったというわけでないのなら、せっかく料理を出してもらったのだし頂こう。

 しかし、だとするとなぜ3人前作っていたのだろうか。ミホークが2人前食べようとしてたんじゃなければいいけど。

 フォークを手に取って、久しぶりに口からものを食べる。

 

「……! ミホーク、これおいしい! きみって天才!」

「ホロホロホロ! トマトパスタは私もお気に入りだ!」

 

 ぼくが食べたのがゾロの分のパスタであったことを知るのは、このあとすぐのことであった。




書きたいとこ書いたのでおしまい
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