アイドルマスター 私たちのM@STERPIECE! 作:なめこP
君は、考えたことがあるだろうか。
憎しみと償い、この二つが一つのナイフとなって世界を揺るがすと
君は、考えたことがあるだろうか。
歳幾ばくも行かない者が手を組み自らの人生をナイフにする悪夢を
私は高木順二朗、765プロでアイドルたちを育てる者、そしてかつてまだ地獄が芽だった時に共に寄り添えたかもしれない一人の罪人だ。
アイドルマスターわたしたちのm@sterpiece
2027年6月4日 尖閣諸島沖合深度400メートル
「こちら『そうりゅう』艦長の深町。『ノース・ポール』聞こえるか?聞こえるなら状態知らせ」
日本海深度400メートル、海中通信が行きかう暗い海が潜水艦を静かに包んでいた。
「こちら『ノース・ポール』艦長の鳳凰院だ。通信回路は良好、原子炉は安定稼働中。今のところ異常見られず。海中騒音レベルの報告求む。」
「こちら『そうりゅう』了解。海中騒音レベル、『そうりゅう』より僅かに高い。ただし致命的影響にあらず」
艦内にいる在日米軍からの派遣武官トーマス・フェルートはチーム・鳳凰院の操艦技術に感嘆した。
「自衛隊屈指のエリートだけありますね。原子力潜水艦をこんなにも自在に操れる兵は合衆国にもいない」
「我が国は戦艦を造れない。だからこそ潜水艦は国防の要なのです。アメリカの支援、大変感謝します。」
そういいながら周囲とCICを見回すとデジタルディスプレイに映る魚雷発射システムが目に入る。
通常動力艦にはあるアナログ表示デバイスが皆無であることがこの艦が原子力潜水艦であることを如実に物語っていた。
「時にフェルート武官、貴官は平和主義者について考えたことはありますか?」
「平和主義”者”にですか?」
信じる、愛する、理解する、あるいは、綺麗ごと、現実知らず、そんな言葉が脳裏をよぎっては消えていくばかりだ。
「真の平和主義者は人間を信じないのですよ」
「何を言われているのですか?」
「破壊、略奪、搾取、腐敗、格差、犯罪、そして、戦争。いわゆる人間性と呼ばれるものはこれらの温床です。」
「ですが日本は我が国からこうして原子力潜水艦を供与される立場にあります。」
そう言うとフェルートは「それこそ日米信頼の賜物ですよ」と鳳凰院にほほ笑みながら司令所に目を配った。
しかし訓練中にも関わらず鞄を取り出しノートPCを起動させる自衛隊員が現れた。無造作にPCを繋げる姿に違和感を覚えるもフェルートは「何かありましたか?」と声を掛けながら近付く。
そしてその様子を見下ろせる場に来た歩を運び終えた瞬間、疑問と恐怖を覚えた。
「ん?これは何だ?…何をやってる!?」
よく見るとむき出しにされた回路には一見すると無秩序な配線が組み込まれておりそれがノートパソコンに接続されていた。彼はその意味を一瞬で理解した瞬間、銃口を突き付けるわずかな音に心臓が凍った。
「ミスター鳳凰院。ジョークにしては質が悪いですよ」
「ジョーク?論理命題を反故にした疑似会話を私は好まない。それは意思疎通を前提にした言語からその使命を剥奪する究極の愚行だ。」
「何が目的だ?」
「世界平和」
『そうりゅう』のソナー員が銃声を一発だけ聞いた。
「『ノース・ポール』で銃声です!」
「なに?問いかけろ!急げ!」
「『ノース・ポール』!何があった!?応答求む!『ノース・ポール』『ノース・ポール』!応答されたし!」
〈こちら『ノース・ポール』。発射回路は改造した。以上〉
海中通信が一方的に切られるとソナー員は絶句した。
「『ノース・ポール』より魚雷発射管の開口音を確認!」
「何考えてんだ!通信呼びかけろ!米軍にも連絡!急げ!」
「こちら『そうりゅう』より『ノース・ポール』、応答されたし!『ノース・ポール』『ノース・ポール』!!」
「『ノース・ポール』、こちらに艦を指向!艦尾魚雷発射管への注水音を確認!」
「アップトリム急げ!」
深町は顔面が青ざめた。『ノース・ポール』の魚雷は戦艦攻撃を意識した61センチ対艦魚雷『マーク7・スペシャル』だ、潜水艦なんぞ一たまりもない!
「『そうりゅう』を沈める気だ!」
しかし魚雷発射が早かった。放たれた魚雷は『そうりゅう』を目指し突き進んでくる。
「衝撃備え!」
深町が叫びソナー員がヘッドセットを外そうとした瞬間、爆発の轟音が鼓膜を破壊し冷静な判断を剥奪した。
「あぁああああ!!!」
「ヴ!」
完全にタイミングを読んでいる、皮肉にも実弾ではなく音響魚雷なのがかえって事態の悪化に拍車をかけた。
「両弦最大戦速!」
「両弦最大戦速!」
『ノース・ポール』の司令所に命令が錯綜しデジタルディスプレイやスイッチ類が操作されると二基ある加圧水型原子炉によりタービンの回転数が上昇、莫大な電力がモータへと加印される。
そして二基ある二重反転スクリューは回転数を増して行くと『ノース・ポール』の船体前方からマイクロバルブが生成、海水との摩擦を小さくすると一気に増速していく。
深町は辛うじてその音をソナー・ヘッドセットから聞き分けたがあとはもう雑音の反響と消えゆく宿命にある小さなスクリュー音だけしか残らなかった。
雑音広がる海の中、『ノース・ポール』は自らをその雑音で包み込み高速で離脱を謀った。しかし、海を知るための耳はもはやもはやこの場から失われてしまったのだ。
6月5日 765プロ 事務所
「やぁ善澤くん!久しぶりだ。」
「よぉ高木、俺も会えてうれしいよ。」
「暑いとこ、大変だったろ。あ、音無くん、お茶と茶菓子を頼む」
「はい。」
音無が給湯室に消えたところで善澤と高木の二人はソファに腰を落とし話を始めた。
「ところで今日はなんだい?」
「実はある筋から頼まれごとをされてね。くれぐれも内密にして欲しい。悪いが俺の信用問題に直結する。」
そう言われた高木は静かにうなずくと話を始めた。
「実は五年前、ある論文が防衛相の内部で問題になった。タイトルは“国家独立型集中安全保障体制”。」
「国家独立型集中安全保障体制?奇題だな」
「まぁその書き手が誰なんだって話だ。高木、噂でも何でもいい、何か引っかかりだけでも知らないか?」
「まずどういう内容なんだ?」
「すまない、そればかりは依頼主との信用もあってな、そもそもとてもじゃないが話せる内容じゃない…」
「そうか…書き手の分からない軍事論文…いやぁ私にはさっぱりだ。安全保障云々なら346プロに元自衛官の大和亜季さんがいるが…彼女は現場出身だからな。」
「わかった、すまない。あ、あとこの取材を受けたことは内密にしてくれ。今の時代、何がどうなるかわかったもんじゃない。」
「あぁ、むろんだ。」
「あれ?もう帰っちゃうんですか?」
「あぁ音無くん、すまない。お茶は私が飲むから机に置いといてくれ」
「は~い」
事務員の音無小鳥にそう言うと二人は立ち上がり別れの挨拶とした。
ベルの音が小さく鳴るとアルミと曇りガラスのドアが閉まり善ざわはいつもの雰囲気で次の取材先に向かう。
「そういえば社長、さっきのなんですか?国家独立うんぬんって」
「聞かなかったことにしなさい。忘れるんだ」
口調はいつも通りだった、だが高木の胸中は得体のしれないものへの不気味さと確かな恐怖が凄みつつあった。
アスファルトが照り返す六月の初夏、善澤は次の宛を探した。
(まったく、防衛省は筋違いな人に依頼するよなぁ…五年前の未解決事案、今ごろになってなぜひっくり返す?)
そう思考にふけるも頭上を流れ行く一千切りの雲が再び太陽を露わにした。彼はその太陽から逃げる様に動き次の場所に向かうべく電車の駅へと向かった。